【改題】トゥラーン大陸年代記 ~自由の歌~

東条崇央

文字の大きさ
上 下
5 / 21
第一部 第一章 エルフに育てられた少年

閑話1 リンの日常

しおりを挟む
 午前中、母親のミゼルと家の手伝いやちょっとした勉強をしたあと、リンランディアはおとうさんの工房に行ってくると言って外にでていく。

 ーー外はまだ寒いけど晴れていて気持ちいいなぁ。

 リンランディアがニテアスの中央通りを歩いて行く。
 通りの脇の花壇では寒さの中でも花の蕾が膨らみ花咲く時を待ちわびている。馬車が行きかい子どもたちが遊んでいる。ときおり妖精らしき小さな影が飛び回る。
 楽しそうに歩いていく。
 
 そよ吹く風は小波を追いかけ 蒼い木の葉の船は進む
 神樹の子供達は 木の葉の船が大好きだ
 船の名前を 当ててご覧よ
 とても素敵な名前だよ
 ダグリールリー ルルラー
 ダグリールリー ルルラー
 ダグリー ダグリー
 その名は夜明け
 ダグリールリー ルルラー
 ダグリールリー ルルラー
 ダグリー ダグリー そは夜明けだよ
 『木の葉の船 作詞・作曲不明 エルウェラウタ民謡』

 歌いながら歩いて行く。
 精霊達が淡い光を放ちながらそのまわりを舞い踊る。

 そうしているうちに一件の工房にたどり着いた。
 ドアを開ける。
 「おとうさ~ん」
 リンの声がフィンゴネルを呼ぶ。
 「おう、リンか。今日も見に来たのか。細工は見ていて楽しいか?」



 「うん!」
 フィンゴネルが問うとリンが手元をのぞきながら満面の笑顔でうなずいた。
 
 職人達が作業してる様子や手元を覗いてはにこにことして飽きもせずに見て、時に職人たちと言葉を交わし、歌を歌い…。
 リンにとって工房はお気に入りの場所だ。
 工房内にいるだけで楽しくて毎日見ていてもいっこうに飽きない。
 夕方になってもリンは元気いっぱいだ。


 時折、歌いながら今日も工房で作業をみているリンをカレンが迎えに来た。
 「リンー、お父さんも。そろそろ夕食の時間だから帰るわよ」
 「おう、もうそんな時間か。よしそれじゃ今日の仕事はこれで終わりにするか。」
 「「へい。親方」」
 職人たちもフィンゴネルの声に反応し片付けを始める。 

 戸締まりをするとフィンゴネルはリンを肩車し、カレンと家路につく。
 少し後ろからカレンが羨ましげにフィンゴネルを見るがすぐに追いついて横に並ぶ。
 「リン、寒いからこのケープつけるのよ」
 カレンの手が伸びてリンにケープをかけていく。
 「あのね、精霊が踊って銀色の塊が伸びて曲がって形になっていくの。すっごくたのしい」
 「そっか~。リンもやってみたい?」
 「やれるようになりたいな。」
 「うんうん。おとうさんもきっと喜ぶよ。ね?そうでしょう」
 「そうだな。」
 「ねぇリンー、今度おねえちゃんとお散歩いこうか」
 「うん!いきたーい。おねえちゃん大好き」
 それを聞いたカレンはニヤけそうになるのをぐっと堪えて素知らぬ顔で答える
 「それじゃー、街の外の川の方にいってみようね」
 二人の様子を見守りながらフィンゴネルも歩いて行く。

◆◆◆◆◆

 「そうだ。おとうさん。あのね・・・」
 「どうしたんだ?」
 「リンの儀式の事なんだけど。おかあさんの代わりに私が行こうと思うの」
 「どういうことだ?」
 「おとうさんもずっと休みなしで働いてるし、おかあさんが1ヶ月も家を空けるのはどうかと思ってね。だから私が行ったほうがいいんじゃないかと思うの」
 「そうだなぁ。帰ったらミゼルと相談してみるか」
 「うん。そうして。その方が絶対いいと思うの」
 「儀式におねえちゃんと行くの?」
 意気込んでいたカレンの頭上からリンの声が降ってきた。
 「その相談をしてるのよ。リンはおねえちゃんと一緒でもいい?」
 「うん。いいよ」
 (まずは第一関門通過ね。)
 今はここまでとカレンも見切りをつけてまた雑談に戻っていった。

 「おねえちゃん、おねえちゃん。一シギルはねヤジリの長さなんだよ!それでね、ヤジリ十二個分の長さが一ファロンなの」
 「リンはえらいねぇ」
 「えへへ。今日ね、おかあさんに教えてもらったんだ~」
 「そっか~。じゃあリン、一エルファロンはいくつだかわかるかい?」
 「えっとね…」
 リンが指折り数えだす。
 カレンはそれを微笑まし気に見ている。
 「一ファロンがヤジリ十二個分で…えっと、矢の長さなんだから…えっと…」
 リンが悩みだす。
 「わかんないかな?一エルファロンは四百ファロン。一人前の弓使いが敵を倒せる長さの事だよ」
 「もぅ~、わかってるもん。今いおうとしてたのに」
 答えを言われてリンが拗ねる。
 「あー、ごめんごめん」
 そういいながらカレンはリンの頭を撫でる。
 「おねえちゃんは一エルファロン飛ばせる?」
 「もちろん飛ばせるよ。一エルファロン先のイノシシだって倒して見せるさ」
 (ちょっと見栄だけど…いいよね?)

 「おねえちゃん、すごい!」
 「おねえちゃんはすごいんだぞ。リンに何かあったら必ず助けにいくからね」
 「うん。ありがとう」
 「おとうさんは助けてくれないのか?」
 「ふふふ。おとうさんに助けがいるの?でもいいわ。ちゃんと助けるわよ」
 「そうか。ふたりともいい子だ」
 フィンの左手がカレンの頭をなでる。
 「もう…。子供じゃないんだよ」
 「はっはっは。そういうな。カレンはいつまでも大事な娘なんだから」
 赤くなりながら黙り込むカレンの肩をフィンの手が包む込む。
 もうそろそろ家につく頃だ。


ーーー

あまりにも本作主人公のリンくんの出番がないので
閑話にて出番をふやしてます。
それと同時に、日常風景を楽しんでいただければ。
この先の更新は短くて3~4日、長くて7~10日ほど頂くことになります。
ですので、週一更新ということにしておきたいと思います。


登場人物のまとめ
フィンゴネル フィン ニテアスに住む職人、親方
ミゼリエラ ミゼル フィンゴネルの妻、リンの祖母の妹
カレナリエル カレン フィンゴネル家の長女
リンランディア リン フィンゴネル家の養子、ミゼルの姉の孫、本作の主人公

次話、1/21 18:00 更新予定
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

[完結]思い出せませんので

シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」 父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。 同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。 直接会って訳を聞かねば 注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。 男性視点 四話完結済み。毎日、一話更新

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...