雨音ラプソディア

月影砂門

文字の大きさ
上 下
49 / 56
第六番 〜七色の交響曲《アルコバレーノ・シンフォニー》〜

第二楽章〜光を守る聖譚曲《オラトリウム》

しおりを挟む


 兄貴の口から語られる光聖国を守るための結界系最大真言の計画。これからは俺たちも関係してくる話だとという。それから作戦のこと


 「この計画の目的は、この国にアンチやオンブルたちを入れないことと、ジェードによって穴を出現させないようにすること」

 「それ出来たらすげぇよな」

 「いや、話してるってことは出来たんだろ?」

 「うん、そういうこと」


 淡々と何時もの笑みで「そういうこと」という返事。こっちは驚愕だ。話す時は真剣な表情だが、返事をする時は優しい顔になる。切り替えが早すぎて怖いような、安心するような、なんとも言えない


 「みんなは恐らく、それを昨日見たと思う」

 「昨日?全く知らねぇ」

 「あ、そうだ。アイツら言ってたぞ。ナトリじゃねぇ奴ら。なんで国境にいるんだよって」

 「本当は国内で暴れるはずだったってことか」

 
 すぐに思いついてくれたからか、兄貴は嬉しそうな顔になる。言っていた気がする。なんでこんな所にいるんだよ!と。ジェードも本来は国内に出現させるつもりでいたのだ。どんなカラクリかそれが出来なかった。自動的に国境へ移動させられてしまった。海側から突撃。それも出来ず。アンチ含む闇の性質を持つ者が光聖国に侵入できなくなってしまった。


 「美しいこの国を征服したかったんだな。この計画でパーってことか」

 「計画を実行することとなってから今日までの三日間、国内での穴の出現、オンブルの出現、今この国に潜伏していると思われるアンチ以外の出現も確認されていない」

 「完全に追い出し作戦。何でそうした?」

 「ジェードを国内に暴れさせたくないからね。その日に何人アンチが出てくるかわからない」


 どれだけの被害になるかは想像に難くない。ジェードさえ中に入れない結界だ。シンフォディアとしての砂歌さんの結界とラプソディア黎の結界があるおかげでさらに強化できたという。元々一枚だった結界が二重三重と増えたのだ。この国に入るだけで前から少し弱体化していたという事実もある。国境を出れば本当の実力が発揮される。


 「わたしのクラフトを器に入れたのも、その計画の一環なのかい?」

 「大正解。ある意味超次元マジック。ジェードは消滅系の真言使いノクタノディア。それを修復する力を持つのがラプソディア。ジェードが一部分を消滅させたとしても、瞬時に黎ちゃんの力が発動し修復」


 とても強い消滅真言をさらに強い修復真言で修復する。普段穴の修復をする時にやっているものと同じだ。しかし、修復する際黎のマテリアルが消費されることは無い。普段は結界に一瞬でも穴を開けて、国内に出現させていたのだ。その一瞬の隙さえ許さない超高速修復と超高速再生で元通りという仕組みだ。一度発動すればなんでもありとなる真言だ。その代わりとてつもなく複雑。


 「めちゃくちゃ凄いじゃねぇかそれ。国内に出ても黎が修復のために消耗するマテリアルを削減。入ってこようものならオンブルは消えるから砂歌さんが夜中起きて戦う必要も無い」


 国境にいるのであれば夜はもう放っておいていい。面倒になりそうなアンチがいれば倒す。入れないと分かれば別の国にいって殺害する可能性があるため看過できないのだ。
 これから更に激化するかもしれないという中で、黎や砂歌さんが出来るだけ疲れないようにする必要があった。兄貴はマテリアルの数値が10だが、砂歌さんが12、黎が15くらいになる。
 マテリアルやクヴェルは、たとえ一日で全て使ったとしても、その日の二十四時くらいから貯められる。入れ替わり式では無く、使わなければ使わないほど増えていく


