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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

65-2.本性

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 だが瞬く間に襲い掛かるはずであった激痛はやって来なかった。

 代わりに陶器が床に叩きつけられるかのような音が無数に鼓膜を揺らす。
 すぐさま異変に気付き、開いた目に入り込んだのはオリヴィエと刃の間に聳える氷の壁。
 それは大きさも耐久も十分すぎる性能を誇り、全ての攻撃を防いでみせた。

「後衛が優秀だと動きやすくて助かる……なっ!」

 粉砕し、ばらばらと散りゆく氷の欠片。
 その気配を感じながらもオリヴィエは去った一難の裏に潜む影を見逃さなかった。
 彼は距離を詰めていたエリアスの腕を引いて背に庇うと地面を蹴りつけ一歩後退る。

「”浮け”」

 自身とベルフェゴールの間を指さすオリヴィエ。
 彼の声を合図に地面は不自然に罅割れ、その一部が持ち上がった。
 大きな土塊と化したそれは彼とベルフェゴールの間に立ちはだかる。
 瞬間、それは轟音を伴って爆ぜた。

 僅かに鼻を衝く焦げ臭さが炎魔法の類が土塊と衝突したことを悟らせる。
 辺り一面に土煙が充満した。
 視界の妨げとなるそれをベルフェゴールは風魔法で吹き飛ばす。

 再び開ける視界。目くらましは僅かな時間しか通用しない。
 だが土煙の発生からの過程が生んだ数秒間はエリアスとオリヴィエにとって十分な猶予となった。

 土煙が霧散すると同時、ベルフェゴールの後方右側からエリアスが飛び込んだ。
 走る閃光。ろくに身動きの取れないベルフェゴールの体を三度、刃が走り抜けた。
 それから間を空けることなく、彼女の後方左側からオリヴィエが手を伸ばす。

 ベルフェゴールは彼の魔法が厄介であることを痛感している。故に彼に対する警戒心は一層強かった。
 押し潰されそうな力の中、彼女は無理矢理にでも後ろへ仰け反る。
 しかし回避行動を取った彼女が見たのはオリヴィエの勝ち誇ったかのような笑みだった。

 彼は伸ばしかけていた手を途中で止めた。
 かと思えば両手をついて素早く地面を蹴り上げる。
 倒立状態の体は勢いをつけて捩られ、それは回し蹴りとなってベルフェゴールの左肩へ伸ばされる。

 巧みに、そして自然に織り交ぜられたフェイク。
 それは彼女の隙を生み出す一手となった。

 爪先が掠める程度の接触。
 彼にとってはそれで十分だ。

「”ひずめ”」

 地面へ頭を向けたまま、視線だけを敵へ送りながら彼は呟く。
 接触という条件を果たした魔法。その効果は即座に現れた。
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