120 / 579
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
38-3.確かな進展
しおりを挟む
ハッと我に返ったクリスティーナは目を開けて、驚いた拍子に息を吸い込む。
そこで漸く自分が息を止めたままであったことに気付いた。
「クリス様!」
突然入り込んだ空気が喉を刺激し、思わず咳き込む。
顔を覗き込んだリオはクリスティーナが我に返ったことを確認すると安堵するように息を吐いた。
彼と同じく傍まで駆け寄ってきたらしいノアやエリアスにも動揺の色が見られる。
「君、息してなかっただろ。全く、とんでもない子だな」
「……ごめんなさい、集中していたものだから」
「集中してたって……君ねえ」
困ったような、はたまた呆れたような顔でため息を吐いたノアは小言の一つでも言ってやろうと何か言いかけたが、クリスティーナの顔を見ると結局その言葉を呑み込んだ。
何かに気付いた彼は目を丸くして瞬きをした後、またため息を吐くが、その口は緩やかに弧を描いている。
「少し休もう。ほら、座って」
促されるがまま、クリスティーナは腰を下ろす。
同じく腰を下ろしたノアはリオやエリアスも同様に座り込んだのを確認してからクリスティーナの顔を覗き込む。
「それで、何か掴めたんだろう? そういう顔をしてる」
「……顔」
確かに感じる達成感と自信。それを表に出したつもりはなかったのだが、どうやら彼はクリスティーナの表情から何かを感じ取ったようだ。
顔に出てたのか、と問うようにリオを見ればノアの言葉を肯定するように微笑みながら頷いた。
「とてもご機嫌がよさそうです」
エリアスだけは二人の言葉に首を傾げている為あからさまに態度に出ていたとまではいかなさそうだが、それにしても自身の思っていることが他者に漏れているというのはむず痒い気分だ。
若干の居心地の悪さを感じて視線を泳がせると、手元の魔晶石が視界に入る。
先の経験を思い出し、自身の魔力の流れを探る。
すると全体を行き交うエネルギーの存在をしっかりと認識することが出来た。魔力の流れを認知する感覚は確かに身についたらしい。
「全体の魔力の流れ、多分わかったわ」
「おっ」
「流石です」
驚いた声を上げたエリアスや賞賛するリオの傍で、既に察しがついていたらしいノアは満足そうに頷いている。
「うんうん、君ならもしかしたらって思ってたけど。やっぱり早かったね」
長期滞在にリスクが生じることや自身が足を引っ張る可能性がある以上、どうにも焦る気持ちが拭えないでいたが、どうやらクリスティーナは通常よりも早期の習得を成し遂げたらしい。
今朝聞かされたリオの変化に刺激を受けたのもあるだろう。
リオが先に魔力制御をものにすれば、フォルトゥナの長期滞在の理由はクリスティーナの都合のみになる。
だでさえ聖女の護衛という二人だけでは荷が重い責務を背負っているのにも関わらず、その護衛対象が居場所を漏らし続ける状況且つ主人の都合のみで移動が出来ないという状況は彼らに更なる負担を強いることになっただろう。
自身が守られるべき存在であることを自覚しているからこそ不必要に負担を増やす要因になりたくはないし、守られる立場に甘んじたくもない。そういった一種のプライドがクリスティーナの中にはあった。
故に彼女が懸念していた状況を回避できそうだということに安堵しつつも、自身に課された課題を早く完遂させたいという欲もある。
何よりそこに至るまでの過程は地味なものだったが求めていた結果を得られたという手ごたえは確かな物であり、同時に得られた達成感もその努力に見合うものだった。それに対してクリスティーナは悪くない感情を抱いていた。
そこで漸く自分が息を止めたままであったことに気付いた。
「クリス様!」
突然入り込んだ空気が喉を刺激し、思わず咳き込む。
顔を覗き込んだリオはクリスティーナが我に返ったことを確認すると安堵するように息を吐いた。
彼と同じく傍まで駆け寄ってきたらしいノアやエリアスにも動揺の色が見られる。
「君、息してなかっただろ。全く、とんでもない子だな」
「……ごめんなさい、集中していたものだから」
「集中してたって……君ねえ」
困ったような、はたまた呆れたような顔でため息を吐いたノアは小言の一つでも言ってやろうと何か言いかけたが、クリスティーナの顔を見ると結局その言葉を呑み込んだ。
何かに気付いた彼は目を丸くして瞬きをした後、またため息を吐くが、その口は緩やかに弧を描いている。
「少し休もう。ほら、座って」
促されるがまま、クリスティーナは腰を下ろす。
同じく腰を下ろしたノアはリオやエリアスも同様に座り込んだのを確認してからクリスティーナの顔を覗き込む。
「それで、何か掴めたんだろう? そういう顔をしてる」
「……顔」
確かに感じる達成感と自信。それを表に出したつもりはなかったのだが、どうやら彼はクリスティーナの表情から何かを感じ取ったようだ。
顔に出てたのか、と問うようにリオを見ればノアの言葉を肯定するように微笑みながら頷いた。
「とてもご機嫌がよさそうです」
エリアスだけは二人の言葉に首を傾げている為あからさまに態度に出ていたとまではいかなさそうだが、それにしても自身の思っていることが他者に漏れているというのはむず痒い気分だ。
若干の居心地の悪さを感じて視線を泳がせると、手元の魔晶石が視界に入る。
先の経験を思い出し、自身の魔力の流れを探る。
すると全体を行き交うエネルギーの存在をしっかりと認識することが出来た。魔力の流れを認知する感覚は確かに身についたらしい。
「全体の魔力の流れ、多分わかったわ」
「おっ」
「流石です」
驚いた声を上げたエリアスや賞賛するリオの傍で、既に察しがついていたらしいノアは満足そうに頷いている。
「うんうん、君ならもしかしたらって思ってたけど。やっぱり早かったね」
長期滞在にリスクが生じることや自身が足を引っ張る可能性がある以上、どうにも焦る気持ちが拭えないでいたが、どうやらクリスティーナは通常よりも早期の習得を成し遂げたらしい。
今朝聞かされたリオの変化に刺激を受けたのもあるだろう。
リオが先に魔力制御をものにすれば、フォルトゥナの長期滞在の理由はクリスティーナの都合のみになる。
だでさえ聖女の護衛という二人だけでは荷が重い責務を背負っているのにも関わらず、その護衛対象が居場所を漏らし続ける状況且つ主人の都合のみで移動が出来ないという状況は彼らに更なる負担を強いることになっただろう。
自身が守られるべき存在であることを自覚しているからこそ不必要に負担を増やす要因になりたくはないし、守られる立場に甘んじたくもない。そういった一種のプライドがクリスティーナの中にはあった。
