20 / 52
2.お嬢様&メイド編
11.はじめてのおともだち
しおりを挟む
「さて、残る問題はコレだけ、か。とは言っても、実のところコレが一番どうしようもなさそうなのよねぇ……どうしましょ」
薄暗く狭い部屋の中で、ふとイリュメリアはため息交じりに愚痴をこぼす。
魔王の腕を巡る一連の騒ぎは、イリュメリアたちがセーフハウスである「宵闇の鴉」本部に辿り着いた時点で既に収束したと言って過言ではないだろう。
狂信者共は「宵闇の鴉」の本部たる娼館をただの屋敷と侮って突撃を繰り返しているが、クランテットにおける一大勢力の本部を名乗るだけあって、見た目とは裏腹にそこいらの要塞よりも落とせない造りになっている。その上、中に潜んでいるのはこの街でも有数の暗殺者集団だ。
もう何をせずとも撃退は可能だろう。なんなら、街に居る狂信者の内の何人が「宵闇の鴉」の魔手から逃げ切ることができるかで賭け事をしても良い。
今後のことについてもさしたる問題は無い。
イリュメリアたちを追うことに夢中になってもぬけの殻となった屋敷から悠々と逃げ延びたジューディス家当主、ダンピエール・ジューディスとの合流により、「宵闇の鴉」頭領ダンウェル・ノックピードとの交渉が非常にスムーズにいくようになったのだ。
これについてはイリュメリアが舐められていたというよりも、彼の生存が確定したことで、ダンピエールの死に付け込んで介入してくる他の貴族を考えなくてもよくなったことが最大の理由だろう。
未だ正式に家を継いでおらず、また今後も貴族の責務ではなくジューディス家の責務を優先することを確定路線としていたイリュメリアでは、どうしても武器にすることができなかった貴族であるが故の利権をようやく扱えるようになったのだ。
これで交渉が進まない訳が無く、隠遁するにはもはや無用である貴族としてジューディス家が持っていた理研の大半を「宵闇の鴉」に譲渡することと引き換えに、今後の旅路に必要な物資の確保や、イリュメリアたちがこの街に居たという痕跡の抹消などを行うことができた。今後、魔王の腕と共に行動する身ともなれば、万が一にも狂信者共に嗅ぎつかれる訳にはいかないと考えての判断だが、間違ってはいないはずだ。
残った利権についても、今でこそダンピエールが保持してはいるが、今後「宵闇の鴉」との関係を深めていくと共に段階的に譲渡していくことが決まった。ジューディス家はもはや、イリュメリア一行が魔王の腕と共に新たな土地に行き、そこでの安全を確保できるまでの目晦ましとして存在していれば十分という考えがその根底にはある。
貴族であることなど、もはや不要。今のイリュメリアに必要なものは少々の路銀と安全な土地、そして道行く人々に紛れる凡庸さだ。
目立つ上にこれまでの人生で大して役に立った記憶も無い貴族籍など、ダンウェルが利用ついでに処理してくれるのなら万々歳といったところだ。それが目当てでロッシーニュの排斥に手を貸していたようなものだということで、ダンピエールもその事について了承している。
これまでのことについても、これからのことについても、もう頭を悩ませるようなことは残っていない。
全ては順調に進んでいる。何も憂うことは無い。
「……イリュメリアさん、この拘束を解いてください。こんな状態ではその大きな胸にしゃぶりつけません」
「もう少し拘束を増やしておいたほうが良いかしら。今の貴女を解き放ったら万が一にも綺麗な身体でいられなそう」
――目の前に居るたった1人のケダモノを除けば、この恐ろしく厄介なセレス・ベルックムーンという恩人さえどうにかなれば、もう何も問題は無いのだ。
「そんな事言わないでください。イリュメリアさんはとっても綺麗な身体をしていますよ? 大きな胸、白くてきめ細かい肌、甘い臭い――こうして目の前に居るだけで、興奮しちゃいます」
「……流石にここまで倫理観が飛んでいると、マリーの恩人とは言え放流したくないのよねぇ……
魔王の魔力を受けていたみたいだけど、相性が悪かった――いや、良すぎたのかしら」
そう、丁寧な口調ながらも倫理観の欠片も感じられない台詞を発しているセレスこそ、今回の事変における最大の問題児なのだ。
というのも、今回の事変は魔王という超存在が絡んでいる以上、どうにかして秘匿しなければならないものだ。故に成り行きでこの事変に深く関わることとなったミーシャとセレスの扱いは、それで助けられたとはいえ困りものではあった。
ミーシャについては適当に篭絡すればどうにでもなりそうな気配があるし、どうにでもできる自信がイリュメリアにはあった。適当に口止めをして別れるという選択も、監視がてら手駒として今後隠遁の地を探す旅に同行させるという選択も意のままだろう。
だがセレスについてはそう簡単に話が進まない。セレスは情報の秘匿という観点からすれば見逃すわけにはいかず、しかし「宵闇の鴉」を含めたこの場の誰にとっても手に余る存在であった。
ミーシャに曰く元からこういう性癖の人間だったらしく、さらに言えば彼女自身ミーシャを追い求めてクランテットまで来たらしい。
そんな彼女にとって、欲望の具現たる魔王との親和性は非常に高かったのだろう。セレスは今、魔王の魔力を全身に浴びた影響でその行動原理の大半が欲望によって支配されている。要するに、交渉と言うものが成立しないのだ。
それだけならまだしも、魔王の影響で肉体まで強化されている。もしセレスが暴走した場合に彼女を安全確実に抑えられるのがダンウェルと、少々危険度は上がるが同じく魔王の魔力を受けたマリーしかこの場には居ない。
そして前者はダンピエールとの交渉で動けず、後者は危機が去ったものと思い込んで安らかな寝息を立てている。
魔王の左腕を得たイリュメリアについてもその魔力の大きさに体が耐え切れていないのか、時を追うごとに体が重くなっていくばかりでセレスを抑える事など到底できそうにない。
つまり彼女を自由にした状態で交渉など始めようものなら、「報酬はお前の身体だ」などと言って力尽くで押し倒しされ、場合によっては体力の無いイリュメリアが過労で死ぬまで行為に付き合わされる可能性すらあるのだ。
「第一、ミーシャと私を引き剥がしたのはイリュメリアさんじゃないですか。折角の再開なんですから、今日は一晩中ミーシャと楽しむつもりだったのに……責任取ってくださいよ、責任」
「一晩中も何も、ココに辿り着いた頃にはもう空が白んでいたじゃないの」
「一晩中も一日中も、私が満足するまでという意味では大して変わりありませんよ。御託は良いので、早くおっぱいをください」
拗ねたようなふくれっ面で恐ろしいことを言ってくるセレスだが、その目は本気だ。こうして拘束椅子に縛り付けていなければ、あらゆる意味で会話などできていなかっただろう。
セレスの魔手がミーシャに飽き足らずマリーやイリュメリアにまで伸びてきた際、とっさに口に含んだ痺れ薬を口移しで飲ませることに成功していなければ一体どうなった事か。
流石にミーシャにセレスを拘束している所を見られるとややこしくなると考え、動けなくなった時にセレスからミーシャを引き剥がしてマリーと同じベッドに放り投げておいたのだが、今となってはそれすらも悪手だったように思える。恐ろしいことに、今セレスの前にある捕食対象はイリュメリアただ1人なのだから。
「もう完全にケダモノねぇ……まあ、ケダモノならケダモノなりの対応をするしかない、か」
もはやセレスは生きる危険物と言っても過言ではない存在だ。だがしかし、いや、だからこそ手懐ける価値のある人間でもある。
今後、クランテットを離れるほどに暗殺者のような手合いは減っていくだろう。そして代わりに、野盗のような集団との正面衝突が多くなるはずだ。
マリーは正面戦闘を得意としておらず、その隙をロッシーニュに突かれたことを考えれば、マジックポーションも無しにロッシーニュの猛攻を捌き切ったセレスは戦力として非常に頼りにできる。魔王の魔力で身体能力が強化されているのならなおさらだ。
寝首を掻かれ――もとい、寝込みを襲われる心配こそ尽きないものの、手綱を握ることさえできれば、非常に強力な駒となり得る存在なのだ。
そしてセレスを靡かせるのなら、話は単純。女に飢えているというのなら、それを用意してやればいい。
幸いなことに、イリュメリアよりも美味しい女ならもう手の内にある。
そもそもがセレスから取り上げたものだが、獣の躾けは「待て」から教えるべきというのがイリュメリアの持論だ。
「飢えた獣を手懐けるなら、まずは餌から用意しないとね。……ミーシャちゃんって本当、便利な女の子よね」
---------------------------------
「たたたた、大変だよマリーちゃん! 決戦の時が来ちゃったよ!」
薄暗く魔力灯が光る地下室の中、私は寝ぼけまなこを擦るマリーちゃんにそう宣言をする。
「んぅ……ミーシャは何を言っているんですか? 決戦ならもう終わったじゃないですか」
「甘い、甘い、甘すぎる! 全盛期のスラみぃよりも甘いよマリーちゃん! セレスちゃんはそんな生半可な覚悟で相手できる嫁じゃないっ!」
だがしかしマリーちゃんは私の言葉にしっくりきていない様子で、ぬぼーっとした表情になっている。
メイドさんにあるまじき、隙だらけな気配を漂わせている風だ。隙を見せるのは信頼の証だって本に書いてあったからそれはそれで嬉しいのだけれども、今はそんなことを考えている暇は無い。
「セレ……セレスさんがどうかしたんですか? 格好良い人だとは思いましたけれど……」
「だよねだよね! セレスちゃんは格好良くて、頼りになって、気遣いもできる自慢の嫁――じゃなくて、そのセレスちゃんとの決戦なんだよ!」
今朝――と言っても地下室に居るから分からないだけでもう昼過ぎらしいが――イリーちゃんが寝起きの私にこう言ってきたのだ。「セレスちゃんが私に会いたがっている」と。
そう、ついにこの時が来てしまったのだ。リベンジのための下準備が、何ひとつ整っていないこの状況で。
そもそも私の考えでは、セレスちゃんにリベンジするのはイリーちゃんマリーちゃんの攻略完了後。「夜の戦いも数だよ大作戦」の元、3人がかりでセレスちゃんに攻め込む予定だったのだ。
しかしそのためには3人の高度かつ柔軟な連携が不可欠。しかしいくらピンチを救ったことで2人好感度がうなぎのぼりしていたとしても、目と目で語り合うコンビネーションを身に着けてはいない。
つまり、私は今から別の作戦を立ててセレスちゃんに立ち向かわなければならないのだ。
超究極最強魔導士らしく正面から真っ向勝負することも考えたけれども、超究極最強魔導士である私の明晰な頭脳はすぐにそれが愚行であると気付いた。
セレスちゃんには正妻の強みとも言うべき、優しくキスされるだけでも、ふにゃぁ、って力が抜けちゃう特殊能力があるのだ。万が一にも激しいキスなんてされたら、ドキドキで意識が飛んじゃうかもしれない。いや、もう既に意識を飛ばされたような――?
