悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

76-4.神の賜物

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「じゃあ話の続きは明日にしよう。今日はゆっくり休んで……」

 穏やかな口調で話を切り上げようとするノアの声は殆ど頭に入らなかった。
 何とか表情を取り繕い、この場を凌ごうとするも、自身の指の震えが止まらないことにクリスティーナは遅れて気付く。

 誤魔化すように両手を重ね合わせ、強く握ってみたところでそれは変わらない。
 一方で伸びをしながら明るい声音で話していたノアはそこで言葉を止めた。

「ク~リス」

 彼は両手をクリスティーナへ伸ばす。
 その指先が彼女の頭に触れた瞬間、ノアは目一杯に彼女の髪を掻きまわした。

「な……っ、何をするの!」
「はははっ」

 思わず声を荒げてしまったクリスティーナの反応が珍しかったのか、ノアは愉快そうに笑い声をあげる。
 しかしどうやら頭を撫でまわす動きを止めるつもりはないらしい。

「君。普段は躊躇なく思ったことを口にするくせ、自分の弱みが絡んだ途端表に出すのを避けるだろう」

 図星を衝かれ、鼓動が早まるのを感じる。
 なるべく顔に出ないようクリスティーナは口元を引き結んだ。

「つまるところ、君は意地っ張りなんだ」

 意地っ張り。そんな簡単で幼稚な言葉で片付けられるようなものではないとクリスティーナは心の中で言い返した。
 貴族令嬢たるもの、誰かの主たるもの、気高くあるべきなのだ。
 上に立つ者が頼りなければ自ずと士気は下がるものだし、他者から軽んじられることにも繋がる。
 故に簡単に弱みを曝け出すなどあってはならない事なのだ。そういう考えの下クリスティーナは生きてきた。
 そこに聖女などという理不尽な肩書が追加されれば心中が更に複雑なものとなるのも当然である。

「……不敬な上に不快だわ」

 反論の代わりに不服を申し立てる。
 だがそれは笑いながら一蹴されてしまった。

「俺が知っているのはただの旅人としての、友人としてのクリスだからね。そこに身分なんてものは存在していない。そうだろう?」

 くしゃくしゃに乱れた髪の下でクリスティーナは目を丸くする。
 ただのクリス。その言葉は言外に身分など気にしなくていいのだと言われている様な気持ちにさせた。

「不安や悩みなんかは少しくらい口に出した方が気が楽になるものさ」
「……それ、貴方が言うの?」
「色々と悩みまくってる俺だから言うんですー!」

 撫でまわしていた手が緩やかに動きを止める。
 その代わりに掌が優しく頭の上を跳ねた。
 煩わしくて仕方のない手の動きだが俯いたままの姿勢を強いられている為、自然と自身の表情を隠すことが出来ていることはある意味救いだったかもしれない。

「君。リオの体質のことを共有するの、本当はちょっと嫌だったんじゃないかい?」

 頭上から降る優しい声。抵抗するように相手の両手首を掴んでいたクリスティーナはそれを聞いて動きを止めた。
 同時に彼女の頭を過ったのは、リオと森で二人きりになった時のとある光景であった。
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