野良魔道士は百合ハーレムの夢を見る

むぅ

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1.新人冒険者編

8.超究極最強魔導士、完全敗北す

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エミルさんとの「大事な話」から戻ってきたセレスちゃんは、殴られたみたいに顔を腫らして、しかも泣きそうな、打ちのめされた顔をしていた。

これはエミルさんに、昔読んだ本に書いてあった、校舎裏呼び出しなるものをされたに違いないと確信した私はすぐさま行動を開始した。ハーレムの主として、嫁一号を校舎裏系暴力受付嬢エミルの魔の手から守らなければならないと考えたのだ。

本物の悪役令嬢に立ち向かうのはすごく怖いけれど、しかしそれはハーレム道には避けて通れぬもの。悪を恐れぬ愛と勇気のパワーこそが乙女の心を奪うのだ。ついでに世界も救ったりする。

「セレスちゃんに近付くな、この悪女ー! セレスちゃんをいじめるなら、わ、わ、わ、私が相手だー!」

しかし拍子抜けと言うべきか、いざ立ち向かってみれば超究極最強魔導士である私の超絶オーラに恐れをなしたのかエミルさんはすごすごと退散していった。なんだ、できるじゃないか私。これはもうセレスちゃんも惚れざるを得ないでしょう!

そう思ってセレスちゃんの方を振り向いてみれば、余計に泣きそうになっているセレスちゃんの姿が。





「セレスちゃん、さっきから難しい表情してる――エミルさんに、何か酷いこと言われたの?」
「そういう訳じゃないんです。そういう訳じゃ……」
「……ふーん」

いじめっ子のエミルさんが居なくなっても、一向にセレスちゃんの機嫌は良くならない。むしろさっきからどんどん表情が暗くなっていって、見ているこっちが泣いちゃいそう。

であればこそセレスちゃんのご機嫌取りは急務だし、それ以前に嫁一人笑顔にできずして何が百合ハーレムの主か。イベントの女神様が囁いている。今こそ奮い立てよ乙女と。

幸いにして、セレスちゃんの機嫌が良くならない原因はすぐに分かった。小さく鳴った私のお腹が教えてくれたのだ――そういえば今日は昼から何も食べてないな、と。

「じゃあじゃあ、ご飯食べに行こうよ! 私ってばデキる女だから、さっき待っている間にご飯がおいしいお店の話を聞いたんだ!」
「ご飯、ですか?」
「そう、ご飯。お腹が減ったらご飯を食べよう! 私だってお腹が減ってたら切ない気分になっちゃうし、セレスちゃんだってそういうことでしょ!」

そうとなれば今日の報酬を全て使い切る覚悟でご飯を食べなきゃ。

お腹が減った時。それはとっても切ない時。

かくいう私にもそういった経験がある。あれは一週間ほど修行をサボって秘密基地で愛読書の挿絵を元に魔導ゴーレムのモデリングをしていたことが師匠に見つかった時の事。罰として一日ご飯抜きと、その間ずっと物置小屋で修行用の魔法陣の写生をするように言いつけられた私の苦い思い出。

そんな時、お腹のすき具合が限界を超えるとまずはお腹が痛くなってきて、その痛みが去って飢えた感覚が消えたと思ったら、今度は無性に悲しくなってきたことを覚えている。こうなると自分ではなかなか解決できない。なんだか頭がうまく働かなくて、飢えが満たされるまで自分がなんで悲しいのか分からないのだ。

きっと今のセレスちゃんもそういう状態に違いない。こんなに状況を的確に把握できちゃう私ってば、やっぱり経験豊富なオンナ。さりげなく行き先を私だけが知っている場所にすることで、自然とセレスちゃんをリードできるようになっていたのもなかなか高得点なんじゃないかな?

そうして食堂に辿り着いた私たちを待っていたのは「あーん」してくださいと言わんばかりのラインナップのお品書きと、やたらホクホクした顔のクリ、クリ……ドリルの兄貴だった。

慰める役目を奪われるかとも思ったが、しかしそこは飲み食い無料の誘惑に耐え切れず屈してしまう。だっていっぱい美味しいもの食べたいし食べさせたいし、とは言え安くはないお店だったみたいだったから本当に食べたいだけ食べたらお金が足りなくなって皿洗い冒険者になっちゃう。

しかし店の人全員に奢るとは、これが成功した冒険者のなせる業なのか。甲斐性たっぷりでびっくりしちゃう。……寝取られないよね? いやまあ大丈夫か。一度大好きって言われちゃったし。本命は私で間違いないからセーフセーフ。

ご飯は来た。お酒も来た。だったら後は食べて飲むだけ! さあセレスちゃんよ、あなたもその欲望を満たしなはれ。ほら、この熱々のソーセージが欲しいんでしょう?

