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第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』
19-5.二つの選択
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「うちの者ならまだしも、彼らは君のことをよく知らない、皇宮から遣わされたものだ。髪と瞳の色……その特徴を押さえた影武者を向かわせればバレることもないさ。叔父上の元には手紙を持たせてイアンを同行させるつもりだ。事情説明は彼が上手くやってくれる」
どこまで手を回しているというのだろう。妹の家出に対して用意周到すぎる兄に最早ため息しか出ない。
その上このような重要事項を本人を差し置いて当たり前のように把握している人物が身近にいたということに対し、他者を疑う性格に拍車がかかりそうだ。
「…………リオ」
クリスティーナは後ろで息を潜めていた従者を睨みつける。
イアンまでもが知っていたのだ。聖女の偽装に率先して動いたアリシアとリオが何も知らないということはあるまい。
冷たい視線を受けたリオは顔を強張らせると深々と頭を下げた。
「……お話できず申し訳ありませんでした」
下げられた頭を一発殴るくらいであれば許されるのではないか、と思いはしたがクリスティーナは思い留まった。
クリスティーナが聖女であるという情報を軽率に口にすればいつどこでその情報が漏洩するかわかったものではない。彼が口を閉ざしたのは主人の為でもあるはずだ。
それに、聖女を偽装した晩、彼の吐露を咎めず見逃したのは自分自身である。
「もういいわ。不快な思いをさせた分私に役立つことで返しなさい」
「……仰せのままに。必ずご期待にお応え致します」
自分の置かれた立場も粗方把握はした。従者の隠し事については理解した。
色々言いたいことはあるが、後一つこの場でどうしても問うておきたい事があるとすればそれは――
「……お兄様はいつから私が聖女だと知っていたのですか」
彼がクリスティーナの正体を確信したタイミング。
クリスティーナが自覚したのはつい先日だ。
しかしセシルが確信を持ったのはあの場ではないはず。リオ、アリシア、フェリクス……三人の振る舞いは全て想定内の出来事で完結したものではなく、知らされていた情報を駆使した上で応用を利かせたものであるはずだ。
そして前もって事情を知らされていなければこの数日で起きたイレギュラーの数々に対する柔軟な対応は不可能であろう。
彼らの指揮を執っていたのはセシルであると仮定する。そして彼自身が話した内容を踏まえても随分前から対策を練っていたことが窺えた。
どこまで手を回しているというのだろう。妹の家出に対して用意周到すぎる兄に最早ため息しか出ない。
その上このような重要事項を本人を差し置いて当たり前のように把握している人物が身近にいたということに対し、他者を疑う性格に拍車がかかりそうだ。
「…………リオ」
クリスティーナは後ろで息を潜めていた従者を睨みつける。
イアンまでもが知っていたのだ。聖女の偽装に率先して動いたアリシアとリオが何も知らないということはあるまい。
冷たい視線を受けたリオは顔を強張らせると深々と頭を下げた。
「……お話できず申し訳ありませんでした」
下げられた頭を一発殴るくらいであれば許されるのではないか、と思いはしたがクリスティーナは思い留まった。
クリスティーナが聖女であるという情報を軽率に口にすればいつどこでその情報が漏洩するかわかったものではない。彼が口を閉ざしたのは主人の為でもあるはずだ。
それに、聖女を偽装した晩、彼の吐露を咎めず見逃したのは自分自身である。
「もういいわ。不快な思いをさせた分私に役立つことで返しなさい」
「……仰せのままに。必ずご期待にお応え致します」
自分の置かれた立場も粗方把握はした。従者の隠し事については理解した。
色々言いたいことはあるが、後一つこの場でどうしても問うておきたい事があるとすればそれは――
「……お兄様はいつから私が聖女だと知っていたのですか」
彼がクリスティーナの正体を確信したタイミング。
クリスティーナが自覚したのはつい先日だ。
しかしセシルが確信を持ったのはあの場ではないはず。リオ、アリシア、フェリクス……三人の振る舞いは全て想定内の出来事で完結したものではなく、知らされていた情報を駆使した上で応用を利かせたものであるはずだ。
そして前もって事情を知らされていなければこの数日で起きたイレギュラーの数々に対する柔軟な対応は不可能であろう。
彼らの指揮を執っていたのはセシルであると仮定する。そして彼自身が話した内容を踏まえても随分前から対策を練っていたことが窺えた。
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