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第一章―イニティウム皇国 『皇国の悪女』
7-4.建国祭と茶会の誘い
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「リオ」
「クリスティーナ様、お待たせしてしまい申し訳ありません」
「構わないわ」
頭を下げるリオの言葉にクリスティーナは首を横に振る。
そしてリオと話していた赤毛の騎士へ視線を移した。
剣術に長けており騎士団の統括を任されている兄であれば彼の名がわかったのかもしれないが、生憎クリスティーナは騎士団に属する者の名は覚えていない。
「し、失礼致しました。レディング騎士団所属、エリアス・リンドバーグと申します」
二十か、僅かにそれより至らない程度の歳に見える若い騎士だ。
先程まで快活な笑顔を浮かべていた彼だったが、クリスティーナと目が合うとその顔を強張らせ、仕事中の従者を引き留めてしまったことを謝罪した上で自身の素性を明かす。
敬礼する彼の灰色の瞳からは緊張とは別の興味や疑念……クリスティーナを見定めるようとしている様な雰囲気が感じ取れた。
公爵家に属する者であればクリスティーナの悪名も知っていることだろう。つまるところ彼も日頃見る使用人と同じく彼女に良い印象を抱いていないことがわかる。
もう慣れてしまったものであるし、相手の心情を理解できてしまうのはクリスティーナの察しのよさのせいであり彼自身が無礼を働いているわけでもあるまい。特に気にすることもなく彼の言葉に答えることとした。
「クリスティーナ・レディングです。私も義弟と話していたし、問題ないわ。……私の姿に気付かず職務中の従者に声を掛けるという行いは褒められたものではないけれど」
「お、おっしゃる通りです……大変申し訳ございません」
灸を据えるとエリアスという騎士は委縮し、深々と頭を下げる。
意外にも彼はクリスティーナの言葉をきちんと受け止めたようで、その落ち込み具合は実にわかりやすかった。
間違ったことは言っていないのだが、その様が気落ちした大型犬のようでクリスティーナはいたたまれない気持ちになる。
「もういいわ、下がりなさい。……リオ」
「はい」
クリスティーナはエリアスに一言残してから彼が離れるのを待つことなく気まずさから逃れるように自らその場を離れる。
リオは返事をしてからエリアスに軽く会釈を残し、主人の背中を追った。
「貴方が誰かと話し込むなんて、珍しいわ」
エリアスから十分に離れてから、クリスティーナはリオに話しかける。
リオは何度か瞬きをしてから肩を竦めて苦笑した。
「そうですね、話し込んでいたというよりも絡まれていた……の方が正しい様な気はしますが」
「確かに、あの騎士は騒がしそうだわ」
おっしゃる通りですと苦笑するリオ。
「歳が同じようで、親近感を抱いたようです。それから見かける度に声を掛けられるようになりまして」
「ということは十八くらいかしら。……騎士団ではあまり聞かない年齢だわ」
「やはりご存じではなかったのですね」
公爵家の騎士団は若くて二十五前後というのがクリスティーナの認識であった。
レディング家の外であれば十代後半から厳しい経験を積まされるという訓練兵の話も聞くが、レディング公爵家の騎士団はその殆どが他の場所で実戦経験を積んだ者達や剣術大会で好成績を収めた者達で結成されている。その為訓練兵を育成しているという話もないはずだ。
少々不思議に思いつつ、予想通りの反応だと言わんばかりに笑うリオへクリスティーナは話の続きを促す。
「ここに仕える者の間ではそれなりに有名な方だというだけですよ。良くも悪くも」
「そう」
しかしリオはそれ以上彼については語らなかった。
クリスティーナ自身もその若い騎士について大した興味があったわけでもなかった為、それ以上言及することもしなかった。
「クリスティーナ様、お待たせしてしまい申し訳ありません」
「構わないわ」
頭を下げるリオの言葉にクリスティーナは首を横に振る。
そしてリオと話していた赤毛の騎士へ視線を移した。
剣術に長けており騎士団の統括を任されている兄であれば彼の名がわかったのかもしれないが、生憎クリスティーナは騎士団に属する者の名は覚えていない。
「し、失礼致しました。レディング騎士団所属、エリアス・リンドバーグと申します」
二十か、僅かにそれより至らない程度の歳に見える若い騎士だ。
先程まで快活な笑顔を浮かべていた彼だったが、クリスティーナと目が合うとその顔を強張らせ、仕事中の従者を引き留めてしまったことを謝罪した上で自身の素性を明かす。
敬礼する彼の灰色の瞳からは緊張とは別の興味や疑念……クリスティーナを見定めるようとしている様な雰囲気が感じ取れた。
公爵家に属する者であればクリスティーナの悪名も知っていることだろう。つまるところ彼も日頃見る使用人と同じく彼女に良い印象を抱いていないことがわかる。
もう慣れてしまったものであるし、相手の心情を理解できてしまうのはクリスティーナの察しのよさのせいであり彼自身が無礼を働いているわけでもあるまい。特に気にすることもなく彼の言葉に答えることとした。
「クリスティーナ・レディングです。私も義弟と話していたし、問題ないわ。……私の姿に気付かず職務中の従者に声を掛けるという行いは褒められたものではないけれど」
「お、おっしゃる通りです……大変申し訳ございません」
灸を据えるとエリアスという騎士は委縮し、深々と頭を下げる。
意外にも彼はクリスティーナの言葉をきちんと受け止めたようで、その落ち込み具合は実にわかりやすかった。
間違ったことは言っていないのだが、その様が気落ちした大型犬のようでクリスティーナはいたたまれない気持ちになる。
「もういいわ、下がりなさい。……リオ」
「はい」
クリスティーナはエリアスに一言残してから彼が離れるのを待つことなく気まずさから逃れるように自らその場を離れる。
リオは返事をしてからエリアスに軽く会釈を残し、主人の背中を追った。
「貴方が誰かと話し込むなんて、珍しいわ」
エリアスから十分に離れてから、クリスティーナはリオに話しかける。
リオは何度か瞬きをしてから肩を竦めて苦笑した。
「そうですね、話し込んでいたというよりも絡まれていた……の方が正しい様な気はしますが」
「確かに、あの騎士は騒がしそうだわ」
おっしゃる通りですと苦笑するリオ。
「歳が同じようで、親近感を抱いたようです。それから見かける度に声を掛けられるようになりまして」
「ということは十八くらいかしら。……騎士団ではあまり聞かない年齢だわ」
「やはりご存じではなかったのですね」
公爵家の騎士団は若くて二十五前後というのがクリスティーナの認識であった。
レディング家の外であれば十代後半から厳しい経験を積まされるという訓練兵の話も聞くが、レディング公爵家の騎士団はその殆どが他の場所で実戦経験を積んだ者達や剣術大会で好成績を収めた者達で結成されている。その為訓練兵を育成しているという話もないはずだ。
少々不思議に思いつつ、予想通りの反応だと言わんばかりに笑うリオへクリスティーナは話の続きを促す。
「ここに仕える者の間ではそれなりに有名な方だというだけですよ。良くも悪くも」
「そう」
しかしリオはそれ以上彼については語らなかった。
クリスティーナ自身もその若い騎士について大した興味があったわけでもなかった為、それ以上言及することもしなかった。
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