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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
78-2.狂者への疑り
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余程真剣に考えを巡らせていたのだろう。続いて紡がれていた言葉には眉一つ動かさず聞き流していたリオはその問いを受けて漸く我に返った。
一方でエリアスは僅かな警戒心を滲ませたまま話を続ける。
「先の一戦まで、お前がまともに戦う姿を見る機会は殆どなかった。けど、あの魔族との戦いで前線を駆けるお前を見て確信したことがある」
彼の眉間には皺が刻まれている。
体を貫かれ、腕を斬り落とされ、自他を問わない血を浴びながら歪に口角を上げる姿。燃えるように鋭く光る瞳。
それらを思い浮かべながら、エリアスは重苦しく呟く。
「あれは、闘争そのものを楽しむ類の奴の目だ」
エリアスが剣を握るのは自身の信念と目的の為。冒険者が命を懸けるのは生きていく為。戦場で兵士が人を殺すのは故郷の家族を守る為。
武器を持つ者は自身の命を天秤にかけて尚そうするだけの理由があって戦地に立つ。
出来る事なら命を懸けるなどというリスクは避けたい。痛みなどと無縁の生活を送りたい。だがそれを選ばなければならないだけの理由があるからこそ、自ら危険を選択する。それが大半の戦士の考え方だ。
腕を磨き、結果が出て認められれば喜ばしいと感じる。自身が望む技術をものに出来た時の達成感や全能感が癖になるような者も少なくはないだろう。
しかしそれらは全て自分の命というリスクを背負い、自身の使命という理由や目的の上に成り立っている。
自身が評価される為だけに数ある選択肢の中からわざわざ命を懸ける手段を選ぶ者は少ないだろう。
だが、時により単純且つ危険な考えを持つ存在も皆無ではないことをエリアスは知っている。
「オレは職業柄色んな奴の戦い方を見てきた。だからわかる」
極稀にいるのだ。
血を浴びることを。
他者の肉を穿つことを。
何かを蹂躙する感覚を。
自身に迫る危機を。
相手の命を刈る瞬間を。
本来義務でしかない命のやり取りを、心から楽しむ存在が。
「お前が秘めてる激情は、殺しを心から楽しんでいる奴のそれと同じだって」
そういった存在を夢中にさせる要因は個人によりけりだ。
肉を穿つ感覚を好む者であったり、他者が絶望する様を渇望する者であったりとその動機は多様。
だが、総じて彼らに言えることがある。
そしてそれは目の前の男も例外ではない。
「そういう奴は大抵、頭のねじが飛んでる。理屈は通じねー上に自分の好きなことの為なら無茶苦茶なことだって貫き通す」
灰色の瞳はリオを射止めた。
「お前には不可解な点が多すぎる。不死身のことをおいとくにしてもだ」
この男は危険だ。
前線で培ってきた経験とそれによって研ぎ澄まされた戦士としての本能がそう告げていた。
「そもそも、あれはただの従者に出来る動きじゃない」
クリスティーナ、リオ、エリアス。この三人の中で新参者はエリアスの方だ。
クリスティーナとリオは互いを信頼しているようにも見えるし、短くはない付き合いのはずだ。だからこの二人の間によっぽどのことはないだろうと思いたい。
だが、そう『見えるから』『思いたいから』深く考えるのをやめるという選択は護衛であるならばとるべきではない。
主観でものを捉えるのではなく、確実な証拠、もしくは信頼に足る情報を得て初めて引き下がることができる。
主人を守ることが仕事である以上、人を疑うことに妥協してはならない。
故にエリアスは目の前の男に問わなければならない。
「お前は何者だ? リオ」
一方でエリアスは僅かな警戒心を滲ませたまま話を続ける。
「先の一戦まで、お前がまともに戦う姿を見る機会は殆どなかった。けど、あの魔族との戦いで前線を駆けるお前を見て確信したことがある」
彼の眉間には皺が刻まれている。
体を貫かれ、腕を斬り落とされ、自他を問わない血を浴びながら歪に口角を上げる姿。燃えるように鋭く光る瞳。
それらを思い浮かべながら、エリアスは重苦しく呟く。
「あれは、闘争そのものを楽しむ類の奴の目だ」
エリアスが剣を握るのは自身の信念と目的の為。冒険者が命を懸けるのは生きていく為。戦場で兵士が人を殺すのは故郷の家族を守る為。
武器を持つ者は自身の命を天秤にかけて尚そうするだけの理由があって戦地に立つ。
出来る事なら命を懸けるなどというリスクは避けたい。痛みなどと無縁の生活を送りたい。だがそれを選ばなければならないだけの理由があるからこそ、自ら危険を選択する。それが大半の戦士の考え方だ。
腕を磨き、結果が出て認められれば喜ばしいと感じる。自身が望む技術をものに出来た時の達成感や全能感が癖になるような者も少なくはないだろう。
しかしそれらは全て自分の命というリスクを背負い、自身の使命という理由や目的の上に成り立っている。
自身が評価される為だけに数ある選択肢の中からわざわざ命を懸ける手段を選ぶ者は少ないだろう。
だが、時により単純且つ危険な考えを持つ存在も皆無ではないことをエリアスは知っている。
「オレは職業柄色んな奴の戦い方を見てきた。だからわかる」
極稀にいるのだ。
血を浴びることを。
他者の肉を穿つことを。
何かを蹂躙する感覚を。
自身に迫る危機を。
相手の命を刈る瞬間を。
本来義務でしかない命のやり取りを、心から楽しむ存在が。
「お前が秘めてる激情は、殺しを心から楽しんでいる奴のそれと同じだって」
そういった存在を夢中にさせる要因は個人によりけりだ。
肉を穿つ感覚を好む者であったり、他者が絶望する様を渇望する者であったりとその動機は多様。
だが、総じて彼らに言えることがある。
そしてそれは目の前の男も例外ではない。
「そういう奴は大抵、頭のねじが飛んでる。理屈は通じねー上に自分の好きなことの為なら無茶苦茶なことだって貫き通す」
灰色の瞳はリオを射止めた。
「お前には不可解な点が多すぎる。不死身のことをおいとくにしてもだ」
この男は危険だ。
前線で培ってきた経験とそれによって研ぎ澄まされた戦士としての本能がそう告げていた。
「そもそも、あれはただの従者に出来る動きじゃない」
クリスティーナ、リオ、エリアス。この三人の中で新参者はエリアスの方だ。
クリスティーナとリオは互いを信頼しているようにも見えるし、短くはない付き合いのはずだ。だからこの二人の間によっぽどのことはないだろうと思いたい。
だが、そう『見えるから』『思いたいから』深く考えるのをやめるという選択は護衛であるならばとるべきではない。
主観でものを捉えるのではなく、確実な証拠、もしくは信頼に足る情報を得て初めて引き下がることができる。
主人を守ることが仕事である以上、人を疑うことに妥協してはならない。
故にエリアスは目の前の男に問わなければならない。
「お前は何者だ? リオ」
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