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2.お嬢様&メイド編
9.くっ……封印されし我が左腕が疼く……っ!
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私は無双した。超究極最強魔導士の名に恥じない大活躍をした。
立ち塞がる敵を一撃で倒し、押し寄せる悪漢を華麗なフライトテクニックですり抜け、その奥に潜む黒幕っぽいのを数撃必殺!
完璧だ。
ちょっと爽快感が足りなかったような気もするけれど、これだけ良い所を見せ続ければイリーちゃんも私にメロメロだろう。
そう思ってイリーちゃんに視線を向ければ、魔王の左腕らしき干物をじっと見つめて物憂げな溜息を吐くイリーちゃんの姿。
メロメロという雰囲気ではない。おかしい。
「でもまあ封印が解けている、って感じではなさそうね。間に合ったようで何よりよ」
そう言うイリーちゃんは何かと上の方に視線を向けている。もしかしてマリーちゃんが心配なんだろうか。
さっきは大丈夫って言っていたけれど、やっぱり不安なのだろう。こういう時に頼りになる格好良い台詞を言えればイリーちゃんの好感度がぐっと上がるんだろうけど、こういう下心が混ざるととっさには思いつかないのが殺し文句って奴だ。
だってマリーちゃんのところまで戻って「ほら、大丈夫だった」って言えれば、それで済む話だから。下心に下心を重ねてまで好感度を上げようとするのは、綺麗なハーレムじゃあない。大事なのは真心だ。
だから早く屋敷から出て、おじさんの秘密基地に戻ろう。そう言おうとイリーちゃんの裾を引っぱろうとして、ふとそれが目に入った。
そこは干物となった魔王の腕の、大体手首の辺り。
――なんだかすごく気になる継ぎ目のある、その一点。
「ん? あれ? そのミイラ、なんだかおかしくない?」
「え? ミーシャちゃん、何を言って――」
「ほらここの継ぎ目なんだけれど……ちょっと見て?」
合わせ目消し、という作業がある。
これはゴーレムを部品から組み上げる際に、部品と部品の接合部分を目立たなくするためにあれこれと手を加える作業のことだ。
かくいう私もその技術は身に着けていて、かつて修行をサボって『剣と魔法をメカメカしく殴り飛ばす転生録(グースビック・ギュール著)』に出てきた最強の魔導ゴーレム『グラントリオンV』を挿絵から完全再現した際に、これでもかというくらいその技術を磨き上げた過去を持っている。
だからこそ、1人のゴーレムモデラ―としてすごく気になるのだ。この微妙に合わせ目を隠し切れていない、魔力が漏れ漏れで、さっきから急にグラグラしはじめて、今にもポロっといっちゃいそうな手首回りが。
「継ぎ目? そんなものがどこに――あるわね、継ぎ目」
「でしょ? なんだろ、これ」
今、気にすることじゃあないかもしれない。そんな事よりも大事なことがあるかもしれない。もしかしたら、この問答の時間がマリーちゃんをピンチにしちゃうのかも。
でもこういう疑念は大抵フラグってやつで、早めに解消しておかないと後々大変なことになるって本に書いてあった。
それにこの溢れ出る魔力の流れを見ていると、虫の知らせっていう奴なのか心がぞわぞわしてくる。放っておいたらダメだぞって、本能に近い何かがそう言っているのだ。
だから私はこれを見過ごすことができない。そして言葉にせずともそれが通じたのか、イリーちゃんは顎に手を当て、思案顔になる。
「あれ、でもなんで魔王のパーツに継ぎ目なんてあるんだろう? 手首から先は魔王っぽいオーラが出ていないし、偽物なのかな」
「これだけの魔力を放っておきながら、本物ではないというのは考えたくないわね。この干物は間違いなく、魔王の左腕の成れの果てよ。
――なら手首から先は――お父様が知らない筈が無い――ということは手首はお父様の管理下に――」
そう言ってイリーちゃんは何事かを呟き始める。早口で、小さい声で、しかもなんだか難しいことばかり言うものだから、私は全然話に付いていけない。
話を振ったのは私なのに、とちょっぴり不満。
でもこういう時に、むやみやたらと自己主張しないのが大人のレディ。冷静沈着でクールビューティーな所を見せるべきポイントは今まさにここ。
「――お父様は封印のことを呪いだと――確か呪術魔法において、手は操るもの、腕は振るわれるもの――手さえどうにかしてしまえば、動かない左腕は封印として成立して――ああ、そういうこと?」
「どういうこと?」
「この手首、これ封印を解く鍵ね」
しばらく唸った後、得心のいった表情でイリーちゃんはそう言う。
封印を解く鍵。イリーちゃんが軽々しく告げたその言葉にふと疑問を抱く。
それはつまり、この継ぎ目を起点にどうこうすると魔王の封印が解けるということ。
今手首がくっ付いているということは、封印されていた時は手首がくっ付いていたということ。
――そして目の前には、今にも取れそうな手首。
「それって大変じゃない?! なんかもうポロっといきそうだよ?!」
「この左腕、封印らしい封印をされていないのよ。多分、お父様辺りが呪術魔法か何かでその力の手綱を握っていただけ。
要するに、大昔のご先祖サマは魔王の力を利用するのを諦めきれなかったってこと。魔物が犇めく森の中に腕本体を安置していたのは、どこかの代の当主が、腕をジューディス家から物理的に遠ざけようとしたんでしょう。お父様は――まあ、これ以外に魔王を抑える術を知らなかった、って辺りかしら」
そうこう言っている間に継ぎ目はどんどんと露骨になっていき、次第に裂け目すら見え始めてくる。
そしてその裂け目から――生々しく脈打つ、赤い筋張った筋肉が見えてくるのだ。
「い、イリーちゃん! 今ビクッて、ビクッて動いた!」
手首が半分近く千切れ、そしてその裂け目をこじ開けるように這い出てくる肉の塊。その肉の塊から指が1つ、2つと生えていく度に、ぞわぞわする魔力がよりその密度を濃くしていく。骨と皮だけの干物にしか見えなかった腕も、見る見るうちに筋肉の塊へとその姿を変えていく。
そして5本の指が生え揃う頃になると、腕はイリーちゃんの手を振り解くほどに暴れ始め、そしてどういう訳か直視できないほどに輝き始める。
「……ミーシャちゃん、これは一時撤退。お父様を探すわよ」
もはや太陽の如き光源と化したその腕に良くないものを感じたのか、イリーちゃんはそれを天井に向けて投げつける。そしてその腕が天井に触れると同時、轟音と共に光が弾けた。
「うにゃぁあああ?! 目が、めがぁあああ! ヤケクソ超究極バリアー!」
光はさておき、衝撃はほぼ全て天井に吸収されたのか、ほとんど私たちには伝わってこなかった。が、何か嫌な予感がしたので、私とイリーちゃんが居る辺りを結界魔法で覆い隠す。
すると予感通りというかなんというか、上から崩れた天井が石の雨となって降り注いできた。半球状に張られた結界をなぞる様にして、瓦礫が私たちの周囲に落ちてゆく。私たちが入ってきた扉も、今となっては土の下だ。
結界を張っていなかったら埋めミーシャになっていたところだった。頑張ればそこから出れただろうけれど、その時の私は間違いなく泥ミーシャ。魅力半減、可愛さ半減の切ないミーシャになってしまう。
しかしそんな姿を女の子に見せてはいけないのがハーレム主というもの。だからこそ咄嗟の判断で結界魔法を張ることのできた数秒前の私を誉めてあげたい。
「やっぱり私、隙の無い超究極最強魔導士だね――ってあれ、何か落ちてくる?」
傷一つ無いものの、強烈な光で目が眩んでいるイリーちゃんを支えながら、ふと上から何かが落ちてきている音がした。
そのばさばさと、布が風を捕まえる音。それが落ちてくるメイド服が放つ音だと気付いた頃には、眩しい視界に慣れ、目の前に降り立っていた2人の姿を視界に収めていた。
「え、ま、マリーちゃん? というかセレスちゃん?!
なんでここ居るの、っていうかどうしようなんか干物がビクッて、ビクッて動いて!」
「――こんなところに居たんですね、ミーシャ。まあ、まずは落ち着いて。一体何があったんですか?」
セレスちゃんとの突然の再会に戸惑いながらも、ひとまずはこうなった経緯を話そうとする。焦りすぎてかなり支離滅裂なことを口走ったような気もするが、宙に浮いた腕を指さすだけでも2人はある程度察してくれたようだ。
これぞまさに以心伝心。2人に嫁の自覚があって何よりだ。ただちょっと、抱きかかえられたマリーちゃんの、セレスちゃんを見る目が若干色っぽいような気がしたのが気にならないでもないが。
「――っていうかマリーちゃん! 脚、血だらけだよ?! 怪我してるの?」
「え、あ、はい……不覚を取ってしまい……」
「あぅ……見てるだけで痛い……ちょっと待ってて、すぐに痛いの痛いの飛んでけー、ってするから」
そう言ってマリーちゃんに駆け寄り、治癒魔法を纏わせた手で傷を撫でる。
傷が治った瞬間、痛覚が急に戻ったからか少し辛そうな表情になるマリーちゃん。すぐに平気そうな表情に戻ったけれど、焦って治癒を急ぎすぎたかもしれない。
そして自分の脚でしっかりと立つマリーちゃんを見てホッと一息ついてから、問題のセレスちゃんと目を合わせる。
正直、気まずい。
戦略的撤退とはいえ、一度は恥ずかしさの余り逃げてしまった身。しかもセレスちゃんに反撃するためとはいえ、今の私はイリーちゃんマリーちゃんに言い寄っている最中。
ハーレムというのは、嫁同士が仲良くないと成立できない代物だ。そしてまだセレスちゃんが2人の事を知らない今だと、浮気と見られてもおかしくは無い。
「えっと、あの、セレスちゃん、その、これは浮気じゃなくて――わぷっ?!」
「ミーシャは女の子が大好きな子だって分かっていますから、大丈夫ですよ。――私も、女の子が大好きになっちゃいましたから」
勘違いで好感度が下がってはたまらないと言い訳しようとしたところで、セレスちゃんが頭を撫でてそれを遮る。怒っている風ではない、優しい撫で方だ。
いきなり現れたハーレム要員も、セレスちゃんは受け入れてくれるらしい。これが本妻の貫録という奴なのかと、ちょっぴり感動する。
「再会の記念に一晩中――と言いたいところですが、お楽しみはまだ少し取っておきましょう。まだ、あのご老人は戦うつもりらしいので」
「その通りだ。我が闘争、我が願い。――ここまで来て、伏して終われるものか」
セレスちゃんが鋭い目でそう言うと同時、瓦礫を掘り起こすようにして、屋敷の入り口で待ち構えていたあのロッシーニュとかいう悪者が現れた。
所々から血が流れていて、こちらも見ているだけで痛々しい。でも口元に浮かんだ獰猛な笑みはそれを欠片も感じていないようにも見え、爛々と輝く瞳は身が竦むほどの殺意に染まり、細身のおじいちゃんでありながら、狂戦士という表現がしっくりくる剣幕を放っている。
私にはそれが何か、今まさに封印が解けようとしている魔王の左腕なんかよりも遥かに恐ろしいものに見えた。
魔王なら超最強の私が頑張ればなんやかんやで倒せると思うけれど、この人は倒した程度じゃあ止めることができない。そんな気がしたのだ。
「妻を失い、娘を失い、魔王などという夢物語を追うしかなかった日々――それが今、現実となって目の前に形を成したのだ! 邪魔立てするのであれば、斬り捨てる!」
そう叫ぶと同時、ロッシーニュは獣のような雄叫びと共に大地を蹴ってセレスちゃんに斬りかかった。
セレスちゃんはそれを槍で受け止め、鍔迫り合いになる。しかも傷だらけの老体のどこからそんな力が出てくるのか、ロッシーニュは一歩も引きはしない。互角だ。
「――ミーシャちゃん。今のうちにこの場を離脱して、お父様を探すわよ」
「え、でも、セレスちゃんが戦って……」
「1人でロッシーニュと互角なら、今治療したマリーも合わせれば互角以上でしょ。入口も塞がれて増援も無いし、目の前の事態に対処ができているのなら、私たちがするべきは根本的な解決よ」
そう言ってイリーちゃんは魔力を垂れ流しにする照明器具と化した魔王の腕を指さし、続いて地上に繋がる天井の大穴を見る。
屋敷の上の方を探そう、と言っているのだろう。
確かにあの腕はなんとかしないといけないような気がするし、イリーちゃんのお父さんも助けなきゃいけない。でもあのおじいちゃんを前にセレスちゃんを置いて行くというのもなんだか怖い。
「大丈夫ですよ、ミーシャ。気合があればどうにかなるってクリックズさんが言っていましたから」
「え、えっと……じゃあその、セレスちゃん、マリーちゃん、頑張って! 行ってきます!」
そうやって二の足を踏んでいる時に、大丈夫だよ、って背中を押してくれるセレスちゃんはやっぱり頼りになる。
だから安心して私は、イリーちゃんと共に地上の屋敷へ向かって飛んで行った。
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事態は急変した。結局間に合わなかったということらしく、魔王の封印は解き放たれた。
今はまだ、干物が趣味の悪い照明器具に変わった程度。しかしそこから溢れ出している心臓を鷲掴みにするような威圧感を伴う魔力の波は、抗いようのない破滅を予感させる。
そもそもが急ごしらえの策である以上、こういう事態になることも予想はできていた。
むしろ今までが都合よく回りすぎていただけの事。ミーシャとの邂逅に始まり、ここに至るまでのご都合主義もかくやという巡り合わせの良さは、もはや現実主義のイリュメリアにすら奇跡という言葉を浮かばせるほどだ。
だが、そうでもなければ生き残れない状況であることも、また事実。それほどまでに、イリュメリア一派は追い詰められている。
解き放たれしはたかが片腕、されど魔王の片腕。神話の存在が相手である以上、ここから先は何が起こるか誰にも分からない。
だからこそ今この場で、あの魔王の左腕の対処をしなければいけない。そしてどうにかすると言っても、逃げるは無意味、壊すは無謀となれば、残るは封印するのみだ。
その手段を知る者が1人しかいない以上、するべき行動は決まっている。イリュメリアの父にしてジューディス家当主、ダンピエール・ジューディスの身柄を確保し、魔王の封印手段を聞き出すのだ。
「ねえイリーちゃん、お父さんはどこに居るの?」
「執務室か書斎か寝室か尋問部屋か、好きな場所を選んで」
「え?! えーっと……寝室で!」
「じゃあそこに居ると信じましょう。ミーシャちゃん、二階まで飛んで頂戴」
その言葉を聞き、迷いなく二階の窓に飛び込むミーシャ。硝子が飛び散り、廊下に甲高い音を響かせる。が、見張りの大半は地下に向かっているだろうから、もうこの際どれだけ物音を出そうが問題はあるまい。
見つかったら、その時はその時だ。状況が切迫していて最短距離を進む以外の選択肢を選ぶことができない以上、頭の中で策を巡らす意味は無い。
――幸いにして見張りの数は少なく、その少ない見張りも屋敷の前で光り輝く魔王の腕に完全に意識を奪われている。真横をすり抜けても気付かれないほどに、魔王の腕が放つ光は彼らにとって甘美な物のようだ。
「この廊下の一番奥の扉が寝室よ。――そう、ここ」
「なら突撃ぃー!」
そうして大した障害も無く飛び込んだ部屋の先、足元の絨毯を染める赤色の中心。椅子に手足を張りつけられた状態で、目当ての人物はそこに居た。
イリュメリアは驚愕に目を見開く。まさかこの期に及んで一発目で当たりを引くなど、流石に期待していなかったことだ。
ここまで都合よく物事が動くと、かえって空恐ろしさすら感じる。ミーシャは「持っている」人種であるのだろうが、あるいはそれ以上に、これは運命と呼べるものなのかもしれない。
「うにゃああああ! 血まみれダディ?! は、早く治さないと、治さないと……!」
「結構元気そうだし、後で良いんじゃない? ――お父様、私が何を聞きに来たのかは分かっているでしょう?」
「ああ、分かっているさ。このような宿命を次代に押し付けたくなかったのだが――そのような我が儘を言える状況でもあるまい」
ダンピエールの惨状に絶句し慌てふためくミーシャを脇に置いて話を聞けば、ダンピエールの方も魔王の封印が解かれたことは既に承知しているらしい。
ダンピエールの左腕が黒く焦げ付いている所から察するに、やはりダンピエール本人も封印に何らかの形で組み込まれていたのだろう。それ故に異変を察知できたとすれば合点がいく。
だとすれば封印の引継ぎのみならず、封印そのものの手法についても知っている可能性は十分にある。そしてその期待にダンピエールは応えた。
「――魔王の手を切り落とし、部屋に飾ってある呪剣で斬り落とした人間の手と挿げ替えれば良い。手首から先を入れ替える事さえできれば、それで封印は完了する」
「斬り落とっ――?! そんな、ダメだよ痛いよスプラッタだよ!」
「呪いなんて大抵こんなもんよミーシャちゃん。でも思っていたよりもお手軽ね。それだけで良いの?」
「面倒事は剣に刻み込んだ呪術魔法の魔法陣が代わりにやってくれる。必要なのは魔王の魔力を受け止める人柱だけだ」
そう言ってダンピエールは悲しげに目を伏せる。が、別に死ぬ訳でもないのなら、今この状況においてそれはノーリスクも同義だとイリュメリアは考える。
所詮は病弱の身、生の苦しみなど慣れたもの。
その苦しみが多少増えたところで、別に大した事ではない。むしろ自らの性格の悪さを思えば、抑えとして丁度良いくらいだ。
つまりはそこに躊躇う理由は無く、壁に掛けられた呪剣を手に取る。その冷ややかな金属の光沢が自らの手に向けられるものだと思うと、ほんの少しだけその剣が重みを増したような気がした。
「しかし封印の器具まで一緒にあるなんてね。どこまで都合が良いのやら」
「別に、刻み込む呪術魔法の魔法陣さえ覚えてしまえば、作るのに技術が必要になる代物でもない。
それに、その呪剣でできることは魔王の封印だけだ。盗まれたところで悪用もできないということで山のように作り、私の関わる全ての部屋に置いたのだ」
「暗殺を全く恐れないその姿勢、我が父ながら感服するわ。普通に剣として使われていたらどうしていたの?」
その備えはありがたいと思いつつも、己が父の魔王に対する盲目的な一面を見てイリュメリアは小さく溜息を吐く。
研究者肌ではあるようだが、陰謀には向かない人種だ。寝返った使用人が自然な形で武器を現地調達できる環境など、このクランテットにおいて立場のある人間が居て良い環境ではない。
クランテットにおけるジューディス家の勢力が年々減少傾向にあるその原因に1人納得しつつ、イリュメリアはダンピエールに背を向けて部屋を出る。再度、魔王の左腕の前に戻らなければならない。
「これで手首を斬り落とす、と。1人じゃできそうにないわね。ミーシャちゃん――はなんだかダメそうだし、マリーにやってもらいますか。
ほら、ミーシャちゃん。早く行きましょう?」
「ぇぅ……ぇぅ……でもイリーちゃん、行ったらエクストリームリストカットしちゃうんでしょ?
絶対痛いよ? 絶対辛いよ? ――イリーちゃんがそんな目に合うのなんて、私嫌だよぅ……。
魔王なら超究極最強魔導士の私が倒すから、ね? だからそんな痛いことは止めよう、ね?」
しかし涙ながらにそう訴えるミーシャは二の足を踏み、イリュメリアの服の裾を掴んで離そうとしない。
どうやら事態について行けず、萎縮してしまったらしい。――緊急事態にあるまじき行動だが、流石にこれを責めるのは酷だろう。
むしろ、ここまでよく持った方だ。ミーシャはお調子者で乗せやすいが、荒事に向いた性格をしていないということは織り込み済みの事。
それを騙すようにして鉄火場に引き連れてきたのだから、血濡れの現実に気付けばこの反応も当然。むしろこの期に及んで網を倒せるなどという大口を叩けているだけ上等と言うものだ。
説得して動かすか、虚言で言いくるめて動かすか、それともここでリタイアか。
「――ミーシャちゃん、これは私がやらなきゃいけない事なの。だから、止めない」
「どうして? 私、魔王くらいならコテンパンにできるよ?」
「でもそれだとミーシャちゃんが危ないでしょう? 大丈夫、死ぬ訳じゃあないんだから」
結局のところ、選んだのは説得だった。
如何にミーシャが扱いやすい人間だろうと、これ以上虚言で転がしてはいざという時に思いもよらない行動をするかもしれない。かといってこの場に放置するにはどこか頼りない。
だとすればミーシャ自身の判断と決断で、最後まで付き合ってくれるのが最善なのだ。
だから、私も多少は腹を割って話さなければなるまい。理論で言いくるめるよりも、感情に靡かせた方がミーシャは早く動き出すだろう。
「ねえ、イリーちゃんは自分のこと嫌いなの? 昨日も自分のことはどうでも良いみたいなこと言っていたし、だから自分のことイジメちゃうの?」
「……そう言えば言っていなかったわね。そう、私って結構、自分が嫌いなのよ」
それに吐き出したいものの1つや2つ、イリュメリアにだってあるのだ。
こんな極限状況だからこそ、死すらもそう遠くない現状だからこそ、抑えきれないものがある。
結局のところ、その他の理由は言い訳に過ぎない。心を凍らせておくには、ミーシャ・ストレイルという少女は少し温かすぎた。
「嫌いってどうして? 誰かを好きになるには、まずは自分からだよ?」
「それはね、私の性格がすごく悪いから。他人が考える悪事よりも、ずっと悪いことをいつでもいくらでも思い付ける人間だから」
「イリーちゃんは良い子だよ! だってマリーちゃん、あんなにイリーちゃんのこと好き好きオーラ出してるもん!」
ミーシャは胸元に抱き付いてそれを否定するが、そうでないことは他ならぬイリュメリア自身が承知していた。
イリュメリアがこの状況にあってなお表面だけでも平静を保っていられるのは、全てがイリュメリアの考える最低最悪よりも上向きに物事が動いているからだ。
――それは言い換えれば、イリュメリアよりも邪悪な思考回路をしている人間がこの場に居ないということでもある。その事実は今この場に限らず、生まれてからの17年間の過去においてもそうだと言える。
「マリーが私に忠誠を誓っているのは当然。だってそうなる様に誘導して、刷り込んできたから。浮浪児のマリーを拾った時に手厚い待遇にしたのは、私という存在を印象付けるため。マリーにかける言葉も、私に依存しやすくなる優しい言葉を選んだ。そうして完成したのが、私のために命を懸けられる手駒。捨て駒にしても、裏切られることの無い手駒。
私にとってマリーはその程度の存在なの。そう考えると、嫌気がさしてくるでしょう?」
「――それが嫌なのは、本当はマリーちゃんが大好きだからじゃないの? だって、イリーちゃん、泣いちゃいそうだよ?」
「そうかもね。でも、私はそれを見捨てる選択肢がいつでも頭にあるの。ほら、すごく性格が悪い」
マリーとの関係もまた、打算に満ちている。恋慕に近い親愛の情を抱かせ、それを利用する関係。
そうでないことを望む自分よりも、そうであるほうが便利だと考える自分が強くて、それ以上の関係性を信じることができない。だから今もこうして、マリーを戦場の中心に置いたままだというのに呑気に会話などできてしまっているのだ。
「こう言っちゃなんだけれど、魔王の封印だって私ならもっと上手に破ってみせた。お父様の拷問だって私なら確実に情報を引き出せた。いっそ今から、魔王の力を手中に収めて世界を征服するっていうのも良いかも。そうするための手段なら、いくらでも頭の中に沸いてくるしね。
――不幸を撒き散らす手段ならいくらでも思いつくのにね。この状況を良い方向に動かすための手段は、これ以上は思い付かない。
つまりは根っからの悪人なのよ、私って」
そんな自分を自覚するたびに、吐き気がするほど胸糞悪くなる。胸元を掻き毟りたくなるような気分の悪さが、総身を覆う。
特にミーシャのような善性の人間と接しているとそれをより強く感じてしまい、そんな苛立ちを込めて握り締めた拳を血が滲むほどの勢いで壁に叩き付けたくなる。
ただ、それを見咎めたミーシャが泣きながら腕を抱きかかえて抑えるのだ。そしてぐずつきながら、上目遣いに語り掛けてくる。
「イリーちゃんがどんなに自分を嫌いでも……私が好きなイリーちゃんをイジメちゃダメっ! マリーちゃんが好きなイリーちゃんをイジメちゃダメっ! イリーちゃんだって私のハーレムメンバーなのに、そんな辛い事言わないでよぉ……」
感情を剥き出しにしたその言葉が、心を揺らす。
その言葉はあまりにも自己中心的な理論の上に成り立っていたが、それでも間違いなくイリュメリアの身を慮ったものだった。
その言葉が辛いのか、心地良いのか。推理できない精神面については、未体験な所が多すぎて良く分からない。
「――私、うっかり暗殺とかしちゃうかもしれないわよ?」
「今までしてなかったらセーフ!」
「私、ミーシャちゃんを捨て駒にしちゃうかもしれないわよ?」
「ハーレムの主だから、ハーレムメンバーを守るのは当然だよ!」
「私……今ミーシャちゃんを都合よく利用してるわよ?」
「真心でお返ししてくれればオッケー!
……本当は私のこと好きになって欲しかったけれど、イリーちゃんは自分の事好きになってくれれば、それで良いから! だから痛いのやめよう? ね?」
そう言ってじっとこちらの瞳を見つめてくるミーシャに、何か毒気を抜かれたような気がした。
照れているのかもしれない。好きだと言われて、そして自分を好きになる、なんて考えたことも無かったから。
そしてそれによる感情の揺らぎを抑えきれない辺り、所詮は若造ということなのだろう。そう思うと、少し気が楽になった。
なるほど確かに、自分を好きになってみれば世界の見え方は変わってくるのかもしれない。少なくとも、自分のことが大好きそうなミーシャは楽しそうだ。
「――悪い自分のこと好きになったら、色々と悪事をしでかすかもしれないわよ?」
「そしたら私が怒るよ! マリーちゃんだって怒ってくれる。きっと、セレスちゃんも!
そうして怒られたら、反省すれば良いんだよ。私だって師匠に5000回くらい怒られて、5000回くらい反省して、5000回くらい最強以上に成長したんだから!」
ミーシャは少し怒られすぎな気がしないでもない。が、その言葉は最後の一押しになった。
道を踏み外すのが怖くても、それを叩き戻してくれるというのなら、それはそれで安心できるものだ。――クランテットでは到底得ることのできない、道を正してくれる友を得たことを知れば、自分に対する嫌悪感も誤魔化しが効く。
「そうね……じゃあミーシャちゃんの言う通り、少しだけ自分を好きになってみましょうか。……少しだけよ?」
「イリーちゃぁん……!」
そう言うと途端に瞳を輝かせて抱き着いてくるミーシャ。
結局、誰が誰に説得されたのやら。案外、自分が自分を説得していたのかもしれない。
「でも、手首の件はまたちょっと話が別なのよねぇ……もう、私の手首を斬り落とすのは確定路線だし」
「えっ、私が魔王を倒すってのは……?」
「それは無いわね……まあ、お家柄しょうがないことよ。
それに自分のことを好きだって自己暗示してみたら、少しだけ誇らしく思えてきたくらいよ」
そう言って、ミーシャを安心させるために頭を一撫でする。
もうそれが本音なのか建て前なのか、良く分からない。ただ、最初から定まっていた結論に従う自分に、先ほどのような苛立ちは感じない。
「イリーちゃんのわからず屋ぁ……結局痛いじゃん……」
「わからず屋で結構。もしかしたら、姉貴分としての意地って奴なのかもね。
……さ、マリーのところに戻るわよ。手塩にかけて育てた、大事な可愛い手駒を見捨てる訳にはいかないからね」
ミーシャの頭を撫でながらそう言えば、納得しきっていない表情ながらも指示されるがままにイリュメリアと共に宙を舞い、輝く魔王の腕へと向かって行った。
立ち塞がる敵を一撃で倒し、押し寄せる悪漢を華麗なフライトテクニックですり抜け、その奥に潜む黒幕っぽいのを数撃必殺!
完璧だ。
ちょっと爽快感が足りなかったような気もするけれど、これだけ良い所を見せ続ければイリーちゃんも私にメロメロだろう。
そう思ってイリーちゃんに視線を向ければ、魔王の左腕らしき干物をじっと見つめて物憂げな溜息を吐くイリーちゃんの姿。
メロメロという雰囲気ではない。おかしい。
「でもまあ封印が解けている、って感じではなさそうね。間に合ったようで何よりよ」
そう言うイリーちゃんは何かと上の方に視線を向けている。もしかしてマリーちゃんが心配なんだろうか。
さっきは大丈夫って言っていたけれど、やっぱり不安なのだろう。こういう時に頼りになる格好良い台詞を言えればイリーちゃんの好感度がぐっと上がるんだろうけど、こういう下心が混ざるととっさには思いつかないのが殺し文句って奴だ。
だってマリーちゃんのところまで戻って「ほら、大丈夫だった」って言えれば、それで済む話だから。下心に下心を重ねてまで好感度を上げようとするのは、綺麗なハーレムじゃあない。大事なのは真心だ。
だから早く屋敷から出て、おじさんの秘密基地に戻ろう。そう言おうとイリーちゃんの裾を引っぱろうとして、ふとそれが目に入った。
そこは干物となった魔王の腕の、大体手首の辺り。
――なんだかすごく気になる継ぎ目のある、その一点。
「ん? あれ? そのミイラ、なんだかおかしくない?」
「え? ミーシャちゃん、何を言って――」
「ほらここの継ぎ目なんだけれど……ちょっと見て?」
合わせ目消し、という作業がある。
これはゴーレムを部品から組み上げる際に、部品と部品の接合部分を目立たなくするためにあれこれと手を加える作業のことだ。
かくいう私もその技術は身に着けていて、かつて修行をサボって『剣と魔法をメカメカしく殴り飛ばす転生録(グースビック・ギュール著)』に出てきた最強の魔導ゴーレム『グラントリオンV』を挿絵から完全再現した際に、これでもかというくらいその技術を磨き上げた過去を持っている。
だからこそ、1人のゴーレムモデラ―としてすごく気になるのだ。この微妙に合わせ目を隠し切れていない、魔力が漏れ漏れで、さっきから急にグラグラしはじめて、今にもポロっといっちゃいそうな手首回りが。
「継ぎ目? そんなものがどこに――あるわね、継ぎ目」
「でしょ? なんだろ、これ」
今、気にすることじゃあないかもしれない。そんな事よりも大事なことがあるかもしれない。もしかしたら、この問答の時間がマリーちゃんをピンチにしちゃうのかも。
でもこういう疑念は大抵フラグってやつで、早めに解消しておかないと後々大変なことになるって本に書いてあった。
それにこの溢れ出る魔力の流れを見ていると、虫の知らせっていう奴なのか心がぞわぞわしてくる。放っておいたらダメだぞって、本能に近い何かがそう言っているのだ。
だから私はこれを見過ごすことができない。そして言葉にせずともそれが通じたのか、イリーちゃんは顎に手を当て、思案顔になる。
「あれ、でもなんで魔王のパーツに継ぎ目なんてあるんだろう? 手首から先は魔王っぽいオーラが出ていないし、偽物なのかな」
「これだけの魔力を放っておきながら、本物ではないというのは考えたくないわね。この干物は間違いなく、魔王の左腕の成れの果てよ。
――なら手首から先は――お父様が知らない筈が無い――ということは手首はお父様の管理下に――」
そう言ってイリーちゃんは何事かを呟き始める。早口で、小さい声で、しかもなんだか難しいことばかり言うものだから、私は全然話に付いていけない。
話を振ったのは私なのに、とちょっぴり不満。
でもこういう時に、むやみやたらと自己主張しないのが大人のレディ。冷静沈着でクールビューティーな所を見せるべきポイントは今まさにここ。
「――お父様は封印のことを呪いだと――確か呪術魔法において、手は操るもの、腕は振るわれるもの――手さえどうにかしてしまえば、動かない左腕は封印として成立して――ああ、そういうこと?」
「どういうこと?」
「この手首、これ封印を解く鍵ね」
しばらく唸った後、得心のいった表情でイリーちゃんはそう言う。
封印を解く鍵。イリーちゃんが軽々しく告げたその言葉にふと疑問を抱く。
それはつまり、この継ぎ目を起点にどうこうすると魔王の封印が解けるということ。
今手首がくっ付いているということは、封印されていた時は手首がくっ付いていたということ。
――そして目の前には、今にも取れそうな手首。
「それって大変じゃない?! なんかもうポロっといきそうだよ?!」
「この左腕、封印らしい封印をされていないのよ。多分、お父様辺りが呪術魔法か何かでその力の手綱を握っていただけ。
要するに、大昔のご先祖サマは魔王の力を利用するのを諦めきれなかったってこと。魔物が犇めく森の中に腕本体を安置していたのは、どこかの代の当主が、腕をジューディス家から物理的に遠ざけようとしたんでしょう。お父様は――まあ、これ以外に魔王を抑える術を知らなかった、って辺りかしら」
そうこう言っている間に継ぎ目はどんどんと露骨になっていき、次第に裂け目すら見え始めてくる。
そしてその裂け目から――生々しく脈打つ、赤い筋張った筋肉が見えてくるのだ。
「い、イリーちゃん! 今ビクッて、ビクッて動いた!」
手首が半分近く千切れ、そしてその裂け目をこじ開けるように這い出てくる肉の塊。その肉の塊から指が1つ、2つと生えていく度に、ぞわぞわする魔力がよりその密度を濃くしていく。骨と皮だけの干物にしか見えなかった腕も、見る見るうちに筋肉の塊へとその姿を変えていく。
そして5本の指が生え揃う頃になると、腕はイリーちゃんの手を振り解くほどに暴れ始め、そしてどういう訳か直視できないほどに輝き始める。
「……ミーシャちゃん、これは一時撤退。お父様を探すわよ」
もはや太陽の如き光源と化したその腕に良くないものを感じたのか、イリーちゃんはそれを天井に向けて投げつける。そしてその腕が天井に触れると同時、轟音と共に光が弾けた。
「うにゃぁあああ?! 目が、めがぁあああ! ヤケクソ超究極バリアー!」
光はさておき、衝撃はほぼ全て天井に吸収されたのか、ほとんど私たちには伝わってこなかった。が、何か嫌な予感がしたので、私とイリーちゃんが居る辺りを結界魔法で覆い隠す。
すると予感通りというかなんというか、上から崩れた天井が石の雨となって降り注いできた。半球状に張られた結界をなぞる様にして、瓦礫が私たちの周囲に落ちてゆく。私たちが入ってきた扉も、今となっては土の下だ。
結界を張っていなかったら埋めミーシャになっていたところだった。頑張ればそこから出れただろうけれど、その時の私は間違いなく泥ミーシャ。魅力半減、可愛さ半減の切ないミーシャになってしまう。
しかしそんな姿を女の子に見せてはいけないのがハーレム主というもの。だからこそ咄嗟の判断で結界魔法を張ることのできた数秒前の私を誉めてあげたい。
「やっぱり私、隙の無い超究極最強魔導士だね――ってあれ、何か落ちてくる?」
傷一つ無いものの、強烈な光で目が眩んでいるイリーちゃんを支えながら、ふと上から何かが落ちてきている音がした。
そのばさばさと、布が風を捕まえる音。それが落ちてくるメイド服が放つ音だと気付いた頃には、眩しい視界に慣れ、目の前に降り立っていた2人の姿を視界に収めていた。
「え、ま、マリーちゃん? というかセレスちゃん?!
なんでここ居るの、っていうかどうしようなんか干物がビクッて、ビクッて動いて!」
「――こんなところに居たんですね、ミーシャ。まあ、まずは落ち着いて。一体何があったんですか?」
セレスちゃんとの突然の再会に戸惑いながらも、ひとまずはこうなった経緯を話そうとする。焦りすぎてかなり支離滅裂なことを口走ったような気もするが、宙に浮いた腕を指さすだけでも2人はある程度察してくれたようだ。
これぞまさに以心伝心。2人に嫁の自覚があって何よりだ。ただちょっと、抱きかかえられたマリーちゃんの、セレスちゃんを見る目が若干色っぽいような気がしたのが気にならないでもないが。
「――っていうかマリーちゃん! 脚、血だらけだよ?! 怪我してるの?」
「え、あ、はい……不覚を取ってしまい……」
「あぅ……見てるだけで痛い……ちょっと待ってて、すぐに痛いの痛いの飛んでけー、ってするから」
そう言ってマリーちゃんに駆け寄り、治癒魔法を纏わせた手で傷を撫でる。
傷が治った瞬間、痛覚が急に戻ったからか少し辛そうな表情になるマリーちゃん。すぐに平気そうな表情に戻ったけれど、焦って治癒を急ぎすぎたかもしれない。
そして自分の脚でしっかりと立つマリーちゃんを見てホッと一息ついてから、問題のセレスちゃんと目を合わせる。
正直、気まずい。
戦略的撤退とはいえ、一度は恥ずかしさの余り逃げてしまった身。しかもセレスちゃんに反撃するためとはいえ、今の私はイリーちゃんマリーちゃんに言い寄っている最中。
ハーレムというのは、嫁同士が仲良くないと成立できない代物だ。そしてまだセレスちゃんが2人の事を知らない今だと、浮気と見られてもおかしくは無い。
「えっと、あの、セレスちゃん、その、これは浮気じゃなくて――わぷっ?!」
「ミーシャは女の子が大好きな子だって分かっていますから、大丈夫ですよ。――私も、女の子が大好きになっちゃいましたから」
勘違いで好感度が下がってはたまらないと言い訳しようとしたところで、セレスちゃんが頭を撫でてそれを遮る。怒っている風ではない、優しい撫で方だ。
いきなり現れたハーレム要員も、セレスちゃんは受け入れてくれるらしい。これが本妻の貫録という奴なのかと、ちょっぴり感動する。
「再会の記念に一晩中――と言いたいところですが、お楽しみはまだ少し取っておきましょう。まだ、あのご老人は戦うつもりらしいので」
「その通りだ。我が闘争、我が願い。――ここまで来て、伏して終われるものか」
セレスちゃんが鋭い目でそう言うと同時、瓦礫を掘り起こすようにして、屋敷の入り口で待ち構えていたあのロッシーニュとかいう悪者が現れた。
所々から血が流れていて、こちらも見ているだけで痛々しい。でも口元に浮かんだ獰猛な笑みはそれを欠片も感じていないようにも見え、爛々と輝く瞳は身が竦むほどの殺意に染まり、細身のおじいちゃんでありながら、狂戦士という表現がしっくりくる剣幕を放っている。
私にはそれが何か、今まさに封印が解けようとしている魔王の左腕なんかよりも遥かに恐ろしいものに見えた。
魔王なら超最強の私が頑張ればなんやかんやで倒せると思うけれど、この人は倒した程度じゃあ止めることができない。そんな気がしたのだ。
「妻を失い、娘を失い、魔王などという夢物語を追うしかなかった日々――それが今、現実となって目の前に形を成したのだ! 邪魔立てするのであれば、斬り捨てる!」
そう叫ぶと同時、ロッシーニュは獣のような雄叫びと共に大地を蹴ってセレスちゃんに斬りかかった。
セレスちゃんはそれを槍で受け止め、鍔迫り合いになる。しかも傷だらけの老体のどこからそんな力が出てくるのか、ロッシーニュは一歩も引きはしない。互角だ。
「――ミーシャちゃん。今のうちにこの場を離脱して、お父様を探すわよ」
「え、でも、セレスちゃんが戦って……」
「1人でロッシーニュと互角なら、今治療したマリーも合わせれば互角以上でしょ。入口も塞がれて増援も無いし、目の前の事態に対処ができているのなら、私たちがするべきは根本的な解決よ」
そう言ってイリーちゃんは魔力を垂れ流しにする照明器具と化した魔王の腕を指さし、続いて地上に繋がる天井の大穴を見る。
屋敷の上の方を探そう、と言っているのだろう。
確かにあの腕はなんとかしないといけないような気がするし、イリーちゃんのお父さんも助けなきゃいけない。でもあのおじいちゃんを前にセレスちゃんを置いて行くというのもなんだか怖い。
「大丈夫ですよ、ミーシャ。気合があればどうにかなるってクリックズさんが言っていましたから」
「え、えっと……じゃあその、セレスちゃん、マリーちゃん、頑張って! 行ってきます!」
そうやって二の足を踏んでいる時に、大丈夫だよ、って背中を押してくれるセレスちゃんはやっぱり頼りになる。
だから安心して私は、イリーちゃんと共に地上の屋敷へ向かって飛んで行った。
---------------------------------
事態は急変した。結局間に合わなかったということらしく、魔王の封印は解き放たれた。
今はまだ、干物が趣味の悪い照明器具に変わった程度。しかしそこから溢れ出している心臓を鷲掴みにするような威圧感を伴う魔力の波は、抗いようのない破滅を予感させる。
そもそもが急ごしらえの策である以上、こういう事態になることも予想はできていた。
むしろ今までが都合よく回りすぎていただけの事。ミーシャとの邂逅に始まり、ここに至るまでのご都合主義もかくやという巡り合わせの良さは、もはや現実主義のイリュメリアにすら奇跡という言葉を浮かばせるほどだ。
だが、そうでもなければ生き残れない状況であることも、また事実。それほどまでに、イリュメリア一派は追い詰められている。
解き放たれしはたかが片腕、されど魔王の片腕。神話の存在が相手である以上、ここから先は何が起こるか誰にも分からない。
だからこそ今この場で、あの魔王の左腕の対処をしなければいけない。そしてどうにかすると言っても、逃げるは無意味、壊すは無謀となれば、残るは封印するのみだ。
その手段を知る者が1人しかいない以上、するべき行動は決まっている。イリュメリアの父にしてジューディス家当主、ダンピエール・ジューディスの身柄を確保し、魔王の封印手段を聞き出すのだ。
「ねえイリーちゃん、お父さんはどこに居るの?」
「執務室か書斎か寝室か尋問部屋か、好きな場所を選んで」
「え?! えーっと……寝室で!」
「じゃあそこに居ると信じましょう。ミーシャちゃん、二階まで飛んで頂戴」
その言葉を聞き、迷いなく二階の窓に飛び込むミーシャ。硝子が飛び散り、廊下に甲高い音を響かせる。が、見張りの大半は地下に向かっているだろうから、もうこの際どれだけ物音を出そうが問題はあるまい。
見つかったら、その時はその時だ。状況が切迫していて最短距離を進む以外の選択肢を選ぶことができない以上、頭の中で策を巡らす意味は無い。
――幸いにして見張りの数は少なく、その少ない見張りも屋敷の前で光り輝く魔王の腕に完全に意識を奪われている。真横をすり抜けても気付かれないほどに、魔王の腕が放つ光は彼らにとって甘美な物のようだ。
「この廊下の一番奥の扉が寝室よ。――そう、ここ」
「なら突撃ぃー!」
そうして大した障害も無く飛び込んだ部屋の先、足元の絨毯を染める赤色の中心。椅子に手足を張りつけられた状態で、目当ての人物はそこに居た。
イリュメリアは驚愕に目を見開く。まさかこの期に及んで一発目で当たりを引くなど、流石に期待していなかったことだ。
ここまで都合よく物事が動くと、かえって空恐ろしさすら感じる。ミーシャは「持っている」人種であるのだろうが、あるいはそれ以上に、これは運命と呼べるものなのかもしれない。
「うにゃああああ! 血まみれダディ?! は、早く治さないと、治さないと……!」
「結構元気そうだし、後で良いんじゃない? ――お父様、私が何を聞きに来たのかは分かっているでしょう?」
「ああ、分かっているさ。このような宿命を次代に押し付けたくなかったのだが――そのような我が儘を言える状況でもあるまい」
ダンピエールの惨状に絶句し慌てふためくミーシャを脇に置いて話を聞けば、ダンピエールの方も魔王の封印が解かれたことは既に承知しているらしい。
ダンピエールの左腕が黒く焦げ付いている所から察するに、やはりダンピエール本人も封印に何らかの形で組み込まれていたのだろう。それ故に異変を察知できたとすれば合点がいく。
だとすれば封印の引継ぎのみならず、封印そのものの手法についても知っている可能性は十分にある。そしてその期待にダンピエールは応えた。
「――魔王の手を切り落とし、部屋に飾ってある呪剣で斬り落とした人間の手と挿げ替えれば良い。手首から先を入れ替える事さえできれば、それで封印は完了する」
「斬り落とっ――?! そんな、ダメだよ痛いよスプラッタだよ!」
「呪いなんて大抵こんなもんよミーシャちゃん。でも思っていたよりもお手軽ね。それだけで良いの?」
「面倒事は剣に刻み込んだ呪術魔法の魔法陣が代わりにやってくれる。必要なのは魔王の魔力を受け止める人柱だけだ」
そう言ってダンピエールは悲しげに目を伏せる。が、別に死ぬ訳でもないのなら、今この状況においてそれはノーリスクも同義だとイリュメリアは考える。
所詮は病弱の身、生の苦しみなど慣れたもの。
その苦しみが多少増えたところで、別に大した事ではない。むしろ自らの性格の悪さを思えば、抑えとして丁度良いくらいだ。
つまりはそこに躊躇う理由は無く、壁に掛けられた呪剣を手に取る。その冷ややかな金属の光沢が自らの手に向けられるものだと思うと、ほんの少しだけその剣が重みを増したような気がした。
「しかし封印の器具まで一緒にあるなんてね。どこまで都合が良いのやら」
「別に、刻み込む呪術魔法の魔法陣さえ覚えてしまえば、作るのに技術が必要になる代物でもない。
それに、その呪剣でできることは魔王の封印だけだ。盗まれたところで悪用もできないということで山のように作り、私の関わる全ての部屋に置いたのだ」
「暗殺を全く恐れないその姿勢、我が父ながら感服するわ。普通に剣として使われていたらどうしていたの?」
その備えはありがたいと思いつつも、己が父の魔王に対する盲目的な一面を見てイリュメリアは小さく溜息を吐く。
研究者肌ではあるようだが、陰謀には向かない人種だ。寝返った使用人が自然な形で武器を現地調達できる環境など、このクランテットにおいて立場のある人間が居て良い環境ではない。
クランテットにおけるジューディス家の勢力が年々減少傾向にあるその原因に1人納得しつつ、イリュメリアはダンピエールに背を向けて部屋を出る。再度、魔王の左腕の前に戻らなければならない。
「これで手首を斬り落とす、と。1人じゃできそうにないわね。ミーシャちゃん――はなんだかダメそうだし、マリーにやってもらいますか。
ほら、ミーシャちゃん。早く行きましょう?」
「ぇぅ……ぇぅ……でもイリーちゃん、行ったらエクストリームリストカットしちゃうんでしょ?
絶対痛いよ? 絶対辛いよ? ――イリーちゃんがそんな目に合うのなんて、私嫌だよぅ……。
魔王なら超究極最強魔導士の私が倒すから、ね? だからそんな痛いことは止めよう、ね?」
しかし涙ながらにそう訴えるミーシャは二の足を踏み、イリュメリアの服の裾を掴んで離そうとしない。
どうやら事態について行けず、萎縮してしまったらしい。――緊急事態にあるまじき行動だが、流石にこれを責めるのは酷だろう。
むしろ、ここまでよく持った方だ。ミーシャはお調子者で乗せやすいが、荒事に向いた性格をしていないということは織り込み済みの事。
それを騙すようにして鉄火場に引き連れてきたのだから、血濡れの現実に気付けばこの反応も当然。むしろこの期に及んで網を倒せるなどという大口を叩けているだけ上等と言うものだ。
説得して動かすか、虚言で言いくるめて動かすか、それともここでリタイアか。
「――ミーシャちゃん、これは私がやらなきゃいけない事なの。だから、止めない」
「どうして? 私、魔王くらいならコテンパンにできるよ?」
「でもそれだとミーシャちゃんが危ないでしょう? 大丈夫、死ぬ訳じゃあないんだから」
結局のところ、選んだのは説得だった。
如何にミーシャが扱いやすい人間だろうと、これ以上虚言で転がしてはいざという時に思いもよらない行動をするかもしれない。かといってこの場に放置するにはどこか頼りない。
だとすればミーシャ自身の判断と決断で、最後まで付き合ってくれるのが最善なのだ。
だから、私も多少は腹を割って話さなければなるまい。理論で言いくるめるよりも、感情に靡かせた方がミーシャは早く動き出すだろう。
「ねえ、イリーちゃんは自分のこと嫌いなの? 昨日も自分のことはどうでも良いみたいなこと言っていたし、だから自分のことイジメちゃうの?」
「……そう言えば言っていなかったわね。そう、私って結構、自分が嫌いなのよ」
それに吐き出したいものの1つや2つ、イリュメリアにだってあるのだ。
こんな極限状況だからこそ、死すらもそう遠くない現状だからこそ、抑えきれないものがある。
結局のところ、その他の理由は言い訳に過ぎない。心を凍らせておくには、ミーシャ・ストレイルという少女は少し温かすぎた。
「嫌いってどうして? 誰かを好きになるには、まずは自分からだよ?」
「それはね、私の性格がすごく悪いから。他人が考える悪事よりも、ずっと悪いことをいつでもいくらでも思い付ける人間だから」
「イリーちゃんは良い子だよ! だってマリーちゃん、あんなにイリーちゃんのこと好き好きオーラ出してるもん!」
ミーシャは胸元に抱き付いてそれを否定するが、そうでないことは他ならぬイリュメリア自身が承知していた。
イリュメリアがこの状況にあってなお表面だけでも平静を保っていられるのは、全てがイリュメリアの考える最低最悪よりも上向きに物事が動いているからだ。
――それは言い換えれば、イリュメリアよりも邪悪な思考回路をしている人間がこの場に居ないということでもある。その事実は今この場に限らず、生まれてからの17年間の過去においてもそうだと言える。
「マリーが私に忠誠を誓っているのは当然。だってそうなる様に誘導して、刷り込んできたから。浮浪児のマリーを拾った時に手厚い待遇にしたのは、私という存在を印象付けるため。マリーにかける言葉も、私に依存しやすくなる優しい言葉を選んだ。そうして完成したのが、私のために命を懸けられる手駒。捨て駒にしても、裏切られることの無い手駒。
私にとってマリーはその程度の存在なの。そう考えると、嫌気がさしてくるでしょう?」
「――それが嫌なのは、本当はマリーちゃんが大好きだからじゃないの? だって、イリーちゃん、泣いちゃいそうだよ?」
「そうかもね。でも、私はそれを見捨てる選択肢がいつでも頭にあるの。ほら、すごく性格が悪い」
マリーとの関係もまた、打算に満ちている。恋慕に近い親愛の情を抱かせ、それを利用する関係。
そうでないことを望む自分よりも、そうであるほうが便利だと考える自分が強くて、それ以上の関係性を信じることができない。だから今もこうして、マリーを戦場の中心に置いたままだというのに呑気に会話などできてしまっているのだ。
「こう言っちゃなんだけれど、魔王の封印だって私ならもっと上手に破ってみせた。お父様の拷問だって私なら確実に情報を引き出せた。いっそ今から、魔王の力を手中に収めて世界を征服するっていうのも良いかも。そうするための手段なら、いくらでも頭の中に沸いてくるしね。
――不幸を撒き散らす手段ならいくらでも思いつくのにね。この状況を良い方向に動かすための手段は、これ以上は思い付かない。
つまりは根っからの悪人なのよ、私って」
そんな自分を自覚するたびに、吐き気がするほど胸糞悪くなる。胸元を掻き毟りたくなるような気分の悪さが、総身を覆う。
特にミーシャのような善性の人間と接しているとそれをより強く感じてしまい、そんな苛立ちを込めて握り締めた拳を血が滲むほどの勢いで壁に叩き付けたくなる。
ただ、それを見咎めたミーシャが泣きながら腕を抱きかかえて抑えるのだ。そしてぐずつきながら、上目遣いに語り掛けてくる。
「イリーちゃんがどんなに自分を嫌いでも……私が好きなイリーちゃんをイジメちゃダメっ! マリーちゃんが好きなイリーちゃんをイジメちゃダメっ! イリーちゃんだって私のハーレムメンバーなのに、そんな辛い事言わないでよぉ……」
感情を剥き出しにしたその言葉が、心を揺らす。
その言葉はあまりにも自己中心的な理論の上に成り立っていたが、それでも間違いなくイリュメリアの身を慮ったものだった。
その言葉が辛いのか、心地良いのか。推理できない精神面については、未体験な所が多すぎて良く分からない。
「――私、うっかり暗殺とかしちゃうかもしれないわよ?」
「今までしてなかったらセーフ!」
「私、ミーシャちゃんを捨て駒にしちゃうかもしれないわよ?」
「ハーレムの主だから、ハーレムメンバーを守るのは当然だよ!」
「私……今ミーシャちゃんを都合よく利用してるわよ?」
「真心でお返ししてくれればオッケー!
……本当は私のこと好きになって欲しかったけれど、イリーちゃんは自分の事好きになってくれれば、それで良いから! だから痛いのやめよう? ね?」
そう言ってじっとこちらの瞳を見つめてくるミーシャに、何か毒気を抜かれたような気がした。
照れているのかもしれない。好きだと言われて、そして自分を好きになる、なんて考えたことも無かったから。
そしてそれによる感情の揺らぎを抑えきれない辺り、所詮は若造ということなのだろう。そう思うと、少し気が楽になった。
なるほど確かに、自分を好きになってみれば世界の見え方は変わってくるのかもしれない。少なくとも、自分のことが大好きそうなミーシャは楽しそうだ。
「――悪い自分のこと好きになったら、色々と悪事をしでかすかもしれないわよ?」
「そしたら私が怒るよ! マリーちゃんだって怒ってくれる。きっと、セレスちゃんも!
そうして怒られたら、反省すれば良いんだよ。私だって師匠に5000回くらい怒られて、5000回くらい反省して、5000回くらい最強以上に成長したんだから!」
ミーシャは少し怒られすぎな気がしないでもない。が、その言葉は最後の一押しになった。
道を踏み外すのが怖くても、それを叩き戻してくれるというのなら、それはそれで安心できるものだ。――クランテットでは到底得ることのできない、道を正してくれる友を得たことを知れば、自分に対する嫌悪感も誤魔化しが効く。
「そうね……じゃあミーシャちゃんの言う通り、少しだけ自分を好きになってみましょうか。……少しだけよ?」
「イリーちゃぁん……!」
そう言うと途端に瞳を輝かせて抱き着いてくるミーシャ。
結局、誰が誰に説得されたのやら。案外、自分が自分を説得していたのかもしれない。
「でも、手首の件はまたちょっと話が別なのよねぇ……もう、私の手首を斬り落とすのは確定路線だし」
「えっ、私が魔王を倒すってのは……?」
「それは無いわね……まあ、お家柄しょうがないことよ。
それに自分のことを好きだって自己暗示してみたら、少しだけ誇らしく思えてきたくらいよ」
そう言って、ミーシャを安心させるために頭を一撫でする。
もうそれが本音なのか建て前なのか、良く分からない。ただ、最初から定まっていた結論に従う自分に、先ほどのような苛立ちは感じない。
「イリーちゃんのわからず屋ぁ……結局痛いじゃん……」
「わからず屋で結構。もしかしたら、姉貴分としての意地って奴なのかもね。
……さ、マリーのところに戻るわよ。手塩にかけて育てた、大事な可愛い手駒を見捨てる訳にはいかないからね」
ミーシャの頭を撫でながらそう言えば、納得しきっていない表情ながらも指示されるがままにイリュメリアと共に宙を舞い、輝く魔王の腕へと向かって行った。
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