251 / 579
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
76-3.神の賜物
しおりを挟む
「『過ぎた力』に代償は付き物だ。神の賜物は人一人の器では身に余る程に強大な力を秘めている。本来備わるはずのなかった力を保有するという事は人体が本来想定していない負担を抱えるという事だ。神の賜物として生まれた者の代償は本人すら自覚しないうちに体が蝕まれていくところにある」
ノアの言葉が重く、クリスティーナの頭に響く。
「神の賜物が生きられるのは三十までと言われている」
短命であること。それが神の賜物が持つ、聖女や七人の従者との明確な違いだ。
神の賜物は三十までしか生きることが出来ないというのはクリスティーナも耳にしたことがある。故に彼の背負うものの重さを察して口籠ってしまったのだ。
一方で聖女は寿命による制約がない。聖女から力を分け与えられる形の従者達もそれは同様だ。
正確に言えば『一人の寿命では補えない程に強大な力』を誇る為、個人の命を以てしても支払えない程の対価が求められるとされている。
尊き存在を救済として人里へ与えてやる代償。神は生まれる聖女自身からは何も奪わない代わりに、聖女の力の代償をその周囲に支払わせるものとしたという。
『代償』の支払いは聖女が生まれる前から求められた。
例えば聖女の故郷は田畑が深刻な不作を訴えたり、大きな災害を齎したりという環境の問題から聖女の身近な存在へ降り掛かる心身への多大な影響に至るまで。聖女が現れる前兆として複数の不幸が必ず訪れるとされた。
だが、その小さな犠牲のもとに生まれた聖女は世界の光となるだけの可能性を秘めており、人々の喜びと救いの象徴として他者からは喜ばれる。それだけの価値が聖女の力には秘められている。
(……あ)
クリスティーナの思考はそこで止まる。今まで考えてこなかった可能性。
神の賜物の話をきっかけに思い出した数々の情報。それが嫌な予感としてクリスティーナの心へ忍び寄った。
(どうして今まで思い至らなかったのかしら)
母が何度も読み聞かせてくれた聖女にまつわる話。そこから自分からも興味を持って読み漁った文献。そこから得た聖女の知識。
自分が聖女であると知ってから真っ先に思い至っていてもおかしくはなかった可能性。
自分の誕生が多くの者を、延いては身内を不幸へ陥れていたかもしれない可能性。
クリスティーナの脳裏を真っ先に過ったのは今は亡き母の姿だった。
「彼は今十八だから、残された時間は人生の半分を切っていると言えるだろう。でも……クリス?」
膨らみ続ける嫌な想像に呑まれ、上の空になっていたクリスティーナへノアが声を掛けた。
不意に顔を覗き込まれたクリスティーナは我に返ると同時に、思わず身を引いてしまう。
「クリス、大丈夫かい? 顔色が……」
「っ……ええ。少し、疲れたのかもしれないわ」
「……そうかい」
動揺に声が震えそうになるのを何とか堪える。
今憶測を立てたところで何かが変わる訳ではない。考えを振り払おうとクリスティーナはゆっくり首を横に振り、目の前の相手の顔色を窺った。
リオやエリアスなら多少の動揺を悟られても問題ないが、今傍にいるのはクリスティーナの正体を知らないノアだ。
彼は賢い。更に転移の直前、クリスティーナが咄嗟に取った行動も目の当たりにしている。
クリスティーナの不自然な反応から何かを悟り、彼女の正体にまで辿り着かれないとも限らなかった。
ノアの言葉が重く、クリスティーナの頭に響く。
「神の賜物が生きられるのは三十までと言われている」
短命であること。それが神の賜物が持つ、聖女や七人の従者との明確な違いだ。
神の賜物は三十までしか生きることが出来ないというのはクリスティーナも耳にしたことがある。故に彼の背負うものの重さを察して口籠ってしまったのだ。
一方で聖女は寿命による制約がない。聖女から力を分け与えられる形の従者達もそれは同様だ。
正確に言えば『一人の寿命では補えない程に強大な力』を誇る為、個人の命を以てしても支払えない程の対価が求められるとされている。
尊き存在を救済として人里へ与えてやる代償。神は生まれる聖女自身からは何も奪わない代わりに、聖女の力の代償をその周囲に支払わせるものとしたという。
『代償』の支払いは聖女が生まれる前から求められた。
例えば聖女の故郷は田畑が深刻な不作を訴えたり、大きな災害を齎したりという環境の問題から聖女の身近な存在へ降り掛かる心身への多大な影響に至るまで。聖女が現れる前兆として複数の不幸が必ず訪れるとされた。
だが、その小さな犠牲のもとに生まれた聖女は世界の光となるだけの可能性を秘めており、人々の喜びと救いの象徴として他者からは喜ばれる。それだけの価値が聖女の力には秘められている。