……とにかく、対策を練らない事には前回の二の舞になってしまう事は間違いない。今度も押し倒されて滅茶苦茶にされてしまったら、ハーレムの主としての威厳が無くなってしまう。
そして、その対策を立てる時間が全然無いのだ。イリーちゃんに頼み込んでなんとか陽が沈むまで時間を稼いでもらうよう頼んだのだけれども、それでも全然時間が足りていない。
切り札ならあるけれども、それは本当に最終手段。下手をするとセレスちゃんの好感度が下がっちゃうかもしれないし、何よりそれを使ってなお押し倒されたりでもしたら、もう本当に打つ手がない。
これを緊急事態と言わずして何を緊急事態と言う。だがこれだけ言っても、マリーちゃんはなんだか危機感が薄いように見える。
「えーっと……好き合っているならそれで良いんじゃないんですか?」
「もー! マリーちゃんってば分かっていないよ! 百合ハーレムっていうのはね、ハーレムを名乗る以上はワントップじゃないといけないんだよ!」
押し倒される私になるな。押し倒す私になれ。
超究極最強魔導士たる私の弱点が愛であることは、格好良いから否定はしない。
だが最強でありながら、なお進化し続けてこその超究極最強魔導士というもの。「ハーレムを束ねし者、慢心することなかれ」とはかの文豪、グースビック・ギュールの言葉だ。
セレスちゃんは本妻だが、それにかまけてズルズルと引っ張られる関係になってはいけないということだ。だから私はここで、意地でもセレスちゃんよりも上に立たなければならない。
「正直良く分からないですが、それって私に言ってもどうにもならない事じゃありませんか?」
「それをどうにかするのが作戦会議だよ! ほら、何か良いアイディアとかない?」
「そんなことを言われても……運命だと思って諦めるというのは?」
「ひ、酷い?! なんでそうなるのよさ?!」
「だって経験の無い私でさえ押し倒せる自信があるくらいですから。どうせミーシャなんて人の上に立てるような人間じゃないんですから、観念して私と一緒にメイド業に精を出していれば良いんです」
「そ、そんなことないよ! 私、カリスマ性抜群だよ! 俗に言うトップレディだよ!」
マリーちゃんに助けを請うも、無理だと言うばかりで何も案を出してはくれない。
だがそれは無理も無いことだ。なにせマリーちゃんは寝起きの恋愛初心者。おまけに攻め込むには向かないご奉仕属性の頂点たるメイドさん。
恋愛マスターである私ですら対応しきれないこの状況において、頼りにできる相手ではないのだ。
それ以前に、なんでモテモテ百合ハーレム系ご主人様属性の私までメイドさんになることになっているんだろう。セレスちゃんとの決戦という差し迫った問題さえなければ、今すぐにでも問い詰めたい問題発言だ。
「あなたたち、何漫才をやっているのよ……マリーもようやく起きたようで何よりよ」
そんな時にタイミングよく現れるは我が百合ハーレムのお嬢様枠ことイリーちゃん。ちなみにメイドさん枠はマリーちゃんだ。
さっき起きた時にも会ったけれども、昨日が慌ただしかったからかこうして3人揃うのはなんだかしばらくぶりな気がする。
「も、申し訳ありませんお嬢様! 今から身なりを整えますので少々お待ちを――」
「交渉事に赴く訳でもなし、気にしなくても良いわよそんなもの。
それより話は聞いていたわ。自称トップレディのミーシャちゃんごときが今のセレスを押し倒すって話でしょ?」
「ねえ、さっきからどうせとか自称とかごときとか、やたらと私を見下す発言が多いのはなんで?! ねえ!」
「ふふ、教えてあげない。でもそういうことなら、私からちょっとした提案があるわ」
なんだかハーレム的に聞き捨てならない言葉が聞こえるもイリーちゃんはからかうように笑い、言葉を続ける。
そしてその言葉は、八方ふさがりだった今の私のとってまさしく救いの言葉だった。知的系お嬢様の気配を漂わせていただけあって、こういった知恵回りではすごく頼りになる。
「何々? 何するの?」
「まあそう焦らないで……マリー、ちょっとこっちに来て」
「はい、お嬢様」
がっつきそうになる私を手で押さえつつイリーちゃんはそう言うと、毒のあるミステリアスな笑みと共にマリーちゃんを招き寄せて何事かを耳打ちする。
するといったい何を言われたのか、マリーちゃんは途端に顔を真っ赤にしてあわあわと何事かを言おうとしては口ごもり、イリーちゃんと私を交互に見て激しくうろたえている。
「どうマリー、できるかしら?」
「ぁぅ……でも、私にそんな事……」
「でも、興味はあるんでしょう? だってこんなの、あなたの部屋に飾ってあったグレートソードの裏に隠してある小説に書いてあった事と、大して変わらないじゃない。
なんだっけ、確かタイトルは「先輩メイドの妹メイド完全調きょ「なんでその本の存在を知っているんですかお嬢様ぁ?!」」
どうしたことかと尋ねようとした矢先、部屋に響く声でマリーちゃんが吠える。
その直前にイリーちゃんが何事かを言っていたような気もするけれど、地下室故の反響で耳がくわんくわんして上手く聞き取れなかった。
ただなにかとんでもないことを暴露されているようで、マリーちゃんはもう見て分かるほどに焦っている。
「暇つぶしにマリーの部屋を漁った時に見つけて、必死に隠している割に開き癖が付いていたのが微笑ましくて記憶に残っていたのよ。
ついでに言えば、クローゼットの奥にしまい込んで隠しているおもちゃのことも知っているわ。値札が付きっぱなしで、大人ぶって買ってみたは良いものの怖くて一度も使えませんでしたって言っているみたいで、ちょっとほっこりしちゃった」
「お、お、おじょ、おじょじょ……っ?!」
「ちょ……何の話しているのか分からないけれどイリーちゃんストップ! マリーちゃん泣いちゃいそうだから!」
それがただ口が滑っただけとかだったら私も止めはしないが、それを言うイリーちゃんの愉悦に浸る笑みにパワハラのようなものを感じ、全力で待ったをかける。
百合はいちゃらぶ、無理矢理は良くない。
主従だろうと百合の作法は必要なのだ。そしてそれがちゃんと伝わったのか、イリーちゃんはすぐに優しい笑みを浮かべてマリーちゃんを労うようにその頭を撫でる。
「――とまあ、マリーの性癖はさておき、練習みたいなものだと思えば良いのよ。どうせ相手はミーシャちゃんなんだから、何やってもセーフよ」
「練習、ですか……?」
「そう、練習。ミーシャちゃんにとっても、マリーにとってもね。
それにマリーだって、ミーシャちゃんの事は嫌いじゃないでしょう? ――初めての友達なんだもの。ちょっとくらいサービスしてあげても良いんじゃない?」
イリーちゃんがそう言うと何度かの深呼吸を挟んだのち、震えながらも小さく頷くマリーちゃん。
そしてぎこちない動きでこちらに向き直るマリーちゃんは顔から火が出そうなくらい真っ赤で、でもその瞳はしっかりと私を見ていて、かと思えば急に視線が揺らぎだして――なんだかすごく、挙動不審だ。
「ミーシャならセーフ、ミーシャならセーフ、ミーシャならセーフ……そうだ、何を恐れる必要がある。ミーシャが相手なら万が一にも貞操の危機は無いじゃないですか。相手は同性愛者とは言え所詮はミーシャ、あちらからしてくることなんてキスとかハグとかそのくらいのちょっと深めのスキンシップ程度に決まってる。それなら友人としても受け入れられる範疇で、ミーシャと親友になるために必要なステップの1つだと考えればむしろこちらからやったところでさしたる問題は――」
「あ、あの、マリーちゃん、どうしたの? いきなり独り言を言いだし「ミーシャ!」ひゃいっ?! な、何事?!」
「これはあくまでも友人としてのスキンシップの範疇ですから! 生涯誰も押し倒せないであろうミーシャに対するお情けのサービスですから! ミーシャが言っているようなハーレムみたいなそれとかじゃ、全然ないんですから!」
そう叫んでから飛びついてきたマリーちゃんの身体は、ちょっぴり震えていた。
「と言う訳でミーシャちゃん、今からマリーがミーシャちゃんの相手をしてあげるわ。
本番前の練習試合か、そうでなければ緊張をほぐすマッサージみたいなものだと思って受け入れてあげて」
飛び込むように抱き付いてきたマリーちゃんに押し倒され、ベッドに寝転がる私たちに向かってイリーちゃんが優しくそう語りかけてくる。
「いやその、私はマリーちゃん大好きだから全然オッケー、むしろ大歓迎なんだけれど……マリーちゃんは嫌じゃないの? この前、ハーレムじゃなくて友達が良いって言って……」
「ミーシャなら! セーフ! なんです!」
「お、おぅ……じゃあその、お願いします……?」
対するマリーちゃんは私の胸に顔をうずめたまま動かないで、ぷるぷると震えている。
