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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
55-2.黄橡髪の青年
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彼は自身へ投げかけられる視線に横目で答えて見せるものの、すぐにクリスティーナから目を逸らしてしまう。
「オリヴィエ・ヴィレット。そっちの腰抜け魔導師の知り合い」
「俺の元同級生であり、親友だよ」
素っ気ない自己紹介に付け足されるのはあまりにも前向きな解釈が施された補足だ。本人は機嫌の良さそうなノアとは反対に心底怪訝そうな顔をしている。
「元ということは、今は違うのですね」
「休学しているからな」
「なるほど」
リオとオリヴィエの会話に耳を傾けながらも、クリスティーナは既視感を覚えていた。
黄橡の髪、空を飛ぶ魔法。それらを見たのは初めてじゃない。
彼女の脳裏にはいつぞやの夜に出会った仮面の青年が過るが、一方で目の前にいる彼と記憶の中の青年とでは異なる部分も存在する。
一つは仮面の有無。そしてもう一つは――。
「……身長」
「は?」
「あっ」
思わず漏れた言葉に、オリヴィエの顔が不機嫌そうに歪む。
そしていち早く何かに気付いたノアが短く声を上げる。
しかし何が問題だったのかクリスティーナにはよくわからない。小首を傾げているとノアがクリスティーナへ手招きをした。
何事かと顔を傾ければ、耳元で囁かれる。
「駄目だよクリス。リヴィは身長が低いのを気にしてるんだ。まあ低いのは事実なんだけど……」
「聞こえているからな」
「わぁ! ごめんなさい!」
黄緑の瞳が冷たく光り、コソコソと話していたノアを見下ろした。
その視線から逃れるように顔を逸らすノアを眺めつつ、クリスティーナはため息を吐く。
確かにオリヴィエは小柄だ。女性の中で平均程度の身長であるクリスティーナと並んでも彼の方が数センチ高い程度だろう。
しかし彼女が気になったのは厳密に言えばそこではない。
「貴方と似た人と会ったことがある気がしたから。でも彼はもっと背が高かったから他人の空似かと思ったのよ」
「あ、そう。オレも思ったんですよね」
手を打って口を挟んだのはエリアス。彼の話ではクリスティーナが仮面の青年と遭遇した際に近くで様子を窺っていたということであったから、きっと彼自身も同じ人物とオリヴィエを重ねているのだろう。
別人か、身内か。どちらにせよ大した問題ではないと一人で結論付けたクリスティーナはしかし、首をギリギリまで背けるオリヴィエの反応に口を閉ざしてしまった。
彼の肩は小刻みに震え、口は目一杯に引き結ばれている。
何度も忙しなく眼鏡を押し上げる彼はこれでもかという程冷や汗を掻いていた。
「リヴィ、もしかして君……」
更に同情の眼差しで友を見つめるノアの言葉が引き金となり、オリヴィエは勢いよく振り向いた。
「そうだよ! どうせインソールだよ! ヒールだよ!! 悪いかッ!!」
コンプレックスを刺激されて喚き散らす彼に、仮面の貴公子としての面影はない。
しかし羞恥に顔を顰めて顔を赤らめるその姿は件の青年と彼が同一人物であるという事を示唆していた。
「オリヴィエ・ヴィレット。そっちの腰抜け魔導師の知り合い」
「俺の元同級生であり、親友だよ」
素っ気ない自己紹介に付け足されるのはあまりにも前向きな解釈が施された補足だ。本人は機嫌の良さそうなノアとは反対に心底怪訝そうな顔をしている。
「元ということは、今は違うのですね」
「休学しているからな」
「なるほど」
リオとオリヴィエの会話に耳を傾けながらも、クリスティーナは既視感を覚えていた。
黄橡の髪、空を飛ぶ魔法。それらを見たのは初めてじゃない。
彼女の脳裏にはいつぞやの夜に出会った仮面の青年が過るが、一方で目の前にいる彼と記憶の中の青年とでは異なる部分も存在する。
一つは仮面の有無。そしてもう一つは――。
「……身長」
「は?」
「あっ」
思わず漏れた言葉に、オリヴィエの顔が不機嫌そうに歪む。
そしていち早く何かに気付いたノアが短く声を上げる。
しかし何が問題だったのかクリスティーナにはよくわからない。小首を傾げているとノアがクリスティーナへ手招きをした。
何事かと顔を傾ければ、耳元で囁かれる。
「駄目だよクリス。リヴィは身長が低いのを気にしてるんだ。まあ低いのは事実なんだけど……」
「聞こえているからな」
「わぁ! ごめんなさい!」
黄緑の瞳が冷たく光り、コソコソと話していたノアを見下ろした。
その視線から逃れるように顔を逸らすノアを眺めつつ、クリスティーナはため息を吐く。
確かにオリヴィエは小柄だ。女性の中で平均程度の身長であるクリスティーナと並んでも彼の方が数センチ高い程度だろう。
しかし彼女が気になったのは厳密に言えばそこではない。
「貴方と似た人と会ったことがある気がしたから。でも彼はもっと背が高かったから他人の空似かと思ったのよ」
「あ、そう。オレも思ったんですよね」
手を打って口を挟んだのはエリアス。彼の話ではクリスティーナが仮面の青年と遭遇した際に近くで様子を窺っていたということであったから、きっと彼自身も同じ人物とオリヴィエを重ねているのだろう。
別人か、身内か。どちらにせよ大した問題ではないと一人で結論付けたクリスティーナはしかし、首をギリギリまで背けるオリヴィエの反応に口を閉ざしてしまった。
彼の肩は小刻みに震え、口は目一杯に引き結ばれている。
何度も忙しなく眼鏡を押し上げる彼はこれでもかという程冷や汗を掻いていた。
「リヴィ、もしかして君……」
更に同情の眼差しで友を見つめるノアの言葉が引き金となり、オリヴィエは勢いよく振り向いた。
「そうだよ! どうせインソールだよ! ヒールだよ!! 悪いかッ!!」
コンプレックスを刺激されて喚き散らす彼に、仮面の貴公子としての面影はない。
しかし羞恥に顔を顰めて顔を赤らめるその姿は件の青年と彼が同一人物であるという事を示唆していた。
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