 「一応最高値とされる数値10の僕はキュリクスに満たされたマテリアルだけで一週間持つ。焔たちは昨日使ったけど、まぁ3日分くらい使ったことになるのかな。マテリアル1とかの人は本当に半日分とかになっては来るけど」


 少なくとも俺は、この四日間のうち一度しか真言を使っていない。俺の1日で貯められたマテリアルは3日持つ。オンブルが出た時は1日分使い。アンチが出た時は2日分使う。しかし、練習もするため1日で3日分使うこともある。先週はオンブルが5日連続で出現し、土曜日に兄貴との勝負でまさかの2日分使い、日曜日に3日分全て使った。最後の真言のせいだな。先週11日分残った。そして今日は出ていないので二週間分貯まった。


 「何故この結界を今発動させたんでしょう。考えてみよう」

 「ジェード戦でどれだけの被害が及ぶか分からないから保険をかけておこうということなのだろう?これからどうなるかも分からないから」

 「ああ、なるほど」

 「その通りです、シャロンさま」


 1週間分ぐらいと言ってもいいんじゃないかと思うほど使ってしまいそうなジェード戦。そんな本番に3日分しかありませんってことになったらクヴェルで補充できるとは言っても限界がある。国境に出た場合に2日分消費することを考えた時、その翌日にジェードが来たら。確かにゾッとする。3日使わなければ9日分蓄えられる。クヴェルと合わせれば2週間以上持つ。必要な保険だった。


 「ん?琥珀、君は昨日はまぁまぁ使ったかもしれんが最近ほとんど銃でしか戦っていないだろう?」

 「でもね、お姉ちゃん。その銃はクラフトで出来ていて、攻撃力がとても高い弾丸。真言を使っていることになるんじゃないかい?」

 「うむ、確かに」


 あれ、と砂歌さんが普段はあまりしない声を発した。


 「琥珀、当日は遠距離から狙撃を考えているのだろう?」

 「それはこの後言う予定ですが、そうです。大誠たちの後ろから狙うやつを狙います」

 
 この後言う予定だったが、砂歌さんの察しが良すぎたためちょっと逸れる


 「弾丸自体が土属性の真言だぞ?ハーマあたりが言いふらしているだろうし」

 「ハーマのせいで白いパーカーを着ていて、腕のいいスナイパーで、土属性と既に特定されていますし」


 砂歌さん、恋のコンボ。兄貴に食らいつこうというこの姿勢が凄い。もうこっちは必死なんだが
 

 「あの弾丸は既に真言として完成した状態の物なんです」

 「予め作ってあるやつを装填して撃つだけ。普通の銃と使い方は一緒ってことか」

 「でもその弾丸がなくなったらどうすんだ?」

 
 犀の言う通りだ。いくら完成していたものを手に持っていたとしても、それが無くなってしまったらその場で作らなくてはならない。その時に居場所がバレる危険性が高い


 「そこは大丈夫。シャロンさまがくれたシンボルは空間が広がっているよね?」

 「かなーり広いはずだ」

 「え、もしかしてその中で生成してるなんてことは・・・」


 兄貴が笑った。全員がまじかという顔だ。生成してるのか、そんなところで。兄貴の砂歌さんがくれたシンボルの中には生産工場のようなものがあるらしい。そこで休みなく弾丸が生成されている状態になっていた。銃たちは黎がくれたシンボルの方に収納されている。


 「そういう事だったのか。だからあれだけのマテリアルがあるのに基本中の基本の真言はおろか銃のみ中心で戦っていたのか」

 「一日一日マテリアルもクヴェルも貯められていく。これもジェード戦のために弾丸を量産させるためだったってこと?」

 「まぁ、それもある」


 無限じゃないかと思うほど量産させ、戦う時は銃のみ。昨日はまぁまぁ使ったがあれで4日分だった。全開で使ったらすごいことになりそうだ。兄貴のことだから、他にも理由はありそうだ


 「それから、僕がマテリアルをあまり使わないのは結界系真言計画のためでもある」

 「君のマテリアルが必要なのか?」

 「はい。この真言には責任者というものが必要になるんです。司令した人、計画した人がその役割を担う。パイプの話をしましたが、そのパイプ代わりになるのが僕なわけです」

 
 さらに驚愕だ。じゃあ兄貴は今この時も弾丸を生成しながら、結界を維持するためのマテリアルも消費していることになる。しかし、この際に消耗されるマテリアルは、結界維持費に3日分。弾丸生成費に1日分。計4日分を1日で消費する。兄貴は一週間持つため、3日分で戦えばいい。しかし、昨日は1日に貯めたマテリアルを全て消費したことになる。いや、これ保険にならない気がするんだが。


 「僕の趣味を忘れているね?」

 「・・・貯金?」

 「さすが大誠。そう、僕は1日で7日分。で、マテリアルを貯め始めたのは、ジェード作戦を考えた日から」

 
 ジェード作戦を考えた日といえば、5月の上旬あたりだ。兄貴が散々だった時期。その日から今で三週間以上経つ。そして兄貴は1回で7日持つ。つまり


 「147日分どころじゃねぇか。クヴェル合わせたら」

 「使い切れねぇなぁ・・・」

 「で、3日で16日分のマテリアルを消費。山ほど残ってるな。これから補充されるマテリアルは3日分だと思えばいいってことだな」

 「そういうことになるね」


 本当に趣味の貯金がここに生きてくるとは。しかもジェード戦になったとしてもクヴェル合わせれば200日分以上あれば余裕だろう
 俺たちがバカほど使ってきた中、兄貴は狙撃中心でこれまでは真言どころか普通の光が付着した弾丸で戦っていた。如何にしてジェード戦でマテリアルを余裕に使えるようにするのか、融合真言の時に強化できるのか、今回の計画を実行できるのか、それら全てを考えた結果生まれたのがマテリアルをほとんど使わない戦い方。精密すぎるコントロールだ。昨日でも3日分だし。知恵はここでも生きてくる。


 「しかし、ここで問題がひとつ、ふたつ?ある」

 「ん?」

 「一つ目、マテリアルは使えば使うほど体力が消耗します」

 「もう大問題じゃねぇか」


 全員が強く頷いた。とんでもない課題があった。100日以上一気に使ったら一週間くらい動けなくなりそうだ。しかし、死なない。真言使いが死ぬ時は、真言使いとしての資格を返納した瞬間から。もしくは急所をやられたら。それ以外ではまず死なない。どんだけ脈が上がろうと、心臓がバクバクしてようと、直ぐに処置すればなんとかなる。俺たちが、兄貴が倒れて苦しんでいるところを見たくないというのが大きい。


 「そして二つ目。責任者問題。例えば、僕が敵に捕まったとします。マテリアルを吸収されました。どうなるでしょう」

 「・・・結界消える?」

 「ピンポーンって笑って言えることじゃないんだけどね」


 二十四時を回ればなんとかなるけど、二十四時になる前にマテリアル、クヴェルともに使い切った場合、効果どころか結界自体消える。計画はパーです。まずジェード戦に向けてもやばい


 「あ、もう三つ目だね。今日僕は、目をつけられてしまいました。はい、どうする?」

 
 もう黙るしかない。兄貴の笑顔がもう見ていられないほど可哀想になってきた。努力が水の泡パターン。兄貴が一番恐怖するパターン。みんなそうだと思うが。


 「今日は無事だったのか。それは本当に良かった」

 「あ、あとこの結界を解除する方法はある」

 「あんのかよ!」
 
 「が、しかしその解除の方法を知っているのは現段階で僕しかいません。僕を拷問して聞き出すか、マテリアルを吸収するかどちらか。7日分のマテリアルを1日で貯められるからその1日分さえ多いんだけど」


 マテリアルを溜め込むシステムにした人は、少し分量を考えるべきだったと思う。俺にとっての1日分と兄貴にとっての1日分でも量が違う。二十四時になればまた戻るが、その間結界は開いたままになり、その間にどんどんアンチやオンブルを放り込める。


 「満タンになった瞬間に3日分送り込まれ、結界復活。その時がヤバい。放り込まれたアンチが閉じ込められる形になる」

 「うん、超絶ヤバイよな」

 「ヤバいわね。何人いるかは知らないけど、五十人とか送り込まれてきたらもう」

 「この結界を強化することで、闇がいられない環境を作り出し、弱体化させることはできる。これから踏み出すのはこれ。しかし、目をつけられたために今下手に出られない」


 だから最悪だって言ったのだ。本当なら明日でも明後日でも強化を図ったはず。それがこの時点でできにくくなった。結界を張るときと結界を強化する時は、責任者はそばにいなければならないのだ。一度責任者になったものは結界を解除しない限り一生維持するためにマテリアルを送り込まなければならない。だからこそ、膨大である必要があった。


 「オラトリア一人と数名なら何とかなる。でも少なくとも四人幹部オラトリアがいて、その部下はおよそ十人に上る。全員来られるとさすがに手の施しようがない。というわけで・・・僕が捕まった時のためにしばらく結界が消えないための細工をしようと思うんだ」

 「それは、わたし参加してもいいのかい?」

 「もちろん。というか、このために話したんだよ。この細工は必ず必要になる。みんなの協力が欲しい」


 このとおりと頭を下げた。そこは頭を下げるところじゃないぞ、兄貴。これまで頼ってるのか頼ってないのかも分からない。もしくは頼らないことの方が多かった兄貴。その兄貴が直接頭を下げてまで言ったのだから


 「全く琥珀、君という人は」

 「はい?」

 「光聖国の王であるわたしが、この国を守るための結界を強化するための協力を惜しむと思うのか?」


 惜しまないだろうな。絶対惜しまない。砂歌さんは国を一生懸命護ってくれている人だ。その人がこの計画を知らなかった。少し悔しそうだが、その責任者を砂歌さんもしくは黎に担わせたくないという気持ちがあったことを察したのだろう。浄化も修復も銀河真言も全てがマテリアルを大きく消費する。だったら、使わずとも戦える自分が責任者になり、立ち上げればいい。そう考えたのだ。
 もちろん俺だって参加するぞ。というか参加しないとか言うやつはいなかった。ありがとうとどこか照れくさそうに笑った。


 「そして次。ジェード戦の作戦のこと。四つとか五つとか言ってたけど、ひとつに絞ることにした。度々変えてごめんね。もうこれに賭ける。作戦Dだ」


 俺はひとつしか覚えなくていいのか。それは楽でいいな。兄貴はもう腹を括ったんだな


 「まずジェード討伐班はそのまま変更なし。次アンチ討伐班、大幅に変わる。焔、犀、海景くん、クロヤくん、シロヤくんになる」

 「ものすっごいメンバーチェンジ。三姉妹と恋どこいった」

 「まず恋ちゃん。の前に・・・黎ちゃん、シャロンさま、恋ちゃん、コラボしたいなぁとか思ってくれないかな・・・」


 と言ったら黎の目がキラキラ輝き出した。二人とコラボできるのが嬉しいのか。黎にこの顔をされた恋と砂歌さんは、癒されながらも頷いた。


 「ジェードが出現させる穴を修復して欲しいんだ」

 「三人で?」

 「うん。一斉に開くのは無理だけど、時間差で開くことは出来る」

 「3人でする意味ってなんだ?黎がいたら何とかなるぞ」

 「時間差で開くとしたら、そこから虫が湧く。一度の真言で全て修復した方が効率がいい」


 なんと理解が早いと兄貴が合掌した。そこで、必要となるのが恋の矢と黎の修復真言と砂歌さんによる追跡機能。全てを合わせて穴へ向けてズドンだ。


 「うむ、いい案だな」

 「そうか。ただの矢を放つだけなら、三姉妹のボーガンを使う紅音ちゃんでもいい。わたしには風真言があって、その効果で加速させられる*


 女子最高だよと顔だけで言っている兄貴。こんな分かりやすい顔するんだな。確かに理解が早くて、説明の手間も省けて楽なんだと思うけど。身体の柔軟性だけでなく、思考の柔軟性も備わっていたということか


 「本来アンチ討伐班だった三姉妹は、常時治療班に回ってもらう」

 「あの三姉妹はホムンクルスだからマテリアルの宝庫だ。ずっと放出していても問題ない」

 「怪我も体力もここでフォローしてもらう。これで僕の体力問題は何とかなる」

 「しかしな、当日一人で背後を守り、逐一指揮してくれる予定なのだろう?」

 
 そうです。とうなずいた。本当に兄貴のフォローはできるんだろうか


 「兄さんに一人つけたほうがいいと思う」

 「それはボクも賛成です」

 
 いつの間にか来ていた海景くんが言った。兄貴の体調面は本当に問題なのだ。そこを紫苑さんでも葵さんでもいいから付けてもらいたい


 「あなたの場合は心拍数を安定させる真言も必要です」

 「別ものなの?」

 「体力は心拍数に由来するもの。心拍数が多ければ当然苦しくなるし身体への負担は大きくなります。そこで琥珀さんには心拍数を安定させる子を付けるべきと考えます」


 医者からのアドバイスは心強い。息が荒くなるのは心拍数が早くなり、それにより酸素が行き渡らなくなるから。もちろん疲れるし。兄貴は俺たちよりさらに心拍数が常から多い。体力を回復させるにはまずそこが必要。


 「心拍数を安定させる子として、スイという子がいます」

 「翡翠にしなくてよかったね・・・」

 「はい?」

 「クルド語でジェードだからさ・・・」


 それはちょっと可哀想だな。グリーンの方でよかった。その翠という子を兄貴の担当にし、あとは紫苑さんたちを振り分けたとおりに怪我を治療してもらえばいい。これで何とか兄貴の体力面はどうにかなる。


 「マテリアルと一緒に体力も貯められるようにしておいて欲しかったぜ、俺はな」

 
 兄貴以外がめちゃくちゃ頷いた。マテリアルの量と体力が一致しないのだ。まずここが怖い。


 「というわけで・・・僕は眠いので寝ます」

 「まだ10時だぞ?」

 「全開になったんだけど・・・睡魔がね。4日分とられるわけだからね・・・」

 「ああ、そういうことか。具合が悪いとかじゃないんだな」

 「うん。それは万全?だよ」

 
 ニコニコしながら寝室に行った。砂歌さん曰く、本当に寝たらしい。本当に眠かったのか。兄貴でも睡魔には勝てないのか。


 「わたし一つだけ納得いかないところがある」

 「え、黎が?」

 「どうして捕まった時のことを考えるの?」


 不安そうな顔と声音で放たれた言葉に俺たちはハッとした。兄貴が俺たちに頼んだのは、兄貴が捕まった時マテリアルを全て吸収されたあとの応急処置の話だった。結界を強化することではなくだ。
 

 「確かに捕まろうが捕まらなかろうが必要になるとは言っていたな」

 「捕まること前提で進めてたな」

 「考えるべきなのは、琥珀が捕まらないための方法だ」

 「そうお姉ちゃんの言った通りだよ」


 目を付けられたということは、そういう危険性が高いことを予測したのだと思う。もしもに備えて策を立てるのは確かに大事だ。でも今回はどうなんだろう。


 「自分は色々なものを守るのに、どうして自分は守らねぇんだっていうのは、オレもわかる」

 「多分アイツ、今相当怖いと思うぞ」

 「大誠さん・・・」

 「普段のアイツなら自分が捕まらないような方法も一緒に考えたうえで細工しようとする。自分の命を軽く見るやつじゃないから」


 四人のオラトリアが少なくとも潜んでいて、しかもアンチ。そのアンチたちによる監視網を無効化し、何らかの計画を邪魔する形となった。そして今日、目を付けられてしまった。その四人に襲われればさすがの兄貴もキツイだろう。
 ──ガチャ

 
 「え?」


 誰か出たのか。いや、出たとしたら一人しかいない。


 『カトール、フェルマータ、メンバーを連れて城に来て』

 『強化か。了解した』


 強化?結界の守りをより強固にする。外でやれないなら、城の敷地内ですればいいってことか


 「みんな」

 「ん?」

 「一瞬だけ全員に責任者になってもらう」

 「は?」

 「これなら・・・僕なしで強化できるし、さっき言った細工もできる」


 やっぱり捕まった時のあとのことを考えた。自分がたとえ捕まったとしても、責任者がいる限り結界は消えない。自分のマテリアルを全て吸収されたとしても何とかなる。


 「今回結界を強化することで、中にいるアンチたちを弱体化。集中的に来られた場合も対処可能となる。完璧だね」


 出来るだけ自分が捕まらないための対処法を考えてくれた。責任感強いだけあるな


 「そう簡単に捕まってたまるか。全力で拒む。弱体化させたらアンチが一人になった所を狙う。あっちが来る前にやるまで」

  
 どうせ様子見なんだろうし、とドヤ顔で言った。


 「この監視網指揮したやついるんだよなぁ」

 「やっぱりいるんだな。もしかしてそれは、お前が言ってた参謀か?」

 「大誠・・・君ってほんとに説明要らずだよね。君がいたらもう説明しなくてもわかってくれるんじゃないかと思えてきた」

 「いや、オレたちが困る」


 暁の言葉にうんうんと頷いた。大誠さんだけ分かっても意味ないだろうというな


 「というわけで、君たちは真言の練習でもしていたまえ。あ、真言これ。完璧に暗記し、完璧に発動できるようにしておいてね。定員七人。僕抜きのパルティータでいいと思うよ」


 完全に入れてもらえなかった砂歌さんとヴェーダさん。王とその騎士に参加させないってなんなんだよ


 「この細工、僕とシャロンさまの二人で責任者ということで」

 「そういうことか、ああ構わんぞ」

 「俺は?」


 ちょっと機嫌悪めになってしまったヴェーダさん。砂歌さんをパートナーに選んだんだからそれはまぁ悪くもなるか


 「君は僕と監視網を作ろうね。海景くんがいるから何とかなるよ」

 「はい、ボクも頑張ります」

 「うん」


 眼と空間真言の海景くんとオラトリアクラスの兄貴とオラトリアのヴェーダさんによる監視網。逃げられないだろうな。この監視網は、国を越えて張るとのこと


 「ん?君の負担大きすぎないか?」

 「大丈夫。全部僕が責任者やろうなんて傲慢なことはしない。細工はシャロンさま、監視網は海景くん、そして最大強化は黎ちゃんに任せたいと思ってるんだけど・・・」

 
 うん、いいよと黎が元気よく頷いた。砂歌さんは当然だとのこと。海景くんは頑張りますだ。よっぽど大きいんだろうな、この三人。黎と砂歌さんは知ってる。海景くんは、兄貴や光紀に隠れているけどマテリアル・キュリクス・クヴェル、すべて9だ。


 「そろそろ、騎士団が到着する頃だね。今日は騎士団による強化のみ。全体に回るのは丸一日かかるけどね」


 慎重に進めていくため、ゆっくりと染み込むように広げるという。一日ずっとその場にいろというわけではなく。一度発動したらそこから少しづつ広がっていくという仕組みだ


 『琥珀、着いたぞ』

 『始めますよ』


 はーいと言って出ていった。自分を守る方法もちゃんと見つけてくれていた。俺は心底安心したぞ。


 「安心したよ。さすが兄さんだ」

 
 この日は何とか安心して俺たちも兄貴も休むことが出来たのだった


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...