上 下
167 / 579
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

52-5.『怠惰』の魔族

しおりを挟む
 鈍い音を立てて体を打ち付けたベルフェゴール。大きな打撲や深い切り傷を負いながらも尚、彼女の体は傷を修復する。致命傷には一歩及ばなかったのだろう。
 しかし立ち上がった彼女が迎撃に出ようとしたその瞬間、ノアの詠唱が終わる。

 最後の一声と共に発生したのは濃霧。
 生成された霧は三人の視界を大きく遮るが、彼の魔法はそれに留まらない。
 それは元より発生していた霧をも巻き込んで、更に三人の周囲を包み込む。

 水属性超級魔法、|濛霧集散(イノーマス・フォグ)。広範囲に霧を発生させたり、自在に操ることのできる魔法。ノアが唯一使用できる超級魔法である。

 一寸先すらわからなくなる程の濃霧。その効果は煙幕と変わらない程に絶大だ。

 ノアとエリアスの立てた作戦は実に単純なものであった。
 エリアスがベルフェゴールの気を引いて時間を稼いでいる間に、ノアが|濛霧集散(イノーマス・フォグ)を使用。
 周囲に蔓延する霧を巻き込んで自身の周辺を濃霧で多い、相手の視界が遮断された間に撤退するというもの。

 残りわずかな魔力という不安要素、更に魔法自体の難度が高いという状況でであっても作戦通り成し遂げたノアは安堵から小さく息を吐く。
 後は事前に打ち合わせていた方角へ撤退するだけだ。

 そう考えて一歩、進行方向へ踏み出したノア。だがそこで彼の視界は大きく歪む。次いでやってくるのは金づちで殴られているかのように強烈な頭痛と吐き気を齎す倦怠感、過呼吸。

 限界まで魔力を搾り取られた体が警鐘を鳴らし出したのだ。
 ノアはそれを無視しながら杖を突き、平衡感覚を失った身体を支える。

「……あ?」

 無理矢理にでも動かなければと歯を食いしばった彼の視界に地面が映る。そこに刻まれた血痕を見て、思わず声が漏れた。
 遅れて自身の顔に手を伸ばす。濡れる感触が指先に伝わる。
 地面を汚した血痕の正体は無理をした代償のように流れる鼻血であった。

「さすがに……っ、やり過ぎたか……」

 片手で鼻を押さえながら顔を顰めるノア。上級魔法の連発どころか無詠唱での酷使、超級魔法の行使等、魔導師の誰が見ても無茶だと口をそろえて言うことだろう数の魔法を使用したのだ。体にガタが来るのも当然の結果であった。

 しかし欲を言うのならば撤退するまでは持ちこたえて欲しかった。意識を保つのが精いっぱいである彼は内心そんなことを呟きながら、前進することすらままならない状況に途方に暮れる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

異世界召喚で適正村人の俺はゴミとしてドラゴンの餌に~だが職業はゴミだが固有スキルは最強だった。スキル永久コンボでずっと俺のターンだ~

榊与一
ファンタジー
滝谷竜也(たきたにりゅうや)16歳。 ボッチ高校生である彼はいつも通り一人で昼休みを過ごしていた。 その時突然地震に襲われ意識をい失うってしまう。 そして気付けばそこは異世界で、しかも彼以外のクラスの人間も転移していた。 「あなた方にはこの世界を救うために来て頂きました。」 女王アイリーンは言う。 だが―― 「滝谷様は村人ですのでお帰り下さい」 それを聞いて失笑するクラスメート達。 滝谷竜也は渋々承諾して転移ゲートに向かう。 だがそれは元の世界へのゲートではなく、恐るべき竜の巣へと続くものだった。 「あんたは竜の餌にでもなりなさい!」 女王は竜也を役立たずと罵り、国が契約を交わすドラゴンの巣へと続くゲートへと放り込んだ。 だが女王は知らない。 職業が弱かった反動で、彼がとてつもなく強力なスキルを手に入れている事を。 そのスキル【永久コンボ】は、ドラゴンすらも容易く屠る最強のスキルであり、その力でドラゴンを倒した竜谷竜也は生き延び復讐を誓う。 序でに、精神支配されているであろうクラスメート達の救出も。 この物語はゴミの様な村人と言う職業の男が、最強スキル永久コンボを持って異世界で無双する物語となります。

刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。

木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。 その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。 本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。 リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。 しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。 なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。 竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。 ※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)

婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

宇宙戦争時代の科学者、異世界へ転生する【創世の大賢者】

赤い獅子舞のチャァ
ファンタジー
主人公、エリー・ナカムラは、3500年代生まれの元アニオタ。 某アニメの時代になっても全身義体とかが無かった事で、自分で開発する事を決意し、気付くと最恐のマッドになって居た。 全身義体になったお陰で寿命から開放されていた彼女は、ちょっとしたウッカリからその人生を全うしてしまう事と成り、気付くと知らない世界へ転生を果たして居た。 自称神との会話内容憶えてねーけど科学知識とアニメ知識をフルに使って異世界を楽しんじゃえ! 宇宙最恐のマッドが異世界を魔改造! 異世界やり過ぎコメディー!

不死身の吸血鬼〜死を選べぬ不幸な者よ〜

真冬
ファンタジー
2050年の日本には人間の世界の闇に紛れてヴァンパイアが存在していた。 高校生の伊純楓はある日の夜、焼けるような熱に襲われ、突然人間からヴァンパイアになった。昼は人間の姿をして、夜はヴァンパイアの姿という人間とヴァンパイアの混血である。その混血は不老不死になるという。 この世界では大半の人間はヴァンパイアの全滅を望み、大半のヴァンパイアは人間を食料としか思っていない。相反する思想を持つその2種は争いを続けてきた。 しかし、人間とヴァンパイアの共存を望み密かに組織内でそれを実現しているモラドという組織が存在する。 モラドの目的はこの世界で人間とヴァンパイアが共存し、世界の平和を手に入れること。  そのモラドの目的に共感した楓は組織の一員になり。目的達成のために動くと決めた。 この世界で食うものと食われるものの共存を成し遂げるため混血、そして不死の伊純楓は困難に立ち向かう。 ※物語の都合上、吸血鬼について伝承とは多少異なる部分もあると思います ※拙い文ですいません。あと、好き勝手書いています

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

処理中です...