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第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』

19-6.二つの選択

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 クリスティーナの問いにセシルは少し考える素振りを見せる。

「クリスが生まれた瞬間から……かな」
「……は?」

 思わず漏れたのは軽蔑を孕んだ冷たい声。

「初めてクリスとリシアに会った時、この世にこんなにも可愛らしい存在があっていいのかって思ったんだよね……。思えばもうあの時から君たちは僕の聖女だったのかもしれないなぁ……」

 ふざけるなと言おうとしたが兄は至って真面目な様子である。
 そのことが余計にクリスティーナを幻滅させた。

「クリスティーナ様、どうしますか。殴りますか」
「……許可するわ」
「え? 待って待って! 何で!?」

 拳を握るリオの前に立ちはだかるセシルの従者の背中から困惑した声がする。
 今まで接する機会が少なかった為自身の兄に対してこれといった大きな感情を抱くことはなかったが、今なら彼を嫌うリオの気持ちがわかるような気がした。

「リオ、君はもうさっき殴ったじゃないか!」
「一度では嫌悪が収まらないようので……」
「……さっき殴った?」

 当事者を置いてやいやいと言い合いを始める二人の会話に口が挟まれる。
 それを合図にリオの動きが止まった。
 一方で情けない声を挙げていたセシルは従者の脇から顔を覗かせて笑顔で自身の右の頬を指さした。

「そうそう。クリスの冤罪ゴリ押しの件、リオに通してなかったからさ。帰ってくるなり怒っちゃって」
「主人が謂れもない大罪擦り付けられて怒らない人間がいると思いますか? 事前に知らされていたとしても止めてました」
「……って、さっき殴られちゃった。でも流石に僕、今公爵代理だしさ……。使用人に安々と殴られる公爵代理って面目立たないでしょう? だから解雇しちゃった」
「……はい?」
「か、い、こ」

 笑顔で親指を立て、自身の首を掻っ切るような仕草をするセシル。

 ――『俺、ここに居ても仕事貰えなくなってしまったので』。

 自室を出た際のリオの言葉を思い出したクリスティーナは絶句する。

「貴方さっき、同行の許可を貰ったって……」
「ああ、それは問題ないよ。どの道うちから追い出さないといけなかったし……」

 セシルの言葉を呆けながら聞いていたクリスティーナは、現実へ戻るまでに数秒要した後にリオの後頭部を拳で殴りつけたのだった。
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