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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
27-4.情報共有2
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『副産物』が何を引き金として発生しているのか現時点では判別が出来ない。自分自身でも理解できていることは少ない。
しかしレミに触れた時のように突然気分を悪くするような現象に居合わせた際二人を驚かせてしまわないよう事前に打ち明けておくべきだとクリスティーナは考えたのだ。
「一度目は体調に異変も感じなかったのだけれど、あの時は何というか……不快感を覚えてしまって」
上手く言えず口籠ってしまう。
レミに触れたことによって聞こえた『声』なのであればきっと彼に深く関わる何かなのだろう。
本人の許可なくそれを得てしまったこと、それを他者へ言いふらしても良いものかという悩みが彼女に躊躇いを齎すがすぐにクリスティーナはその考えを拭い去った。
今は己の身を守る為の手段を考えるのに手いっぱいだ。他者へまで気遣いをする余裕はないし、他者を気遣ったことによって自身の身が危ぶまれれば本末転倒である。
「悲愴な声、無力感や憎悪、沢山の負の感情を含んだ声と……それとは全く違う、女性の声」
「二人、ですか」
「ええ。もう一つの方も……幼い子供の声のようだった。少なくとも現在の彼のものではなかったわ」
「リンドバーグ卿の時とは異なる部分が目立ちますね。必ずしも時系列が現在と同一とは限らないのかもしれません」
「わからないことが多すぎるな……」
情報の少なさに従僕と騎士は唸る。
内心彼の発言に同意しつつ、魔族のことどころか自身に関するについてすらよくわからないことにクリスティーナはもどかしさを覚えた。
両手を強く握りしめ、落ち着くように深く息を吐く。
「女性の声が聞こえてから唐突に不快感を覚えて、気が付いたら彼の手を振り解いていたの。驚かせてごめんなさい」
「いいえ。今が何ともないのであれば気にしませんよ」
クリスティーナは自身を気遣う言葉に、今は問題ないと首を横に振る。
それを受けた従者は微笑みながら頷いた後、真剣な面持ちへ表情を移す。
「人の心を読み取るという力は聖女の能力の一部で間違いないでしょう。であればその時感じた嫌悪等も気のせいだと片付けるのは安直だと思います」
「気に掛けておきますね」
「お願いするわ」
話しておかなければと馬車の中で考えていた話題は全て出尽くした。
同時に気が緩んだからなのか、クリスティーナは欠伸が出そうになったのを何とか噛み殺す。
エリアスは一切気が付かなかったようだが、リオはそうはいかなかったようだ。真剣な面持ちを崩すまいという努力に対してくすくすと笑いを返された。
「……そろそろ休むわ」
不服そうな声が出る。
主人の怒りを買ったことには気付いているだろうに、不敬な従者は未だにこにこと微笑んでいる。
「ええ、お疲れのようですからゆっくりお休みください」
「おやすみなさい」
費用の削減と護衛の務めの効率化を考え、借りた宿の部屋は一室。
代わりにロフト付きのものを選び、クリスティーナはそちらで眠り、男性陣は下で交代をしながら休むことになっていた。
梯子を上り、用意されている布団へクリスティーナは潜り込む。
自宅のベッドとは天と地との差がある安物の布団だが、ここ最近野営を強いられてきた彼女にとってはありがたい代物だった。
たった一週間だというのに随分馴染んだものだと我ながら関心をしつつ瞼を閉じる。
リオとエリアスは二人きりになっても会話する気配がない。気を遣い、物音を立てずにいてくれているのだろう。
しかし時折聞こえる衣擦れなどからすぐ近くで見張りとしての役割を果たしている気配は感じることが出来た。
客室は勿論屋根と壁に囲まれ、魔獣の襲撃を心配する必要もない。
久しぶりの屋内だから気が緩んでいるのだろうか。
布団に横になれば今までの疲労がどっと襲い掛かり、穏やかな眠りへとクリスティーナを誘った。
しかしレミに触れた時のように突然気分を悪くするような現象に居合わせた際二人を驚かせてしまわないよう事前に打ち明けておくべきだとクリスティーナは考えたのだ。
「一度目は体調に異変も感じなかったのだけれど、あの時は何というか……不快感を覚えてしまって」
上手く言えず口籠ってしまう。
レミに触れたことによって聞こえた『声』なのであればきっと彼に深く関わる何かなのだろう。
本人の許可なくそれを得てしまったこと、それを他者へ言いふらしても良いものかという悩みが彼女に躊躇いを齎すがすぐにクリスティーナはその考えを拭い去った。
今は己の身を守る為の手段を考えるのに手いっぱいだ。他者へまで気遣いをする余裕はないし、他者を気遣ったことによって自身の身が危ぶまれれば本末転倒である。
「悲愴な声、無力感や憎悪、沢山の負の感情を含んだ声と……それとは全く違う、女性の声」
「二人、ですか」
「ええ。もう一つの方も……幼い子供の声のようだった。少なくとも現在の彼のものではなかったわ」
「リンドバーグ卿の時とは異なる部分が目立ちますね。必ずしも時系列が現在と同一とは限らないのかもしれません」
「わからないことが多すぎるな……」
情報の少なさに従僕と騎士は唸る。
内心彼の発言に同意しつつ、魔族のことどころか自身に関するについてすらよくわからないことにクリスティーナはもどかしさを覚えた。
両手を強く握りしめ、落ち着くように深く息を吐く。
「女性の声が聞こえてから唐突に不快感を覚えて、気が付いたら彼の手を振り解いていたの。驚かせてごめんなさい」
「いいえ。今が何ともないのであれば気にしませんよ」
クリスティーナは自身を気遣う言葉に、今は問題ないと首を横に振る。
それを受けた従者は微笑みながら頷いた後、真剣な面持ちへ表情を移す。
「人の心を読み取るという力は聖女の能力の一部で間違いないでしょう。であればその時感じた嫌悪等も気のせいだと片付けるのは安直だと思います」
「気に掛けておきますね」
「お願いするわ」
話しておかなければと馬車の中で考えていた話題は全て出尽くした。
同時に気が緩んだからなのか、クリスティーナは欠伸が出そうになったのを何とか噛み殺す。
エリアスは一切気が付かなかったようだが、リオはそうはいかなかったようだ。真剣な面持ちを崩すまいという努力に対してくすくすと笑いを返された。
「……そろそろ休むわ」
不服そうな声が出る。
主人の怒りを買ったことには気付いているだろうに、不敬な従者は未だにこにこと微笑んでいる。
「ええ、お疲れのようですからゆっくりお休みください」
「おやすみなさい」
費用の削減と護衛の務めの効率化を考え、借りた宿の部屋は一室。
代わりにロフト付きのものを選び、クリスティーナはそちらで眠り、男性陣は下で交代をしながら休むことになっていた。
梯子を上り、用意されている布団へクリスティーナは潜り込む。
自宅のベッドとは天と地との差がある安物の布団だが、ここ最近野営を強いられてきた彼女にとってはありがたい代物だった。
たった一週間だというのに随分馴染んだものだと我ながら関心をしつつ瞼を閉じる。
リオとエリアスは二人きりになっても会話する気配がない。気を遣い、物音を立てずにいてくれているのだろう。
しかし時折聞こえる衣擦れなどからすぐ近くで見張りとしての役割を果たしている気配は感じることが出来た。
客室は勿論屋根と壁に囲まれ、魔獣の襲撃を心配する必要もない。
久しぶりの屋内だから気が緩んでいるのだろうか。
布団に横になれば今までの疲労がどっと襲い掛かり、穏やかな眠りへとクリスティーナを誘った。
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