怖いのか、それとも緊張しているのか。ただどちらにせよ覚悟だけは決めたらしく、その瞳には力強い光が灯っている。
「……これは友達のキスですから。勘違いしちゃダメですからね」
「うぅ……マリーちゃん……」
そう言ってゆっくり、震えるマリーちゃんの唇が私の唇と重なる。
触れるだけの、お友達キス。でもずっとくっついたままの、長いキス。
その間にゆっくりと手が背中に回ってきて、寄り添うような優しいハグをしてくれる。身体が密着して、すごく温かい。
――マリーちゃんは酷い子だ。
友達だって言っている癖に、勘違いしないでって言っている癖に、こんな事されたらもっともっと好きになっちゃう。いっぱい、いっぱい勘違いしちゃう。
こうして抱き合っていると幸せで、もっとずっと傍に居て欲しいって思っちゃうのは、きっとマリーちゃんの卑劣な罠だ。後にはセレスちゃんが控えているっていうのに、こんなの絶対練習なんかじゃない。
「ほらマリー、折角なんだから服も脱がしてあげる。可愛い身体しているんだから、ミーシャちゃんに見せてあげないと」
「うぅ……はい、そうですよね。友達とはいえそういうことをするんですから、服は、脱がないと……」
そうして私から触れ合っていた唇をはなして、私のお腹の上で馬乗りになったマリーちゃんがするすると衣擦れの音を立てながらメイド服を1枚1枚脱がされていく。
イリーちゃんがマリーちゃんの服を剥いでいくたび、露わになっていくマリーちゃんの綺麗な肌。マリーちゃんはそのたびに顔を赤らめていたけれど、むすっとした表情なのにどこか色っぽいその仕草に目を奪われる。
「下着は脱がさないほうが良いって言っていたから、まずはここまで。どう? ミーシャちゃん。私のマリーは可愛いでしょう?」
そうして下着だけになったマリーちゃんの艶姿に、思わず息を飲む。メイド服を脱いでなお、太ももに張り付くガーターベルトの魔力が私の心を掴んで離さない。
メイド服を脱いだマリーちゃんは、もうメイドさん属性とか関係なしに素敵な女の子になっていた。そんなマリーちゃんに今一番近いところに居る私は、そんなマリーちゃんと見つめ合っている私は、きっと幸せ者なんだと思う。
「そ、そんなにまじまじ見ないでください。ミーシャの癖に生意気です」
「で、でも、マリーちゃんすっごく綺麗で……さ、触っても良い?」
「ぅ……ま、まぁ、良いでしょう。ちょっとだけですよ」
そう言って私の手を取り、おへその辺りに持っていくマリーちゃん。おそるおそるその肌に触れるとマリーちゃんの体がピクリと震え、そして即座に手首を掴んでおへそから手を引き剥がした。
「やっぱりダメです。ミーシャの分際でがっつきすぎだと思います。セクハラです」
「そんなぁ……」
ベッドに私の手を抑え付けながら、息も荒くそう言うマリーちゃんに縋るような視線を投げかける。
ほんの一瞬触っただけでも分かる、あのすべすべぷにぷにのおなか。もっとなでなでして、その感触を感じていたいのに。
見せるだけ見せて、ほんのちょっぴり触らせて、それでやっぱりダメだなんて反則だ。ずるっこだ。
「マリーが脱いだんだから、ミーシャちゃんも脱ぎ脱ぎしましょうね……って、あら? ローブから何か落ちてきたけれど、これは?」
そうしてマリーちゃんと見つめ合ったまま動かずにいる私に向かって、イリーちゃんが撫でるように手を伸ばす。その手が私の服を根こそぎ剥ぎ取ると同時、ベッドの上にいくつかの小瓶が転がり落ちた。
同じラベルの張られたそれらを摘まみ上げ、まじまじと観察するイリーちゃん。ただ、その質問に答えるには少々の恥じらいがある。
「それは私が昔作った、私の百合ハーレムの最終手段の……お、男の人のアレが生えてくるマジックポーションだよ」
それが何かと問われれば、今の私がセレスちゃんに対抗するための最終手段と言っても良いだろう。
名付けて「子作りするという名目の下一方的上位の立場でイチャイチャしよう大作戦」。ただし相手の同意を得ないで使ったり、勝手に飲んで無理矢理なんてしたら即座に破局してしまう恐れもあるハイリスクな代物。
だからあまり使いたくはないのだけれども、それでも切り札は切り札。あると無いとでは、心の持ちようからして違う。
「へぇ……零しちゃってもいけないし、これは私が預かっておくわね」
「で、でも、それが無いといざという時にセレスちゃんに反撃できない……」
「セレスが来たらちゃんと渡すから、安心して頂戴。……ほら、今はマリーだけを見てあげて? ミーシャちゃんが私とのお話に夢中になっているものだから、ちょっと拗ねちゃっているわよ」
そう言われて向き直れば、ふくれっ面のマリーちゃんが目の前に。私の両手を抑えたまま、全身で押さえ付けるように顔を近付けている。
不機嫌オーラ全開だ。好感度ダダ下がりなのが目に見えていて、今すぐにでもフォローしないと大変そう。
「ぁ、ぅ……ご、ごめんね? 今のはちょっと気を取られただけで――んぅっ?!」
そう思ってごめんなさいすると同時、マリーちゃんが私をベッドに押し付けるように力強くキスをしてきた。
今度は舌も入れてくる、らぶらぶのキス。舌先と舌先が触れ合う、ちょっぴりエッチなキス。
「さっきのキスは、友達のキスにしては軽すぎましたか? 私、今だけはミーシャのことしか考えていませんって、伝わっていませんでしたか?
こっちはこんなに目一杯頑張っているのに、それを無視するなんて……やっぱりミーシャは生意気です」
そう言って何度も何度もキスしてくるマリーちゃん。激しいのになんだかとっても健気で、マリーちゃんがどんどん愛おしく思ってしまう。
そうして唇が触れ合うたび、舌が絡み合うたび、どんどん何も考えられなくなる。もう心臓のドキドキが収まらない。口の中でくちゅくちゅと水音が鳴るたびに、頭の中が真っ白になって全身がかぁー、って熱くなる。
ばかになっちゃいそう。でも、幸せ……
「ひゃっ、冷たっ?! 何々、なんなの?」
そんな幸せに浸っている時間は、私とマリーちゃんの間に滑り込んだ冷たい何かに驚かされて途中で打ち切られた。
何事かと思ってその冷たい何かに触れてみれば、それは透明で、なんだかぬるぬるしている液体だった。振り向けば、どうやらイリーちゃんが脇から塗り込んだものらしい。
「え、何このぬるぬるしたの。な、なんだかすごくえっちぃよ……」
「ああこれ? セレスの服の中に入り込んでいたミーシャちゃんのペットの……スラみぃちゃんだっけ? を水に浸していたらできたものよ。
マリーは知識ばかりでこういう経験が無いから、雰囲気作りにこういうものがあったほうが良いかと思ったの」
「も、もう雰囲気は十分だよぉ……もう私、頭の中とろとろになっちゃいそうで……」
「でもマリーは乗り気よ? ほら、キスだけじゃなくて、全身でマリーを感じてあげて」
そう言ってマリーちゃんに向き直れば、やっぱりふくれっ面の不機嫌顔。そしてさっきよりも少しだけ激しくなったキス。
どうやら、マリーちゃんから目を逸らしてはいけないらしい。けれどイリーちゃんの手で全身に塗られたぬるぬるは気に入ったみたいで、私の体の上を滑るように動かしながら、全身を密着させてくる。
それに時折首筋を舐めてきたりして、くすぐったさと一緒に気持ちの良い波が背筋を駆けていく。なんだかさっきから、気持ち良くなってばかりだ。
「マリーちゃん……気持ち良いよぉ……マリーちゃん……」
「ミーシャ……ミーシャぁ……」
甘く、囁くように互いに呼び合う私とマリーちゃん。いつまでも続けば良いなって思ったその時間も、しかしイリーちゃんの手によってまたも遮られた。
「……ぇ、イリーちゃん、なんで私の手足をベッドに縛り付けてるの……? これじゃ私、動けない……」
「ほら、さっきからマリー、ミーシャちゃんの両手を抑えてばかりで動きにくそうじゃない。
それにマリーもまだ少し緊張してるみたいで――いきなり抱き付かれたりしたら、びっくりして暴れちゃうかもしれないから、ね?」
力の抜けた私の手足をベッドの四隅に縛られて、伸び切った状態で固定される。それと同時に、今まで触れられることの無かった場所までマリーちゃんの指先が伸びてきた。
脇に這う舌や、内ももを撫でる指先が触れる度に、背筋が痺れるような快感が頭のてっぺんまで昇ってくる。
もう全身、マリーちゃんが触れていないところなんて無い。その全身が気持ち良い。マリーちゃんが気持ち良い。もう、大好き。
「ぁぅ……イリーちゃん、今度は何?」
「アイマスクよ。マリーの呼んでた本に、視界を遮ると気持ち良くなりやすくなるって書いてあったから。
こうして視界を遮って、何も見えない暗闇の中で、マリーをたっぷり感じてあげて欲しいの」
そうしてイリーちゃんに言われるがまま、視界が革製の目隠しに塞がれる。
