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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
35-4.冒険者ギルド
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「クリス、クリス」
酔っ払いを追い払ったノアが片手を口元に当てながら顔を近づけて囁く。
「嫌なことがあれば言ってくれ。離れたければ手伝うし……」
自分が案内したことが発端だからか、彼が普段以上にクリスティーナを気遣っていることが伝わってくる。
やや焦りを滲ませる彼は罪悪感を覚えているようだった。
「悪い人達じゃないし、君達を歓迎してるだけなんだけど」
「……ええ」
威圧的な態度や高圧的な態度は得意じゃない。自身を大きく見せるような大声やヒステリックな甲高い声……騒がしさも苦手だ。
目の前に広がる光景は自分の知らない世界で、自分の中の常識には当たらない、明らかに異質な空間だ。
(……けれど、不思議ね)
「大丈夫よ。嫌いじゃないわ」
自然とそんな言葉が出た。
勿論距離の近い酔っ払いはリオ達周りの人間が引き留めてくれたり等、上手く立ち回ってくれているお陰もあるのだろうが。この騒がしさは不快ではないと感じた。
ノアはクリスティーナの表情を見て目を丸くする。
何か気になることでもあるのかと問うように目を細めれば首を横に振って笑われる。
「いや。どうやら事実のようだ。安心したよ」
「おいそこー! なーに若いもん同士でいちゃついてるんだ!」
「は?」
女性と言い合っていた男がクリスティーナとノアが密かに話合っている姿に気付いてヤジを飛ばす。
直後に飛んだ冷たい声は何故かリオのものである。
「ねえ! 酔っ払いより怖い人混ざってるんですけど!!」
酔っ払いに絡まれてやんわりと相手をしていたはずの従者の外面は完全に消えている。
圧の強い視線に怯えたノアが喚きながらクリスティーナの元を離れて大男の影に隠れる。
「そら、お喋りばっかしてないで飲みな飲みな! マスター、ルーキー達にビール四杯!」
離れた酒場のカウンターまで注文を叫ぶ大男。
この雰囲気にも慣れ始めたのだろうか。抵抗感や緊張も和らいだような気がする。
「……ごめんなさい、お酒はあまり好きじゃないの」
出たのは目の前の大男の声の十分の一程の声だったが、テーブルを挟んだだけの距離であれば十分聞こえる声量だ。
「すみません、自分もアルコール以外でお願いします」
このような不慣れな場で発言することに少なからず緊張を覚えていると、いつの間にかクリスティーナの傍まで戻って来ていたリオが穏やかな口調で続けた。
そして安心させるようにこっそりと目配せをしてくる辺り、クリスティーナの心情を察しての立ち回りなのだろう。
一方で男は気を悪くした様子もなくまたもや大きく笑った。
「マスター、変更だ! ビール二杯とオレンジジュース二杯!」
大きなジョッキを片手に叫ぶ大男の口からオレンジジュースという単語が出るとは、凄まじい違和感だ。
その不釣り合いさが何だか愉快で気が抜けてしまうのをクリスティーナは感じた。
酔っ払いを追い払ったノアが片手を口元に当てながら顔を近づけて囁く。
「嫌なことがあれば言ってくれ。離れたければ手伝うし……」
自分が案内したことが発端だからか、彼が普段以上にクリスティーナを気遣っていることが伝わってくる。
やや焦りを滲ませる彼は罪悪感を覚えているようだった。
「悪い人達じゃないし、君達を歓迎してるだけなんだけど」
「……ええ」
威圧的な態度や高圧的な態度は得意じゃない。自身を大きく見せるような大声やヒステリックな甲高い声……騒がしさも苦手だ。
目の前に広がる光景は自分の知らない世界で、自分の中の常識には当たらない、明らかに異質な空間だ。
(……けれど、不思議ね)
「大丈夫よ。嫌いじゃないわ」
自然とそんな言葉が出た。
勿論距離の近い酔っ払いはリオ達周りの人間が引き留めてくれたり等、上手く立ち回ってくれているお陰もあるのだろうが。この騒がしさは不快ではないと感じた。
ノアはクリスティーナの表情を見て目を丸くする。
何か気になることでもあるのかと問うように目を細めれば首を横に振って笑われる。
「いや。どうやら事実のようだ。安心したよ」
「おいそこー! なーに若いもん同士でいちゃついてるんだ!」
「は?」
女性と言い合っていた男がクリスティーナとノアが密かに話合っている姿に気付いてヤジを飛ばす。
直後に飛んだ冷たい声は何故かリオのものである。
「ねえ! 酔っ払いより怖い人混ざってるんですけど!!」
酔っ払いに絡まれてやんわりと相手をしていたはずの従者の外面は完全に消えている。
圧の強い視線に怯えたノアが喚きながらクリスティーナの元を離れて大男の影に隠れる。
「そら、お喋りばっかしてないで飲みな飲みな! マスター、ルーキー達にビール四杯!」
離れた酒場のカウンターまで注文を叫ぶ大男。
この雰囲気にも慣れ始めたのだろうか。抵抗感や緊張も和らいだような気がする。
「……ごめんなさい、お酒はあまり好きじゃないの」
出たのは目の前の大男の声の十分の一程の声だったが、テーブルを挟んだだけの距離であれば十分聞こえる声量だ。
「すみません、自分もアルコール以外でお願いします」
このような不慣れな場で発言することに少なからず緊張を覚えていると、いつの間にかクリスティーナの傍まで戻って来ていたリオが穏やかな口調で続けた。
そして安心させるようにこっそりと目配せをしてくる辺り、クリスティーナの心情を察しての立ち回りなのだろう。
一方で男は気を悪くした様子もなくまたもや大きく笑った。
「マスター、変更だ! ビール二杯とオレンジジュース二杯!」
大きなジョッキを片手に叫ぶ大男の口からオレンジジュースという単語が出るとは、凄まじい違和感だ。
その不釣り合いさが何だか愉快で気が抜けてしまうのをクリスティーナは感じた。
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