しかし私はここで致命的なミスをしてしまった。大人ぶってお酒を飲んだら急に眠くなって、そのまま机に突っ伏してしまったのだ。お腹が膨れていく最中のほんわかトークも、全女子待望の「あーん」も酒の勢いで寝過ごしてしまったのだ。

目を開けた時に間近に居たセレスちゃんの存在に、そうした事情の全てを察した。

見たところ辛そうな表情ではないし、むしろ活力の戻った眼と言うべきか火の灯った眼と言うべきか、ちょっぴりギラギラした物欲しげな目つきになっている。

「ぅゅ……あれ、セレスちゃん? どうしたの? そんなに迫っちゃって。
……あ、さてはまた私を抱き枕にする気だなー? いいだろーう、かかってこーい」

やっぱりお腹がいっぱいになったら満足したんだ。そうしたら次は眠くなる訳で、宿に戻ったセレスちゃんはここ数日ですっかり癖になったらしいらぶらぶミーシャちゃん抱き枕を求めてそんな目をしているのだ。

ぎゅってして良し、されて良し。嫁にして良し、されて良し。そんな私はお前に良し!

せっかく元気になったんだもの。このくらいはサービスしなきゃ。こういう親密なコミュニケーションこそがハーレム作りの大事な一歩なんだから。決して、まだ頭がぼーっとしていて自分から抱き着く気力が沸かない訳ではない。


「ミーシャさん。私は、貴女に言わなければならないことがあります。――先ほど、私がエミルさんから言われたことです」


しかしセレスちゃんの反応は私の予想と全く異なるもので、重い口調で切り出したその言葉はどうあっても私には受け入れられないものだった。

私は落ちこぼれだとか、必要とされない存在だとか……パーティーを解散しよう、だとか。

「そ、そんなのダメだよ! 私、セレスちゃんと一緒のパーティーじゃなきゃ嫌!」

そんなことを聞いては眠気も吹き飛ぶというもの。そんなの絶対に嫌だ。絶対に絶対に絶対に嫌だ。

だってセレスちゃんは私のハーレムメンバーで、初めてのパーティーメンバーで、かっこよくて、頼りになって……とにかく嫌だ。たったの5日だけど冒険者としての一歩を踏み出した瞬間から隣に居たセレスちゃんが居なくなるなんて、そんなの、想像しただけでも胸が苦しい。

「でもきっと、エミルさんの言っていることは正しいんです。
そもそも私とミーシャさんでは、どうやっても釣り合いが取れなかったんでしょう。片や何の取り得もないFランクの前衛、片やこの年で治癒魔法まで使える複合属性魔導士……いずれ私がミーシャさんに追い付けなくなって、解散することは目に見えています。
それが少し早まるだけです。ミーシャさんにとっても、それが最善のはずです」
「そんなの私の最強魔法でどうにかするから! いっぱい、いっぱい頑張るから! そんな寂しいこと、言わないでよぅ……」

すり抜けるように私の手を振り解きながら、セレスちゃんはそう言う。もう私の意見を聞く気は無い、決定事項だと言わんばかりの態度だ。

――なんで? なんでセレスちゃんはこんなことを言えるの? なんでこんな寂しいことを言ってるのに――セレスちゃんは清々しそうな顔をしているの?

私、セレスちゃんに弄ばれてたの? 大好きって言ったの、嘘だったの? 本当はエミルさんの紹介だからって、嫌々一緒に居たの?

そう考えた瞬間、どうしようもない喪失感を感じて涙が溢れてくる。

初恋のおねーさんにフラれた時よりも、もっとずっと切なくて悲しい。心が折れてしまいそうだ。

全部嘘ですよって、そう言って欲しくて涙ながらにセレスちゃんの瞳を見返す。

「……それでも――」
「――ぇ、セレス、ちゃん……?」

その瞬間、セレスちゃんの雰囲気が変わった気がした。

ほんの数秒前のセレスちゃんよりも、今のセレスちゃんの方が息が荒い。

ほんの数秒前のセレスちゃんよりも、今のセレスちゃんの方が目がぎらぎらしている。

ほんの数秒前のセレスちゃんよりも、今のセレスちゃんの方が――強く、強く私を求めている。

今まで見てきたセレスちゃんとは違うセレスちゃんが、なんだか怖い。でもその変わった「何か」が分かっているらしい私の胸の内は、どういう訳か期待に胸を膨らませている。

セレスちゃんはそんな私の両手首を掴み上げてベッドの上に押し倒した。力尽くで、乱暴に。

少しずつ近づいてくるセレスちゃんの顔に心臓が高鳴る。

痛いくらいに強く握られた手首。息がかかるほど近付いた顔。そして――

「それでも私は――ミーシャさん、貴女が欲しい――!」
「セレスちゃ、んん――――!?」

――初めてのキスは、涙のしょっぱさと蜂蜜酒の甘みが混ざった味がした。






「何が最善かとか、何が正論だとか、もうそんなのどうでも良くなっちゃったんです」

初めてのキスからどれくらい時間がたったのか、ようやく唇を放したセレスちゃんが私をベッドに押し付けたまま、語り掛けるようにそう言った。

でも私の息は絶え絶えで、心臓が痛いくらいに高鳴って、なのに胸がほんのりあったかくて、頭がぼーっとして、くらくらして、何を言っているのか良く分からない。ただセレスちゃんが今までで一番良い笑顔になっていることは分かる。

「欲しいものは、やっぱり欲しいんです。今まではどうにかして抑えていたんですけれど、今回ばかりは抑えられませんでした。……だからエミルさんに怒られちゃったんですね」

セレスちゃん、やっと元気になってくれたんだ。やっぱり沈んだ顔よりも、そっちの方が私は大好き。

でもなんだろう。もう一回惚れちゃいそうなくらい可愛い笑顔なのに、今はなんだかその笑顔がものすごく怖い。なんというか、こう、食べられちゃいそう。

「私が命知らずって言われるのも、クリックズさんに男と間違われるのも、全部全部ぜーんぶ、ミーシャさんが可愛いのがいけないんです。だからこれは、おしおきです」

そう言ってセレスちゃんはもう一度、私に唇を近付けてくる――え、ま、またなの?!

「セ、セレスちゃ、もう、キス、無理……っ!」

安堵も何もかもが吹き飛んで、息も絶え絶えのまま身を捩る私。だって無理! あのキスは無理!

あんなの二度もやられたら、とろーっとなってへにゃーってなって、気持ちいいのを勝手に体が覚えちゃう! そうなったら最後、私は超究極ジゴロな百合ハーレムマスターから、一山いくらの超究極可愛いヒロインにランクダウンするんだ。雌堕ちってそういうことだって本に書いてあった!

「逃げちゃダメです。だって、そうじゃなきゃおしおきにならないでしょう?」

しかしそんなものは予測済み、抵抗は許さんと言わんばかりにベッドのシーツで後ろ手に私の手を縛り上げるセレスちゃん。自由になったセレスちゃんの両手は私の顔を左右から抱きかかえて、顔を背けることすら許してくれない。

ちょっとでも手足に力を入れて抵抗しようとすると、即座に首筋や耳元に舌を這わせてきて、ふにゃぁ、ってさせて黙らせてくる。今日のセレスちゃんは鬼だ。悪魔だ。小悪魔だ。

「ほら、そんなむすっとした顔で口を窄めないで、あーん、ってしてください。舌、入れますから」
「何その「この縄で吊りあげるから輪っかに首を通して」っていうのと同じくらい滅茶苦茶な要求?!」

そんな小悪魔系美少女にクラスチェンジしたセレスちゃんが、早くとどめを刺させろと、さっさと堕ちろとせっついてくる。でもそれだけは絶対ダメ。だってまだ、私はセレスちゃんを押し倒すことを諦めていないから。

「嫌なんですか?」
「い、嫌だよ! 嫌じゃないけど……そ、そういうのはもっとこう、プラトニックなところから段階を踏んで、雰囲気を作って、そして何より未来のハーレムの主である私から迫っていくべきなんじゃないかな、って――」
「じゃあ、あーん、ってするまでの間に、服、脱いじゃいましょうか。今日はもう、必要無いですよね?」
「にゃ、にゃんですとぅ?!」

しかしそこはセクシャルモンスターとして完全覚醒したセレスちゃん。口のガードを固めたら、今度はボディーががら空きだぜと服の中に手を突っ込んでくる。服の下から胸を揉み、尻を撫で、内ももをさすり、そして流れるように服を脱がしていく。ほんの一瞬だけ服を脱がすために解かれたシーツは、気付いた時には魔法のように結び直されていた。

そうしてあれよあれよという間に、シーツで両手を縛られ、身に着けるのは三角帽子に下着と靴下だけという最高にフェティッシュな恰好にひん剥かれた私。

そんな私を脚の先から髪の端までじっくりと眺めるセレスちゃんの視線に気付いた時、泣きたくなるほどの羞恥心と共に私は思った。

ヤバい。これセレスちゃん本気だ。と。

「ね、ねえ、お願い……服、返して……? も、もうキスならいつでもして良いから、お願い……! もう、恥ずかしくて……!」

多分このまま行ったら、キスで堕ちるより先にもっとディープなオトナの階段を昇らされてしまう。でもそれ以前に舐めるようなセレスちゃんの視線がくすぐったくて恥ずかしくて、死んでしまいそうだ。

「ミーシャさんの身体はどこも恥ずかしくありませんよ。蕩けた顔も、すべすべの肌も、とっても可愛いです。みんなに見せて自慢したいくらい」

そう思ってベッドから遠くに投げ捨てられた服を着せてもらうように懇願したのだが、結果は無残なものだ。

超ヤバい。これも本気だ。昼間だったら本当に晒し者にされていたかもしれない。

「ミーシャさんの肌……すべすべで、柔らかくて、弾力があって……どれだけ撫でていても飽きないです。もっともっと、触りたくなっちゃいます」
「な、なら……! たくさんたくさん撫でて良いから、せめて靴下を脱がせて……!」
「それはダメです。下着は脱いでも脱がなくてもアリですが、帽子と靴下は絶対に脱いじゃいけません。絶対にです」
「業が深いよセレスちゃん……っ!」

実はこの格好の中で、一番恥ずかしいのは靴下の存在だ。なまじ体の他の部位が冷えた空気に触れているだけに、ひときわ暖かい足元に靴下の存在を常に感じてしまって、それ故に「自分は今服を着ていないのだ」という事実が脳にこびりついて離れない。

だから実は服を着ることに次ぐ優先度で靴下を脱ぎたいのだが、手は縛られているし、足はセレスちゃんに絡められて自由に動かせない。着るにも脱ぐにも、セレスちゃんに懇願するしか手がないのが現実なのだ。

そしてそれは無情にも拒否された。――今、私の全てはセレスちゃんに管理されている。それに気付いた瞬間、屈辱感と背徳感にも似た、しかし不快ではないゾクゾクした何かが背筋を走る。

セレスちゃんが怖い。セレスちゃんのすることが怖い。気持ち良いのが怖い。気持ち良くされるのが怖い。なのにそれを心待ちにしている自分も確かに居て、そんな自分が一番怖い。

「ミーシャさんが可愛くなったところで、さっきの続きをしましょうか。キスならいつでもして良いんでしたよね?」
「え、でも服は――」
「靴下があるじゃないですか。大丈夫です。今度は優しくしますから」

そう言うセレスちゃんは、さっきからずっと私のキュートなお尻を撫でている。しかも時折背筋をつぅ、となぞって、身体がびくってなるのを見て喜んでいるんだ。

人をおもちゃみたいにして、もう既に優しくないじゃないか。えっち、うそつき、へんたい。

覚えてろ、絶対に復讐してやる。私だって、手が自由ならそのくらいできるんだから多分。セレスちゃんの手を縛っていれば、私のテクになすすべなく蹂躙されちゃうんだからきっと。

「考え事ですか? 隙ありですよ」
「ほぇ? んぐ、んんっ?!」

そう言うや否や、空いた唇の隙間からセレスちゃんの舌先がねじ込まれてきた。セレスちゃんってば本当に優しくない! ――そんな不満も、暴力的で貪るようなセレスちゃんのディープキスの荒波に沈んでいった。