無くなった視界の代わりに強く感じるのは、マリーちゃんの荒い息遣い、密着する肌の温かさ。キスと一緒に私の口の中を掻き回す舌が出す、唾液の絡んだ粘着質な水音。
そんな音を聞いていると、なんだかとってもドキドキしてくる。マリーちゃんが見えていた時よりもずっと、マリーちゃんがそこに居るって強く感じる。
胸が高鳴る。体が熱い。肌に擦れる下着の刺激がもどかしい。
マリーちゃんが耳元で甘く私の名前を呼ぶたび、マリーちゃんが肌を優しく撫でるたび、ぽかぽか幸せな気分が胸の中一杯に広がってくる。
そうして自然と、両手を背に回して優しく抱きしめてくれるマリーちゃん。全身を密着させてのハグはとっても暖かくて、心地良くて。舌の絡み合う水音を子守歌に、なんだかこのまま眠ってしまいそう。
「ミーシャぁ……」
「マリーちゃん…………ん、ちゅ……」
そう、これぞまさしく私の求めていた百合。触れ合うほどの距離が幸せな、心と心の繋がり。
マリーちゃんはハーレムメンバーじゃなくて友達だって言うけれど、もういっそそれでもいい。
大事なのは心の距離。恋人と同じくらい近いところにいる友達なら、それはそれでハーレムだって本に書いてあった。
私はマリーちゃんが大好きだから、友達でもハーレムでもどっちでも良いんだ。マリーちゃんとならハーレムにはなれなくても、百合にはなれるんだから。
「2人とも、とっても仲良しねぇ……やっぱり可愛いものは、可愛いものと一緒に居るのが似合っているわ。眼福、眼福。
でもあの子にぶつけるためにはもう少し盛り上がって貰わないと困るのよねぇ……少し、イタズラしちゃおうかしら」
そうして私とマリーちゃんでいちゃらぶ空間を作っていると、イリーちゃんが優しい声音でそう言った。
それと同時、抱き合っていたマリーちゃんが甲高い声と共にビクリと身体を跳ねさせる。アイマスクで閉ざされた視界の先で、イリーちゃんがまた何かをしたらしい。
「ひゃぅ?! お、お嬢様?!」
「ほら、ミーシャちゃんとのスキンシップは止めちゃダメよ? せっかく良い雰囲気なんだから、このままお友達として既成事実を作っちゃわないと」
「で、でもそこは……ぁ……ぅう……っ!」
「初めてのお友達なんだもの、もっと仲良くなりたいでしょう? ほらマリー、頑張って!」
訳も分からないままに苦しげな声を上げるマリーちゃん。でもそんなマリーちゃんはすぐに震える身体を擦り付けて、何か必死さを感じさせる切ない声で私を何度も呼ぶ。
「ど、どうしたのマリーちゃん?! 痛いの? 苦しいの?」
「なんでもないで……んぁっ?! ……な、なんでもない、です……! ミーシャは黙って私に押し倒されてれば――ひゃぁっ?!」
縋るような、がっつくような、余裕の無さを感じる激しいキス。何かにじっと耐えるような、締め付けるようなハグ。
でもずっと体はビクビク震えていて、なんだかとっても辛そう。そんなマリーちゃんが心配で、もう気持ち良いとか言っていられない。
「イリーちゃん、何やってるの?! やめてあげてよ、マリーちゃん苦しそうだよ!」
「何してるかって? ……ふふ、教えてあげない。
それにマリーも苦しんでいる訳じゃないの。ミーシャちゃんに頼れる格好良い自分を見せたくて、情けない気持ち良い声を我慢しているだけなの。ね、マリー?」
「ぇ、ぅ、うぅ……お、お嬢様……お願いです……も、もう、やめ、て……ゆる、して……」
「マリーったらもう、質問にちゃんと答えないとやめてあげないわよ。それにもしちゃんと答えても……今のマリーの蕩けた顔、すっごく可愛いからやめたくないのよね」
そうして聞こえ始める、追い立てられるようなマリーちゃんの悶える声。
でも手足を縛られて、目を塞がれて。マリーちゃんを庇うこともできなければ、何をされているのかすらもわからない。
ただ、マリーちゃんの発する甘い声の誘惑だけが、私の耳に残る。
「尻尾を付け終わったから、後は耳付きカチューシャを付けて……はい、これで犬マリーの完成! とっても可愛いわね、ミーシャちゃんにも見てもらいましょうか」
「ダ、ダメ! ミーシャ、見ないでぇ! 見ちゃ、だめぇ……」
「ミーシャも見たいでしょう? とろとろでエッチならぶらぶ顔。わんわん可愛い犬マリー。
今なら私が押さえているから、ミーシャでも簡単に押し倒せちゃう。ミーシャが見たいって言ったら、手足の拘束もアイマスクも、いますぐに外してあげるわよ?」
「お願い、ミーシャ……」
「……分かった、見ない。マリーちゃんが見られて嫌なら、私は見ない! だってマリーちゃんは、私の友達だもん……!」
「ミーシャ……!」
そう言って目をぎゅって瞑って、イリーちゃんに無理やりアイマスクが取られてもマリーちゃんが見えないようにする。
マリーちゃんの可愛い所を見たくないかと言えば、実は見たい。でもマリーちゃんはもう今にも泣きそうな涙声で、ここで見ちゃったら本当に泣いちゃいそうで。
だったら、そんなの見たくない。マリーちゃんは大好きな友達で、私のハーレムメンバー候補で、私が泣かせちゃいけない女の子だから。
「素敵なお友達に出会えてよかったわね、マリー。ミーシャちゃんも、ずっとマリーの友達でいてね」
マリーちゃんの甘い声はもう聞こえなくて、代わりに聞こえてくるのはイリーちゃんの優しく包むような声。
さっきまでのいじめっ子声とは全然違う、慈しみまで感じられる温かい声だ。
「……あれ、もしかして試してたの?」
「マリーって結構暗い生い立ちなのと、お友達ができるのなんて初めてだから心配になっちゃってね。
マリーが可愛いことになっているのは本当だけれども、ここで見るって言ってたら――ちょっと幻滅していたかも」
つまりイリーちゃんは、私とマリーちゃんが上手く付き合っていけるかが心配だったらしい。
ある意味、当然だったのだろう。イリーちゃんはマリーちゃんのご主人様。つまりは姉のような存在。
大切な妹分と一緒に居る人が悪者だったら嫌に決まってる。ましてや百合ハーレムっていって二股三股宣言をしているものだから、その心配もひとしおだったのだろう。
「ミーシャ……だいすきです……ずっと、ともだち……」
「私も、マリーちゃん大好きだよ……」
結局私はイリーちゃんに認められて、その心配は杞憂に終わったみたいだけれど、それを無駄なことだとは思わない。
だってこう言って胸元に擦り寄ってくるマリーちゃんの姿は見えないけれども、なんだか心の深いところで繋がれたような気がしたんだから。
「さて後は仕上げに、仲良しのマリーとミーシャちゃんを首輪で繋げて逃げられないようにするだけね」
「ほぇ? え? 逃げられないように? なんで?」
マリーちゃんと友情を確かめ合い、でも結局目を塞がれて手足を縛られたままの私に向かって、イリーちゃんがふと思い出したようにそんなことを言う。
続けて首にベルトのようなものを嵌められて、そこについた鎖の音が部屋の中に響き渡る。
「ミーシャと……いっしょ……?」
「そうねー、マリーの大好きなミーシャと一緒ねー。一緒だからセレスに襲われてもがんばれるわよねー」
「…………え? セレスちゃん?」
イリーちゃんの棒読みな問題発言の直後、部屋の扉がキィ、と音を立てて、廊下からの空気が入ってくる。
そその空気に交じって私の大好きな、でも今だけはちょっと勘弁してほしい女の子の匂いを感じる。――セレスちゃんが、やってきた。
「――目の前でずっと見せつけられているだけって、なんてひどい拷問かと思いましたよ。もういい加減、混ざっても良いですよね?」
「ええ、存分に。それにほら、我慢した分良いものがあるわよ。ほらコレ、ミーシャちゃんの切り札だって」
そう言うイリーちゃんがセレスちゃんに渡したのは――まさか、私の特性マジックポーション?!
え、なんで……まさか、セレスちゃんが来たら渡すってそう言うことだったの?!
「い、イリーちゃん、もしかして、セレスちゃんとグルだったの……?」
「うーん……一概に共犯とも言えないけれども、まあそんなものよ。
そもそも、私は性格悪いって昨日言ったじゃない。そんな自分を好きになれって言ったのは、ミーシャちゃんよ?」
「でも、でもでもでも! そんなのって酷い! 私、セレスちゃんに滅茶苦茶にされちゃう! 頭おかしくなっちゃう!」
「大丈夫、マリーも一緒だから頑張れるわ。私は遠巻きに眺めたりちょっかいを出したりして楽しんでいるから、皆で楽しんで頂戴」
私を絶望の淵へと追いやるような事を言いつつ、イリーちゃんはセレスちゃんを呼び寄せる。
もはや逃げ場は無い。戦う手段は奪われた。残る道は、マリーちゃんとの友情パワーで耐え忍ぶのみ。――でもそんなの絶対無理だよ……
「ぅう……ううううううう! もうヤケクソだぁ! かかってこいセレスちゃん!」
「はい! もちろん!
