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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
60-2.難儀な弱点
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頼りなさを覚えてしまうのは致し方ない気もするのだが、既に彼の魔法が役立っているのも事実だ。戦力が多い方が望ましい現状で優秀な人材が助っ人に加わるという状況はありがたかった。
多少動き辛さが出るかもしれないが、事前に彼の性質を知っていれば怪しい装置に触ろうとしている彼を事前に止めるなど、上手く立ち回ることもできるだろう。
「それとクリス」
「何かしら」
名指しされたクリスティーナは改めてノアへ視線を戻した。
彼は呆れ混じりに苦笑しながら顎でオリヴィエ指し示す。
「あんまりリヴィを見つめないでやってくれないか」
「……どういう意味かしら」
ノアの指摘を基に、今までのオリヴィエの言動を振り返る。
よくよく考えればクリスティーナには合流した後からオリヴィエと視線が交わった記憶がなかった……というよりも、オリヴィエが意図的に目を逸らしていたような気がしてくる。
「彼は私のことが気に入らないということ?」
「違う、そうじゃないんだ」
気を悪くさせるようなことがあったのなら相手の言い分を聞くべきだし、文句があるのであれば受けて立つべきだ。
クリスティーナは思わずオリヴィエを見つめる。
するとノアは大きく肩を竦め、オリヴィエは片手で自身の横顔を隠してみせた。
視線が合いそうになるだけでこの態度はこちらの身分を差し置いても失礼ではないかと気分を損ねそうだったクリスティーナだが、その気持ちはとあることに気付くと同時に萎んでいく。
横顔を完全に隠したオリヴィエの表情はわからなかったが、代わりに隠されていなかった耳を視界が捉える。
その耳はわかりやすく赤く染まっていた。
鳩が豆鉄砲を食ったように呆けるクリスティーナを見てノアはくつくつと喉の奥で笑う。
「リヴィは極めて女性に弱いんだ」
「女性に……弱い……」
理解が追い付かずに聞こえた言葉を反芻するクリスティーナ。
暫し瞬きをしながら赤くなった耳を見ていた彼女は納得をしかけつつもふと思ったことを口にする。
「……貴方、以前会った時はそんな素振りなかったじゃない」
「あ、確かに。何なら口説き落とす勢いで」
「は?」
「リヴィが女性を……?」
仮面をつけたオリヴィエに会った時のことを話題に出せば、状況を知っているエリアスが補足のように口を挟む。
それに対して従者はすかさず敵意を剥き出しにし、更にノアが意外だと目を見張った。
「その話なんだが、僕はお前達に会った記憶がない。……というか」
横顔を隠していた手をゆっくり下ろしながらオリヴィエは顔を顰める。
しかしその頬は耳よりも赤く、その心中はありありと察することが出来た。
「お、女の顔なんていちいち覚えている訳ないだろう! 顔合わせられないんだから!! こっちは精々服装から性別を判断するので手一杯だ!」
「あ、だよね。良かった、通常運転だ」
「それ、胸張ることではないと思うわ。普通に無礼よ」
開き直りか、決して女性を視界に入れまいと目を閉じながら声を張るオリヴィエの態度にクリスティーナはほとほと呆れる。
恐らく一番人情のあるエリアスからですら異質なものを見るような温度を仄かに感じる為、この場で彼を擁護する者はいそうにもない。
多少動き辛さが出るかもしれないが、事前に彼の性質を知っていれば怪しい装置に触ろうとしている彼を事前に止めるなど、上手く立ち回ることもできるだろう。
「それとクリス」
「何かしら」
名指しされたクリスティーナは改めてノアへ視線を戻した。
彼は呆れ混じりに苦笑しながら顎でオリヴィエ指し示す。
「あんまりリヴィを見つめないでやってくれないか」
「……どういう意味かしら」
ノアの指摘を基に、今までのオリヴィエの言動を振り返る。
よくよく考えればクリスティーナには合流した後からオリヴィエと視線が交わった記憶がなかった……というよりも、オリヴィエが意図的に目を逸らしていたような気がしてくる。
「彼は私のことが気に入らないということ?」
「違う、そうじゃないんだ」
気を悪くさせるようなことがあったのなら相手の言い分を聞くべきだし、文句があるのであれば受けて立つべきだ。
クリスティーナは思わずオリヴィエを見つめる。
するとノアは大きく肩を竦め、オリヴィエは片手で自身の横顔を隠してみせた。
視線が合いそうになるだけでこの態度はこちらの身分を差し置いても失礼ではないかと気分を損ねそうだったクリスティーナだが、その気持ちはとあることに気付くと同時に萎んでいく。
横顔を完全に隠したオリヴィエの表情はわからなかったが、代わりに隠されていなかった耳を視界が捉える。
その耳はわかりやすく赤く染まっていた。
鳩が豆鉄砲を食ったように呆けるクリスティーナを見てノアはくつくつと喉の奥で笑う。
「リヴィは極めて女性に弱いんだ」
「女性に……弱い……」
理解が追い付かずに聞こえた言葉を反芻するクリスティーナ。
暫し瞬きをしながら赤くなった耳を見ていた彼女は納得をしかけつつもふと思ったことを口にする。
「……貴方、以前会った時はそんな素振りなかったじゃない」
「あ、確かに。何なら口説き落とす勢いで」
「は?」
「リヴィが女性を……?」
仮面をつけたオリヴィエに会った時のことを話題に出せば、状況を知っているエリアスが補足のように口を挟む。
それに対して従者はすかさず敵意を剥き出しにし、更にノアが意外だと目を見張った。
「その話なんだが、僕はお前達に会った記憶がない。……というか」
横顔を隠していた手をゆっくり下ろしながらオリヴィエは顔を顰める。
しかしその頬は耳よりも赤く、その心中はありありと察することが出来た。
「お、女の顔なんていちいち覚えている訳ないだろう! 顔合わせられないんだから!! こっちは精々服装から性別を判断するので手一杯だ!」
「あ、だよね。良かった、通常運転だ」
「それ、胸張ることではないと思うわ。普通に無礼よ」
開き直りか、決して女性を視界に入れまいと目を閉じながら声を張るオリヴィエの態度にクリスティーナはほとほと呆れる。
恐らく一番人情のあるエリアスからですら異質なものを見るような温度を仄かに感じる為、この場で彼を擁護する者はいそうにもない。
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