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36 幸せな時代、光と影
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都市に入ると、畑の女性の助言の通り
馬車は一路大通りを東地区へと向かう
「冒険者ギルドは登録や依頼等の受付手続きは
午前中だけなので、今日はもう無理ですね」
という事らしく
今日はそのまま宿を目指す事にする
彼女に必要であると共に、外から来た者が
宿を取らないというのも不自然であろう
すでに時刻はもう後半刻もすれば
日は地平の彼方へと隠れてしまうだろう
都市に入ると、道は石畳で舗装され
大通り沿いには小奇麗な店も並んでいる
ここに来るまでに、都市の悪い噂を多く耳にしたが
実際目にすると範囲には、特にそれ感じさせる様な
酷い点等は見受けられない
「もっと怖い所聞いていたのですが
思ったより全然普通なのですね、
お店や建物も王都とそんな変わらないのです!」
後ろの荷台から顔を出したセルヴィがそんな事を言う
どうやら同じ様な感想を持ったらしい
都市中央と思われる大広場に出ると、そこには
中央に何かしらの都市と関係あるのか
偉人と見られる大きな銅像のモニュメントが置かれ
周囲をロータリー状に疎らに馬車が行き交う
広場の大きさからするとその数は少々寂しく見える
一瞬香ばしい香りが鼻を掠めた
広場の外周には食べ物の屋台が幾つか出ている様だ
夕食時が近い事も有って所々に人集りが出て賑わっている
広場も過ぎ東地区に入るとすぐさま馬車係留所を備えた
立派な宿泊施設が多く目に飛び込んできた
が、どれも係留所にはかなり空きが目立ち
中には看板が煤けてしまっている物もある
余り客足は多くない様である
適当に大通り沿いで比較的小ぎれいな宿に馬車を入れる
入口の戸を開けると、愛想の良い老夫婦が出迎えた
男1人、女二人の2部屋を頼むと朝夜食事付きで
銀貨1枚と銅貨10枚だと言う
アール村でドミルに貰った布袋を彼等に気取られぬ様取り出し
中身を確認すると銅、銀、金の硬貨が
小袋一杯にびっしり詰まっている
銅貨20枚で銀貨1枚 銀貨20枚で金貨1枚程の価値があるらしい
渡された金額はかなりの額だった様だ
中から言われた金額を取り出し、支払うと
既にチェックインした時間がこの時間となってしまった為
今日の分の夕食は用意出来ないのだと言う、すると
「じゃあ折角なのでさっき広場にあった、屋台に行ってみませんか?」
「良いわね、いってらっしゃいな」
プロメの場合は行ってこい、という意味だろう
そうして部屋に荷物を置いた後、宿正面にて待ち合わせとなった
「お待たせしましたっ!」
元気の良い声と共に後ろの扉から一人の少女が現れる
少女は背負っていた大きな背嚢や腰回りの小物類を取り外し
若干動きやすい佇まいになっているのが見て取れる
「じゃあ早速行きましょう!」
少女に僅かに先導され、共に先程馬車で来た方へと歩みを進める
「ふーんふーん♪」
隣を歩く少女は上機嫌に見えた
「どうかしたか?」
「え?いや、ゼロスさんとこんな風に
普通に何処か言ったりするって初めてだなぁと思いまして!」
「普通...か」
「はい、何時もお世話になりっぱなしですし
今日くらい私がゼロスさんのお役に立つのですよ」
ぐっと胸元で両手を握って見せる
「宜しく頼む」
「はい!」
少女らしい笑みを浮かべ再び鼻歌を歌い進む
程なく中央広場に戻って来る事が出来た
改めて周囲をじっくり観察すると
どうやら広場の一角が屋台街となっている様だ
そのまま屋台横に用意された簡易席で食事を取る者
買った物を包みに入れ持ち帰る者
子供連れの家族なども見える
この町に住む多くの者が訪れている様だった
程なくして多くのベンチが立ち並ぶ
屋台街のフリースペースに当たる様な場所へと来ると
「ゼロスさんはここで座ってて下さい
私買ってきますよ!どんな物が良いですか?って
余り種類とかイメージわかないですかね、」
「ああ、任せる」
「分かりました!
何か美味しそうな物を見繕ってきます」
「予算は大丈夫か?」
ふと硬貨の入った布袋を取り出そうとすると
「もう!私だってそんな子供じゃないんですから
それくらい持ってますよ、大丈夫です!」
「そうか」
「すぐ戻ってきますから
ゼロスさんこそここに居て下さいね!」
「分かった」
そう言うと近場のベンチに腰を襲る
それを満足そうに見ると彼女は笑みを浮かべ
途中何度かこちらを振り返りながら
屋台と雑踏の中へと消えて行く
小さな子供が時よりこちらを見やると
直ぐにその保護者と見られる大人がそれを咎め
急ぎ距離を空けて行く
自分はこの時代の倫理観に反する様な行為を
行っているのだろうか?
