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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

71-4.聖魔法と闇魔法

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 クリスティーナは後ろへ振り返った。

「……ノア」
「く、クリス……」

 ノアもまた、何が起こったのかわからないと言うように目を白黒とさせている。
 そんな彼の瞳をクリスティーナは覗き込む。
 彼の顔は未だ曇っていたが、その瞳に先程の昏さはない。

 そのことにほっと息を吐いてから、クリスティーナは彼の眉間を指で小突いた。

「うっ」
「話は後よ。今は自分の役目を最後まで果たしなさい」

 ノアの返事を待たずしてクリスティーナは魔法陣へ進む。
 後へ続くよう主人から目配せを受けたリオもまた、それに続いて魔法陣へ足を踏み入れる。

「……私の気持ちはもう伝えたはずだもの。忘れただなんて言わせないわ」

 光に包まれ、その輪郭を散らしながらクリスティーナ目を伏せた。
 それを見送りながらノアはバツが悪そうに苦笑する。

「……ああ。あとで仲直りをさせてくれたら嬉しいな」
「仕方ないわね」

 少女と従者は互いに顔を見合わせてからはにかんだ。
 そこへ我に返ったベルフェゴールは今度こそ策が尽きたらしい。焦りを見せながら風魔法で不可視の刃を放つが、それはリオがクリスティーナを抱き寄せたことによって庇われてしまう。
 その刃が彼へ触れる瞬間、二人の姿は丁度光に呑まれて消えた。

 その場には静寂が残される。

 後は自分が手を離すだけ。
 二人が移動したのを見届けてからノアは深く息を吐く。

「あなたはきっと後悔する」

 手を離そうとしたノアを引き留める声。
 こういう時聞く耳を持たなければいいだけなのに、それが出来ないところが自分の悪い所なのだろうと苦く笑いながらノアはベルフェゴールへ視線を向けた。

「近い未来、この国を災厄が満たす。……あなた達の悪足搔きのせいで」
「そうかい。なら偉い人達にそう伝えておくよ」

 ノアは彼女の言葉を聞き流す。
 そして礼を告げるように転移大結晶の表面を優しく撫でた後、それから手を離した。
 彼の体が淡い光に包まれていく。

「……今度は、絶対に見縊ったりしない」
「今度、なんてないとありがたいんだけどなぁ」

 やれやれと肩を竦め、ノアは物思いに耽る。
 自覚はあったが、更に明確になった自分の弱点。それについて考えていた彼は一つの結論を見出した。

 魔族との戦闘なんていう自殺行為、もう一度体験するなどごめんである。
 それでももし、望まぬ『今度』がやってくるとしたら。

(……その時までには、強く在れるようになりたいものだな)

 実力だけの問題ではない。自分の内に秘められた精神の問題。それが齎す危うさは自らの首を絞める程の物であることを、今回の件で身を以て知った。
 最後の最後で迷惑を掛けてしまったクリスティーナやリオに申し訳なさを覚えながら、そんなことを思う。

 自らの輪郭を光に溶かしながら、考えを巡らせていたノアは長いため息を吐く。
 何はともあれ酷い一日だった。そろそろ一息が吐きたい。
 漸く訪れる安らぎに安堵して、長い睫毛を伏せた。

 やがてその姿は魔法陣と共に掻き消える。
 その場には再び光を失った転移大結晶とベルフェゴールだけが取り残された。
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