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第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』

14-5.暗殺未遂容疑

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(何を、言っているの……?)

 騎士や給仕……皇宮の使用人達がクリスティーナへ向ける視線は疑念や恐怖だ。
 今まで疑念や嫌悪の含まれた眼差しは幾度と受けてきた。けれどそれはそうなるきっかけを少なからず自分が作ってしまっているという自覚があったから。

 しかし今回毒物混入に関しては流石に想定外である。クリスティーナは勿論手土産に何か細工をした覚えはないし、そもそも洋菓子の包みを開けてすらいない。

「な……何かの、間違いでは……」

 今までの冤罪、もしくは悪意ある誇張については黙認してきた。しかし皇太子暗殺の疑いとなれば話は別である。

 頭が回らない。
悪行を疑われる機会は数多く経験してきたが、それらを弁明することを諦めてきたクリスティーナは何を言えば自身の無罪を証明できるのかがわからなかった。

 ただでさえ自分の今までの行いが良いものであったとは言えないのだ。
 故に彼女が絞り出した言葉は精一杯の否定でありながらも、説得力には欠ける程度の重みのもたない言葉だった。

「しかしこちらをご用意されたのはクリスティーナ・レディング公爵令嬢であるという事実があります。故にクリスティーナ様が関わっていらっしゃる可能性は否定できません」

(――知らない)

 知らない、わからない。皇太子暗殺など、誰がそんなことを企てていつ毒物を混入したのかなど。
 自分は無関係なのだと心が叫びたがっている一方で、もうどうでもいいと自棄になってしまいそうな自分がいた。

 今どれほど自分が違うと否定したところで、クリスティーナの身柄は一度拘束されるはずだ。現状ではクリスティーナが確実に無罪だと言い切れる材料がないのだ。
 だからここでこれ以上否定を続けたところで意味を成さないのではないかというのがクリスティーナの見出した結論だった。

(……それに、誰も信じてはくれないのでしょう)

 元は自分の蒔いた種とはいえ、今まで積み上げてきた数々の悪名は疑いに一層の説得力を齎すはずだ。
 彼女しかありえない。彼女以外にそんなことができるわけもない。やはり彼女は悪女なのだ、と。

 今までもそうだった。今回も何ら変わらない。
ただ流れに従って、自分の置かれた立場を他人事のように傍観しているだけ。反論できるだけの力を持ち合わせていない自分にできるのは何もせず罪を着せられることのみ。

 クリスティーナは昂る自身の心を落ち着けるように深呼吸をする。
 諦念と、ほんの少しの胸のつかえを喉の奥へ押しやるように。

「――馬鹿馬鹿しい」

 しかし、彼女の気持ちを代弁するように鋭く吐き出された言葉があった。
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