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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
72-4.生首の似合う聖女
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部屋の隅に転がった生首を両手で拾い上げたクリスティーナは部屋の外が落ち着くまでは無暗に動かない方がいいだろうかと腰を下ろしたままその場に留まった。
既に手遅れである感じは否めないが、不必要に部屋を汚さないようにと膝の上に従者の首を乗せる。
廊下では部屋の主であるノアとレミが寮長に呼び出され、説教を受けている最中であった。
ノアはともかくとしてレミに至っては完全にとばっちりである。多少の哀れみと罪悪を抱きつつも残された面々は騒ぎが余計に広がらないように息を呑んで見守った。
「失礼、直前の攻撃が被弾していたようです」
「貴方、今日だけで二度目よ」
膝の上に乗せた頭の表情がわかるようにと長い前髪を優しく分けてやるクリスティーナ。
その指先が額に触れると、擽ったそうに赤い瞳が細められる。
「うげ、その状態で喋るのか」
「体も動きますよ」
「動かさなくていい……!」
新鮮な反応を面白がっているのだろう。怪訝そうな顔をするオリヴィエの言葉に応えるように、彼は片手を持ち上げて振って見せた。
それに対してエリアスがすかさず首を横に振る。
「リオ」
「失礼」
ただでさえ騒々しい二人だ。刺激をすれば寮室に部外者が入り込んでいることが浮き彫りになりかねない。
咎めるように名を呼べば、すぐさま謝罪が返ってきた。
「……しかし、お嬢様」
主人の顔を見上げていた従者は緩く弧を描くように口角を持ち上げる。
「随分と、機嫌がよさそうですね」
従者の指摘に瞬きを数度繰り返す。
エリアスやオリヴィエが首を傾げていることから、わかりやすく表情に出ていた訳ではなさそうだ。しかしそう感じさせるものが彼には見えたのだろう。
そしてそれを否定できない事にもクリスティーナは気付いていた。
「……そうね」
小さく緩められる口元。
「あまりにも滑稽な反応ばかり返ってくるものだから、気が抜けてしまったのかもしれないわ」
「おい」
「クリス様……!?」
言外に馬鹿にされたエリアスとオリヴィエが不服そうな声を漏らす。
生首へ注意が向いていた二人は彼女の表情の些細な変化に気付かなかったようだ。
しかし一方でクリスティーナの顔色が良く窺えるリオは静かに目を伏せて微笑んでいた。
「貴方もよく働いてくれたわ」
「勿体ないお言葉です」
目を閉じる従者の首を優しく持ち上げ、その頭を撫でてやる。
普段、自分よりも高い位置にその視線があるからだろうか。たまにはこうして彼を見下ろしてやるのも悪くはないと、クリスティーナは手触りの良い黒髪を指に絡めながら密かに思った。
既に手遅れである感じは否めないが、不必要に部屋を汚さないようにと膝の上に従者の首を乗せる。
廊下では部屋の主であるノアとレミが寮長に呼び出され、説教を受けている最中であった。
ノアはともかくとしてレミに至っては完全にとばっちりである。多少の哀れみと罪悪を抱きつつも残された面々は騒ぎが余計に広がらないように息を呑んで見守った。
「失礼、直前の攻撃が被弾していたようです」
「貴方、今日だけで二度目よ」
膝の上に乗せた頭の表情がわかるようにと長い前髪を優しく分けてやるクリスティーナ。
その指先が額に触れると、擽ったそうに赤い瞳が細められる。
「うげ、その状態で喋るのか」
「体も動きますよ」
「動かさなくていい……!」
新鮮な反応を面白がっているのだろう。怪訝そうな顔をするオリヴィエの言葉に応えるように、彼は片手を持ち上げて振って見せた。
それに対してエリアスがすかさず首を横に振る。
「リオ」
「失礼」
ただでさえ騒々しい二人だ。刺激をすれば寮室に部外者が入り込んでいることが浮き彫りになりかねない。
咎めるように名を呼べば、すぐさま謝罪が返ってきた。
「……しかし、お嬢様」
主人の顔を見上げていた従者は緩く弧を描くように口角を持ち上げる。
「随分と、機嫌がよさそうですね」
従者の指摘に瞬きを数度繰り返す。
エリアスやオリヴィエが首を傾げていることから、わかりやすく表情に出ていた訳ではなさそうだ。しかしそう感じさせるものが彼には見えたのだろう。
そしてそれを否定できない事にもクリスティーナは気付いていた。
「……そうね」
小さく緩められる口元。
「あまりにも滑稽な反応ばかり返ってくるものだから、気が抜けてしまったのかもしれないわ」
「おい」
「クリス様……!?」
言外に馬鹿にされたエリアスとオリヴィエが不服そうな声を漏らす。
生首へ注意が向いていた二人は彼女の表情の些細な変化に気付かなかったようだ。
しかし一方でクリスティーナの顔色が良く窺えるリオは静かに目を伏せて微笑んでいた。
「貴方もよく働いてくれたわ」
「勿体ないお言葉です」
目を閉じる従者の首を優しく持ち上げ、その頭を撫でてやる。
普段、自分よりも高い位置にその視線があるからだろうか。たまにはこうして彼を見下ろしてやるのも悪くはないと、クリスティーナは手触りの良い黒髪を指に絡めながら密かに思った。
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