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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
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「それと、仮に聖女を特定する為に騎士を攻撃したのだとして。聖女が必ず聖魔法を使うとも限らないでしょう。特にクリスティーナ様はご自身の能力について知らされていませんでしたから、リンドバーグ卿を助けるに至った経緯も特殊なものだったと言えます」
「確かに不確定な要素が大きいわね……襲撃なんて、リスクも小さくはないでしょうし」
リオの言葉に再びクリスティーナは肯定を示す。聖女であるという自覚もなかったクリスティーナがあの場で聖魔法を使ったのは直感と単なる偶然に過ぎないのだ。
そもそも使用人と鉢合わせることがなければ騒ぎに気付いたとしてもわざわざ庭へ出向かなかったかもしれない。
それを考えれば、クリスティーナが聖女の力を使わない可能性の方が高かったのかもしれない。
「一応心に留めておきましょう。少なくとも公爵家に仇なす存在がいるのは事実のようですから、リンドバーグ卿の仰る様に敵対する者がいると見て動いた方が良さそうです」
「魔族のことも頭に入れておきましょう。警戒するに越したことはないわ」
情報を擦り合わせ、今後迫る可能性のある危機に対し共通の認識を抱く。
話し合いの内容を纏め、締めくくったリオの言葉にクリスティーナが補足を入れ、それらにエリアスが静かに頷く。
(……切り出すには丁度良いかもしれないわね)
何となく視界に入った赤髪を目に留めながらクリスティーナは心の中で呟いた。彼女が気に掛けていたのはエリアスが話す前、切り出すタイミングを悩んでいた話題についてだ。
時系列を遡った話題を展開していたことから、話を大幅に脱線させる心配もない。
「少し話が逸れるけれど、聖魔法を使った時のことを話しておきたいの」
つまりはエリアスを治療した時のことだ。二人の視線を集めた上で今度はクリスティーナが会話の主導権を握った。
声が聞こえ、導かれるように歩みを進めていたこと、突如溢れた感情に呑まれるように衝動的に動いていたこと。
それらを伝える最中、エリアスは驚いたように目を丸くし、リオは当時を振り返りつつどこか腑に落ちた表情を浮かべていた。
「……その、つかぬ事を聞くけれど。貴方は自身の価値とやらに執着したり、それを証明したいという言葉に身に覚えは……」
クリスティーナの言葉はそこで途切れる。視線の先、エリアスの表情が全てを物語っていたからだ。
自身の髪色と同じくらいに頬を紅潮させた彼はそれを誤魔化すように片手で口元を隠して眉根を寄せ、目を逸らしている。
実に分かりやすい反応だ。
「や、あのー……その……ですね。何と言ったらいいのやら……」
羞恥に耐えながら何とか返事をしようとする彼の言葉は酷くどもっている。
無理もない、とクリスティーナは思った。彼女の予想が正しければ恐らくあの『声』は――。
「そういう事を思ったことは、あります……はい」
「ということはやはりあの時感じたのは貴方の想いなのかしら」
やはり、と納得をする。
あの『声』は彼の思考もしくは記憶に深く関わっている者なのだろう。
一つの結論に至ったクリスティーナは不必要に彼の傷に触れてしまうことがないよう気を遣ってやることにした。
自身が望んだことではなかったといえ、エリアスにとっては自身の野心が駄々洩れになっているような感覚だろう。
「そう……ですね、多分」
「そう。……安心して。貴方の言葉が聞こえたのはあの場限りだから」
現在進行形で自分の考えが筒抜けになっているのではと居心地悪そうにするエリアスへ補足してやる。
あからさまにほっとする彼を横目に、クリスティーナは本題へ移った。
「私が感じ取った声や感情が聖女の能力の副産物のようなものだと仮定しての話だけれど。先程魔導師と別れた時、同じような感覚を覚えたの」
「レミ様がハンカチを拾ってくださった時ですね」