彼女を待つ間改めて周囲を見回し観察する
周囲の建築物や周囲の人々の着ている
衣類等の素材や建築・裁縫技術を見る限り
旧時代の中世中頃から後期頃に酷似しており
しかし所処、屋台の調理器具や、動力式の運搬荷台など
魔具と見られる機械によって一部は
産業革命以降の生活・文化形態が入り混じっている様だ
そして人々はと言えば
屋台で威勢よく掛け声を飛ばす店主
満足そうに購入した料理を頬張る人々
子供が一生懸命に両親に何かを語り
その左右の手をそれぞれ握り
優しい表情を浮かべる両親と思われる男女
人々には文化が溢れていた
この様な光景をずっと昔に
自分も見た事があるのだろうか
記憶が封印されている為、思い出す事が出来ないのか
それとも既に自分が物心ついた時には
世界からそんな余裕は失われいたのか
今の自分には解らない、思い出せなかった。
それでも少なくとも自分が覚えている人々とは違い
この時代の人々の瞳は皆、活力に満ちている
きっとそれは人にとっては幸せなのだろう
もし、この人々が幸せなのだとするのなら
最後まであきらめず戦い続けた人々の犠牲は
少なくとも無意味では無かったと言えるのではないか
頭の中に様々な思いが巡り
周囲の人々の観察を続ける
それから程なく、日は完全に沈み辺りを闇が包み始める
広場の周囲の建物が次々と明かりを灯し
その明かりが広場へと差し込む
加えて屋台もそれぞれ、簡易的な提燈に火を灯し始め
普通の人間であっても全く困らない光量が保たれ
辺りは先程までと変わらず賑わい続けている
ふと物思いに耽っていると
既に数十分ほど時間が経過している事に気付く
そこまで料理選びに迷っているのか、奥の方まで行っているのか
それにしても、屋台街のエリア自体そこまで広くは無いはずだ
直ぐに少女とアデス以外反応しない識別レーダーを起動する
「...っ!!くっ!」
ゼロスは突然飛び上がる様に立ち上がると
群衆をかき分け駆け出した
周囲の者はその光景に驚き
走り去る彼の背を怪訝な顔で見つめた
馬車は一路大通りを東地区へと向かう
「冒険者ギルドは登録や依頼等の受付手続きは
午前中だけなので、今日はもう無理ですね」
という事らしく
今日はそのまま宿を目指す事にする
彼女に必要であると共に、外から来た者が
宿を取らないというのも不自然であろう
すでに時刻はもう後半刻もすれば
日は地平の彼方へと隠れてしまうだろう
都市に入ると、道は石畳で舗装され
大通り沿いには小奇麗な店も並んでいる
ここに来るまでに、都市の悪い噂を多く耳にしたが
実際目にすると範囲には、特にそれ感じさせる様な
酷い点等は見受けられない
「もっと怖い所聞いていたのですが
思ったより全然普通なのですね、
お店や建物も王都とそんな変わらないのです!」
後ろの荷台から顔を出したセルヴィがそんな事を言う
どうやら同じ様な感想を持ったらしい
都市中央と思われる大広場に出ると、そこには
中央に何かしらの都市と関係あるのか
偉人と見られる大きな銅像のモニュメントが置かれ
周囲をロータリー状に疎らに馬車が行き交う
広場の大きさからするとその数は少々寂しく見える
一瞬香ばしい香りが鼻を掠めた
広場の外周には食べ物の屋台が幾つか出ている様だ
夕食時が近い事も有って所々に人集りが出て賑わっている
広場も過ぎ東地区に入るとすぐさま馬車係留所を備えた
立派な宿泊施設が多く目に飛び込んできた
が、どれも係留所にはかなり空きが目立ち
中には看板が煤けてしまっている物もある
余り客足は多くない様である
適当に大通り沿いで比較的小ぎれいな宿に馬車を入れる
入口の戸を開けると、愛想の良い老夫婦が出迎えた
男1人、女二人の2部屋を頼むと朝夜食事付きで
銀貨1枚と銅貨10枚だと言う
アール村でドミルに貰った布袋を彼等に気取られぬ様取り出し
中身を確認すると銅、銀、金の硬貨が
小袋一杯にびっしり詰まっている
銅貨20枚で銀貨1枚 銀貨20枚で金貨1枚程の価値があるらしい
渡された金額はかなりの額だった様だ
中から言われた金額を取り出し、支払うと
既にチェックインした時間がこの時間となってしまった為
今日の分の夕食は用意出来ないのだと言う、すると
「じゃあ折角なのでさっき広場にあった、屋台に行ってみませんか?」
「良いわね、いってらっしゃいな」
