悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

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第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』

19-1.二つの選択

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「質問の意図がわからないので一つ目で」

 意味深に選択肢を提示したセシルを涙目にしたのはクリスティーナの躊躇いない選択だった。

「わからないならせめて詳細を聞いて欲しかったなぁ……」
「今のでお話は終わりですか? 自室へ戻ります」
「待った待った! 本当に聞いてくれないの!?」

 辛辣な態度に肩を落とす兄を無視して失礼しますと頭を下げ、踵を返すクリスティーナ。それを引き留めようとする情けない声が背中越しに聞こえる。

 自身が話す必要性を感じるのであれば自ら話せばいいだけのことで、それだけの価値すらない話なのであればクリスティーナは耳を傾けるつもりもなかった。
 しかし兄へ背を向けたクリスティーナの前に立ったのは意外にも、先ほど彼と睨み合っていたリオであった。

「クリスティーナ様、お気持ちはわかります。しかし少しだけ付き合って差し上げてください……」
「……驚いたわ。貴方はお兄様のことが嫌いだと思っていたのに」

 セシルがリオを気に入っており友と呼ぶのは昔からのことだが、対する彼は日頃の外面の良さからは考えられない程セシルに対しての当たりが強かった。
 それを知っている為クリスティーナは彼が兄を嫌っているのだと認識していたのだ。だから彼の肩を持つことに意外だと感じたのだが……。

「嫌いですよ」
「やっぱりそうなのね」
「聞こえてるからね!!」

 本人の前であるのにもかかわらず、リオはあっさりとその事実を認めた。
 誰も庇ってはくれない自身の悪口に半泣きになる兄を置いてクリスティーナは少々考え込む。
 兄を毛嫌いするリオが彼の肩を持つのは、恐らく彼の為ではなく自身の……もしくは主人であるクリスティーナにメリットがあると考えているからだろう。

「当初の予定通り動くとしても時間に余裕はあります」

 確かに、出立の時刻まで余裕があることを先に指摘したのはクリスティーナだ。
 この後部屋へ戻ったとしても本を読んで時間を潰す程度の予定しかない。

「俺はクリスティーナ様がどのような決断をなさろうがその意思を尊重します。ただ……決断した後に後悔しない選択を取っていただきたいのです」
「貴方は私が後悔するかもしれないと考えているのね」
「……わかりません。ただ、話を聞いておけば後から不安を抱く可能性も低くなるのではと」

 裏庭に用意された馬車といい、兄は自身の提示した二つ目の選択を選んで欲しいと考えているのだろうということをクリスティーナは察していた。

 元より田舎での生活を望んでいたクリスティーナにとって彼の発言は愚問な上、話を聞いてやること自体が掌で転がされているような心地がして面白くはない。
 しかしリオがクリスティーナにここまで食い下がることも珍しい。

「わかったわ。話を聞くだけなら」

 恐らくリオはクリスティーナ以上にこの状況を理解しているはずだ。でなければ彼がクリスティーナに食い下がって進言するに至るまでの材料がない。

 そしてクリスティーナは自身の予想が正しければ、数日前の夜彼が話した『今はまだ話せないこと』にこの件が絡んでいるのではないかと踏んでいた。
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