異変に気付いていたからだろう。リオがタイミングを的確に言い当てる。
クリスティーナはそれに対して頷きで肯定する。
「あの時はリンドバーグ卿の時よりもお体が優れないようでしたが……」
「……そう。そのことで一応話しておこうと思って」
「確かに不確定な要素が大きいわね……襲撃なんて、リスクも小さくはないでしょうし」
リオの言葉に再びクリスティーナは肯定を示す。聖女であるという自覚もなかったクリスティーナがあの場で聖魔法を使ったのは直感と単なる偶然に過ぎないのだ。
そもそも使用人と鉢合わせることがなければ騒ぎに気付いたとしてもわざわざ庭へ出向かなかったかもしれない。
それを考えれば、クリスティーナが聖女の力を使わない可能性の方が高かったのかもしれない。
「一応心に留めておきましょう。少なくとも公爵家に仇なす存在がいるのは事実のようですから、リンドバーグ卿の仰る様に敵対する者がいると見て動いた方が良さそうです」
「魔族のことも頭に入れておきましょう。警戒するに越したことはないわ」
情報を擦り合わせ、今後迫る可能性のある危機に対し共通の認識を抱く。
話し合いの内容を纏め、締めくくったリオの言葉にクリスティーナが補足を入れ、それらにエリアスが静かに頷く。
(……切り出すには丁度良いかもしれないわね)
何となく視界に入った赤髪を目に留めながらクリスティーナは心の中で呟いた。彼女が気に掛けていたのはエリアスが話す前、切り出すタイミングを悩んでいた話題についてだ。
時系列を遡った話題を展開していたことから、話を大幅に脱線させる心配もない。
「少し話が逸れるけれど、聖魔法を使った時のことを話しておきたいの」
つまりはエリアスを治療した時のことだ。二人の視線を集めた上で今度はクリスティーナが会話の主導権を握った。
声が聞こえ、導かれるように歩みを進めていたこと、突如溢れた感情に呑まれるように衝動的に動いていたこと。
それらを伝える最中、エリアスは驚いたように目を丸くし、リオは当時を振り返りつつどこか腑に落ちた表情を浮かべていた。
「……その、つかぬ事を聞くけれど。貴方は自身の価値とやらに執着したり、それを証明したいという言葉に身に覚えは……」
クリスティーナの言葉はそこで途切れる。視線の先、エリアスの表情が全てを物語っていたからだ。
自身の髪色と同じくらいに頬を紅潮させた彼はそれを誤魔化すように片手で口元を隠して眉根を寄せ、目を逸らしている。
実に分かりやすい反応だ。
「や、あのー……その……ですね。何と言ったらいいのやら……」
羞恥に耐えながら何とか返事をしようとする彼の言葉は酷くどもっている。
無理もない、とクリスティーナは思った。彼女の予想が正しければ恐らくあの『声』は――。
「そういう事を思ったことは、あります……はい」
「ということはやはりあの時感じたのは貴方の想いなのかしら」
やはり、と納得をする。
あの『声』は彼の思考もしくは記憶に深く関わっている者なのだろう。
一つの結論に至ったクリスティーナは不必要に彼の傷に触れてしまうことがないよう気を遣ってやることにした。
自身が望んだことではなかったといえ、エリアスにとっては自身の野心が駄々洩れになっているような感覚だろう。
「そう……ですね、多分」
「そう。……安心して。貴方の言葉が聞こえたのはあの場限りだから」
現在進行形で自分の考えが筒抜けになっているのではと居心地悪そうにするエリアスへ補足してやる。
あからさまにほっとする彼を横目に、クリスティーナは本題へ移った。
「私が感じ取った声や感情が聖女の能力の副産物のようなものだと仮定しての話だけれど。先程魔導師と別れた時、同じような感覚を覚えたの」
「レミ様がハンカチを拾ってくださった時ですね」
異変に気付いていたからだろう。リオがタイミングを的確に言い当てる。
クリスティーナはそれに対して頷きで肯定する。
「あの時はリンドバーグ卿の時よりもお体が優れないようでしたが……」
「……そう。そのことで一応話しておこうと思って」
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