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3話

3-5 ケーキはいずこへ?

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「い、伊織くん!ケーキを2つあの女の子のテーブルに置いたよね?」

「…は?置きましたよ。」


「もう、ケーキがお皿から消えてなくなってたんだけど。5分もしてないのに」

「…え!?」

「いや、オーダーミスではないと思いますよ。俺は確かにケーキ2つとロイヤルミルクティーを彼女と話しながら置いたんで。」

そういうとマリリンはハッと目を見開いた。

「あ、いやいや伊織くんがミスしたとは思ってないよ。
あんなに急にケーキが消えてなくなるとは思わなかったからビックリしただけ。」

「…確かに。」

「すみませ~ん」

三津谷さんが俺のほうを見て声をかけてきた。

「はい、ただいま~」

そそくさと三津谷さんのテーブルへうかがう。
お会計かな?と思ったら意外な言葉がかえってきた。

「あの、とっても美味しかったので~ミルクレープもう1つとさつま芋のモンブランとフルーツタルトを2つずつください」


「え?はっ、はい?
ミルクレープもう1つとモンブランとフルーツタルトを2つずつ…
合計5個でお間違いないですか?」


「はい。お間違えないですぅ」

ニコッとまた可愛い笑顔で答える。

オイオイ、マジであのスピードでケーキを2つも平らげたのかこの子!?

YouTuberとか配信者でよくいるフードファイターみたいな子なのか?

いやいや、さすがにこんな身体の細い子がケーキ合計7個も食べないだろう…

次は撮影だけしてSNSで写真とか動画だけアップして持ち帰るとかだろう。

うんうん、きっとそうだ。

とりあえず、厨房に入りパンダ店長にオーダーを通す。

「えっと、パンダ店長。
追加オーダー入ります。ミルクレープ1つ、さつま芋のモンブランとフルーツタルトを2つずつ、合計5個です」

パンダ店長が驚いたようにこちらを振り向いた。

「えっ?追加オーダーってさっきのケーキのお客様?何人かお連れ様が後から来たのかな?」

「あ、いや。お一人様のままで。」

「え!?そんなに食べられるのかな?」

「さあ…?」

「わ、わかりました。とにかくお客様のオーダーだしね。」

パンダ店長はちょっと狼狽えながらもケーキを素早く用意していく。

その間にカランコロンとまたドアベルがなり、10人程の大所帯のおじいちゃんおばあちゃんが入ってきた。
この人たちも朝の公園でのゲートボール仲間らしく、
ゲートボールで汗をかいたあとにこのぱんだ喫茶店でゆっくりモーニングを食べたり、お茶を飲んでいくのだ。


「おはよう~伊織くん」
顔馴染みのおばあちゃん、さち子さんが声をかけてきた。

「今日も10人くらいいるけど席空いてるかい~?」

「あ、大丈夫ですよ。奥のお席へ皆さんどうぞ」

おじいちゃんおばあちゃんがぞろぞろとゲートボールの大荷物を持って話ながら入ってくる。

マリリンが人数分のお冷やとおしぼりを急いで用意していた。

モーニングかケーキセットを全員が頼むとしたら急に忙しくなるな、と思ったところで。

パンダ店長が三津谷さんにケーキを5つ届けるところが目の端に入る。


三津谷さんが驚いたようにパンダ店長を見るが、自分もゴスロリファッションなど目立つ存在なのは自覚してるからなのか?
すぐにパンダ店長の存在を受け入れていて

「かーわーいー!パンダさんが店長なんですね!写真とりたーい!」と拍手してはしゃいでいる。


パンダ店長も三津谷さんの言葉に照れながらもケーキをたくさんテーブルに置いていき
「ご注文の品、すべてお揃いですか?」

「はーい。」
ちゃんと確認をしてから本当に食べるのかなとパンダ店長も半信半疑のようで何度か振り返りながら厨房に戻っていく。

「伊織くん、お冷やとおしぼり、二番テーブルに持っていってー」

「あ、はい。」

マリリンに声をかけられ俺も三津谷さんの食べるところをまたゆっくりとは見れなかった。

おじいちゃんおばあちゃんのゲートボール仲間の注文は全員モーニングで一致したものの、
ドリンクはさすがにバラバラなので俺とマリリンも厨房のなかのパントリーでドリンクを作ることに専念する。

その時、三津谷さんが席を立ちショーケースのケーキをじっと見つめているのが目に入った。
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