降っても晴れても

凛子

文字の大きさ
上 下
6 / 9

6

しおりを挟む
『ホストクラブ通いか!』

 仕事の帰り道、琉那は杏に言われた言葉を思い出していた。
 杏からすれば、そう見えるのだろう。決して貢いでいるわけではないが、食べに●●●というか、会いに●●●行く度に、身の丈に合わない高額支払いをするわけだから、それと大差ないのかもしれない。プレミアムシートのチケットで推しのライブにでも行ったと思えば、と考えたりもしたが、さすがに週一では行かないだろう。
 けれども、最高の料理を味わうことが出来るし、同じ空間にいて、一言二言交わすことも出来る。時には自分のことを気に掛けてくれたり、自分だけに笑顔を向けてくれることもある。
 それでもやはり、だから安いものだ、と言えるはずもなく、懐具合はもう限界を超えていた。

 翌日、珍しく杏が風邪で休んだ。当然琉那は昼食抜きとなった。
 昼休みに『生きてるか?』と杏からメールがあり、『それはこっちのセリフだよ』と琉那は返した。
 いつもきつい言い方をする杏だが、決して琉那に諦めろとは言わない。彩り豊かな弁当からは、杏の『頑張れ』の思いが伝わっていて、琉那は杏の優しさを噛みしめていた。

 こんなことをいつまでも続けていけるわけがない。

 頭では分かっていても、予約日が近付くと心が踊る。

 明日は伊勢谷に会える。

 降水確率、零パーセント。

 懐事情を考えるともう次はないかもしれないが、もしも明日雨が降って雨の日チケットを貰えば、使わなければ勿体ない、と、また足を運んでしまいそうな気がする。
 呆れ顔の杏と、柔らかく微笑む伊勢谷の顔が琉那の脳裏にちらついた。

 この際、晴天を祈ろう。
 降っても晴れても、明日で最後にしよう。
 明日、気持ちを伝えよう。

 琉那はそう心に決めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

寝顔

凛子
恋愛
静けさの中で……

恋愛の醍醐味

凛子
恋愛
最近の恋人の言動に嫌気がさしていた萌々香は、誕生日を忘れられたことで、ついに別れを決断。 あることがきっかけで、完璧な理想の恋人に出会うことが出来た萌々香は、幸せな日々が永遠に続くと思っていたのだが……

愛のかたち

凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。 ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は…… 情けない男の不器用な愛。

新たな道

詩織
恋愛
恋人期間2年。 婚約までしてたのに突然逝ってしまった。 気持ちの整理が出来ない日々。 月日はたっても切り替えることが出来ない。

仮の彼女

詩織
恋愛
恋人に振られ仕事一本で必死に頑張ったら33歳だった。 周りも結婚してて、完全に乗り遅れてしまった。

ポインセチア

凛子
恋愛
クリスマスフラワーに込めた想い

雪の日

凛子
恋愛
大切な人に別れを告げた日、大切な人から告白された。

月明かり

凛子
恋愛
月明かりかと思えば、工事現場の仮説用投光器だった。 どうしてこんなところに? 私を騙したってことですか?

処理中です...