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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
52-5.『怠惰』の魔族
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鈍い音を立てて体を打ち付けたベルフェゴール。大きな打撲や深い切り傷を負いながらも尚、彼女の体は傷を修復する。致命傷には一歩及ばなかったのだろう。
しかし立ち上がった彼女が迎撃に出ようとしたその瞬間、ノアの詠唱が終わる。
最後の一声と共に発生したのは濃霧。
生成された霧は三人の視界を大きく遮るが、彼の魔法はそれに留まらない。
それは元より発生していた霧をも巻き込んで、更に三人の周囲を包み込む。
水属性超級魔法、|濛霧集散(イノーマス・フォグ)。広範囲に霧を発生させたり、自在に操ることのできる魔法。ノアが唯一使用できる超級魔法である。
一寸先すらわからなくなる程の濃霧。その効果は煙幕と変わらない程に絶大だ。
ノアとエリアスの立てた作戦は実に単純なものであった。
エリアスがベルフェゴールの気を引いて時間を稼いでいる間に、ノアが|濛霧集散(イノーマス・フォグ)を使用。
周囲に蔓延する霧を巻き込んで自身の周辺を濃霧で多い、相手の視界が遮断された間に撤退するというもの。
残りわずかな魔力という不安要素、更に魔法自体の難度が高いという状況でであっても作戦通り成し遂げたノアは安堵から小さく息を吐く。
後は事前に打ち合わせていた方角へ撤退するだけだ。
そう考えて一歩、進行方向へ踏み出したノア。だがそこで彼の視界は大きく歪む。次いでやってくるのは金づちで殴られているかのように強烈な頭痛と吐き気を齎す倦怠感、過呼吸。
限界まで魔力を搾り取られた体が警鐘を鳴らし出したのだ。
ノアはそれを無視しながら杖を突き、平衡感覚を失った身体を支える。
「……あ?」
無理矢理にでも動かなければと歯を食いしばった彼の視界に地面が映る。そこに刻まれた血痕を見て、思わず声が漏れた。
遅れて自身の顔に手を伸ばす。濡れる感触が指先に伝わる。
地面を汚した血痕の正体は無理をした代償のように流れる鼻血であった。
「さすがに……っ、やり過ぎたか……」
片手で鼻を押さえながら顔を顰めるノア。上級魔法の連発どころか無詠唱での酷使、超級魔法の行使等、魔導師の誰が見ても無茶だと口をそろえて言うことだろう数の魔法を使用したのだ。体にガタが来るのも当然の結果であった。
しかし欲を言うのならば撤退するまでは持ちこたえて欲しかった。意識を保つのが精いっぱいである彼は内心そんなことを呟きながら、前進することすらままならない状況に途方に暮れる。
しかし立ち上がった彼女が迎撃に出ようとしたその瞬間、ノアの詠唱が終わる。
最後の一声と共に発生したのは濃霧。
生成された霧は三人の視界を大きく遮るが、彼の魔法はそれに留まらない。
それは元より発生していた霧をも巻き込んで、更に三人の周囲を包み込む。
水属性超級魔法、|濛霧集散(イノーマス・フォグ)。広範囲に霧を発生させたり、自在に操ることのできる魔法。ノアが唯一使用できる超級魔法である。
一寸先すらわからなくなる程の濃霧。その効果は煙幕と変わらない程に絶大だ。
ノアとエリアスの立てた作戦は実に単純なものであった。
エリアスがベルフェゴールの気を引いて時間を稼いでいる間に、ノアが|濛霧集散(イノーマス・フォグ)を使用。
周囲に蔓延する霧を巻き込んで自身の周辺を濃霧で多い、相手の視界が遮断された間に撤退するというもの。
残りわずかな魔力という不安要素、更に魔法自体の難度が高いという状況でであっても作戦通り成し遂げたノアは安堵から小さく息を吐く。
後は事前に打ち合わせていた方角へ撤退するだけだ。
そう考えて一歩、進行方向へ踏み出したノア。だがそこで彼の視界は大きく歪む。次いでやってくるのは金づちで殴られているかのように強烈な頭痛と吐き気を齎す倦怠感、過呼吸。
限界まで魔力を搾り取られた体が警鐘を鳴らし出したのだ。
ノアはそれを無視しながら杖を突き、平衡感覚を失った身体を支える。
「……あ?」
無理矢理にでも動かなければと歯を食いしばった彼の視界に地面が映る。そこに刻まれた血痕を見て、思わず声が漏れた。
遅れて自身の顔に手を伸ばす。濡れる感触が指先に伝わる。
地面を汚した血痕の正体は無理をした代償のように流れる鼻血であった。
「さすがに……っ、やり過ぎたか……」
片手で鼻を押さえながら顔を顰めるノア。上級魔法の連発どころか無詠唱での酷使、超級魔法の行使等、魔導師の誰が見ても無茶だと口をそろえて言うことだろう数の魔法を使用したのだ。体にガタが来るのも当然の結果であった。
しかし欲を言うのならば撤退するまでは持ちこたえて欲しかった。意識を保つのが精いっぱいである彼は内心そんなことを呟きながら、前進することすらままならない状況に途方に暮れる。
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