悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

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 闇魔法――魔族のみが扱えるとされる、どの属性の枠組みからも外された禁忌の魔法だ。
 生命の精神に作用するような危険な種であることで知られる闇魔法はそもそも判明している型自体が少ないが、中でも特段有名なものが生命を思いのまま操る類の魔法なのだ。

 魔族達はこれを駆使して無数の魔物を意のままに操り人族の兵力と対抗したり、人へ使用することで内部から国を崩壊させることに成功したという。
 それの使用が確認されている時点で、エリアスが対峙した敵は十中八九魔族であると言えるだろう。

「とにかく、警戒しといた方がいいのは確かです。オレが見たのはそれと風魔法だけでしたけど、あいつが魔族なら魔法適性っていう概念はないはずなので、他の属性魔法も使えるはずです」

 魔法適性という概念がない、というのはつまりその弊害を視野に入れる必要がないということ。魔族という個体であるだけで全ての属性の魔法を使用できたらしいという話は有名だ。

「あいつが何の為にレディング公爵家騎士団を襲撃したのか考えてたんですけど、あんまピンと来なくて。オレがその場で死なないことに何の意味があるのかとか……」
「……聖女の特定、もしくは脅し、とか」

 頭を悩ませるエリアスに答えるかのようなタイミングで発言するリオ。クリスティーナとエリアスは彼を見た。
 独り言の感覚で呟いたのだろう。二つの視線を感じた当の本人は肩を竦めた。

「あくまで推測です。ただ仮に、レディング公爵家に正体を隠した聖女がいるということを把握していたのであれば瀕死の騎士を一人送り返して観察するだけで聖女の存在の特定に繋がりかねませんし、危機感を覚えさせれば公爵家は聖女を守る為に何かしらのアクションに出るしかないでしょう」

「……例え聖女の居場所に確証がなかったとしても、圧力を受けた公爵家が聖女を守る為に不自然な動きを見せれば少なくとも表沙汰にしたくはない何かを隠していることはバレてしまいそうね」

 主人の言葉に従者は頷くが、一方でどこか腑に落ちないように未だ考え続ける仕草を続けていた。

「リオ?」
「ああ、すみません。ただこの推測で行くといくつか不可解な点が残るのが気掛かりで……今考えても仕方のないことではあるのですが」

 今後、行動方針を練る際にも警戒心を高める為にも共通の認識を持っておくことは大切だ。
 それが迫る危機に関する話であれば尚更である。

 リオもエリアスも概ねクリスティーナと同じ考えなのだろう。故にエリアスは話の続きを促すように視線をリオへ移し、リオもまた発言を継続した。

「まず保有魔力についてですが、魔法に通ずる魔族であれば魔力量を視認できてもおかしくないですよね」
「そうね」
「であればこのような回りくどい方法を取らずとも魔力量で聖女を特定できたのではないかと」

 なるほど、とクリスティーナは小さく頷く。

 魔力量で聖女を特定することが出来なかった理由、もしくは先程彼が推測した『聖女の特定や脅し』の外に意図する何かがあった可能性を考えているのだろう。
 彼が言った通り今すぐ結論が出るような議題ではないが、頭の片隅に置いておいておくだけで今後に活きる可能性はありそうだ。
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