口の中に触手を飼っているんじゃないかってくらい、激しくて、艶めかしくて、喉の奥まで蹂躙してくるセレスちゃんのキス。

喉の奥にセレスちゃんの舌先が触れる度にうぇ、ってえずいて、同じだけ背筋がぞくぞくとしちゃう。でもこのぞくぞくが、くすぐったくてもどかしくて気持ち良い。

そしてこのキスは、屈服すればするほど気持ち良くなるというとっても怖い特徴がある。必死にセレスちゃんの舌を追い出そうと悶えていた頃はただ怖いだけだったのに、口を犯されて、喉を犯されて、堪えきれずにこっちから舌を突き出したら絡め取られて、その全てが気持ち良いのだ。

喉奥まで滅茶苦茶にされて怖い。何一つ反撃ができなくて悔しい。息だって満足にできなくて苦しい。でも一度やられてしまったら、泣いてもえずいてもされるがままになるしかない。

まさに悪魔のキス。セレスちゃんがセレスちゃんたる所以、必殺技と言っても過言ではないだろう。私は先ほど、この究極の一撃に文字通り完敗したのだ。

「――もう一度言います。ミーシャさん、私は貴女が欲しいです」

二人の唾液が混じり合って糸を引く中、虚ろな視界の先でセレスちゃんがそう言った。

「欲しくて、欲しくて、もうどうしようもないんです。命を懸けても良い。貴女を手に入れるためなら」

私を真っ直ぐに見る目は、隠す気を微塵も見せない滾るような欲望に染まっていた。でも、全然怖くない。それこそがセレスちゃん風の真心だって、分かっちゃうから。


「大好きです、ミーシャさん。私の物になってくれますか?」


セレスちゃんの本心をそのまま言葉に変えたであろう、強く重たい愛の言葉。

それを聞いた私の心臓が痛いほど高鳴って、うまく言葉が出てこない。ハーレム的には絶対に頷いちゃいけない。ハーレムじゃなくなるから。でも心からの大好きという言葉に首を横に振れるほど、セレスちゃんとの関係は遊びじゃない。

どう答えればいいんだろう。セレスちゃんの事は大好きだけど、セレスちゃんが今求めている関係は、私の求める関係の真逆だ。でも答えるなら今しかないような気がして、だったらいっそ受け入れてしまったほうが良いのかも。

そんな葛藤を無視するように、体が自然と、目をぎゅっと瞑りながら、身体を震えさせながら、首を縦に振っていた。結局、身体は完全に屈服していたみたい。ちくしょー。

「ありがとう、ミーシャさん……ミーシャ。一生大事にしますね」
「ん……ん、ぅ……」

そう言ってやさしく抱き上げられれば、今度は唇どうしが触れるだけの優しいキス。激しくもやらしくもないのに、今までで一番心の深いところに「私のものだぞ」ってマーキングをされた気分になる、そんなキスだ。

……ハーレムの主としてやっちゃいけないことをしたはずなのに、心がぽかぽか暖かい。

抱きしめてくれるセレスちゃんの腕が柔らかい。髪を撫でる手が気持ち良い。やっぱり私、セレスちゃんのこと大好きなんだな。くそぅ。

「……キス、もっかい」
「え?」
「セレスちゃん、優しいキス、して……?」
「……はい、良いですよ」

悔しいから最後のキス。あれが一番うれしかったから、おかわりさせてよ。セレスちゃん。








「ところでセレスちゃん、この腕のシーツは何時解いてくれるの?」

まったりとした空気の中、無言でセレスちゃんに抱きしめられていた私はふとそんなことを思い出す。

こういうお互いの愛を確かめた後の流れって、大抵お互いの手が背に回ってのらぶらぶハグをしているものだと思っていたけれど、結局最後の最後まで手は後ろ手に縛られたまま、されるがままだった。

いい加減解いて、指を絡めたイチャイチャちゅっちゅしたいなー、なんて思ったり。あわよくば本で読んだ超絶テクで反撃したかったり。

ふふ、ミーシャちゃんの超絶テクは108式まであるぞー? それに切り札として、師匠の行きつけだった娼館のおねーさん達に「軽く抱き着きながらもたれかかって上目遣いに見つめればイチコロ」だって教えてもらったし、なんかもう勝てる気がする。

