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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
71-3.聖魔法と闇魔法
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「――正直、彼の身の上なんて知ったことではないわ」
クリスティーナは思い浮かべる。記憶をなぞる。
自分が聖女という自覚を持った日の夜を。あの日自分が経験したことを。
「彼が自ら話さないような内容にまで気遣ってやる義理などないもの」
体の内側が熱くなる感覚。その熱が魔力回路を通って抜けていく感覚。
記憶を辿って思え返される感覚。それらは気付けば現実のものとしてクリスティーナの身に降り掛かっていた。
「けれど。今日初めて顔を合わせたような相手が唯一の理解者を名乗るような面の皮の厚さをしていれば、腹立たしさの一つくらい流石に覚えるわ」
苛立ちと嘲りを織り交ぜて鼻で笑うクリスティーナ。
彼女は迫りくる闇へ向かって両手を翳した。
氷魔法を使っている訳ではないのに感じる魔力の消費。体外へと抜けていく魔力の行き先が闇へ向かうようにと強く念じた。
「いいこと?」
彼女の体が淡く光り輝く。
それは見ているものに温かさすら感じさせる、柔らかい光。
風に煽られたようにふわりと浮かぶワンピースの裾と長い銀髪。
神聖さを感じる光に包まれながら、クリスティーナは闇を睨みつけた。
「彼が話さないことは自分自身で向き合うという覚悟の表れよ。それを余所者が妄想で哀れみ、土足で踏みにじるなど以ての外。冒涜の極みよ」
翳した両手から放たれる光。その威力がもっと強まるようにとクリスティーナは念じる。
神々しさに包まれる少女。しかしその顔が浮かべるのは他者を蔑んだ冷たい瞳と不敵な嘲笑。
それは実に不釣り合いな情景だった。
「出直しなさい、人間初心者」
目一杯の怒りと蔑みを以て、強く吐き出された言葉。
それを合図に目が眩むほどの強い光が翳した手から放たれる。
その光は標的目掛けて着実に迫っていた『闇』を真っ直ぐ照らした。
対極の存在に充てられた『闇』。それは呆気なく光に呑まれて霧散する。
強すぎる光はクリスティーナ達を、そしてベルフェゴールを呑み込んでから収束する。
(……できた)
放たれた光が消えると同時に彼女の身を纏っていた淡い光も鳴りを潜める。
それを確認したクリスティーナは確かな倦怠感を覚えながら、深々と息を吐いた。
勢い任せの試みで肝は冷えたが、自身の望む結果を手に入れ、迫る危機を退けたことに対する安堵が彼女を満たした。
だがいつまでも気を抜いている訳にはいかない。
クリスティーナはベルフェゴールの様子を窺う。
彼女は驚いたように目を見開き、その場で呆けていた。
それがクリスティーナの施した魔法による影響なのか、単に彼女の心境によるものなのかは定かではないが、動くつもりがないのならこちらにとっても好都合だ。
クリスティーナは思い浮かべる。記憶をなぞる。
自分が聖女という自覚を持った日の夜を。あの日自分が経験したことを。
「彼が自ら話さないような内容にまで気遣ってやる義理などないもの」
体の内側が熱くなる感覚。その熱が魔力回路を通って抜けていく感覚。
記憶を辿って思え返される感覚。それらは気付けば現実のものとしてクリスティーナの身に降り掛かっていた。
「けれど。今日初めて顔を合わせたような相手が唯一の理解者を名乗るような面の皮の厚さをしていれば、腹立たしさの一つくらい流石に覚えるわ」
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彼女は迫りくる闇へ向かって両手を翳した。
氷魔法を使っている訳ではないのに感じる魔力の消費。体外へと抜けていく魔力の行き先が闇へ向かうようにと強く念じた。
「いいこと?」
彼女の体が淡く光り輝く。
それは見ているものに温かさすら感じさせる、柔らかい光。
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「彼が話さないことは自分自身で向き合うという覚悟の表れよ。それを余所者が妄想で哀れみ、土足で踏みにじるなど以ての外。冒涜の極みよ」
翳した両手から放たれる光。その威力がもっと強まるようにとクリスティーナは念じる。
神々しさに包まれる少女。しかしその顔が浮かべるのは他者を蔑んだ冷たい瞳と不敵な嘲笑。
それは実に不釣り合いな情景だった。
「出直しなさい、人間初心者」
目一杯の怒りと蔑みを以て、強く吐き出された言葉。
それを合図に目が眩むほどの強い光が翳した手から放たれる。
その光は標的目掛けて着実に迫っていた『闇』を真っ直ぐ照らした。
対極の存在に充てられた『闇』。それは呆気なく光に呑まれて霧散する。
強すぎる光はクリスティーナ達を、そしてベルフェゴールを呑み込んでから収束する。
(……できた)
放たれた光が消えると同時に彼女の身を纏っていた淡い光も鳴りを潜める。
それを確認したクリスティーナは確かな倦怠感を覚えながら、深々と息を吐いた。
勢い任せの試みで肝は冷えたが、自身の望む結果を手に入れ、迫る危機を退けたことに対する安堵が彼女を満たした。
だがいつまでも気を抜いている訳にはいかない。
クリスティーナはベルフェゴールの様子を窺う。
彼女は驚いたように目を見開き、その場で呆けていた。
それがクリスティーナの施した魔法による影響なのか、単に彼女の心境によるものなのかは定かではないが、動くつもりがないのならこちらにとっても好都合だ。
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