(……あ)
クリスティーナの思考はそこで止まる。今まで考えてこなかった可能性。
神の賜物の話をきっかけに思い出した数々の情報。それが嫌な予感としてクリスティーナの心へ忍び寄った。
(どうして今まで思い至らなかったのかしら)
母が何度も読み聞かせてくれた聖女にまつわる話。そこから自分からも興味を持って読み漁った文献。そこから得た聖女の知識。
自分が聖女であると知ってから真っ先に思い至っていてもおかしくはなかった可能性。
自分の誕生が多くの者を、延いては身内を不幸へ陥れていたかもしれない可能性。
クリスティーナの脳裏を真っ先に過ったのは今は亡き母の姿だった。
「彼は今十八だから、残された時間は人生の半分を切っていると言えるだろう。でも……クリス?」
膨らみ続ける嫌な想像に呑まれ、上の空になっていたクリスティーナへノアが声を掛けた。
不意に顔を覗き込まれたクリスティーナは我に返ると同時に、思わず身を引いてしまう。
「クリス、大丈夫かい? 顔色が……」
「っ……ええ。少し、疲れたのかもしれないわ」
「……そうかい」
動揺に声が震えそうになるのを何とか堪える。
今憶測を立てたところで何かが変わる訳ではない。考えを振り払おうとクリスティーナはゆっくり首を横に振り、目の前の相手の顔色を窺った。
リオやエリアスなら多少の動揺を悟られても問題ないが、今傍にいるのはクリスティーナの正体を知らないノアだ。
彼は賢い。更に転移の直前、クリスティーナが咄嗟に取った行動も目の当たりにしている。
クリスティーナの不自然な反応から何かを悟り、彼女の正体にまで辿り着かれないとも限らなかった。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰しのための奮闘が賞賛される流れに~
果 一
ファンタジー
リクスには、最強の姉がいる。
王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。
類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。
『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』
何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。
そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。
「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」
その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。
英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?
これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。
※本作はカクヨムでも公開しています。カクヨムでのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。
薔薇園に咲く呪われ姫は、王宮を棄てて微笑む ~もうあなたの愛など欲しくない~
昼から山猫
恋愛
王宮で「優雅な花嫁」として育てられながらも、婚約者である王太子は宮廷魔術師の娘に心奪われ、彼女を側妃に迎えるため主人公を冷遇する。
追放同然で古城へ送られた主人公は呪われた薔薇園で不思議な騎士と出会い、静かな暮らしを始める。
だが王宮が魔物の襲来で危機に瀕したとき、彼女は美しき薔薇の魔力を解き放ち、世界を救う。
今さら涙を流す王太子に彼女は告げる。
「もう遅いのですわ」
男女の友人関係は成立する?……無理です。
しゃーりん
恋愛
ローゼマリーには懇意にしている男女の友人がいる。
ローゼマリーと婚約者ロベルト、親友マチルダと婚約者グレッグ。
ある令嬢から、ロベルトとマチルダが二人で一緒にいたと言われても『友人だから』と気に留めなかった。
それでも気にした方がいいと言われたローゼマリーは、母に男女でも友人関係にはなれるよね?と聞いてみたが、母の答えは否定的だった。同性と同じような関係は無理だ、と。
その上、マチルダが親友に相応しくないと母に言われたローゼマリーは腹が立ったが、兄からその理由を説明された。そして父からも20年以上前にあった母の婚約者と友人の裏切りの話を聞くことになるというお話です。
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる