91 / 579
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
28-1.気さくな魔導師
しおりを挟む
「……これは一体どういう状況なの?」
ノアが宿へやってきたのは昼過ぎであった。
宿屋の女将から客人の来訪を告げられて宿屋の前に出ると前日と同じ白ローブに身を纏った青年が立っていた。
……何故か子供を三人引き連れて。
「いやぁ、途中で絡まれちゃって」
「ノア、オレ達と遊べー!」
「ボールで遊ぼうぜ!」
「えー、鬼ごっこがいい!」
三人の子供はやいやいと自分の主張ばかりを口々に述べる。
同時に話しているせいで何を言っているのかはあまり聞きとることが出来ないが、どうやらノアを遊びに誘っている様だというのはわかった。
「待って待って、俺の身体裂けちゃうから……」
二人がそれぞれ片腕を引っ張り合い、もう一人が彼の首に手を回して後ろからぶら下がっている。
三方向からぐいぐいと引っ張られるノアの顔には既に疲労の色が浮かんでいた。
「ぐぇっ」
背中からぶら下がっていた子供の腕に首を圧迫されたらしい魔導師は情けない呻き声を上げる。
それに気付いたエリアスは彼らの後ろに回り込んでぶら下がっていた子供を抱き上げた。
「こーら、首は駄目だぞ」
「だーってノアが遊んでくれないんだもん!」
「遊んでくれなくても絞めちゃだーめ」
子供を地面へ降ろしてやったエリアスは優しく嗜める。
窒息から解放されたノアは数度咳き込んで呼吸を整えた後子供達の頭を撫でた。
「今は先約があるから無理だけど、明日の朝なら遊べると思うよ」
「ほんとかよー!」
「ほんとほんと。だから今日はごめんね」
「仕方ないなー、約束だからな!」
約束を取り付けた子供達は漸く満足したのかノアから離れると手を振ってその場から走り去った。
ノアもまたそれに応えるように手を振り返して彼らを見送る。
そして小さな背中が見えなくなるとバツが悪そうな顔で笑った。
「ごめんね、お騒がせしました」
「別に構わないわ」
「君もありがとう。ええと」
謝罪に続いてエリアスへ礼を述べようとしたノアは言葉を途中で止めて首を傾げる。
昨日、クリスティーナ達は彼らに名乗らなかった。故に彼は呼び名に困ってしまったのだろう。
エリアスは何かを確認するようにちらりとクリスティーナとリオを一瞥する。二人が視線に応えるように頷いたのを確認してから彼は名乗りを上げた。
「エリアス。堅苦しいのは好きじゃないから気楽に接してくれるとありがたいかな」
「エリアスくん、エリアスくんね……」
家名を伏せたのは事前に話し合っておいた結果だ。
表向き執行猶予中の令嬢と死亡扱いになっている騎士の正体が広まるのを避ける為のリオからの提案である。
偽名などは咄嗟に名を呼んだ際にボロが出る可能性がある為名前のみを名乗る、もしくは精々愛称で誤魔化す程度が望ましいのではという結論に至った訳だ。
他にも必要に応じて身分を偽るなどの手段を用意しておく必要があるが、こちらも想定される問いかけに対する回答は粗方擦り合わせ済みである。
ノアが宿へやってきたのは昼過ぎであった。
宿屋の女将から客人の来訪を告げられて宿屋の前に出ると前日と同じ白ローブに身を纏った青年が立っていた。
……何故か子供を三人引き連れて。
「いやぁ、途中で絡まれちゃって」
「ノア、オレ達と遊べー!」
「ボールで遊ぼうぜ!」
「えー、鬼ごっこがいい!」
三人の子供はやいやいと自分の主張ばかりを口々に述べる。
同時に話しているせいで何を言っているのかはあまり聞きとることが出来ないが、どうやらノアを遊びに誘っている様だというのはわかった。
「待って待って、俺の身体裂けちゃうから……」
二人がそれぞれ片腕を引っ張り合い、もう一人が彼の首に手を回して後ろからぶら下がっている。
三方向からぐいぐいと引っ張られるノアの顔には既に疲労の色が浮かんでいた。
「ぐぇっ」
背中からぶら下がっていた子供の腕に首を圧迫されたらしい魔導師は情けない呻き声を上げる。
それに気付いたエリアスは彼らの後ろに回り込んでぶら下がっていた子供を抱き上げた。
「こーら、首は駄目だぞ」
「だーってノアが遊んでくれないんだもん!」
「遊んでくれなくても絞めちゃだーめ」
子供を地面へ降ろしてやったエリアスは優しく嗜める。
窒息から解放されたノアは数度咳き込んで呼吸を整えた後子供達の頭を撫でた。
「今は先約があるから無理だけど、明日の朝なら遊べると思うよ」
「ほんとかよー!」
「ほんとほんと。だから今日はごめんね」
「仕方ないなー、約束だからな!」
約束を取り付けた子供達は漸く満足したのかノアから離れると手を振ってその場から走り去った。
ノアもまたそれに応えるように手を振り返して彼らを見送る。
そして小さな背中が見えなくなるとバツが悪そうな顔で笑った。
「ごめんね、お騒がせしました」
「別に構わないわ」
「君もありがとう。ええと」
謝罪に続いてエリアスへ礼を述べようとしたノアは言葉を途中で止めて首を傾げる。
昨日、クリスティーナ達は彼らに名乗らなかった。故に彼は呼び名に困ってしまったのだろう。
エリアスは何かを確認するようにちらりとクリスティーナとリオを一瞥する。二人が視線に応えるように頷いたのを確認してから彼は名乗りを上げた。
「エリアス。堅苦しいのは好きじゃないから気楽に接してくれるとありがたいかな」
「エリアスくん、エリアスくんね……」
家名を伏せたのは事前に話し合っておいた結果だ。
表向き執行猶予中の令嬢と死亡扱いになっている騎士の正体が広まるのを避ける為のリオからの提案である。
偽名などは咄嗟に名を呼んだ際にボロが出る可能性がある為名前のみを名乗る、もしくは精々愛称で誤魔化す程度が望ましいのではという結論に至った訳だ。
他にも必要に応じて身分を偽るなどの手段を用意しておく必要があるが、こちらも想定される問いかけに対する回答は粗方擦り合わせ済みである。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
大賢者の弟子ステファニー
楠ノ木雫
ファンタジー
この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。
その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。
そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。
※他の投稿サイトにも掲載しています。
獣人のよろずやさん
京衛武百十
ファンタジー
外宇宙惑星探査チーム<コーネリアス>の隊員六十名は、探査のために訪れたN8455星団において、空間や電磁波や重力までもが異常な宙域に突入してしまい探査船が故障、ある惑星に不時着してしまう。
その惑星は非常に地球に似た、即移住可能な素晴らしい惑星だったが、探査船は航行不能。通信もできないという状態で、サバイバル生活を余儀なくされてしまった。
幸い、探査船の生命維持機能は無事だったために隊員達はそれほど苦労なく生き延びることができていた。
<あれ>が現れるまでは。
それに成す術なく隊員達は呑み込まれていく。
しかし―――――
外宇宙惑星探査チーム<コーネリアス>の隊員だった相堂幸正、久利生遥偉、ビアンカ・ラッセの三人は、なぜか意識を取り戻すこととなった。
しかも、透明な体を持って。
さらに三人がいたのは、<獣人>とも呼ぶべき、人間に近いシルエットを持ちながら獣の姿と能力を持つ種族が跋扈する世界なのであった。
筆者注。
こちらに搭乗する<ビアンカ・ラッセ>は、「未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます(Ver.02)」に登場する<ビアンカ>よりもずっと<軍人としての姿>が表に出ている、オリジナルの彼女に近いタイプです。一方、あちらは、輪をかけて特殊な状況のため、<軍人としてのビアンカ・ラッセ>の部分が剥がれ落ちてしまった、<素のビアンカ・ラッセ>が表に出ています。
どちらも<ビアンカ・ラッセ>でありつつ、大きくルート分岐したことで、ほとんど別人のように変化してしまっているのです。
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)
こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位!
死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。
閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話
2作目になります。
まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~
ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ
以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ
唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活
かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ノーライフ・ガールは博士の最高傑作
ファウスト
ファンタジー
こことは異なる世界、そこに一人の男性が居ました。その男性は怪しげな研究を繰り返し、村の中でも評判の変わり者。しかしながら豊富な知識もあって村では有数の知恵者でもありました。
そんな彼の正体は異世界から来た魔導・錬金術師だった。彼は魔法と錬金術が廃れた世界に見切りをつけて異世界へと飛ぶ方法を手に入れ、実行した。
転移先の村を拠点にし、実験を兼ねた医療行為を繰り返す中で彼は自身の理想である「不老不死」の研究を重ね、その一環として小さな孤児院を経営し始める。研究に熱心な彼の元で暮らす一人の少女は薬が効きにくいという体質を買われ、薬の強度を測る目的として様々な治療や新薬の治験の実験台となった。
それから十年後、完成を見た少女を主人公に物語は始まる・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる