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2.お嬢様&メイド編
1.超究極最強魔導士、登場!
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私、ミーシャ・ストレイルは超究極最強魔導士だ。あらゆる魔導士の頂点に立つ最強無敵の存在だ。
根拠は特にない。だがその確信はある。
荒野の帝王タイクーンライガーが生まれたその瞬間に自らを生態系の頂点だと知っているように、私もまた生まれた瞬間からそれに気付いていたのだ。この世界に私を滅ぼすことのできる者は私以外に存在しないと。
故に究極。故に最強。魔導士なのは師匠がうるさかったから。
望めばどんなことだってできると思っていた。だって私は強いから。
無双も、成り上がりも、百合ハーレムも。セレスちゃんを骨抜きにすることだって、多少の紆余曲折があろうとそう難しいことではないと、そう思っていた。――今日までは。
「人前であ、あ、あんな恥ずかしいことしてくるなんて……セレスちゃんのけだものぉ……」
適当な木の枝に腰を下ろして頭を抱えながら、セレスちゃんに対する悪態を吐く。
もう何時間も経っているのに、もう人は居ないのに、それでもまだ顔は熱く、心臓は高鳴る。あの周囲から向けられた見下すような視線と絡みつくようなセレスちゃんの指使いを思い出す度に、身体が疼いて、火照ってしょうがない。
本に似たような事例が書いてあったことを覚えている。確か即堕ち2コマって呼ばれていたヤツだ。セレスちゃんには勝てなかったよ。
――最強主人公はいつでも最強でなければならない。戦場で、知略で、遊びで、賭け事で。そして何より夜のベッドの上で。
かの伝説的冒険者、グースビック・ギュールの言葉だ。しかし私は夜のベッドの上でも、昼の路上でも最強ではなかった。
絶対強者たるセレスちゃんの腕に抱きしめられたが最後、骨の髄まで蕩けさせられて呑み込まれてしまう、典型的な被捕食者だったのだ。
「えっち、へんたい、セクハラむすめ。……もぅ……馬鹿ぁーー! ちくしょーー!」
悔しさのあまり、月夜に向かって叫ぶ。
私の「セレスちゃん正妻計画」は看破されるどころか、完膚なきまでに叩き潰された上でセレスちゃんの企てた「ミーシャちゃん正妻計画」に取って代わられた。私の夜のオトナなテクニックは微塵も通用しなかった。私がセレスちゃんにしようと夢見ていたことは――いや、それ以上のことまで全部、セレスちゃんから私にされてしまった。
この様では超究極最強魔導士を名乗ることなどできない。せいぜいが超究極天才美少女魔導士だろう。敗者に最強を名乗る権利は無いのだ。
だがしかし、今から最強になることはできる。
小さく拳を握り、闘志を燃やす。セレスちゃんに完全敗北してなお、私が世界最強の生命体である確信は揺らいでいない。だが恋愛事情においてそれが絶対的な勝利条件ではないということは、現状を見れば誰の目にも明らかだ。
では何が間違っていたのか? 何故私はセレスちゃんに主導権を握られてしまったのか? ……ひとえに、私の力を売り込むことに失敗していたのだ。
思えば私はランヴィルドで、一度もちゃんとした実力をセレスちゃんに見せ付けることができなかったように思う。
エミルさんには魔法の1つも見せない内からFランクと認定され、使った魔法は前衛のセレスちゃんを巻き込まない気がするファイアーボールばかり。
そのファイアーボールも元々のノーコンぶりが祟って良いところ無し。魔力を体に纏わせて相手にぶつけることで命中率を改善した新魔法も、最大の見せ場はドリル兄貴に?っ攫われた。
結果だけ見ればぽんこつ魔導士のそれと大差無い。これで私の力に惚れ込めと言って、誰が首を縦に振るものか。私は自分の最大の強みを、一切生かすことができていなかったのだ。
それでもセレスちゃんとお近づきになれたのは、奇跡か偶然か、もしくは最初から獲物としてロックオンされていたかのいずれかだろう。つまり私がセレスちゃんに身も心も手籠めにされてしまったのは半ば必然だったのだ。
――鍛え直さねばなるまい。私のハーレム力を。
完全に堕ちきってしまう前になんとか逃げ出すことのできた今、私がすべきことはそれだ。
思えば師匠の行きつけだった娼館のおねーさん達は自分の魅せ方と言うものをよく理解していた。自分の一番きれいな所を一番大きく見せて、そうでないところはさりげなく隠す。そうして生まれるものが大人の魅力なのだ。
そんな事にも気付かないくらい、私には恋愛テクが不足していた。やはり聞きかじりの知識では実戦にはついていけないのだ。
だからこそ実戦で鍛えるのだ。嫁一号を真なる嫁にするために、女の子をオトしてオトしてオトしまくって、圧倒的な恋愛性能を身に着けるのだ。
そして次にセレスちゃんに会う時にこそ、鍛え上げられた恋愛テクで私がハーレムの主だということを教え込んであげるのだ。
目指すは私にお姫様抱っこされ、私の顔に抱き着くセレスちゃんのワンシーン。『可愛いよセレス。愛してる』『ミーシャのために可愛くなったの。……キス、して?』みたいな会話があればなお良い。
なお、身長差は考慮しないものとする。
「――よし、女の子を探そう」
月も天頂に昇る深夜。ようやく悔しさや惨めさ、そして何より体の疼きが収まった私はついに行動を開始する。
セレスちゃんに勝てる私になるまで、セレスちゃんの元には帰らない。そう決意したからには勝てる私になるための経験値を積むべきだ。
そのためにはやはり女の子が、それも助けが必要なピンチに陥った女の子が必要だ。
私の最大の魅力。それは間違いなく、究極で最強な魔導士としての実力だろう。それを売り込む最高の場は、日常ではなく非日常にあるはずなのだから。
乙女なら誰だって求めている、ピンチから華麗に自分を救ってくれる王子様。そのポジションを華麗に奪い取り、そこにぐっとお近づきになれそうな殺し文句を一言を添えてやるだけで私にメロメロなヒロインは作れるって本に書いてあった。
他人の不幸を望んでいるようで少々気分が悪いが、そこはそれ。別にピンチになるのを黙って見ていたり、自分から追い詰めたりはしないからお願い許して私の良心。ちゃんとその女の子とは仲良くするから。
ふよふよと宙に浮きながら、辺りを見渡し美少女を探す。月明りだけだと暗いから、おめめぱっちり暗視魔法も忘れない。満月を背景に登場するのって格好良い気がするから、光源を作る方向性は無しだ。
「ん? あれはまさか――」
そうして街道周りの空を駆け回っていると、ふと開けた場所に人が群がっているのが目に入った。
もう結構遅い時間だし、野営地か何かかと思ったがどうにも様子がおかしい。誰も明かりらしい明かりを付けておらず、それになんというか、真ん中の2人を遠巻きに囲んでいるようにも見える。
「これ全部ロッシーニュの手の者かしら? ――全く、ここまで雁首揃えて私たちを消すつもりとか、呆れた根性よね」
「愚痴を言っても状況は変わりません。ここが正念場でしょう」
「口の減らねえお嬢様だ。これから自分達がどうなるのか、ちゃんと理解できているのかい?」
聴覚を強化して聞き耳を立ててみれば、聞こえてくるのはそんな物騒な声ばかり。
状況を把握した私はとにかく焦った。だって、これって、伝説の――
「野盗に襲われるお嬢様?! ――いけない、色んな意味で早く助けないと!」
愛読書の内の5冊くらいに、似たような展開があったことを覚えている。そして大抵、誰も助けに来なかったら言葉にできないいやらしいことになってる。ともなれば彼女らの貞操は風前の灯火。ここで私が駆け付けずして、いったい誰が乙女の純潔を守るというのか。
そして何より待ち望んだハーレムメンバーゲットチャンスだ。見せてやる超究極最強魔導士の本気。その格好良さ!
待ってろ第2第3のヒロイン! 今度こそ私の魅力で骨抜きにして、身も心も私のハーレムに加えてやる! そして私が、私こそが嫁たちの貞操を奪うんだ!
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「囲まれてるわね、これ。普段の仕事では手を抜いている癖に、どうしてこんな時に限ってしっかり詰めてくるのかしら、ロッシーニュの爺」
「英気を養っていたのではないでしょうか。もう年ですし、些事に回す体力が無かったのでしょう」
「うーわ、クランテットの政務を些事と仰る。こんなんだったらあんな耄碌爺、もっと早くに失脚させとけば良かったわ」
林が脇を固める小道の上で、金の髪を風に靡かせながら少女は眉間に皺を寄せる。
彼女は追われていた。追い詰められていた。そしてそれが彼女の自尊心を大きく傷つけていた。
彼女は高貴な生まれではあったが、そうでない者を見下して悦に浸るほど歪んだ価値観の持ち主ではない。だがそれでも、絵に描いたような下郎に囲まれて機嫌の良くなる人間が居るだろうか? 謂れのない罪で街を追われて笑い飛ばせる人間が居るだろうか?
そして何よりそこまで虚仮にされていて、それを甘んじて受け入れられるほど彼女は、イリュメリア・ジューディスという少女は殊勝な人間か? ――いずれも否である。
「して、いかがいたしましょう。私はともかく、お嬢様はそろそろお辛いのでは……」
「そーなのよねー。走りっぱなしでもう足ガックガクよ、私」
傍らに佇む護衛兼メイドのマリーはイリュメリアの身体を慮るが、今更な話だと適当に茶化す。
そもそもの話、イリュメリアはあまり体が丈夫な人間ではない。むしろ他人と比べて生まれつき病弱なきらいがあり、今日も体調不良を理由に床に臥せっていたほど。
そこに降って沸いた命がけの逃避行。最初から体力の限界が近いために、その疲労感は足が震えるどころの話ではない。吐く息は荒く、顔は青ざめ、それでも弱気な態度を見せないのは彼女の意地だろうか。
「振り切れそうにはないわね……数は13、いける?」
「ただ殺すだけで良いのであれば、如何様にも。しかしそれではお嬢様の無事が保証できません」
「そこを一か八かで突っ込んでくるつもりは? マリーだけなら余裕で逃げ切れるでしょうし」
「我が身を惜しんでお嬢様の命を危険に晒すなど、護衛としてあってはならないでしょう」
「言うと思ってた。本当、融通効かない娘よねぇ……」
物陰に潜む追っ手に殺気を向けるマリーに小声で尋ねてみれば、返ってくるのは予想通りとしか言えない返答。その言葉を聞いたイリュメリアは内心で肩を落とす。
マリーは有能だ。病床を襲われたイリュメリアと違って武装も整えている。数が多いからと言って、闇夜の中にあって戦闘の心得一つ無いイリュメリアにすらその姿を捉えられる素人を相手にして不覚を取るとは思えない。
だがそれはイリュメリアという足手纏いがこの場に居なければの話。
イリュメリアは体が弱い。一息に5人を殺したとして、残る7人の内の1人が一撃を入れてしまえば、容易にその命を散らしてしまうだろう。そしてそれはマリーにとって許しがたい結末であり、故に彼女は打って出ることができずにいる。
「――何をするにしても、見通しの悪いここじゃああまりにも不利よ。連中は送り狼を気取っているみたいだし、襲い掛かられない内にできるだけ多く移動しましょうか。ヒーリングポーション、余ってたら頂戴」
「はい、こちらを」
そう言ってミリーから手渡された硝子の試験管を受け取ると同時に握り潰すイリュメリア。
すると試験管から漏れ出した液体が淡く輝き、その光が収まる頃には今にも倒れそうに青ざめていた顔色は、幾分か生気を取り戻したような朱に染まっていた。
ヒーリングポーションは正常に機能したらしい。まだ、動けそうだ。
「あー、やっぱ体力不足には気休め程度にしかならないわね。でもまあ、気休めでも動けるなら万々歳かしら。どうせ奴ら、私が全く動けなくなるまでは襲い掛かってくるつもりも無いんだろうし」
「そうなのですか? それにしては、今にでも襲い掛かってきそうな距離にまで来ていますが」
訝しげに問い返すマリー。なるほど武人の視点で言えば場は既に緊張状態。いつ剣戟の音が鳴り始めてもおかしくない極限状態だ。しかしイリュメリアから見れば、まだ一線を踏み越える時には程遠い。
「確かに隙を見せた一瞬に飛び出してくるというのも十分あり得るのだけれども。奴らがもっと楽に、安全に私たちを消すとしたら、私よりも先に、私を庇うマリーを殺そうとするはずよ。
その状況を作るために、私という重荷が一番重くなるのを待っているということ。私を殺すだけならば、この人数でしくじるのはよほどの事でもなければあり得ないでしょうし、今奴らにとって重要なのは自身の損害をどれだけ抑えるかよ」
ここまでの逃避行でマリーは護衛としてイリュメリアの身を守る傍ら、手傷の一つも追わずに5人の追っ手を斬殺している。
間違いなく今この場における最強の駒はマリーであり、素人に毛の生えた程度の不埒者共では彼女を正面から切り伏せることは不可能に近い。イリュメリアを先に殺すということはそのマリーを護衛の任から解き放ち、己が命をマリーに差し出すことに他ならない。
つまるところイリュメリアが本当に動けなくなる一瞬まで、あるいは周囲を取り囲む彼らが痺れを切らすまで、2人の安全は確保されているのだ。
イリュメリアにとっては、マリーの存在を抜きにすればこれが唯一の僥倖と言えるだろう。
言い換えれば気丈に振舞っているだけで時間が稼げるのだ。この状況を切り抜けるにはいくらでも耐えてその機を待たなければならない。それが気力次第でいくらでも、というのであれば願ってもない話。
「とにかく今は開けた場所を目指すわよ。見たところ飛び道具はなさそうだし、それなら奇襲の心配の少ないそちらの方が安全だろうから」
「はい、お嬢様」
だから今は、その機を求めて足を動かすしかない。イリュメリアの限界が先か、盤面をひっくり返すだけの好機に恵まれるが先か。
ただそれだけの話だ。解決策も何もない、それは半ば運命との戦いであった。
「13人とか嘘吐いちゃったわね。15……20……うわ、まだ居る。これ全部ロッシーニュの手の者かしら? ――全く、ここまで雁首揃えて私たちを消すつもりとか、呆れた根性よね」
「愚痴を言っても状況は変わりません。ここが正念場でしょう」
追っ手の頭数を数えながら草原の中にへたり込むイリュメリア。それを庇うマリーを見て、彼女はひどく情けない気持ちにさせられる。
武人であるマリーにとっての正念場はここからだろうが、イリュメリアにとってのそれはとうに過ぎ去った後。――機は訪れなかった。彼女の限界は、彼女が想像していた以上に近かったのだ。
「口の減らねえお嬢様だ。これから自分達がどうなるのか、ちゃんと理解できているのかい?」
「私は理解できているのだけれどもね。マリーがまだ諦めていないみたいだから」
溜息交じりにマリーを見やるイリュメリア。その表情は不満気だが、その不満を言葉にしないのは彼女もまた理解できているからだろう。
臨戦態勢に入った追っ手は、その全てがイリュメリアにその殺気を向けている。その全てからイリュメリアを守るためにはマリーがその身を盾にする他無く、そしてその道を選んだが最後、一矢報いることすらできずにマリーは力尽きるだろう。そして唯一の盾を失ったイリュメリアもまた、その後を追う他無い。
かと言ってマリーに追っ手の相手をさせれば、無防備になったイリュメリアは悪漢の白刃に切り伏せられてその生涯を終えるだろう。つまりは詰んでいるのだ。少なくとも、イリュメリア・ジューディスの命運という一点においては。
追っ手全員が唐突に棒立ちになるくらいの奇跡的な隙でもなければ、2人が揃って生還することは不可能に近い。それを理解してなお戦いの場に一縷の望みを託そうとするマリーの姿は健気ではあるが、同時に痛々しく見えてしまうのは他ならぬイリュメリアがその結果を悟ってしまっているからだろうか。
「そこの化け物はまだやる気なのかよ。――全く割に合わない仕事だな、オイ」
「そう思うなら今からでも私たちに鞍替えしたらどう? お金なら、貴方たちの望む額を用意できると思うのだけれども」
「命乞いはあまり上手じゃあないみたいだな。仮にアンタが俺達に全財産を渡すと言って、それで見逃すとでも?」
「いや全然。だって金が目当てで雇われたのなら、私たちなんて追いかけずに屋敷を漁っているだろうし。どうせロッシーニュに弱みか何かを握られているんでしょ?」
しかし従者が諦めていない以上、イリュメリアも主として最善を尽くすべきだと考え、そしてそれを実行した。手足が動かなくても、口先が動くのであれば多少の時間稼ぎはできる。今は一瞬でも長くしぶとく、機を待つ時間なのだから。
「よく分かっているじゃあねえか。――覚悟はできてるみてえだし、そろそろ死んでもらうぜ、お嬢様よォ」
「覚悟が決まったのはそちらの方では? ――そこから一歩でも近づいてみろ。その首、叩き落してやる」
そう言ってリーダー格と思しき男が手に持った短刀を構える。それに呼応するように周囲が慌ただしくなり、マリーもまた自然体のままに殺気を膨れ上がらせる。
肌に刺すような感覚を覚えるほどに張り詰めた空気。しかし場の均衡は一瞬すら保つことはなかった。
男たちが飛び掛かり、マリーが袖口から仕込み刃を抜き、生と死が交錯するかと思われたその一瞬、
「ちょーっと待ったぁああああ! それ以上の悪事はこの私が許さないぞー!」
真上から響いてきた場違いなくらい明るい声が、場に静寂をもたらした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「ひとつ、究極パワーをその身に宿し! ふたつ、キュートな笑顔でハートを粉砕!」
唐突に表れたその少女は、誰の手も届かない空中に仁王立ちしながら何事かを叫んでいる。
修羅場にそぐわない子供らしい声。当然のように使われている浮遊魔法。月明りが逆光になって見ることすらできないキュートな笑顔。
敵か味方かそれとも馬鹿か、そもそも何を考えているのかすら分からない第三者の登場に誰もが唖然としていた。無論イリュメリアお嬢様仕えのメイドである私、マリスリース・ノーテルも例外ではなく。
助けを請うようにイリュメリアお嬢様に視線を向けるも、頼りのお嬢様も目を丸く見開いて固まっている。こういった事態に直面した時、誰よりも早く状況を判断できるお嬢様が動かないということは、すなわちこの場に状況を理解している者は居ないということだ。
「みっつ、いやらしテクで乙女を侍らせ、作ってみせるよ、百合ハーレムを! ……とぅ!」
その少女がやはり理解不能な妄言を吐きながら、屋根から飛び降りるかのような調子で私と男の間に降り立つ。
その背は無防備にも私に向けている。こちらを振り向こうともしない。
今私が、メイド服の袖から展開した仕込み刃を振るえばすぐにでもその首を斬り落とせるだろう。しかしそれをしないのは、そのあまりの無防備さに毒気を抜かれたからだろうか。少なくとも体は戦時の緊張を忘れ、見れば追っ手の連中も似たような反応をしている。
「見るからにピンチだったね、お嬢様。でもこの私が来たからには、もう大丈夫! 後はそのおっきなおっぱいを私に差し出すだけで、万事解決なんだから!」
――その場に居る全員が同じことを考えただろう。お前は何を言っているんだ、と。
かくいう私もその一人だ。助けに来たのか襲いに来たのか、今の言葉で本格的に分からなくなってしまった。やはり斬っておくべきだろうか。
「えー、と貴女は何者なのかしら? あまり荒事には向かなそうな人に見えるけれど……」
硬直する場の空気に耐えかねたのか、ついにお嬢様が誰もが聞きたかったであろう言葉を口にする。その場に居る全員が耳を傾ける最中、謎の少女は機嫌良さそうに杖を天に掲げた。
「ふっふっふー、聞いちゃう? 私の正体、聞いちゃう?
ならば教えてしんぜよう! この輝く銀の杖と、おっきな三角帽子がトレードマーク……の……? あ、あれ、帽子は?」
しかしその後、額の前で手をパクパクと動かす姿を見た瞬間に、私は察した。敵か味方かそれとも馬鹿か――敵味方は未だに確信を持つことはできないが、少なくとも馬鹿ではあるようだ、と。
「無い! 私の帽子が無い! というかスラみぃも居ない! ……どこ行っちゃったの……?」
泣きそうな声になりながら、自らの頭を確かめるようにぺしぺしと叩く少女。どうやら普段の彼女は三角帽子を被っているらしい。そしてスラみぃというのはペットだろうか。それも今に限って居ないらしい。
「ちょ、ちょっと待って! テイク2させて! 帽子は後で探すから、今回は帽子無しのバージョンで!」
訝しげな周囲の視線に気付いたのか、慌てて空中に飛び去る少女。しかし間をおかずもう一度来るのだろう。テイク2とやらをするために。
――場の空気は完全に白けきった。恐らくもう一度同じセリフを携えて彼女が来たとして、そこに驚愕の視線を向ける者は居ないだろう。彼女の活躍は、今この瞬間に夢幻の如く掻き消えたのだ。
「何呆けてるの、今なら隙だらけじゃない。マリー、ゴー!」
「あっ……はい、お嬢様!」
そんな空気の弛緩から、誰よりも早く回復したのはやはりお嬢様だった。そしてその叱咤を受けた、私が次いで動いた。
身体を動かすと同時、メイド服の各所に仕込んだマジックポーションのカプセルを割っていく。
マジックポーションは、生き物に触れると同時にそこに封入された魔法が発動するように設計された魔法具の一種だ。一番効果がある使い方は直接飲むことだが、その効果を発揮させたい場所に塗布することでも短時間ではあるがその効果を発揮する。
マリーが仕込んでいたマジックポーションには、風属性の身体強化魔法である【ブーステッド・アジリティ】が封じ込められていた。効果時間は十数秒にも満たないが、だがその僅かな時間に限りマリスリース・ノーテルは人の形をした死の嵐と化す。
「な、お前」
「問答無用です。なにぶん時間が足りませんので」
まず目の前の1人の心臓を突き、その背後に陣取っていた4人の首を落とし、左右に並ぶ8人は袖口に隠したナイフの投擲で頭部を撃ち抜く。
背後からお嬢様に目掛けて駆け寄る気配があるが、今この瞬間にお嬢様を殺せていなかった時点で私たちの勝ちだ。マジックポーションで底上げした敏捷性で無理矢理お嬢様と男の間に割って入り、振り上げた手斧ごと袈裟斬りに切って捨てる。
残った8人は誰一人お嬢様にまで手が届かない距離に居る。これで詰みだ。後は生き残りを出さないように撫で斬りにするだけで良い。
終わってみればあっけないものだ。結局のところ、互いに薄氷の上を渡っていただけの話。
ただ私たちの足元の罅は見えていて、彼らの足元の罅は見えていなかった。それだけの差だ。
「月の光に輝くキューティクルが目印の超究極最強魔導士ミーシャ、華麗に推参! さあそこなお嬢様! 助けて欲しければその男好きする身体を差し出して貰おうか!」
「貴女は体を差し出す側の方が似合ってそうね。もう終わってるわよ」
「え……え? あれ? 誰も居なくなってる?」
相当な時間が過ぎ、お嬢様の魔法で追っ手の火葬を終えた頃、ようやく先ほどの少女が上から降ってきた。
彼女は本当に助けるつもりでここまで来たのか非常に気になるところではあったが、彼女が来なければジリ貧になって追い詰められていたのは私たちだろう。そういう意味で言えばすでに彼女に救われていることになるのだが、あまりその実感が沸かないのは何故だろうか。
「こういうのってお嬢様のピンチを超究極魔法で救い出して、それに一目惚れしたお嬢様が「素敵! 抱いて!」ってなる奴じゃないの? 私、女の子にそういうこと言われたいよ?」
「流石にそこまで軽い女じゃないわよ。というかそもそも私、女に抱かれる趣味なんて無いし」
「「えっ……」」
どうやら彼女は――確かミーシャと名乗っていたか――はどうにも同性愛者らしく、悪漢に襲われるお嬢様に目を付けて恩を売りに来たというのが真実のようだ。
良い目の付け所だ、と言いたいところだが彼女に対する警戒は緩めることはできない。
夜道に女一人でいる事も、どうしてこのような街道外れの脇道に居たのかも、浮遊魔法を当然のように扱う技量の出処も、全てが謎の存在。そんな彼女の言葉、態度を一言一句疑わずに信じ込むことなど、私にはできない。
「じゃあ、あの頑張って考えた名乗り口上も全部、無駄だったの? ポーズもたくさん決めたのに、1つもビビッ、ってこなかったの?」
「あ、ごめん。そもそもポーズとか見てすらいなかったわ。敵か味方かを見極めるので精一杯だったから」
「うー、酷い! もっとちゃんと見てよ! そして惚れてよ! 小さい頃からこういう時のために、ずっとずっと練習してたんだからぁー!」
――子供のように泣きわめく彼女を見ても、私は気を緩めない。あれは隙を生み出すための演技かもしれない。あるいは虚言を隠すためのブラフなのかも。
しまい込んだ仕込み刃をもう一度展開できるように身構えていれば、苦笑を隠そうともせずお嬢様がそれを手で制する。
「――お嬢様?」
「裏表の有無くらい、私にだって見抜ける。
この子は大丈夫よ。足手纏いにならない、という意味では保証しかねるけれども」
だからもう、マリーも休みなさい。そうお嬢様に言われて、初めて自らもまた限界が近付いていることに気が付いた。
考えれば当然の話だ。屋敷からの脱出、街の塀越え、包囲からの脱出、マジックポーションの濫用。それら全てが心身に無理を強いるものであり、そして最大の山場を越えた今、その緊張の糸は切れようとしていたのだ。
「まあ、そちらが想定していない形とは言え、私達が救われたのもまた事実。恩人に名を名乗らずにいるというのも味気ないですし、自己紹介と行きましょうか。
私はイリュメリア・ジューディス。交易都市クランテットの管理を皇帝陛下から任されたジューディス家の、まあ、後継ぎになるわね」
「マリスリース・ノーテルです。イリュメリアお嬢様の従者をしております」
「おお、本物のお嬢様にメイドさんだ! 握手して!」
ジューディス家の威光も何のその、ただ「お嬢様」という肩書きのみに目を輝かせるミーシャに何とも肩の力が抜ける思いがするマリー。
警戒する相手ではない。そう思ってしまえば、これほど緊張感の無い相手なのかと内心で苦笑する。それだけ、自分の精神が摩耗していたということだろう。
「イリーちゃんにマリーちゃんだね! ちゃんと覚えたよー! 私はミーシャ・ストレイル。超究極で超最強な、超究極最強魔導士なんだから!」
ほんの一瞬、お嬢様が彼女の名前を聞いた時に勘ぐるような表情を見せた気がしたが、ミーシャの満面の笑みを覗き込んでいるうちにそれは苦笑に代わり、溜息と共に穏やかな表情になる。
「疑うだけ無駄、か。こういうのが一番苦手なのよね、私。
まあ、今日はもう野宿でも良いから寝ましょ。もう私、起きてられないわ」
そう言ってお嬢様はごろりと草むらに転がり、そのまま安らかな寝息を立て始めた。
根拠は特にない。だがその確信はある。
荒野の帝王タイクーンライガーが生まれたその瞬間に自らを生態系の頂点だと知っているように、私もまた生まれた瞬間からそれに気付いていたのだ。この世界に私を滅ぼすことのできる者は私以外に存在しないと。
故に究極。故に最強。魔導士なのは師匠がうるさかったから。
望めばどんなことだってできると思っていた。だって私は強いから。
無双も、成り上がりも、百合ハーレムも。セレスちゃんを骨抜きにすることだって、多少の紆余曲折があろうとそう難しいことではないと、そう思っていた。――今日までは。
「人前であ、あ、あんな恥ずかしいことしてくるなんて……セレスちゃんのけだものぉ……」
適当な木の枝に腰を下ろして頭を抱えながら、セレスちゃんに対する悪態を吐く。
もう何時間も経っているのに、もう人は居ないのに、それでもまだ顔は熱く、心臓は高鳴る。あの周囲から向けられた見下すような視線と絡みつくようなセレスちゃんの指使いを思い出す度に、身体が疼いて、火照ってしょうがない。
本に似たような事例が書いてあったことを覚えている。確か即堕ち2コマって呼ばれていたヤツだ。セレスちゃんには勝てなかったよ。
――最強主人公はいつでも最強でなければならない。戦場で、知略で、遊びで、賭け事で。そして何より夜のベッドの上で。
かの伝説的冒険者、グースビック・ギュールの言葉だ。しかし私は夜のベッドの上でも、昼の路上でも最強ではなかった。
絶対強者たるセレスちゃんの腕に抱きしめられたが最後、骨の髄まで蕩けさせられて呑み込まれてしまう、典型的な被捕食者だったのだ。
「えっち、へんたい、セクハラむすめ。……もぅ……馬鹿ぁーー! ちくしょーー!」
悔しさのあまり、月夜に向かって叫ぶ。
私の「セレスちゃん正妻計画」は看破されるどころか、完膚なきまでに叩き潰された上でセレスちゃんの企てた「ミーシャちゃん正妻計画」に取って代わられた。私の夜のオトナなテクニックは微塵も通用しなかった。私がセレスちゃんにしようと夢見ていたことは――いや、それ以上のことまで全部、セレスちゃんから私にされてしまった。
この様では超究極最強魔導士を名乗ることなどできない。せいぜいが超究極天才美少女魔導士だろう。敗者に最強を名乗る権利は無いのだ。
だがしかし、今から最強になることはできる。
小さく拳を握り、闘志を燃やす。セレスちゃんに完全敗北してなお、私が世界最強の生命体である確信は揺らいでいない。だが恋愛事情においてそれが絶対的な勝利条件ではないということは、現状を見れば誰の目にも明らかだ。
では何が間違っていたのか? 何故私はセレスちゃんに主導権を握られてしまったのか? ……ひとえに、私の力を売り込むことに失敗していたのだ。
思えば私はランヴィルドで、一度もちゃんとした実力をセレスちゃんに見せ付けることができなかったように思う。
エミルさんには魔法の1つも見せない内からFランクと認定され、使った魔法は前衛のセレスちゃんを巻き込まない気がするファイアーボールばかり。
そのファイアーボールも元々のノーコンぶりが祟って良いところ無し。魔力を体に纏わせて相手にぶつけることで命中率を改善した新魔法も、最大の見せ場はドリル兄貴に?っ攫われた。
結果だけ見ればぽんこつ魔導士のそれと大差無い。これで私の力に惚れ込めと言って、誰が首を縦に振るものか。私は自分の最大の強みを、一切生かすことができていなかったのだ。
それでもセレスちゃんとお近づきになれたのは、奇跡か偶然か、もしくは最初から獲物としてロックオンされていたかのいずれかだろう。つまり私がセレスちゃんに身も心も手籠めにされてしまったのは半ば必然だったのだ。
――鍛え直さねばなるまい。私のハーレム力を。
完全に堕ちきってしまう前になんとか逃げ出すことのできた今、私がすべきことはそれだ。
思えば師匠の行きつけだった娼館のおねーさん達は自分の魅せ方と言うものをよく理解していた。自分の一番きれいな所を一番大きく見せて、そうでないところはさりげなく隠す。そうして生まれるものが大人の魅力なのだ。
そんな事にも気付かないくらい、私には恋愛テクが不足していた。やはり聞きかじりの知識では実戦にはついていけないのだ。
だからこそ実戦で鍛えるのだ。嫁一号を真なる嫁にするために、女の子をオトしてオトしてオトしまくって、圧倒的な恋愛性能を身に着けるのだ。
そして次にセレスちゃんに会う時にこそ、鍛え上げられた恋愛テクで私がハーレムの主だということを教え込んであげるのだ。
目指すは私にお姫様抱っこされ、私の顔に抱き着くセレスちゃんのワンシーン。『可愛いよセレス。愛してる』『ミーシャのために可愛くなったの。……キス、して?』みたいな会話があればなお良い。
なお、身長差は考慮しないものとする。
「――よし、女の子を探そう」
月も天頂に昇る深夜。ようやく悔しさや惨めさ、そして何より体の疼きが収まった私はついに行動を開始する。
セレスちゃんに勝てる私になるまで、セレスちゃんの元には帰らない。そう決意したからには勝てる私になるための経験値を積むべきだ。
そのためにはやはり女の子が、それも助けが必要なピンチに陥った女の子が必要だ。
私の最大の魅力。それは間違いなく、究極で最強な魔導士としての実力だろう。それを売り込む最高の場は、日常ではなく非日常にあるはずなのだから。
乙女なら誰だって求めている、ピンチから華麗に自分を救ってくれる王子様。そのポジションを華麗に奪い取り、そこにぐっとお近づきになれそうな殺し文句を一言を添えてやるだけで私にメロメロなヒロインは作れるって本に書いてあった。
他人の不幸を望んでいるようで少々気分が悪いが、そこはそれ。別にピンチになるのを黙って見ていたり、自分から追い詰めたりはしないからお願い許して私の良心。ちゃんとその女の子とは仲良くするから。
ふよふよと宙に浮きながら、辺りを見渡し美少女を探す。月明りだけだと暗いから、おめめぱっちり暗視魔法も忘れない。満月を背景に登場するのって格好良い気がするから、光源を作る方向性は無しだ。
「ん? あれはまさか――」
そうして街道周りの空を駆け回っていると、ふと開けた場所に人が群がっているのが目に入った。
もう結構遅い時間だし、野営地か何かかと思ったがどうにも様子がおかしい。誰も明かりらしい明かりを付けておらず、それになんというか、真ん中の2人を遠巻きに囲んでいるようにも見える。
「これ全部ロッシーニュの手の者かしら? ――全く、ここまで雁首揃えて私たちを消すつもりとか、呆れた根性よね」
「愚痴を言っても状況は変わりません。ここが正念場でしょう」
「口の減らねえお嬢様だ。これから自分達がどうなるのか、ちゃんと理解できているのかい?」
聴覚を強化して聞き耳を立ててみれば、聞こえてくるのはそんな物騒な声ばかり。
状況を把握した私はとにかく焦った。だって、これって、伝説の――
「野盗に襲われるお嬢様?! ――いけない、色んな意味で早く助けないと!」
愛読書の内の5冊くらいに、似たような展開があったことを覚えている。そして大抵、誰も助けに来なかったら言葉にできないいやらしいことになってる。ともなれば彼女らの貞操は風前の灯火。ここで私が駆け付けずして、いったい誰が乙女の純潔を守るというのか。
そして何より待ち望んだハーレムメンバーゲットチャンスだ。見せてやる超究極最強魔導士の本気。その格好良さ!
待ってろ第2第3のヒロイン! 今度こそ私の魅力で骨抜きにして、身も心も私のハーレムに加えてやる! そして私が、私こそが嫁たちの貞操を奪うんだ!
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「囲まれてるわね、これ。普段の仕事では手を抜いている癖に、どうしてこんな時に限ってしっかり詰めてくるのかしら、ロッシーニュの爺」
「英気を養っていたのではないでしょうか。もう年ですし、些事に回す体力が無かったのでしょう」
「うーわ、クランテットの政務を些事と仰る。こんなんだったらあんな耄碌爺、もっと早くに失脚させとけば良かったわ」
林が脇を固める小道の上で、金の髪を風に靡かせながら少女は眉間に皺を寄せる。
彼女は追われていた。追い詰められていた。そしてそれが彼女の自尊心を大きく傷つけていた。
彼女は高貴な生まれではあったが、そうでない者を見下して悦に浸るほど歪んだ価値観の持ち主ではない。だがそれでも、絵に描いたような下郎に囲まれて機嫌の良くなる人間が居るだろうか? 謂れのない罪で街を追われて笑い飛ばせる人間が居るだろうか?
そして何よりそこまで虚仮にされていて、それを甘んじて受け入れられるほど彼女は、イリュメリア・ジューディスという少女は殊勝な人間か? ――いずれも否である。
「して、いかがいたしましょう。私はともかく、お嬢様はそろそろお辛いのでは……」
「そーなのよねー。走りっぱなしでもう足ガックガクよ、私」
傍らに佇む護衛兼メイドのマリーはイリュメリアの身体を慮るが、今更な話だと適当に茶化す。
そもそもの話、イリュメリアはあまり体が丈夫な人間ではない。むしろ他人と比べて生まれつき病弱なきらいがあり、今日も体調不良を理由に床に臥せっていたほど。
そこに降って沸いた命がけの逃避行。最初から体力の限界が近いために、その疲労感は足が震えるどころの話ではない。吐く息は荒く、顔は青ざめ、それでも弱気な態度を見せないのは彼女の意地だろうか。
「振り切れそうにはないわね……数は13、いける?」
「ただ殺すだけで良いのであれば、如何様にも。しかしそれではお嬢様の無事が保証できません」
「そこを一か八かで突っ込んでくるつもりは? マリーだけなら余裕で逃げ切れるでしょうし」
「我が身を惜しんでお嬢様の命を危険に晒すなど、護衛としてあってはならないでしょう」
「言うと思ってた。本当、融通効かない娘よねぇ……」
物陰に潜む追っ手に殺気を向けるマリーに小声で尋ねてみれば、返ってくるのは予想通りとしか言えない返答。その言葉を聞いたイリュメリアは内心で肩を落とす。
マリーは有能だ。病床を襲われたイリュメリアと違って武装も整えている。数が多いからと言って、闇夜の中にあって戦闘の心得一つ無いイリュメリアにすらその姿を捉えられる素人を相手にして不覚を取るとは思えない。
だがそれはイリュメリアという足手纏いがこの場に居なければの話。
イリュメリアは体が弱い。一息に5人を殺したとして、残る7人の内の1人が一撃を入れてしまえば、容易にその命を散らしてしまうだろう。そしてそれはマリーにとって許しがたい結末であり、故に彼女は打って出ることができずにいる。
「――何をするにしても、見通しの悪いここじゃああまりにも不利よ。連中は送り狼を気取っているみたいだし、襲い掛かられない内にできるだけ多く移動しましょうか。ヒーリングポーション、余ってたら頂戴」
「はい、こちらを」
そう言ってミリーから手渡された硝子の試験管を受け取ると同時に握り潰すイリュメリア。
すると試験管から漏れ出した液体が淡く輝き、その光が収まる頃には今にも倒れそうに青ざめていた顔色は、幾分か生気を取り戻したような朱に染まっていた。
ヒーリングポーションは正常に機能したらしい。まだ、動けそうだ。
「あー、やっぱ体力不足には気休め程度にしかならないわね。でもまあ、気休めでも動けるなら万々歳かしら。どうせ奴ら、私が全く動けなくなるまでは襲い掛かってくるつもりも無いんだろうし」
「そうなのですか? それにしては、今にでも襲い掛かってきそうな距離にまで来ていますが」
訝しげに問い返すマリー。なるほど武人の視点で言えば場は既に緊張状態。いつ剣戟の音が鳴り始めてもおかしくない極限状態だ。しかしイリュメリアから見れば、まだ一線を踏み越える時には程遠い。
「確かに隙を見せた一瞬に飛び出してくるというのも十分あり得るのだけれども。奴らがもっと楽に、安全に私たちを消すとしたら、私よりも先に、私を庇うマリーを殺そうとするはずよ。
その状況を作るために、私という重荷が一番重くなるのを待っているということ。私を殺すだけならば、この人数でしくじるのはよほどの事でもなければあり得ないでしょうし、今奴らにとって重要なのは自身の損害をどれだけ抑えるかよ」
ここまでの逃避行でマリーは護衛としてイリュメリアの身を守る傍ら、手傷の一つも追わずに5人の追っ手を斬殺している。
間違いなく今この場における最強の駒はマリーであり、素人に毛の生えた程度の不埒者共では彼女を正面から切り伏せることは不可能に近い。イリュメリアを先に殺すということはそのマリーを護衛の任から解き放ち、己が命をマリーに差し出すことに他ならない。
つまるところイリュメリアが本当に動けなくなる一瞬まで、あるいは周囲を取り囲む彼らが痺れを切らすまで、2人の安全は確保されているのだ。
イリュメリアにとっては、マリーの存在を抜きにすればこれが唯一の僥倖と言えるだろう。
言い換えれば気丈に振舞っているだけで時間が稼げるのだ。この状況を切り抜けるにはいくらでも耐えてその機を待たなければならない。それが気力次第でいくらでも、というのであれば願ってもない話。
「とにかく今は開けた場所を目指すわよ。見たところ飛び道具はなさそうだし、それなら奇襲の心配の少ないそちらの方が安全だろうから」
「はい、お嬢様」
だから今は、その機を求めて足を動かすしかない。イリュメリアの限界が先か、盤面をひっくり返すだけの好機に恵まれるが先か。
ただそれだけの話だ。解決策も何もない、それは半ば運命との戦いであった。
「13人とか嘘吐いちゃったわね。15……20……うわ、まだ居る。これ全部ロッシーニュの手の者かしら? ――全く、ここまで雁首揃えて私たちを消すつもりとか、呆れた根性よね」
「愚痴を言っても状況は変わりません。ここが正念場でしょう」
追っ手の頭数を数えながら草原の中にへたり込むイリュメリア。それを庇うマリーを見て、彼女はひどく情けない気持ちにさせられる。
武人であるマリーにとっての正念場はここからだろうが、イリュメリアにとってのそれはとうに過ぎ去った後。――機は訪れなかった。彼女の限界は、彼女が想像していた以上に近かったのだ。
「口の減らねえお嬢様だ。これから自分達がどうなるのか、ちゃんと理解できているのかい?」
「私は理解できているのだけれどもね。マリーがまだ諦めていないみたいだから」
溜息交じりにマリーを見やるイリュメリア。その表情は不満気だが、その不満を言葉にしないのは彼女もまた理解できているからだろう。
臨戦態勢に入った追っ手は、その全てがイリュメリアにその殺気を向けている。その全てからイリュメリアを守るためにはマリーがその身を盾にする他無く、そしてその道を選んだが最後、一矢報いることすらできずにマリーは力尽きるだろう。そして唯一の盾を失ったイリュメリアもまた、その後を追う他無い。
かと言ってマリーに追っ手の相手をさせれば、無防備になったイリュメリアは悪漢の白刃に切り伏せられてその生涯を終えるだろう。つまりは詰んでいるのだ。少なくとも、イリュメリア・ジューディスの命運という一点においては。
追っ手全員が唐突に棒立ちになるくらいの奇跡的な隙でもなければ、2人が揃って生還することは不可能に近い。それを理解してなお戦いの場に一縷の望みを託そうとするマリーの姿は健気ではあるが、同時に痛々しく見えてしまうのは他ならぬイリュメリアがその結果を悟ってしまっているからだろうか。
「そこの化け物はまだやる気なのかよ。――全く割に合わない仕事だな、オイ」
「そう思うなら今からでも私たちに鞍替えしたらどう? お金なら、貴方たちの望む額を用意できると思うのだけれども」
「命乞いはあまり上手じゃあないみたいだな。仮にアンタが俺達に全財産を渡すと言って、それで見逃すとでも?」
「いや全然。だって金が目当てで雇われたのなら、私たちなんて追いかけずに屋敷を漁っているだろうし。どうせロッシーニュに弱みか何かを握られているんでしょ?」
しかし従者が諦めていない以上、イリュメリアも主として最善を尽くすべきだと考え、そしてそれを実行した。手足が動かなくても、口先が動くのであれば多少の時間稼ぎはできる。今は一瞬でも長くしぶとく、機を待つ時間なのだから。
「よく分かっているじゃあねえか。――覚悟はできてるみてえだし、そろそろ死んでもらうぜ、お嬢様よォ」
「覚悟が決まったのはそちらの方では? ――そこから一歩でも近づいてみろ。その首、叩き落してやる」
そう言ってリーダー格と思しき男が手に持った短刀を構える。それに呼応するように周囲が慌ただしくなり、マリーもまた自然体のままに殺気を膨れ上がらせる。
肌に刺すような感覚を覚えるほどに張り詰めた空気。しかし場の均衡は一瞬すら保つことはなかった。
男たちが飛び掛かり、マリーが袖口から仕込み刃を抜き、生と死が交錯するかと思われたその一瞬、
「ちょーっと待ったぁああああ! それ以上の悪事はこの私が許さないぞー!」
真上から響いてきた場違いなくらい明るい声が、場に静寂をもたらした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「ひとつ、究極パワーをその身に宿し! ふたつ、キュートな笑顔でハートを粉砕!」
唐突に表れたその少女は、誰の手も届かない空中に仁王立ちしながら何事かを叫んでいる。
修羅場にそぐわない子供らしい声。当然のように使われている浮遊魔法。月明りが逆光になって見ることすらできないキュートな笑顔。
敵か味方かそれとも馬鹿か、そもそも何を考えているのかすら分からない第三者の登場に誰もが唖然としていた。無論イリュメリアお嬢様仕えのメイドである私、マリスリース・ノーテルも例外ではなく。
助けを請うようにイリュメリアお嬢様に視線を向けるも、頼りのお嬢様も目を丸く見開いて固まっている。こういった事態に直面した時、誰よりも早く状況を判断できるお嬢様が動かないということは、すなわちこの場に状況を理解している者は居ないということだ。
「みっつ、いやらしテクで乙女を侍らせ、作ってみせるよ、百合ハーレムを! ……とぅ!」
その少女がやはり理解不能な妄言を吐きながら、屋根から飛び降りるかのような調子で私と男の間に降り立つ。
その背は無防備にも私に向けている。こちらを振り向こうともしない。
今私が、メイド服の袖から展開した仕込み刃を振るえばすぐにでもその首を斬り落とせるだろう。しかしそれをしないのは、そのあまりの無防備さに毒気を抜かれたからだろうか。少なくとも体は戦時の緊張を忘れ、見れば追っ手の連中も似たような反応をしている。
「見るからにピンチだったね、お嬢様。でもこの私が来たからには、もう大丈夫! 後はそのおっきなおっぱいを私に差し出すだけで、万事解決なんだから!」
――その場に居る全員が同じことを考えただろう。お前は何を言っているんだ、と。
かくいう私もその一人だ。助けに来たのか襲いに来たのか、今の言葉で本格的に分からなくなってしまった。やはり斬っておくべきだろうか。
「えー、と貴女は何者なのかしら? あまり荒事には向かなそうな人に見えるけれど……」
硬直する場の空気に耐えかねたのか、ついにお嬢様が誰もが聞きたかったであろう言葉を口にする。その場に居る全員が耳を傾ける最中、謎の少女は機嫌良さそうに杖を天に掲げた。
「ふっふっふー、聞いちゃう? 私の正体、聞いちゃう?
ならば教えてしんぜよう! この輝く銀の杖と、おっきな三角帽子がトレードマーク……の……? あ、あれ、帽子は?」
しかしその後、額の前で手をパクパクと動かす姿を見た瞬間に、私は察した。敵か味方かそれとも馬鹿か――敵味方は未だに確信を持つことはできないが、少なくとも馬鹿ではあるようだ、と。
「無い! 私の帽子が無い! というかスラみぃも居ない! ……どこ行っちゃったの……?」
泣きそうな声になりながら、自らの頭を確かめるようにぺしぺしと叩く少女。どうやら普段の彼女は三角帽子を被っているらしい。そしてスラみぃというのはペットだろうか。それも今に限って居ないらしい。
「ちょ、ちょっと待って! テイク2させて! 帽子は後で探すから、今回は帽子無しのバージョンで!」
訝しげな周囲の視線に気付いたのか、慌てて空中に飛び去る少女。しかし間をおかずもう一度来るのだろう。テイク2とやらをするために。
――場の空気は完全に白けきった。恐らくもう一度同じセリフを携えて彼女が来たとして、そこに驚愕の視線を向ける者は居ないだろう。彼女の活躍は、今この瞬間に夢幻の如く掻き消えたのだ。
「何呆けてるの、今なら隙だらけじゃない。マリー、ゴー!」
「あっ……はい、お嬢様!」
そんな空気の弛緩から、誰よりも早く回復したのはやはりお嬢様だった。そしてその叱咤を受けた、私が次いで動いた。
身体を動かすと同時、メイド服の各所に仕込んだマジックポーションのカプセルを割っていく。
マジックポーションは、生き物に触れると同時にそこに封入された魔法が発動するように設計された魔法具の一種だ。一番効果がある使い方は直接飲むことだが、その効果を発揮させたい場所に塗布することでも短時間ではあるがその効果を発揮する。
マリーが仕込んでいたマジックポーションには、風属性の身体強化魔法である【ブーステッド・アジリティ】が封じ込められていた。効果時間は十数秒にも満たないが、だがその僅かな時間に限りマリスリース・ノーテルは人の形をした死の嵐と化す。
「な、お前」
「問答無用です。なにぶん時間が足りませんので」
まず目の前の1人の心臓を突き、その背後に陣取っていた4人の首を落とし、左右に並ぶ8人は袖口に隠したナイフの投擲で頭部を撃ち抜く。
背後からお嬢様に目掛けて駆け寄る気配があるが、今この瞬間にお嬢様を殺せていなかった時点で私たちの勝ちだ。マジックポーションで底上げした敏捷性で無理矢理お嬢様と男の間に割って入り、振り上げた手斧ごと袈裟斬りに切って捨てる。
残った8人は誰一人お嬢様にまで手が届かない距離に居る。これで詰みだ。後は生き残りを出さないように撫で斬りにするだけで良い。
終わってみればあっけないものだ。結局のところ、互いに薄氷の上を渡っていただけの話。
ただ私たちの足元の罅は見えていて、彼らの足元の罅は見えていなかった。それだけの差だ。
「月の光に輝くキューティクルが目印の超究極最強魔導士ミーシャ、華麗に推参! さあそこなお嬢様! 助けて欲しければその男好きする身体を差し出して貰おうか!」
「貴女は体を差し出す側の方が似合ってそうね。もう終わってるわよ」
「え……え? あれ? 誰も居なくなってる?」
相当な時間が過ぎ、お嬢様の魔法で追っ手の火葬を終えた頃、ようやく先ほどの少女が上から降ってきた。
彼女は本当に助けるつもりでここまで来たのか非常に気になるところではあったが、彼女が来なければジリ貧になって追い詰められていたのは私たちだろう。そういう意味で言えばすでに彼女に救われていることになるのだが、あまりその実感が沸かないのは何故だろうか。
「こういうのってお嬢様のピンチを超究極魔法で救い出して、それに一目惚れしたお嬢様が「素敵! 抱いて!」ってなる奴じゃないの? 私、女の子にそういうこと言われたいよ?」
「流石にそこまで軽い女じゃないわよ。というかそもそも私、女に抱かれる趣味なんて無いし」
「「えっ……」」
どうやら彼女は――確かミーシャと名乗っていたか――はどうにも同性愛者らしく、悪漢に襲われるお嬢様に目を付けて恩を売りに来たというのが真実のようだ。
良い目の付け所だ、と言いたいところだが彼女に対する警戒は緩めることはできない。
夜道に女一人でいる事も、どうしてこのような街道外れの脇道に居たのかも、浮遊魔法を当然のように扱う技量の出処も、全てが謎の存在。そんな彼女の言葉、態度を一言一句疑わずに信じ込むことなど、私にはできない。
「じゃあ、あの頑張って考えた名乗り口上も全部、無駄だったの? ポーズもたくさん決めたのに、1つもビビッ、ってこなかったの?」
「あ、ごめん。そもそもポーズとか見てすらいなかったわ。敵か味方かを見極めるので精一杯だったから」
「うー、酷い! もっとちゃんと見てよ! そして惚れてよ! 小さい頃からこういう時のために、ずっとずっと練習してたんだからぁー!」
――子供のように泣きわめく彼女を見ても、私は気を緩めない。あれは隙を生み出すための演技かもしれない。あるいは虚言を隠すためのブラフなのかも。
しまい込んだ仕込み刃をもう一度展開できるように身構えていれば、苦笑を隠そうともせずお嬢様がそれを手で制する。
「――お嬢様?」
「裏表の有無くらい、私にだって見抜ける。
この子は大丈夫よ。足手纏いにならない、という意味では保証しかねるけれども」
だからもう、マリーも休みなさい。そうお嬢様に言われて、初めて自らもまた限界が近付いていることに気が付いた。
考えれば当然の話だ。屋敷からの脱出、街の塀越え、包囲からの脱出、マジックポーションの濫用。それら全てが心身に無理を強いるものであり、そして最大の山場を越えた今、その緊張の糸は切れようとしていたのだ。
「まあ、そちらが想定していない形とは言え、私達が救われたのもまた事実。恩人に名を名乗らずにいるというのも味気ないですし、自己紹介と行きましょうか。
私はイリュメリア・ジューディス。交易都市クランテットの管理を皇帝陛下から任されたジューディス家の、まあ、後継ぎになるわね」
「マリスリース・ノーテルです。イリュメリアお嬢様の従者をしております」
「おお、本物のお嬢様にメイドさんだ! 握手して!」
ジューディス家の威光も何のその、ただ「お嬢様」という肩書きのみに目を輝かせるミーシャに何とも肩の力が抜ける思いがするマリー。
警戒する相手ではない。そう思ってしまえば、これほど緊張感の無い相手なのかと内心で苦笑する。それだけ、自分の精神が摩耗していたということだろう。
「イリーちゃんにマリーちゃんだね! ちゃんと覚えたよー! 私はミーシャ・ストレイル。超究極で超最強な、超究極最強魔導士なんだから!」
ほんの一瞬、お嬢様が彼女の名前を聞いた時に勘ぐるような表情を見せた気がしたが、ミーシャの満面の笑みを覗き込んでいるうちにそれは苦笑に代わり、溜息と共に穏やかな表情になる。
「疑うだけ無駄、か。こういうのが一番苦手なのよね、私。
まあ、今日はもう野宿でも良いから寝ましょ。もう私、起きてられないわ」
そう言ってお嬢様はごろりと草むらに転がり、そのまま安らかな寝息を立て始めた。
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