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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
38-4.確かな進展
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クリスティーナの表情を観察していたノアは大袈裟に肩を竦める。
「どうやら君は早く先に進みたいようだ。けれど正直な話、魔力の動きさえ把握してしまえば魔力制御に至るまでの過程はこれまでに比べて随分簡単な物でね。拍子抜けしてしまうかもしれない」
そういえば、とクリスティーナは今朝のリオとノアのやり取りを思い出す。
リオは魔力の流れを認識した後、教えを請うことなく魔力の制御を実現していた。結果は微々たるものではあったが、彼が導いた結果は感覚だけでも会得できる過程であることを示していると言えるだろう。
「魔力が流れているホースに外側から圧力をかけるようなイメージをするんだ。あとは、今感じる魔力の流れを反対の方向から同じだけの負荷をかけて堰き止めるような感じ」
ノアに言われた言葉を頭の中で反芻しながら目を閉じる。
次は息を止めないでよなんて冗談交じりの声を聞きながらも返事をする余裕はなく、代わりに意識的に深呼吸を繰り返しながら魔力の流れに集中をした。
「魔法は想像力が重要なんだ。魔法に精度を求めるならばその分鮮明なイメージを必要とする。そしてそれは魔力制御にも同じことが言える」
眉根が寄り、自然と腹部に力が入る。
流れる魔力の速度、量。それらを正確に把握した上で決まった方向へ流れる魔力の動きを止める為、反発する力の存在をイメージする。
「イメージさえできれば成し遂げられる。君ならできるはずさ」
穏やかな声は不思議とクリスティーナの集中力を刈り取る存在にはなり得なかった。
想像を膨らませるにつれて体内の魔力は循環する速度を徐々に落としていく。
嵐に巻き込まれた川の流れの様に凄まじい威力を持っていた魔力は気が付けば下流のせせらぎの様に穏やかな動きへ変わり、更には零した水が床を広がるかの如くゆったりと。
――その過程を経て、ある時を境に魔力の動きは完全に停止した。
「……うん。合格だ」
魔力の制御を成し遂げたクリスティーナが息を吐くと、ノアの声がした。
目を開ける。リオとエリアスには変化が感じられないようであったが、ノアの明るい笑顔が表情がクリスティーナの成功を物語っていた。
「思いの外違和感があるわ」
意識をしながらずっと腹部に力を込めているのだ。気を抜けばすぐに元に戻ってしまいそうだ。
更にこの違和感を意識しながら普段と同じ様に魔法を使おうとすれば注意が魔力制御の方へ逸れてしまい、魔法の精度は落ちてしまうだろう。
「大丈夫。今は不要な力も割いてる状態だから違和感も大きいけど、慣れれば効率よく自然に熟せるようになるよ」
「そう」
暫くは日常的に続けた方がいいという彼の助言に素直に頷く。
まだまだ課題は残されている様であったが、それでも一先ずは目標が達成されてほっと胸を撫で下ろす。
「いい顔だね」
「え?」
クリスティーナは目を丸くする。
ノアは笑みを深めながら、自覚のない彼女に教えてやる。
「魔法が楽しくて仕方がない。そんな魔導師の目だ」
表情が緩んでいたわけでも、声が浮ついていたわけでもない。
しかし、自身の確かな成長を自覚したクリスティーナの瞳は確かな達成感と魔法に対する好奇心で確かな輝きを含んでいた。
「どうやら君は早く先に進みたいようだ。けれど正直な話、魔力の動きさえ把握してしまえば魔力制御に至るまでの過程はこれまでに比べて随分簡単な物でね。拍子抜けしてしまうかもしれない」
そういえば、とクリスティーナは今朝のリオとノアのやり取りを思い出す。
リオは魔力の流れを認識した後、教えを請うことなく魔力の制御を実現していた。結果は微々たるものではあったが、彼が導いた結果は感覚だけでも会得できる過程であることを示していると言えるだろう。
「魔力が流れているホースに外側から圧力をかけるようなイメージをするんだ。あとは、今感じる魔力の流れを反対の方向から同じだけの負荷をかけて堰き止めるような感じ」
ノアに言われた言葉を頭の中で反芻しながら目を閉じる。
次は息を止めないでよなんて冗談交じりの声を聞きながらも返事をする余裕はなく、代わりに意識的に深呼吸を繰り返しながら魔力の流れに集中をした。
「魔法は想像力が重要なんだ。魔法に精度を求めるならばその分鮮明なイメージを必要とする。そしてそれは魔力制御にも同じことが言える」
眉根が寄り、自然と腹部に力が入る。
流れる魔力の速度、量。それらを正確に把握した上で決まった方向へ流れる魔力の動きを止める為、反発する力の存在をイメージする。
「イメージさえできれば成し遂げられる。君ならできるはずさ」
穏やかな声は不思議とクリスティーナの集中力を刈り取る存在にはなり得なかった。
想像を膨らませるにつれて体内の魔力は循環する速度を徐々に落としていく。
嵐に巻き込まれた川の流れの様に凄まじい威力を持っていた魔力は気が付けば下流のせせらぎの様に穏やかな動きへ変わり、更には零した水が床を広がるかの如くゆったりと。
――その過程を経て、ある時を境に魔力の動きは完全に停止した。
「……うん。合格だ」
魔力の制御を成し遂げたクリスティーナが息を吐くと、ノアの声がした。
目を開ける。リオとエリアスには変化が感じられないようであったが、ノアの明るい笑顔が表情がクリスティーナの成功を物語っていた。
「思いの外違和感があるわ」
意識をしながらずっと腹部に力を込めているのだ。気を抜けばすぐに元に戻ってしまいそうだ。
更にこの違和感を意識しながら普段と同じ様に魔法を使おうとすれば注意が魔力制御の方へ逸れてしまい、魔法の精度は落ちてしまうだろう。
「大丈夫。今は不要な力も割いてる状態だから違和感も大きいけど、慣れれば効率よく自然に熟せるようになるよ」
「そう」
暫くは日常的に続けた方がいいという彼の助言に素直に頷く。
まだまだ課題は残されている様であったが、それでも一先ずは目標が達成されてほっと胸を撫で下ろす。
「いい顔だね」
「え?」
クリスティーナは目を丸くする。
ノアは笑みを深めながら、自覚のない彼女に教えてやる。
「魔法が楽しくて仕方がない。そんな魔導師の目だ」
表情が緩んでいたわけでも、声が浮ついていたわけでもない。
しかし、自身の確かな成長を自覚したクリスティーナの瞳は確かな達成感と魔法に対する好奇心で確かな輝きを含んでいた。
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