2人居れば、可愛さ100倍のいやらしさ1000倍です。味わい尽くすなら、一晩じゃ足りなさそうですね!」
そう言ってとっても機嫌が良さそうに、セレスちゃんは動けない私たちに襲い掛かってきた。
薄暗く狭い部屋の中で、ふとイリュメリアはため息交じりに愚痴をこぼす。
魔王の腕を巡る一連の騒ぎは、イリュメリアたちがセーフハウスである「宵闇の鴉」本部に辿り着いた時点で既に収束したと言って過言ではないだろう。
狂信者共は「宵闇の鴉」の本部たる娼館をただの屋敷と侮って突撃を繰り返しているが、クランテットにおける一大勢力の本部を名乗るだけあって、見た目とは裏腹にそこいらの要塞よりも落とせない造りになっている。その上、中に潜んでいるのはこの街でも有数の暗殺者集団だ。
もう何をせずとも撃退は可能だろう。なんなら、街に居る狂信者の内の何人が「宵闇の鴉」の魔手から逃げ切ることができるかで賭け事をしても良い。
今後のことについてもさしたる問題は無い。
イリュメリアたちを追うことに夢中になってもぬけの殻となった屋敷から悠々と逃げ延びたジューディス家当主、ダンピエール・ジューディスとの合流により、「宵闇の鴉」頭領ダンウェル・ノックピードとの交渉が非常にスムーズにいくようになったのだ。
これについてはイリュメリアが舐められていたというよりも、彼の生存が確定したことで、ダンピエールの死に付け込んで介入してくる他の貴族を考えなくてもよくなったことが最大の理由だろう。
未だ正式に家を継いでおらず、また今後も貴族の責務ではなくジューディス家の責務を優先することを確定路線としていたイリュメリアでは、どうしても武器にすることができなかった貴族であるが故の利権をようやく扱えるようになったのだ。
これで交渉が進まない訳が無く、隠遁するにはもはや無用である貴族としてジューディス家が持っていた理研の大半を「宵闇の鴉」に譲渡することと引き換えに、今後の旅路に必要な物資の確保や、イリュメリアたちがこの街に居たという痕跡の抹消などを行うことができた。今後、魔王の腕と共に行動する身ともなれば、万が一にも狂信者共に嗅ぎつかれる訳にはいかないと考えての判断だが、間違ってはいないはずだ。
残った利権についても、今でこそダンピエールが保持してはいるが、今後「宵闇の鴉」との関係を深めていくと共に段階的に譲渡していくことが決まった。ジューディス家はもはや、イリュメリア一行が魔王の腕と共に新たな土地に行き、そこでの安全を確保できるまでの目晦ましとして存在していれば十分という考えがその根底にはある。
貴族であることなど、もはや不要。今のイリュメリアに必要なものは少々の路銀と安全な土地、そして道行く人々に紛れる凡庸さだ。
目立つ上にこれまでの人生で大して役に立った記憶も無い貴族籍など、ダンウェルが利用ついでに処理してくれるのなら万々歳といったところだ。それが目当てでロッシーニュの排斥に手を貸していたようなものだということで、ダンピエールもその事について了承している。
これまでのことについても、これからのことについても、もう頭を悩ませるようなことは残っていない。
全ては順調に進んでいる。何も憂うことは無い。
「……イリュメリアさん、この拘束を解いてください。こんな状態ではその大きな胸にしゃぶりつけません」
「もう少し拘束を増やしておいたほうが良いかしら。今の貴女を解き放ったら万が一にも綺麗な身体でいられなそう」
――目の前に居るたった1人のケダモノを除けば、この恐ろしく厄介なセレス・ベルックムーンという恩人さえどうにかなれば、もう何も問題は無いのだ。
「そんな事言わないでください。イリュメリアさんはとっても綺麗な身体をしていますよ? 大きな胸、白くてきめ細かい肌、甘い臭い――こうして目の前に居るだけで、興奮しちゃいます」
「……流石にここまで倫理観が飛んでいると、マリーの恩人とは言え放流したくないのよねぇ……
魔王の魔力を受けていたみたいだけど、相性が悪かった――いや、良すぎたのかしら」
そう、丁寧な口調ながらも倫理観の欠片も感じられない台詞を発しているセレスこそ、今回の事変における最大の問題児なのだ。
というのも、今回の事変は魔王という超存在が絡んでいる以上、どうにかして秘匿しなければならないものだ。故に成り行きでこの事変に深く関わることとなったミーシャとセレスの扱いは、それで助けられたとはいえ困りものではあった。
ミーシャについては適当に篭絡すればどうにでもなりそうな気配があるし、どうにでもできる自信がイリュメリアにはあった。適当に口止めをして別れるという選択も、監視がてら手駒として今後隠遁の地を探す旅に同行させるという選択も意のままだろう。
だがセレスについてはそう簡単に話が進まない。セレスは情報の秘匿という観点からすれば見逃すわけにはいかず、しかし「宵闇の鴉」を含めたこの場の誰にとっても手に余る存在であった。
ミーシャに曰く元からこういう性癖の人間だったらしく、さらに言えば彼女自身ミーシャを追い求めてクランテットまで来たらしい。
そんな彼女にとって、欲望の具現たる魔王との親和性は非常に高かったのだろう。セレスは今、魔王の魔力を全身に浴びた影響でその行動原理の大半が欲望によって支配されている。要するに、交渉と言うものが成立しないのだ。
それだけならまだしも、魔王の影響で肉体まで強化されている。もしセレスが暴走した場合に彼女を安全確実に抑えられるのがダンウェルと、少々危険度は上がるが同じく魔王の魔力を受けたマリーしかこの場には居ない。
そして前者はダンピエールとの交渉で動けず、後者は危機が去ったものと思い込んで安らかな寝息を立てている。
魔王の左腕を得たイリュメリアについてもその魔力の大きさに体が耐え切れていないのか、時を追うごとに体が重くなっていくばかりでセレスを抑える事など到底できそうにない。
つまり彼女を自由にした状態で交渉など始めようものなら、「報酬はお前の身体だ」などと言って力尽くで押し倒しされ、場合によっては体力の無いイリュメリアが過労で死ぬまで行為に付き合わされる可能性すらあるのだ。
「第一、ミーシャと私を引き剥がしたのはイリュメリアさんじゃないですか。折角の再開なんですから、今日は一晩中ミーシャと楽しむつもりだったのに……責任取ってくださいよ、責任」
「一晩中も何も、ココに辿り着いた頃にはもう空が白んでいたじゃないの」
「一晩中も一日中も、私が満足するまでという意味では大して変わりありませんよ。御託は良いので、早くおっぱいをください」
拗ねたようなふくれっ面で恐ろしいことを言ってくるセレスだが、その目は本気だ。こうして拘束椅子に縛り付けていなければ、あらゆる意味で会話などできていなかっただろう。
セレスの魔手がミーシャに飽き足らずマリーやイリュメリアにまで伸びてきた際、とっさに口に含んだ痺れ薬を口移しで飲ませることに成功していなければ一体どうなった事か。
流石にミーシャにセレスを拘束している所を見られるとややこしくなると考え、動けなくなった時にセレスからミーシャを引き剥がしてマリーと同じベッドに放り投げておいたのだが、今となってはそれすらも悪手だったように思える。恐ろしいことに、今セレスの前にある捕食対象はイリュメリアただ1人なのだから。
「もう完全にケダモノねぇ……まあ、ケダモノならケダモノなりの対応をするしかない、か」
もはやセレスは生きる危険物と言っても過言ではない存在だ。だがしかし、いや、だからこそ手懐ける価値のある人間でもある。
今後、クランテットを離れるほどに暗殺者のような手合いは減っていくだろう。そして代わりに、野盗のような集団との正面衝突が多くなるはずだ。
マリーは正面戦闘を得意としておらず、その隙をロッシーニュに突かれたことを考えれば、マジックポーションも無しにロッシーニュの猛攻を捌き切ったセレスは戦力として非常に頼りにできる。魔王の魔力で身体能力が強化されているのならなおさらだ。
寝首を掻かれ――もとい、寝込みを襲われる心配こそ尽きないものの、手綱を握ることさえできれば、非常に強力な駒となり得る存在なのだ。
そしてセレスを靡かせるのなら、話は単純。女に飢えているというのなら、それを用意してやればいい。
幸いなことに、イリュメリアよりも美味しい女ならもう手の内にある。
そもそもがセレスから取り上げたものだが、獣の躾けは「待て」から教えるべきというのがイリュメリアの持論だ。
「飢えた獣を手懐けるなら、まずは餌から用意しないとね。……ミーシャちゃんって本当、便利な女の子よね」
---------------------------------
「たたたた、大変だよマリーちゃん! 決戦の時が来ちゃったよ!」
薄暗く魔力灯が光る地下室の中、私は寝ぼけまなこを擦るマリーちゃんにそう宣言をする。
「んぅ……ミーシャは何を言っているんですか? 決戦ならもう終わったじゃないですか」
「甘い、甘い、甘すぎる! 全盛期のスラみぃよりも甘いよマリーちゃん! セレスちゃんはそんな生半可な覚悟で相手できる嫁じゃないっ!」
だがしかしマリーちゃんは私の言葉にしっくりきていない様子で、ぬぼーっとした表情になっている。
メイドさんにあるまじき、隙だらけな気配を漂わせている風だ。隙を見せるのは信頼の証だって本に書いてあったからそれはそれで嬉しいのだけれども、今はそんなことを考えている暇は無い。
「セレ……セレスさんがどうかしたんですか? 格好良い人だとは思いましたけれど……」
「だよねだよね! セレスちゃんは格好良くて、頼りになって、気遣いもできる自慢の嫁――じゃなくて、そのセレスちゃんとの決戦なんだよ!」
今朝――と言っても地下室に居るから分からないだけでもう昼過ぎらしいが――イリーちゃんが寝起きの私にこう言ってきたのだ。「セレスちゃんが私に会いたがっている」と。
そう、ついにこの時が来てしまったのだ。リベンジのための下準備が、何ひとつ整っていないこの状況で。
そもそも私の考えでは、セレスちゃんにリベンジするのはイリーちゃんマリーちゃんの攻略完了後。「夜の戦いも数だよ大作戦」の元、3人がかりでセレスちゃんに攻め込む予定だったのだ。
しかしそのためには3人の高度かつ柔軟な連携が不可欠。しかしいくらピンチを救ったことで2人好感度がうなぎのぼりしていたとしても、目と目で語り合うコンビネーションを身に着けてはいない。
つまり、私は今から別の作戦を立ててセレスちゃんに立ち向かわなければならないのだ。
超究極最強魔導士らしく正面から真っ向勝負することも考えたけれども、超究極最強魔導士である私の明晰な頭脳はすぐにそれが愚行であると気付いた。
セレスちゃんには正妻の強みとも言うべき、優しくキスされるだけでも、ふにゃぁ、って力が抜けちゃう特殊能力があるのだ。万が一にも激しいキスなんてされたら、ドキドキで意識が飛んじゃうかもしれない。いや、もう既に意識を飛ばされたような――?
……とにかく、対策を練らない事には前回の二の舞になってしまう事は間違いない。今度も押し倒されて滅茶苦茶にされてしまったら、ハーレムの主としての威厳が無くなってしまう。
そして、その対策を立てる時間が全然無いのだ。イリーちゃんに頼み込んでなんとか陽が沈むまで時間を稼いでもらうよう頼んだのだけれども、それでも全然時間が足りていない。
切り札ならあるけれども、それは本当に最終手段。下手をするとセレスちゃんの好感度が下がっちゃうかもしれないし、何よりそれを使ってなお押し倒されたりでもしたら、もう本当に打つ手がない。
これを緊急事態と言わずして何を緊急事態と言う。だがこれだけ言っても、マリーちゃんはなんだか危機感が薄いように見える。
「えーっと……好き合っているならそれで良いんじゃないんですか?」
「もー! マリーちゃんってば分かっていないよ! 百合ハーレムっていうのはね、ハーレムを名乗る以上はワントップじゃないといけないんだよ!」
押し倒される私になるな。押し倒す私になれ。
超究極最強魔導士たる私の弱点が愛であることは、格好良いから否定はしない。
だが最強でありながら、なお進化し続けてこその超究極最強魔導士というもの。「ハーレムを束ねし者、慢心することなかれ」とはかの文豪、グースビック・ギュールの言葉だ。
セレスちゃんは本妻だが、それにかまけてズルズルと引っ張られる関係になってはいけないということだ。だから私はここで、意地でもセレスちゃんよりも上に立たなければならない。
「正直良く分からないですが、それって私に言ってもどうにもならない事じゃありませんか?」
「それをどうにかするのが作戦会議だよ! ほら、何か良いアイディアとかない?」
「そんなことを言われても……運命だと思って諦めるというのは?」
「ひ、酷い?! なんでそうなるのよさ?!」
「だって経験の無い私でさえ押し倒せる自信があるくらいですから。どうせミーシャなんて人の上に立てるような人間じゃないんですから、観念して私と一緒にメイド業に精を出していれば良いんです」
「そ、そんなことないよ! 私、カリスマ性抜群だよ! 俗に言うトップレディだよ!」
マリーちゃんに助けを請うも、無理だと言うばかりで何も案を出してはくれない。
だがそれは無理も無いことだ。なにせマリーちゃんは寝起きの恋愛初心者。おまけに攻め込むには向かないご奉仕属性の頂点たるメイドさん。
恋愛マスターである私ですら対応しきれないこの状況において、頼りにできる相手ではないのだ。
それ以前に、なんでモテモテ百合ハーレム系ご主人様属性の私までメイドさんになることになっているんだろう。セレスちゃんとの決戦という差し迫った問題さえなければ、今すぐにでも問い詰めたい問題発言だ。
「あなたたち、何漫才をやっているのよ……マリーもようやく起きたようで何よりよ」
そんな時にタイミングよく現れるは我が百合ハーレムのお嬢様枠ことイリーちゃん。ちなみにメイドさん枠はマリーちゃんだ。
さっき起きた時にも会ったけれども、昨日が慌ただしかったからかこうして3人揃うのはなんだかしばらくぶりな気がする。
「も、申し訳ありませんお嬢様! 今から身なりを整えますので少々お待ちを――」
「交渉事に赴く訳でもなし、気にしなくても良いわよそんなもの。
それより話は聞いていたわ。自称トップレディのミーシャちゃんごときが今のセレスを押し倒すって話でしょ?」
「ねえ、さっきからどうせとか自称とかごときとか、やたらと私を見下す発言が多いのはなんで?! ねえ!」
「ふふ、教えてあげない。でもそういうことなら、私からちょっとした提案があるわ」
なんだかハーレム的に聞き捨てならない言葉が聞こえるもイリーちゃんはからかうように笑い、言葉を続ける。
そしてその言葉は、八方ふさがりだった今の私のとってまさしく救いの言葉だった。知的系お嬢様の気配を漂わせていただけあって、こういった知恵回りではすごく頼りになる。
「何々? 何するの?」
「まあそう焦らないで……マリー、ちょっとこっちに来て」
「はい、お嬢様」
がっつきそうになる私を手で押さえつつイリーちゃんはそう言うと、毒のあるミステリアスな笑みと共にマリーちゃんを招き寄せて何事かを耳打ちする。
するといったい何を言われたのか、マリーちゃんは途端に顔を真っ赤にしてあわあわと何事かを言おうとしては口ごもり、イリーちゃんと私を交互に見て激しくうろたえている。
「どうマリー、できるかしら?」
「ぁぅ……でも、私にそんな事……」
「でも、興味はあるんでしょう? だってこんなの、あなたの部屋に飾ってあったグレートソードの裏に隠してある小説に書いてあった事と、大して変わらないじゃない。
なんだっけ、確かタイトルは「先輩メイドの妹メイド完全調きょ「なんでその本の存在を知っているんですかお嬢様ぁ?!」」
どうしたことかと尋ねようとした矢先、部屋に響く声でマリーちゃんが吠える。
その直前にイリーちゃんが何事かを言っていたような気もするけれど、地下室故の反響で耳がくわんくわんして上手く聞き取れなかった。
ただなにかとんでもないことを暴露されているようで、マリーちゃんはもう見て分かるほどに焦っている。
「暇つぶしにマリーの部屋を漁った時に見つけて、必死に隠している割に開き癖が付いていたのが微笑ましくて記憶に残っていたのよ。
ついでに言えば、クローゼットの奥にしまい込んで隠しているおもちゃのことも知っているわ。値札が付きっぱなしで、大人ぶって買ってみたは良いものの怖くて一度も使えませんでしたって言っているみたいで、ちょっとほっこりしちゃった」
「お、お、おじょ、おじょじょ……っ?!」
「ちょ……何の話しているのか分からないけれどイリーちゃんストップ! マリーちゃん泣いちゃいそうだから!」
それがただ口が滑っただけとかだったら私も止めはしないが、それを言うイリーちゃんの愉悦に浸る笑みにパワハラのようなものを感じ、全力で待ったをかける。
百合はいちゃらぶ、無理矢理は良くない。
主従だろうと百合の作法は必要なのだ。そしてそれがちゃんと伝わったのか、イリーちゃんはすぐに優しい笑みを浮かべてマリーちゃんを労うようにその頭を撫でる。
「――とまあ、マリーの性癖はさておき、練習みたいなものだと思えば良いのよ。どうせ相手はミーシャちゃんなんだから、何やってもセーフよ」
「練習、ですか……?」
「そう、練習。ミーシャちゃんにとっても、マリーにとってもね。
それにマリーだって、ミーシャちゃんの事は嫌いじゃないでしょう? ――初めての友達なんだもの。ちょっとくらいサービスしてあげても良いんじゃない?」
イリーちゃんがそう言うと何度かの深呼吸を挟んだのち、震えながらも小さく頷くマリーちゃん。
そしてぎこちない動きでこちらに向き直るマリーちゃんは顔から火が出そうなくらい真っ赤で、でもその瞳はしっかりと私を見ていて、かと思えば急に視線が揺らぎだして――なんだかすごく、挙動不審だ。
「ミーシャならセーフ、ミーシャならセーフ、ミーシャならセーフ……そうだ、何を恐れる必要がある。ミーシャが相手なら万が一にも貞操の危機は無いじゃないですか。相手は同性愛者とは言え所詮はミーシャ、あちらからしてくることなんてキスとかハグとかそのくらいのちょっと深めのスキンシップ程度に決まってる。それなら友人としても受け入れられる範疇で、ミーシャと親友になるために必要なステップの1つだと考えればむしろこちらからやったところでさしたる問題は――」
「あ、あの、マリーちゃん、どうしたの? いきなり独り言を言いだし「ミーシャ!」ひゃいっ?! な、何事?!」
「これはあくまでも友人としてのスキンシップの範疇ですから! 生涯誰も押し倒せないであろうミーシャに対するお情けのサービスですから! ミーシャが言っているようなハーレムみたいなそれとかじゃ、全然ないんですから!」
そう叫んでから飛びついてきたマリーちゃんの身体は、ちょっぴり震えていた。
「と言う訳でミーシャちゃん、今からマリーがミーシャちゃんの相手をしてあげるわ。
本番前の練習試合か、そうでなければ緊張をほぐすマッサージみたいなものだと思って受け入れてあげて」
飛び込むように抱き付いてきたマリーちゃんに押し倒され、ベッドに寝転がる私たちに向かってイリーちゃんが優しくそう語りかけてくる。
「いやその、私はマリーちゃん大好きだから全然オッケー、むしろ大歓迎なんだけれど……マリーちゃんは嫌じゃないの? この前、ハーレムじゃなくて友達が良いって言って……」
「ミーシャなら! セーフ! なんです!」
「お、おぅ……じゃあその、お願いします……?」
対するマリーちゃんは私の胸に顔をうずめたまま動かないで、ぷるぷると震えている。
怖いのか、それとも緊張しているのか。ただどちらにせよ覚悟だけは決めたらしく、その瞳には力強い光が灯っている。
「……これは友達のキスですから。勘違いしちゃダメですからね」
「うぅ……マリーちゃん……」
そう言ってゆっくり、震えるマリーちゃんの唇が私の唇と重なる。
触れるだけの、お友達キス。でもずっとくっついたままの、長いキス。
その間にゆっくりと手が背中に回ってきて、寄り添うような優しいハグをしてくれる。身体が密着して、すごく温かい。
――マリーちゃんは酷い子だ。
友達だって言っている癖に、勘違いしないでって言っている癖に、こんな事されたらもっともっと好きになっちゃう。いっぱい、いっぱい勘違いしちゃう。
こうして抱き合っていると幸せで、もっとずっと傍に居て欲しいって思っちゃうのは、きっとマリーちゃんの卑劣な罠だ。後にはセレスちゃんが控えているっていうのに、こんなの絶対練習なんかじゃない。
「ほらマリー、折角なんだから服も脱がしてあげる。可愛い身体しているんだから、ミーシャちゃんに見せてあげないと」
「うぅ……はい、そうですよね。友達とはいえそういうことをするんですから、服は、脱がないと……」
そうして私から触れ合っていた唇をはなして、私のお腹の上で馬乗りになったマリーちゃんがするすると衣擦れの音を立てながらメイド服を1枚1枚脱がされていく。
イリーちゃんがマリーちゃんの服を剥いでいくたび、露わになっていくマリーちゃんの綺麗な肌。マリーちゃんはそのたびに顔を赤らめていたけれど、むすっとした表情なのにどこか色っぽいその仕草に目を奪われる。
「下着は脱がさないほうが良いって言っていたから、まずはここまで。どう? ミーシャちゃん。私のマリーは可愛いでしょう?」
そうして下着だけになったマリーちゃんの艶姿に、思わず息を飲む。メイド服を脱いでなお、太ももに張り付くガーターベルトの魔力が私の心を掴んで離さない。
メイド服を脱いだマリーちゃんは、もうメイドさん属性とか関係なしに素敵な女の子になっていた。そんなマリーちゃんに今一番近いところに居る私は、そんなマリーちゃんと見つめ合っている私は、きっと幸せ者なんだと思う。
「そ、そんなにまじまじ見ないでください。ミーシャの癖に生意気です」
「で、でも、マリーちゃんすっごく綺麗で……さ、触っても良い?」
「ぅ……ま、まぁ、良いでしょう。ちょっとだけですよ」
そう言って私の手を取り、おへその辺りに持っていくマリーちゃん。おそるおそるその肌に触れるとマリーちゃんの体がピクリと震え、そして即座に手首を掴んでおへそから手を引き剥がした。
「やっぱりダメです。ミーシャの分際でがっつきすぎだと思います。セクハラです」
「そんなぁ……」
ベッドに私の手を抑え付けながら、息も荒くそう言うマリーちゃんに縋るような視線を投げかける。
ほんの一瞬触っただけでも分かる、あのすべすべぷにぷにのおなか。もっとなでなでして、その感触を感じていたいのに。
見せるだけ見せて、ほんのちょっぴり触らせて、それでやっぱりダメだなんて反則だ。ずるっこだ。
「マリーが脱いだんだから、ミーシャちゃんも脱ぎ脱ぎしましょうね……って、あら? ローブから何か落ちてきたけれど、これは?」
そうしてマリーちゃんと見つめ合ったまま動かずにいる私に向かって、イリーちゃんが撫でるように手を伸ばす。その手が私の服を根こそぎ剥ぎ取ると同時、ベッドの上にいくつかの小瓶が転がり落ちた。
同じラベルの張られたそれらを摘まみ上げ、まじまじと観察するイリーちゃん。ただ、その質問に答えるには少々の恥じらいがある。
「それは私が昔作った、私の百合ハーレムの最終手段の……お、男の人のアレが生えてくるマジックポーションだよ」
それが何かと問われれば、今の私がセレスちゃんに対抗するための最終手段と言っても良いだろう。
名付けて「子作りするという名目の下一方的上位の立場でイチャイチャしよう大作戦」。ただし相手の同意を得ないで使ったり、勝手に飲んで無理矢理なんてしたら即座に破局してしまう恐れもあるハイリスクな代物。
だからあまり使いたくはないのだけれども、それでも切り札は切り札。あると無いとでは、心の持ちようからして違う。
「へぇ……零しちゃってもいけないし、これは私が預かっておくわね」
「で、でも、それが無いといざという時にセレスちゃんに反撃できない……」
「セレスが来たらちゃんと渡すから、安心して頂戴。……ほら、今はマリーだけを見てあげて? ミーシャちゃんが私とのお話に夢中になっているものだから、ちょっと拗ねちゃっているわよ」
そう言われて向き直れば、ふくれっ面のマリーちゃんが目の前に。私の両手を抑えたまま、全身で押さえ付けるように顔を近付けている。
不機嫌オーラ全開だ。好感度ダダ下がりなのが目に見えていて、今すぐにでもフォローしないと大変そう。
「ぁ、ぅ……ご、ごめんね? 今のはちょっと気を取られただけで――んぅっ?!」
そう思ってごめんなさいすると同時、マリーちゃんが私をベッドに押し付けるように力強くキスをしてきた。
今度は舌も入れてくる、らぶらぶのキス。舌先と舌先が触れ合う、ちょっぴりエッチなキス。
「さっきのキスは、友達のキスにしては軽すぎましたか? 私、今だけはミーシャのことしか考えていませんって、伝わっていませんでしたか?
こっちはこんなに目一杯頑張っているのに、それを無視するなんて……やっぱりミーシャは生意気です」
そう言って何度も何度もキスしてくるマリーちゃん。激しいのになんだかとっても健気で、マリーちゃんがどんどん愛おしく思ってしまう。
そうして唇が触れ合うたび、舌が絡み合うたび、どんどん何も考えられなくなる。もう心臓のドキドキが収まらない。口の中でくちゅくちゅと水音が鳴るたびに、頭の中が真っ白になって全身がかぁー、って熱くなる。
ばかになっちゃいそう。でも、幸せ……
「ひゃっ、冷たっ?! 何々、なんなの?」
そんな幸せに浸っている時間は、私とマリーちゃんの間に滑り込んだ冷たい何かに驚かされて途中で打ち切られた。
何事かと思ってその冷たい何かに触れてみれば、それは透明で、なんだかぬるぬるしている液体だった。振り向けば、どうやらイリーちゃんが脇から塗り込んだものらしい。
「え、何このぬるぬるしたの。な、なんだかすごくえっちぃよ……」
「ああこれ? セレスの服の中に入り込んでいたミーシャちゃんのペットの……スラみぃちゃんだっけ? を水に浸していたらできたものよ。
マリーは知識ばかりでこういう経験が無いから、雰囲気作りにこういうものがあったほうが良いかと思ったの」
「も、もう雰囲気は十分だよぉ……もう私、頭の中とろとろになっちゃいそうで……」
「でもマリーは乗り気よ? ほら、キスだけじゃなくて、全身でマリーを感じてあげて」
そう言ってマリーちゃんに向き直れば、やっぱりふくれっ面の不機嫌顔。そしてさっきよりも少しだけ激しくなったキス。
どうやら、マリーちゃんから目を逸らしてはいけないらしい。けれどイリーちゃんの手で全身に塗られたぬるぬるは気に入ったみたいで、私の体の上を滑るように動かしながら、全身を密着させてくる。
それに時折首筋を舐めてきたりして、くすぐったさと一緒に気持ちの良い波が背筋を駆けていく。なんだかさっきから、気持ち良くなってばかりだ。
「マリーちゃん……気持ち良いよぉ……マリーちゃん……」
「ミーシャ……ミーシャぁ……」
甘く、囁くように互いに呼び合う私とマリーちゃん。いつまでも続けば良いなって思ったその時間も、しかしイリーちゃんの手によってまたも遮られた。
「……ぇ、イリーちゃん、なんで私の手足をベッドに縛り付けてるの……? これじゃ私、動けない……」
「ほら、さっきからマリー、ミーシャちゃんの両手を抑えてばかりで動きにくそうじゃない。
それにマリーもまだ少し緊張してるみたいで――いきなり抱き付かれたりしたら、びっくりして暴れちゃうかもしれないから、ね?」
力の抜けた私の手足をベッドの四隅に縛られて、伸び切った状態で固定される。それと同時に、今まで触れられることの無かった場所までマリーちゃんの指先が伸びてきた。
脇に這う舌や、内ももを撫でる指先が触れる度に、背筋が痺れるような快感が頭のてっぺんまで昇ってくる。
もう全身、マリーちゃんが触れていないところなんて無い。その全身が気持ち良い。マリーちゃんが気持ち良い。もう、大好き。
「ぁぅ……イリーちゃん、今度は何?」
「アイマスクよ。マリーの呼んでた本に、視界を遮ると気持ち良くなりやすくなるって書いてあったから。
こうして視界を遮って、何も見えない暗闇の中で、マリーをたっぷり感じてあげて欲しいの」
そうしてイリーちゃんに言われるがまま、視界が革製の目隠しに塞がれる。
無くなった視界の代わりに強く感じるのは、マリーちゃんの荒い息遣い、密着する肌の温かさ。キスと一緒に私の口の中を掻き回す舌が出す、唾液の絡んだ粘着質な水音。
そんな音を聞いていると、なんだかとってもドキドキしてくる。マリーちゃんが見えていた時よりもずっと、マリーちゃんがそこに居るって強く感じる。
胸が高鳴る。体が熱い。肌に擦れる下着の刺激がもどかしい。
マリーちゃんが耳元で甘く私の名前を呼ぶたび、マリーちゃんが肌を優しく撫でるたび、ぽかぽか幸せな気分が胸の中一杯に広がってくる。
そうして自然と、両手を背に回して優しく抱きしめてくれるマリーちゃん。全身を密着させてのハグはとっても暖かくて、心地良くて。舌の絡み合う水音を子守歌に、なんだかこのまま眠ってしまいそう。
「ミーシャぁ……」
「マリーちゃん…………ん、ちゅ……」
そう、これぞまさしく私の求めていた百合。触れ合うほどの距離が幸せな、心と心の繋がり。
マリーちゃんはハーレムメンバーじゃなくて友達だって言うけれど、もういっそそれでもいい。
大事なのは心の距離。恋人と同じくらい近いところにいる友達なら、それはそれでハーレムだって本に書いてあった。
私はマリーちゃんが大好きだから、友達でもハーレムでもどっちでも良いんだ。マリーちゃんとならハーレムにはなれなくても、百合にはなれるんだから。
「2人とも、とっても仲良しねぇ……やっぱり可愛いものは、可愛いものと一緒に居るのが似合っているわ。眼福、眼福。
でもあの子にぶつけるためにはもう少し盛り上がって貰わないと困るのよねぇ……少し、イタズラしちゃおうかしら」
そうして私とマリーちゃんでいちゃらぶ空間を作っていると、イリーちゃんが優しい声音でそう言った。
それと同時、抱き合っていたマリーちゃんが甲高い声と共にビクリと身体を跳ねさせる。アイマスクで閉ざされた視界の先で、イリーちゃんがまた何かをしたらしい。
「ひゃぅ?! お、お嬢様?!」
「ほら、ミーシャちゃんとのスキンシップは止めちゃダメよ? せっかく良い雰囲気なんだから、このままお友達として既成事実を作っちゃわないと」
「で、でもそこは……ぁ……ぅう……っ!」
「初めてのお友達なんだもの、もっと仲良くなりたいでしょう? ほらマリー、頑張って!」
訳も分からないままに苦しげな声を上げるマリーちゃん。でもそんなマリーちゃんはすぐに震える身体を擦り付けて、何か必死さを感じさせる切ない声で私を何度も呼ぶ。
「ど、どうしたのマリーちゃん?! 痛いの? 苦しいの?」
「なんでもないで……んぁっ?! ……な、なんでもない、です……! ミーシャは黙って私に押し倒されてれば――ひゃぁっ?!」
縋るような、がっつくような、余裕の無さを感じる激しいキス。何かにじっと耐えるような、締め付けるようなハグ。
でもずっと体はビクビク震えていて、なんだかとっても辛そう。そんなマリーちゃんが心配で、もう気持ち良いとか言っていられない。
「イリーちゃん、何やってるの?! やめてあげてよ、マリーちゃん苦しそうだよ!」
「何してるかって? ……ふふ、教えてあげない。
それにマリーも苦しんでいる訳じゃないの。ミーシャちゃんに頼れる格好良い自分を見せたくて、情けない気持ち良い声を我慢しているだけなの。ね、マリー?」
「ぇ、ぅ、うぅ……お、お嬢様……お願いです……も、もう、やめ、て……ゆる、して……」
「マリーったらもう、質問にちゃんと答えないとやめてあげないわよ。それにもしちゃんと答えても……今のマリーの蕩けた顔、すっごく可愛いからやめたくないのよね」
そうして聞こえ始める、追い立てられるようなマリーちゃんの悶える声。
でも手足を縛られて、目を塞がれて。マリーちゃんを庇うこともできなければ、何をされているのかすらもわからない。
ただ、マリーちゃんの発する甘い声の誘惑だけが、私の耳に残る。
「尻尾を付け終わったから、後は耳付きカチューシャを付けて……はい、これで犬マリーの完成! とっても可愛いわね、ミーシャちゃんにも見てもらいましょうか」
「ダ、ダメ! ミーシャ、見ないでぇ! 見ちゃ、だめぇ……」
「ミーシャも見たいでしょう? とろとろでエッチならぶらぶ顔。わんわん可愛い犬マリー。
今なら私が押さえているから、ミーシャでも簡単に押し倒せちゃう。ミーシャが見たいって言ったら、手足の拘束もアイマスクも、いますぐに外してあげるわよ?」
「お願い、ミーシャ……」
「……分かった、見ない。マリーちゃんが見られて嫌なら、私は見ない! だってマリーちゃんは、私の友達だもん……!」
「ミーシャ……!」
そう言って目をぎゅって瞑って、イリーちゃんに無理やりアイマスクが取られてもマリーちゃんが見えないようにする。
マリーちゃんの可愛い所を見たくないかと言えば、実は見たい。でもマリーちゃんはもう今にも泣きそうな涙声で、ここで見ちゃったら本当に泣いちゃいそうで。
だったら、そんなの見たくない。マリーちゃんは大好きな友達で、私のハーレムメンバー候補で、私が泣かせちゃいけない女の子だから。
「素敵なお友達に出会えてよかったわね、マリー。ミーシャちゃんも、ずっとマリーの友達でいてね」
マリーちゃんの甘い声はもう聞こえなくて、代わりに聞こえてくるのはイリーちゃんの優しく包むような声。
さっきまでのいじめっ子声とは全然違う、慈しみまで感じられる温かい声だ。
「……あれ、もしかして試してたの?」
「マリーって結構暗い生い立ちなのと、お友達ができるのなんて初めてだから心配になっちゃってね。
マリーが可愛いことになっているのは本当だけれども、ここで見るって言ってたら――ちょっと幻滅していたかも」
つまりイリーちゃんは、私とマリーちゃんが上手く付き合っていけるかが心配だったらしい。
ある意味、当然だったのだろう。イリーちゃんはマリーちゃんのご主人様。つまりは姉のような存在。
大切な妹分と一緒に居る人が悪者だったら嫌に決まってる。ましてや百合ハーレムっていって二股三股宣言をしているものだから、その心配もひとしおだったのだろう。
「ミーシャ……だいすきです……ずっと、ともだち……」
「私も、マリーちゃん大好きだよ……」
結局私はイリーちゃんに認められて、その心配は杞憂に終わったみたいだけれど、それを無駄なことだとは思わない。
だってこう言って胸元に擦り寄ってくるマリーちゃんの姿は見えないけれども、なんだか心の深いところで繋がれたような気がしたんだから。
「さて後は仕上げに、仲良しのマリーとミーシャちゃんを首輪で繋げて逃げられないようにするだけね」
「ほぇ? え? 逃げられないように? なんで?」
マリーちゃんと友情を確かめ合い、でも結局目を塞がれて手足を縛られたままの私に向かって、イリーちゃんがふと思い出したようにそんなことを言う。
続けて首にベルトのようなものを嵌められて、そこについた鎖の音が部屋の中に響き渡る。
「ミーシャと……いっしょ……?」
「そうねー、マリーの大好きなミーシャと一緒ねー。一緒だからセレスに襲われてもがんばれるわよねー」
「…………え? セレスちゃん?」
イリーちゃんの棒読みな問題発言の直後、部屋の扉がキィ、と音を立てて、廊下からの空気が入ってくる。
そその空気に交じって私の大好きな、でも今だけはちょっと勘弁してほしい女の子の匂いを感じる。――セレスちゃんが、やってきた。
「――目の前でずっと見せつけられているだけって、なんてひどい拷問かと思いましたよ。もういい加減、混ざっても良いですよね?」
「ええ、存分に。それにほら、我慢した分良いものがあるわよ。ほらコレ、ミーシャちゃんの切り札だって」
そう言うイリーちゃんがセレスちゃんに渡したのは――まさか、私の特性マジックポーション?!
え、なんで……まさか、セレスちゃんが来たら渡すってそう言うことだったの?!
「い、イリーちゃん、もしかして、セレスちゃんとグルだったの……?」
「うーん……一概に共犯とも言えないけれども、まあそんなものよ。
そもそも、私は性格悪いって昨日言ったじゃない。そんな自分を好きになれって言ったのは、ミーシャちゃんよ?」
「でも、でもでもでも! そんなのって酷い! 私、セレスちゃんに滅茶苦茶にされちゃう! 頭おかしくなっちゃう!」
「大丈夫、マリーも一緒だから頑張れるわ。私は遠巻きに眺めたりちょっかいを出したりして楽しんでいるから、皆で楽しんで頂戴」
私を絶望の淵へと追いやるような事を言いつつ、イリーちゃんはセレスちゃんを呼び寄せる。
もはや逃げ場は無い。戦う手段は奪われた。残る道は、マリーちゃんとの友情パワーで耐え忍ぶのみ。――でもそんなの絶対無理だよ……
「ぅう……ううううううう! もうヤケクソだぁ! かかってこいセレスちゃん!」
「はい! もちろん!
2人居れば、可愛さ100倍のいやらしさ1000倍です。味わい尽くすなら、一晩じゃ足りなさそうですね!」
そう言ってとっても機嫌が良さそうに、セレスちゃんは動けない私たちに襲い掛かってきた。
0
お気に入りに追加
181
あなたにおすすめの小説
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる