185 / 579
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
58-3.迷宮『エシェル』
しおりを挟む
***
「うわぁ、クリス見てみて!!」
迷宮を進むこと十五分、ノアの興奮した声にクリスティーナはげんなりとしていた。
子供のように目を輝かせた魔導師は道中で見かけた古臭い石碑に貼りついている。
「うーん、古代語はまだ少ししか齧ってないんだよね。解読は難しいか……あ! これって魔法陣じゃない? こんな型見たことないよ。解析は進んでるのかなぁ。学校に戻ったらもう一回文献漁ってみたいな」
早口で捲し立て乍ら遺跡の周りを忙しなく歩き回る様は初めて大道芸を目にした子供のようである。
まだ十五分程度しか経っていないというのに、既に幾度となく繰り返された光景はクリスティーナとリオ、エリアスを呆れさせるには十分な理由だった。
「貴方――」
「ん? なんだこれ」
異を唱えようとしたクリスティーナの言葉を遮ったのは後方にいたオリヴィエの声だ。
三人がそれに振り返れば、オリヴィエのきょとんとした顔が窺える。
しかし問題なのはそこではない。
壁に埋め込まれた明らかなスイッチ。
押してくださいと言わんばかりに不自然に設置されていたそれはすっぽりと壁に埋まっている。
そして今まさにそれを押しましたと周囲へ教え込むように、そこにはオリヴィエの人差し指が添えられていたのだ。
「ちょ、お……えぇ……?」
魔導師共の暴走に何か口を挟もうとしつつも何から触れればいいのやら脳内処理の追いつかない騎士。結局彼は間の抜けた声を漏らして呆けるに留まった。
しかし騎士のお咎めは止められても作動した迷宮のトラップまでは止められない。
一瞬の間が空いた後、地響きと共に迷宮内が揺れ始める。
同時に発生した轟音はあっという間にクリスティーナ達と距離を詰め、その発生源を知らしめる。
巨大な球体だ。背の高い天井と左右の壁を埋める程の大きさの球体が凄まじい速度で一行へ向かってきていた。
(あれって実在するのね)
収拾がつかない状況と、それに便乗するようにやってきたいかにも古典的なトラップ。
それを目の当たりにし、やや自暴自棄になったクリスティーナが抱いたのはそんな他人事な感想であった。
「うわぁ、クリス見てみて!!」
迷宮を進むこと十五分、ノアの興奮した声にクリスティーナはげんなりとしていた。
子供のように目を輝かせた魔導師は道中で見かけた古臭い石碑に貼りついている。
「うーん、古代語はまだ少ししか齧ってないんだよね。解読は難しいか……あ! これって魔法陣じゃない? こんな型見たことないよ。解析は進んでるのかなぁ。学校に戻ったらもう一回文献漁ってみたいな」
早口で捲し立て乍ら遺跡の周りを忙しなく歩き回る様は初めて大道芸を目にした子供のようである。
まだ十五分程度しか経っていないというのに、既に幾度となく繰り返された光景はクリスティーナとリオ、エリアスを呆れさせるには十分な理由だった。
「貴方――」
「ん? なんだこれ」
異を唱えようとしたクリスティーナの言葉を遮ったのは後方にいたオリヴィエの声だ。
三人がそれに振り返れば、オリヴィエのきょとんとした顔が窺える。
しかし問題なのはそこではない。
壁に埋め込まれた明らかなスイッチ。
押してくださいと言わんばかりに不自然に設置されていたそれはすっぽりと壁に埋まっている。
そして今まさにそれを押しましたと周囲へ教え込むように、そこにはオリヴィエの人差し指が添えられていたのだ。
「ちょ、お……えぇ……?」
魔導師共の暴走に何か口を挟もうとしつつも何から触れればいいのやら脳内処理の追いつかない騎士。結局彼は間の抜けた声を漏らして呆けるに留まった。
しかし騎士のお咎めは止められても作動した迷宮のトラップまでは止められない。
一瞬の間が空いた後、地響きと共に迷宮内が揺れ始める。
同時に発生した轟音はあっという間にクリスティーナ達と距離を詰め、その発生源を知らしめる。
巨大な球体だ。背の高い天井と左右の壁を埋める程の大きさの球体が凄まじい速度で一行へ向かってきていた。
(あれって実在するのね)
収拾がつかない状況と、それに便乗するようにやってきたいかにも古典的なトラップ。
それを目の当たりにし、やや自暴自棄になったクリスティーナが抱いたのはそんな他人事な感想であった。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

半分異世界
月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。
ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。
いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。
そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。
「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。
みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる