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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

76-3.神の賜物

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「『過ぎた力』に代償は付き物だ。神の賜物ギフトは人一人の器では身に余る程に強大な力を秘めている。本来備わるはずのなかった力を保有するという事は人体が本来想定していない負担を抱えるという事だ。神の賜物ギフトとして生まれた者の代償は本人すら自覚しないうちに体が蝕まれていくところにある」

 ノアの言葉が重く、クリスティーナの頭に響く。

神の賜物ギフトが生きられるのは三十までと言われている」

 短命であること。それが神の賜物ギフトが持つ、聖女や七人の従者との明確な違いだ。
 神の賜物ギフトは三十までしか生きることが出来ないというのはクリスティーナも耳にしたことがある。故に彼の背負うものの重さを察して口籠ってしまったのだ。

 一方で聖女は寿命による制約がない。聖女から力を分け与えられる形の従者達もそれは同様だ。
 正確に言えば『一人の寿命では補えない程に強大な力』を誇る為、個人の命を以てしても支払えない程の対価が求められるとされている。
 尊き存在を救済として人里へ与えてやる代償。神は生まれる聖女自身からは何も奪わない代わりに、聖女の力の代償をその周囲に支払わせるものとしたという。

 『代償』の支払いは聖女が生まれる前から求められた。

 例えば聖女の故郷は田畑が深刻な不作を訴えたり、大きな災害を齎したりという環境の問題から聖女の身近な存在へ降り掛かる心身への多大な影響に至るまで。聖女が現れる前兆として複数の不幸が必ず訪れるとされた。
 だが、その小さな犠牲のもとに生まれた聖女は世界の光となるだけの可能性を秘めており、人々の喜びと救いの象徴として他者からは喜ばれる。それだけの価値が聖女の力には秘められている。

(……あ)

 クリスティーナの思考はそこで止まる。今まで考えてこなかった可能性。
 神の賜物ギフトの話をきっかけに思い出した数々の情報。それが嫌な予感としてクリスティーナの心へ忍び寄った。

(どうして今まで思い至らなかったのかしら)

 母が何度も読み聞かせてくれた聖女にまつわる話。そこから自分からも興味を持って読み漁った文献。そこから得た聖女の知識。
 自分が聖女であると知ってから真っ先に思い至っていてもおかしくはなかった可能性。

 自分の誕生が多くの者を、延いては身内を不幸へ陥れていたかもしれない可能性。
 クリスティーナの脳裏を真っ先に過ったのは今は亡き母の姿だった。

「彼は今十八だから、残された時間は人生の半分を切っていると言えるだろう。でも……クリス?」

 膨らみ続ける嫌な想像に呑まれ、上の空になっていたクリスティーナへノアが声を掛けた。
 不意に顔を覗き込まれたクリスティーナは我に返ると同時に、思わず身を引いてしまう。

「クリス、大丈夫かい? 顔色が……」
「っ……ええ。少し、疲れたのかもしれないわ」
「……そうかい」

 動揺に声が震えそうになるのを何とか堪える。
 今憶測を立てたところで何かが変わる訳ではない。考えを振り払おうとクリスティーナはゆっくり首を横に振り、目の前の相手の顔色を窺った。

 リオやエリアスなら多少の動揺を悟られても問題ないが、今傍にいるのはクリスティーナの正体を知らないノアだ。
 彼は賢い。更に転移の直前、クリスティーナが咄嗟に取った行動も目の当たりにしている。
 クリスティーナの不自然な反応から何かを悟り、彼女の正体にまで辿り着かれないとも限らなかった。
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