というかそもそも服を着たい。私だけこんな格好で、セレスちゃんは普通に服を着てるなんて不公平だ。

「え? まだまだ解きませんよ? だってその恰好、すごく可愛いじゃないですか」
「はい?」

だけど帰ってきた返答は予想を裏切るものだった。ちょっと何言ってるか分からない。

「え、服は? これじゃあ着れないよ?」
「今日はもう必要無いって言ったじゃないですか、もぅ。寒かったら私が温めてあげますから」

手をわきわきと動かしながら迫りくるセレスちゃん。さきほどまでそこにあったはずの、寝起きのように心地良いまったりゆったり桃色百合空間は雲散霧消し、セレスちゃんからイケないピンクなオーラが放たれ始めた。

……なんだろう、今、壮絶に嫌な予感がしてる。もしかして藪蛇だった?

「私、ミーシャが大好きです」
「え、うん。私も、その、大好きだよ……?」

ああ良かった。ピンクなオーラも嫌な予感もただの勘違いだったみたい。

こういう心ときめく告白こそが百合。レズではなく百合なのだ。だってこういう雰囲気の中で、大好きって、口にするとすっごく恥ずかしいけど、でもすごく幸せな気分に――

「大好きなミーシャの可愛いところ、もっとたくさん見たいです。
具体的に言えば服を剥ぎ取られて恥ずかしがっている時が一番好みの顔をしていたので、今日一日ずっと辱めていたいです」
「は、辱めっ?!」

私の予感は正しかった。野生の勘を信じるべきだった。

セレスちゃんはそう言うや否や絡みつくように手を伸ばしてきて、お尻を撫でてきて……ちょ、ちょっと待って。お尻はお尻でも、そこは指突っ込んで良いお尻じゃないから!

「あ、アウト! それアウトだから! セレスちゃんストップ!」
「ここで止めたら恥ずかしくないでしょう? 大丈夫。アウトも突っ切ればセーフになるんですから」
「だからそれはただの突っ切ったアウトだから! ぶっちぎりのアブノーマルだから――ぁ、ゃめっ……!」

人生で初めての刺激に体が硬直する。恥ずかしさに身が縮こまって目の端に涙が浮かんできて、そんな私を見て素敵な笑顔になるセレスちゃん。おに。あくま。セレスちゃん。

「私からしたら、私の行く道こそがノーマルです。王道です。――だからミーシャ、もっと可愛いところを私に見せて?」

天使の笑顔で迫りくるセレスちゃん。残酷な言葉に手練手管を添えて。

誰だセレスちゃんのこと気弱そうって言った奴。めっちゃアグレッシヴで、超が付くほど肉食系じゃん。詐欺だこんなの。

そんなことを考えている間にも、セレスちゃんの魔の手は迫りくる。色んな所を揉んだり、撫でたり、摘まんだり……舐めたり…………ゆ、指を入れたり……!

「も、もう駄目、セレスちゃん……! もう私、いろいろ限界……!」
「限界でも頑張ってくださいね。 ――だって、本番はこれからじゃないですか」

ギブアップ宣言に間をおかず返されたその言葉を聞いた瞬間、全身から血の気が引いた気がした。

するすると衣擦れの音を立てて服を脱ぎだすセレスちゃん。細身だけど綺麗なくびれのある裸体が目の前にさらけ出されて、一瞬ドキリとする。

「私ももう、限界なんですよ。ミーシャを食べたくて、食べたくて、しょうがないんです」
「にゃ……ぅにゃ……!」
「これもやっぱりミーシャが可愛いのがいけないんです。しゃぶりつきたくなるくらい美味しそうなのがいけないんです。自分からどんどん調理されていくのがいけないんです。
――何度も懲りない人ですね。これじゃもう、何時までおしおきをしなきゃいけないのか分からないじゃないですか」

でも次の瞬間にはビクリとしちゃう。言いがかりだ。完全に言いがかりなのに、何も返すことができない。怖いのに、拒むこともできない。

完全にお食事タイムな、飢えた瞳のセレスちゃん。そんなセレスちゃんがゆっくり、ゆっくりと迫ってきて――

「じゃあ……いただきます!」
「う、うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!?」



――その日、ランヴィルドの夜空に一人の魔導士の悲鳴が鳴り響いた。
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