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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
65-4.本性
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止まらない水魔法の猛攻に押された炎の膜はその力を徐々に失い、やがて完全に消滅する。
同時に炎に守られていた土の繭の姿が再び顕わとなる。
土の繭に入った罅は度重なる攻撃により大きく広がっていた。
あと一撃。決定打となる攻撃を受ければそれは崩壊するだろう。
それを悟ったベルフェゴールは即座に新たな魔法の行使を試みる。
隙を隠し、相手の追撃より先に反撃に出る。それがベルフェゴールに求められた選択だった。
「……え」
だが魔法が発動するよりも前、彼女が見たのは開けた視界と飛散する繭の残骸だった。
一切の猶予を与えない。
そんな意志を持ち、誰よりも早く動いたのはリオだった。
彼は目にも止まらぬ速さで接近。途中でナイフを投げ捨て、代わりに手元で生成された氷の剣を握りしめる。
そしてベルフェゴールが動くよりも先にその繭を両断した。
宙を舞う氷の破片の中、殺伐とした雰囲気に似合わぬ穏やかな口調で呟かれる。
「手柄はお譲りしますよ」
彼の扱った剣は繭の強度に耐え切れず、その一撃で砕け散る。
だが彼から余裕が消えることはない。
剣を振るった直後、ベルフェゴールの背後で腰を低く落としたリオ。彼の視線は背後のベルフェゴールへ――いや、その更に後ろへと向けられる。
「ッハ、ならお言葉に甘えようかね……ってな!」
少女の背後で赤髪が揺れる。
リオが繭を破ると同時、ベルフェゴールの背後から距離を詰めていたエリアスは口角を上げる。
彼はポケットに入れていた小瓶の栓を開け、敵へ向かって放った。
そして自身の武器を構えて腰を落とす。
宙を舞う小瓶。その中に納まっていた液体はまるで意志を持ったように自ら瓶の外へと這い出た。
それはいくつかの水滴となり、浮遊する。
「アクア・ミスト」
「フレイム・ヴェイル」
二つの詠唱が重なった。
刹那。浮遊した水滴は弾け飛び、霧散して宙を漂った。
同時にエリアスの剣が炎を帯びる。それは辺りを煌々と照らしながらベルフェゴールへと襲い掛かる。
迫る刃。未だ重力に行動を制限された彼女は、それでも身を引いてみせる。
だがその回避行動はエリアスの剣本来のリーチを想定した回避行動に他ならない。
帯びた炎によって伸びた刃先。その軌道の先から逃れることは出来なかった。
同時に炎に守られていた土の繭の姿が再び顕わとなる。
土の繭に入った罅は度重なる攻撃により大きく広がっていた。
あと一撃。決定打となる攻撃を受ければそれは崩壊するだろう。
それを悟ったベルフェゴールは即座に新たな魔法の行使を試みる。
隙を隠し、相手の追撃より先に反撃に出る。それがベルフェゴールに求められた選択だった。
「……え」
だが魔法が発動するよりも前、彼女が見たのは開けた視界と飛散する繭の残骸だった。
一切の猶予を与えない。
そんな意志を持ち、誰よりも早く動いたのはリオだった。
彼は目にも止まらぬ速さで接近。途中でナイフを投げ捨て、代わりに手元で生成された氷の剣を握りしめる。
そしてベルフェゴールが動くよりも先にその繭を両断した。
宙を舞う氷の破片の中、殺伐とした雰囲気に似合わぬ穏やかな口調で呟かれる。
「手柄はお譲りしますよ」
彼の扱った剣は繭の強度に耐え切れず、その一撃で砕け散る。
だが彼から余裕が消えることはない。
剣を振るった直後、ベルフェゴールの背後で腰を低く落としたリオ。彼の視線は背後のベルフェゴールへ――いや、その更に後ろへと向けられる。
「ッハ、ならお言葉に甘えようかね……ってな!」
少女の背後で赤髪が揺れる。
リオが繭を破ると同時、ベルフェゴールの背後から距離を詰めていたエリアスは口角を上げる。
彼はポケットに入れていた小瓶の栓を開け、敵へ向かって放った。
そして自身の武器を構えて腰を落とす。
宙を舞う小瓶。その中に納まっていた液体はまるで意志を持ったように自ら瓶の外へと這い出た。
それはいくつかの水滴となり、浮遊する。
「アクア・ミスト」
「フレイム・ヴェイル」
二つの詠唱が重なった。
刹那。浮遊した水滴は弾け飛び、霧散して宙を漂った。
同時にエリアスの剣が炎を帯びる。それは辺りを煌々と照らしながらベルフェゴールへと襲い掛かる。
迫る刃。未だ重力に行動を制限された彼女は、それでも身を引いてみせる。
だがその回避行動はエリアスの剣本来のリーチを想定した回避行動に他ならない。
帯びた炎によって伸びた刃先。その軌道の先から逃れることは出来なかった。
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