プロメの場合は行ってこい、という意味だろう
そうして部屋に荷物を置いた後、宿正面にて待ち合わせとなった
「お待たせしましたっ!」
元気の良い声と共に後ろの扉から一人の少女が現れる
少女は背負っていた大きな背嚢や腰回りの小物類を取り外し
若干動きやすい佇まいになっているのが見て取れる
「じゃあ早速行きましょう!」
少女に僅かに先導され、共に先程馬車で来た方へと歩みを進める
「ふーんふーん♪」
隣を歩く少女は上機嫌に見えた
「どうかしたか?」
「え?いや、ゼロスさんとこんな風に
普通に何処か言ったりするって初めてだなぁと思いまして!」
「普通...か」
「はい、何時もお世話になりっぱなしですし
今日くらい私がゼロスさんのお役に立つのですよ」
ぐっと胸元で両手を握って見せる
「宜しく頼む」
「はい!」
少女らしい笑みを浮かべ再び鼻歌を歌い進む
程なく中央広場に戻って来る事が出来た
改めて周囲をじっくり観察すると
どうやら広場の一角が屋台街となっている様だ
そのまま屋台横に用意された簡易席で食事を取る者
買った物を包みに入れ持ち帰る者
子供連れの家族なども見える
この町に住む多くの者が訪れている様だった
程なくして多くのベンチが立ち並ぶ
屋台街のフリースペースに当たる様な場所へと来ると
「ゼロスさんはここで座ってて下さい
私買ってきますよ!どんな物が良いですか?って
余り種類とかイメージわかないですかね、」
「ああ、任せる」
「分かりました!
何か美味しそうな物を見繕ってきます」
「予算は大丈夫か?」
ふと硬貨の入った布袋を取り出そうとすると
「もう!私だってそんな子供じゃないんですから
それくらい持ってますよ、大丈夫です!」
「そうか」
「すぐ戻ってきますから
ゼロスさんこそここに居て下さいね!」
「分かった」
そう言うと近場のベンチに腰を襲る
それを満足そうに見ると彼女は笑みを浮かべ
途中何度かこちらを振り返りながら
屋台と雑踏の中へと消えて行く
小さな子供が時よりこちらを見やると
直ぐにその保護者と見られる大人がそれを咎め
急ぎ距離を空けて行く
自分はこの時代の倫理観に反する様な行為を
行っているのだろうか?
彼女を待つ間改めて周囲を見回し観察する
周囲の建築物や周囲の人々の着ている
衣類等の素材や建築・裁縫技術を見る限り
旧時代の中世中頃から後期頃に酷似しており
しかし所処、屋台の調理器具や、動力式の運搬荷台など
魔具と見られる機械によって一部は
産業革命以降の生活・文化形態が入り混じっている様だ
そして人々はと言えば
屋台で威勢よく掛け声を飛ばす店主
満足そうに購入した料理を頬張る人々
子供が一生懸命に両親に何かを語り
その左右の手をそれぞれ握り
優しい表情を浮かべる両親と思われる男女
人々には文化が溢れていた
この様な光景をずっと昔に
自分も見た事があるのだろうか
記憶が封印されている為、思い出す事が出来ないのか
それとも既に自分が物心ついた時には
世界からそんな余裕は失われいたのか
今の自分には解らない、思い出せなかった。
それでも少なくとも自分が覚えている人々とは違い
この時代の人々の瞳は皆、活力に満ちている
きっとそれは人にとっては幸せなのだろう
もし、この人々が幸せなのだとするのなら
最後まであきらめず戦い続けた人々の犠牲は
少なくとも無意味では無かったと言えるのではないか
頭の中に様々な思いが巡り
周囲の人々の観察を続ける
それから程なく、日は完全に沈み辺りを闇が包み始める
広場の周囲の建物が次々と明かりを灯し
その明かりが広場へと差し込む
加えて屋台もそれぞれ、簡易的な提燈に火を灯し始め
普通の人間であっても全く困らない光量が保たれ
辺りは先程までと変わらず賑わい続けている
ふと物思いに耽っていると
既に数十分ほど時間が経過している事に気付く
そこまで料理選びに迷っているのか、奥の方まで行っているのか
それにしても、屋台街のエリア自体そこまで広くは無いはずだ
直ぐに少女とアデス以外反応しない識別レーダーを起動する
「...っ!!くっ!」
ゼロスは突然飛び上がる様に立ち上がると
群衆をかき分け駆け出した
周囲の者はその光景に驚き
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