月明かり

凛子

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 貧乏は嫌だ。
 お金があれば、諦めなくても済むことやある程度の望みは叶う、と美和子みわこは思う。
 お金がなければ、心まで貧しくなるような気さえするのだ。
 両親と弟の四人家族で六畳一間のアパートで暮らし、裕福とは正反対の生活を送った美和子は、そんな生活から抜け出すべく勉学に励み、裕福とはいかないまでも、将来安泰といわれる公務員となった。


 金曜日の午後七時。
 美和子はお洒落なダイニングバーで、友人三人と横並びに座り、男性四人と向き合っていた。いわゆる四対四の合コンだ。しかも相手は、お堅い職業に就いているエリートだった。

「どんな仕事してるの?」

 確か医者だと言っていた壁側に座る男性が、向かいに座る陽菜乃ひなのに尋ねている。

「栄養士です」
「へえ。結婚したら仕事は辞めてもらうつもりなんだけど、大丈夫?」
「え……」

 出し抜けのストレートな質問に、陽菜乃は若干引いているようだ。

「親は何してる人?」

 今度は、医者の隣に座る外資系の保険会社に勤めていると言う男性が、斜め向かいの美帆みほに尋ねた。

「父は普通のサラリーマンで、母はパートに出てます」
「へえ、俺もサラリーマンだよ。パートってさあ、経済的な理由で?」
「え? ああ、はい。歳の離れた妹がいるので、まだまだ何かとお金がかかって……」

 デリカシーのない質問に苦笑いする美帆の隣で、理香子りかこがドン引きしているのが見えた。

「あ、ちょっと君! これ拭いてくれる?」

 こぼれたワインを指差し、呼び止めた店員にそう言うのは、税理士の男性だ。

「ちょっと、そんなこと言ってる間にそこのおしぼりで!」

 向かいに座っていた美帆が、すかさずおしぼりを掴んで拭ったおかげで、彼の高そうなスーツは汚れずに済んだ。

「いいんだよ。金払ってんだからそれぐらいやらせれば」

 これには女性メンバー全員の顔が一斉に引きつった。
 店員に横柄な態度をとる男性は最悪だ。
 彼らには品もなければデリカシーもない。

「おいおい! こんなに注文して、誰が食べるんだよ」

 店員が運んできた料理を目にし、美和子の向かいに座っていた弁護士の男性が慌てている。
 テーブルには、手付かずのまま冷めてしまった料理がまだたくさん残っていたのだ。

「食べれるだけ食べて、あとは残せばいいじゃん」

 あろうことか、店員のいる前で医者の男性がそんなことを言ってのけた。

「いや、そんなことしたら作ってくれた人に申し訳ないだろ」

 弁護士の男性が反論する。

「ケチ臭いこと言うなよ。勿体無いからって無理に食べるのは体に毒だろ」

 医者の男性がもっともらしく言う。
 医学的にはそれが正解なのかもしれないが、常識的なルールとしては、不正解だろう。ルールというよりモラルの問題だ。

「それなら、最初から食べれるだけ頼めばいいだろ」

 まともなのは、弁護士の男性だけのようだ。

 金銭的に不自由ない生活が送れるとしても、今の状態の彼らと一緒にいて幸せになれるとは到底思えなかった。
 いつか彼らがそれに気付くことを願って、最初で最後のエリート合コンはお開きとなった。


「あ、ありがとうございます。美味しかったです」

 唯一まともだった弁護士の時生ときおが、店員に丁寧にお礼を言って紙袋を受け取ると、「美和子ちゃんも良かったらどう?」と声を掛けてきた。

「え、何ですか?」
「これ、さっき手付かずだった料理。勿体無いから詰めてもらったんだよ」

 時生が紙袋を広げて見せる。

「わあ、嬉しい! ここの料理すごく美味しかったですよね。家族に持って帰ります」

 別れ際にそんな会話をしながら、美和子はちゃっかり時生と連絡先の交換をしていた。  

 それから一ヶ月後、時生との交際がスタートした。
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