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83 遺跡に残された手掛かり

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「けほっ、けほっ、ったくこんな地下空間で何て事すんのよ!」

ヴァレラが先程の爆風で飛んできた粉塵を払いながら
非難の声を上げる

「大丈夫か」

「やる前に言いなさいよっ!」

「すまん」

ゼロスがそう言いながら排熱作業を終え、
両腕を下げると、二人へと向き直る

「こ、これってバセリアの人達に気付かれたりしないでしょうか?」

セルヴィが行けない事をしてしまったのではないか、
と不安そうに問いかける

「それなら大丈夫よ、マグナ君の話から
 数年でまだ数階層しか調査が進んでない様だし
 直接降りて行った場合ここを見つけるのは
 軽く見積もっても何十年も先の事よ
 その頃には私達の事を覚えてる人間なんか居ないわよ」

プロメが当たり前の様に
胸の下あたりで腕を組みながら答える
降りて来た深さから既におおよその階数は把握して居り
瞬時に計算した結果であった。

「問題無ければ行くぞ、
 俺が先頭に立つ、プロメはセンサーを同期して
 周囲の常時スキャンとナビを頼む」

「了解、という事で二人とも
 私達が通った後を、一列でついて来て頂戴
 ヴァレラちゃんならこの手の訓練は受けてるわよね?
 セルヴィちゃんのサポートをお願いね」

「地雷原の踏破と同じ要領ね、了解
 セルヴィ、私の腰のランチャーに手を当てて、そうよ
 離しちゃだめ、常に触れたままピッタリ私の後ろについて来て」

「わ、分かりました!」

セルヴィが指示された通り
ヴァレラの腰元に装着された重火器に手を触れ、後ろに付く

「よし、行くぞ」

ゼロスが合図するとゆっくりと
老人に合わせて歩く様なペースで進んでいく

セルヴィの胸の鼓動の音が激しくなり
口の中から徐々に水分が抜け、乾きを催す
その1歩1歩に緊張が走る

前に行くヴァレラはと言うと、時たま左右に首を向け
周囲の確認を彼女なりに行っているのが見える
その表情はクールな物であった

手に汗が浮かび、掴んでいた
ヴァレラの装備を握りなおそうとした時、

前を向いたままヴァレラが右腕を後ろに回し
セルヴィの手の上に自分の手を重ねた

「大丈夫、リラックスリラックス、
 先頭はあいつが歩いてるんだから
 万に一つも心配ないわよ」

周囲の警戒を行いながら横眼で様子を伺っていた彼女は
セルヴィの心理状態を把握していた、
暫くそのまま手を触れた状態で進んでくれた事で
セルヴィは若干鼓動が落ち着きを取り戻すのを感じた

やがて一行は広間の奥、壇上の先にある扉へと到着する
扉の上の壁には光る古代文字で

【中央制御室】

と書かれていた
上層で行ったのと同じようにプロメがドア横の装置に近付くと
手を翳し、やはり僅かな間の後...


プシュゥウウ!! ウィイイ゛イ゛


圧縮された空気の放出音と共に
分厚い扉が上下左右、4つに分かれ、道を開いていく
その先には、一面機器に囲まれた一室が広がっていた

セルヴィにはその様子に既視感を覚える
以前見た草原の遺跡の最下層
それと似たような形状の装置が多く見受けられる
ただその全体量も、部屋の空間自体も遥かに多く、巨大だった

ドアが開くと同時に、最初、僅かな点滅の後
中の部屋の照明が一気に稼働し
部屋全体を煌々と照らしだす

この中にトラップは無いと判断されたのか
プロメが先頭に立ち、最も大きなコンソールの前へと進み
再び手を翳す
しかしドアを開けるより困難な様子で
暫くそのまま何も起こらない状態が続く
ヴァレラとセルヴィが黙って見守っていると

「どうだ」

プロメのすぐ後ろに立つゼロスが声をかける

「現在制御システムにアクセス中、
 当施設の制御AIの消失を確認
 データバンクをマニュアルにて検索
 経路を再構築中、もう少し待って」

「制御AIの消失...だと?
 メインコンピューターにダメージがあるのか」

「メインコンピューターに破損は認められない
 また、破損ではなく完全消去されている事から
 通信回線と同様、意図的に削除されたと推測されるわ
 ...っと、謎を解くカギ...見つけたかも」

「どうした」

「この都市を造った者達の映像記録の復元に成功、
 これは...見て貰った方が早いわね
 要所を抽出して映像に出すわ」

そう言うとプロメが立つ装置の更に先、上方に
巨大な映像板が浮かび上がり

乱れた映像が浮かび上がった後
すぐに鮮明な場面へと切り替わる

そこには、こことは違う場所と見られる
薄暗い施設の中にモニターの光に照らされた
研究者と見られる白衣を纏い
胸元に証明証を付けた初老、50前後だろうか
顎元で整えられた髭と白髪、短髪の男性の姿が浮かび上がる
そして口を開き、言葉を語り始める


—『私はダグラス・スペルフィールド、研究者だ...』—


「これはっ...」

ゼロスが何かに気付き声を上げる

「そうよ、これは私達の言語ロシア訛りの英語よ」

プロメが質問を聞かずして答える

体内に注入されたナノマシンの働きにより
脳の言語中枢に作用し自動変換する事で
無意識に感覚として他言語を理解出来る様になっていた
セルヴィとヴァレラには、耳に届くその言葉が
ゼロス達の言葉であるとは認識出来ていなかった

モニターの男が続ける

—『まずは何から話せば良いか...
  私自身もまだ混乱している...
  自分の頭を整理する為にも
  一度言葉にして記録したいと思う

  まず私は人類連合ユーラシア地区、
  第883箱舟施設、NOVAの生存者だ』—

「...!!」

ゼロスの表情に一瞬、明らかな動揺が走った
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