降っても晴れても

凛子

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 店に到着すると、伊勢谷が出迎えてくれた。
 柔和な笑顔が、琉那の心を蕩かす。
 毎日会えるわけではないから、杏に言われたように、心と体の栄養をたっぷりと貯えて帰りたい。それが、明日からの活力になるのだから。

「ありがとうございます」

 琉那は椅子を引いてくれた伊勢谷に礼を言った。
 初めて店を訪れた時、引かれた椅子に座るタイミングが分からず戸惑ってしまったが、それにもすっかり慣れていた。
 フランス料理の知識もマナーも殆ど分かっていない自分がこんなところにいて大丈夫なのか、と思うのは毎度のことだが、今まで一度も恥をかくことがなかったのは、伊勢谷の温かくてさりげないフォローのおかげだと分かる。

 以前日曜日に店を訪れた時、「今日はお休みですか?」と伊勢谷に聞かれたことがあった。「そうです」と答えてから、流れで伊勢谷の休みを聞いてみると、店休日の月曜日と金曜日が休みだと教えてくれ、それからは金曜日を外して予約を取るようになり、毎回必ず伊勢谷に会えるようになった。
 伊勢谷とは、料理を運んでくれる際に一言二言交わすだけで込み入った話はしないが、ちらっと話したことを覚えてくれていたりすると、胸がキュンとしてしまう。

『ここは、直接冷房の風が当たらないので』

 席に案内されそう言われたのは、琉那が冷え症だと話した翌週のことだった。
「寒いですか」と琉那に声を掛けた伊勢谷は、琉那が一瞬腕を抱えた様子を見逃さなかったようで、さすがプロだ、と、その高い観察力に驚かされた。

「いえ、私が特別冷え症なだけです」

 そう返した言葉を伊勢谷は覚えてくれていたのだ。

 今日も勿論その席に案内してくれた。
 そして美味しい料理と伊勢谷に心癒され、琉那は至福のひとときを過ごした。

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