悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

22-1.仮面の貴公子

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「……と、まあこの様に戦力が偏っている感じなので。魔導師を探すのが良いのではないかというのが俺の考えです」

 ハンカチで口元を拭いながら何事もなかったかのようにリオは話しを続行した。

「わかった、わかったからもう動かないでくれ……本当に死んだかと思ったんだぞ!」
「はは、これは失礼しました」
「笑い事じゃねーよ!」

(本当に死んだのだろうけれど……)

 リオの容態を必死に確認するエリアスの姿を眺めながらクリスティーナはぼんやり思った。
 血を吐いたままぴくりとも動かなくなったかと思えば三秒後に体を起こしたリオの調子は至って良好そうだ。

 その様子を見る限り一度本当に絶命してから体のコンディションがリセットされたのだろうが、エリアスの反応を見ると彼はその結論に至っていないようだ。もしかしたらリオが不死身であることを事前に知らされていないのかもしれない。

 リオの身体能力は常人を遥かに凌駕する程のものであるが、その代わりに魔法を殆ど使えないというのが彼の体質である。
 誰もが魔法を使えるのが当たり前の世界で一度でも魔法を使うと死に至るという極小の魔力保有者は非常に稀だという。

 魔法的な観点から見れば彼ほど使い物にならない人間もそうそういないだろう。
 魔導師の味方をつけるという提案に賛成を示しつつクリスティーナは荷台を降りて地図へ近づいた。

「魔導師を当たるなら、それこそさっき話に上がったフォルトゥナは有力かしら」
「ええ。俺もそう考えていました。この一週間西進して来ましたから距離としても比較的近くて足を運びやすいこともあります」
「東にも魔法学者が多く集う有名な国はありますが、東進は避けた方がいいとセシル様から言われていますもんね」

 大体の現在地からフォルトゥナまでの進路を辿るリオの指先を見つめながらもエリアスの補足に頷くクリスティーナ。
 彼女は出立前に選別の品を二つ渡されながら言われた兄の言葉を思い出していた。


***


「もし暫く目的地がなくて困るようならシムラクルム森林を目指してみると良い。僕の知人がいるはずだ。一応地図に印も打っておいたから」
「はぁ」

 受け取った地図を早速開きながらクリスティーナは兄を訝しむように睨んだ。
 当の本人はにこにこと笑ったまま小首を傾げてみせる。

「シムラクルム森林は流石に私でも聞いたことがあります。三人で向かえというのはあまりにも無謀では」
「そうだね。だから足を踏み入れるかの判断は君達に任せるよ。僕からの助言は一先ず西端まで進んでみると良いということだ」
「それが私達の為になると?」
「メリットがあるというよりはリスクが少ないという感じだね」

 兄の言葉の意図がよくわからず眉間にしわを寄せるクリスティーナの表情にセシルは笑いながら指を一つ立てた。

「まあ旅の目的地はあった方が動きやすいかなと思ったのもあるけど。君たちが気にすべき目下の問題は魔族との対立と、聖国だ」
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