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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
70-5.撤退作戦
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***
複数人を相手にしていれば警戒すべき順位は自ずと付いて回るものだ。
ベルフェゴールは油断しているつもりなどなかったのかもしれない。しかし結果として、殆ど命中しなかった彼の魔法はその全てが実力不足から来るものだと、自分が格上故の単なる実力の差であると結論付けてしまった。
それが致命的な判断ミスであったことをベルフェゴールは遅れて気付かされることになる。
地面から広がる凍結。ベルフェゴールはそれを跳躍することで避けようとした。そして既に凍っている地面へ着地しようとしたところで、皮膚がひりつく感覚を覚える。
不審に思い、該当の箇所へ視線を向けた彼女はその顔を引き攣らせた。
部屋全体が凍り付くことにより始まった気温の下降。それは皮膚の温度を奪い去り、彼女の体をも徐々に凍結させていた。
彼女は戦闘中に何度か水を浴びている。それは全身を湿らせるには十分な回数であった。
それが仇となったのだ。
まずいと感じた時には着地した足が凍り出し、地面との癒着を開始する。
それを振り解くことがないようにと、追加で生成された氷が更にその足を覆い尽くしていった。
氷結は床から壁、更には天井へと広がり、やがて部屋全体を氷漬けにする。
「布石ってのはバレずに打ってこそだろう?」
計画通りだと目を細めて口角を上げる魔導師。
ベルフェゴールは彼を睨みつけることしかできない。
やがて氷によって完全に拘束された彼女を置き去りに、リオが後衛と合流を果たした。
それを視界の端に捉えてからノアは魔法陣へ入るようにとクリスティーナとリオへ目配せをする。
最大の目的を逃しそうになるベルフェゴールは焦りから効果力の炎を生成し、無理矢理氷を溶かそうとした。
しかし急激な温度変化に耐えられない氷はベルフェゴールの体ごと亀裂を走らせた。
氷が無残に砕け散る音。それは彼女の足を巻き込むように破壊した。
氷の拘束を解く代償として、彼女は体の一部を失う。
割れた陶器の如く手足を片方ずつ崩壊させた彼女は、自立すらままならずその場に膝をついた。
「……そう。確かに、わたしはあなたを見縊っていたのかもしれない」
魔法の行使は可能だが、目標の傍には彼女の動きに対応するだけの身体能力を誇る存在がある。
これ以上の追跡は不可能だと、ベルフェゴールは足搔くのを諦めた。
動きを止めた彼女は深々とため息を吐く。
それを横目に魔法陣へ足を踏み入れようとしたクリスティーナは、唐突に嫌な予感を覚えた。
目の前には起動した転移大結晶。一方で直立すらできない敵。
彼女が詰んでいることは明らかであるはずだ。
だが、それにも拘わらず。視界の端に捉えた彼女の表情には強い意志が宿っている。
その瞳は獲物を品定める獣の如く鋭い光を帯びていた。
複数人を相手にしていれば警戒すべき順位は自ずと付いて回るものだ。
ベルフェゴールは油断しているつもりなどなかったのかもしれない。しかし結果として、殆ど命中しなかった彼の魔法はその全てが実力不足から来るものだと、自分が格上故の単なる実力の差であると結論付けてしまった。
それが致命的な判断ミスであったことをベルフェゴールは遅れて気付かされることになる。
地面から広がる凍結。ベルフェゴールはそれを跳躍することで避けようとした。そして既に凍っている地面へ着地しようとしたところで、皮膚がひりつく感覚を覚える。
不審に思い、該当の箇所へ視線を向けた彼女はその顔を引き攣らせた。
部屋全体が凍り付くことにより始まった気温の下降。それは皮膚の温度を奪い去り、彼女の体をも徐々に凍結させていた。
彼女は戦闘中に何度か水を浴びている。それは全身を湿らせるには十分な回数であった。
それが仇となったのだ。
まずいと感じた時には着地した足が凍り出し、地面との癒着を開始する。
それを振り解くことがないようにと、追加で生成された氷が更にその足を覆い尽くしていった。
氷結は床から壁、更には天井へと広がり、やがて部屋全体を氷漬けにする。
「布石ってのはバレずに打ってこそだろう?」
計画通りだと目を細めて口角を上げる魔導師。
ベルフェゴールは彼を睨みつけることしかできない。
やがて氷によって完全に拘束された彼女を置き去りに、リオが後衛と合流を果たした。
それを視界の端に捉えてからノアは魔法陣へ入るようにとクリスティーナとリオへ目配せをする。
最大の目的を逃しそうになるベルフェゴールは焦りから効果力の炎を生成し、無理矢理氷を溶かそうとした。
しかし急激な温度変化に耐えられない氷はベルフェゴールの体ごと亀裂を走らせた。
氷が無残に砕け散る音。それは彼女の足を巻き込むように破壊した。
氷の拘束を解く代償として、彼女は体の一部を失う。
割れた陶器の如く手足を片方ずつ崩壊させた彼女は、自立すらままならずその場に膝をついた。
「……そう。確かに、わたしはあなたを見縊っていたのかもしれない」
魔法の行使は可能だが、目標の傍には彼女の動きに対応するだけの身体能力を誇る存在がある。
これ以上の追跡は不可能だと、ベルフェゴールは足搔くのを諦めた。
動きを止めた彼女は深々とため息を吐く。
それを横目に魔法陣へ足を踏み入れようとしたクリスティーナは、唐突に嫌な予感を覚えた。
目の前には起動した転移大結晶。一方で直立すらできない敵。
彼女が詰んでいることは明らかであるはずだ。
だが、それにも拘わらず。視界の端に捉えた彼女の表情には強い意志が宿っている。
その瞳は獲物を品定める獣の如く鋭い光を帯びていた。
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