故に彼女が懸念していた状況を回避できそうだということに安堵しつつも、自身に課された課題を早く完遂させたいという欲もある。
何よりそこに至るまでの過程は地味なものだったが求めていた結果を得られたという手ごたえは確かな物であり、同時に得られた達成感もその努力に見合うものだった。それに対してクリスティーナは悪くない感情を抱いていた。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~
ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ
以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ
唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活
かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし
「お前のような奴はパーティーに必要ない」と追放された錬金術師は自由に生きる~ポーション作ってたらいつの間にか最強になってました~
平山和人
ファンタジー
錬金術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放されてしまう。自由を手に入れたカイトは世界中を気ままに旅することにした。
しかし、カイトは気づいていなかった。彼の作るポーションはどんな病気をも治す万能薬であることを。
カイトは旅をしていくうちに、薬神として崇められることになるのだが、彼は今日も無自覚に人々を救うのであった。
一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで没落の道を歩むことになるのであった。
召喚勇者の餌として転生させられました
猫野美羽
ファンタジー
学生時代最後のゴールデンウィークを楽しむため、伊達冬馬(21)は高校生の従弟たち三人とキャンプ場へ向かっていた。
途中の山道で唐突に眩い光に包まれ、運転していた車が制御を失い、そのまま崖の下に転落して、冬馬は死んでしまう。
だが、魂のみの存在となった冬馬は異世界に転生させられることに。
「俺が死んだのはアイツらを勇者召喚した結果の巻き添えだった?」
しかも、冬馬の死を知った従弟や従妹たちが立腹し、勇者として働くことを拒否しているらしい。
「勇者を働かせるための餌として、俺を異世界に転生させるだと? ふざけんな!」
異世界の事情を聞き出して、あまりの不穏さと不便な生活状況を知り、ごねる冬馬に異世界の創造神は様々なスキルや特典を与えてくれた。
日本と同程度は難しいが、努力すれば快適に暮らせるだけのスキルを貰う。
「召喚魔法? いや、これネット通販だろ」
発動条件の等価交換は、大森林の素材をポイントに換えて異世界から物を召喚するーーいや、だからコレはネット通販!
日本製の便利な品物を通販で購入するため、冬馬はせっせと採取や狩猟に励む。
便利な魔法やスキルを駆使して、大森林と呼ばれる魔境暮らしを送ることになった冬馬がゆるいサバイバルありのスローライフを楽しむ、異世界転生ファンタジー。
※カクヨムにも掲載中です
門番として20年勤めていましたが、不当解雇により国を出ます ~唯一無二の魔獣キラーを追放した祖国は魔獣に蹂躙されているようです~
渡琉兎
ファンタジー
15歳から20年もの間、王都の門番として勤めていたレインズは、国民性もあって自らのスキル魔獣キラーが忌避され続けた結果――不当解雇されてしまう。
最初は途方にくれたものの、すぐに自分を必要としてくれる人を探すべく国を出る決意をする。
そんな折、移住者を探す一人の女性との出会いがレインズの運命を大きく変える事になったのだった。
相棒の獣魔、SSSランクのデンと共に、レインズは海を渡り第二の故郷を探す旅に出る!
※アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、で掲載しています。
聖女の妹は無能ですが、幸せなので今更代われと言われても困ります!
ユウ
ファンタジー
侯爵令嬢のサーシャは平凡な令嬢だった。
姉は国一番の美女で、才色兼備で聖女と謡われる存在。
対する妹のサーシャは姉とは月スッポンだった。
能力も乏しく、学問の才能もない無能。
侯爵家の出来損ないで社交界でも馬鹿にされ憐れみの視線を向けられ完璧を望む姉にも叱られる日々だった。
人は皆何の才能もない哀れな令嬢と言われるのだが、領地で自由に育ち優しい婚約者とも仲睦まじく過ごしていた。
姉や他人が勝手に憐れんでいるだけでサーシャは実に自由だった。
そんな折姉のジャネットがサーシャを妬むようになり、聖女を変われと言い出すのだが――。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!
マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です
病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。
ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。
「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」
異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。
「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」
―――異世界と健康への不安が募りつつ
憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか?
魔法に魔物、お貴族様。
夢と現実の狭間のような日々の中で、
転生者サラが自身の夢を叶えるために
新ニコルとして我が道をつきすすむ!
『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』
※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。
※非現実色強めな内容です。
※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる