わんこ

凛子

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 地下鉄出口の階段を上りきったところで、歩道を歩く見覚えある姿が目に留まり、恵梨香は声を上げた。

「こう君!!」
「え? ちょっ、恵梨香!」
「啓汰、ちょっと待ってて!」

 そう言った時には、すでに走り出していた。

「こう君!!」

 振り向いた精悍な表情は、紛れもなく――

「あら、恵梨香ちゃん!」

 同時に振り向いたマンションの隣人の真琴まことが目を丸くしている。

「真琴さん、お散歩ですか?」
「ええ、そうなの。普段はこんなところまで来ないんだけどね」

「恵梨香」と呼ぶ声でハッとし、追ってきた啓汰を振り返るが、立ち止まった啓汰は、真琴の足元を見据えていた。

「あ、恵梨香ちゃんの彼氏さんね?」

 真琴が笑顔を向けながら尋ねる。

「やだっ、真琴さん! 彼氏じゃないですよぉ」
「えー、ほんとに?」

 真琴が向ける疑いの眼差しを苦笑いで躱し、恵梨香は啓汰の顔を覗き込んだ。

「啓汰、こちらお隣に引っ越してきた真琴さん……と、こう君」
「え、こう君って――」
「ね、言った通りでしょ? 精悍な顔と引き締まった体!」
「何だよそれ……。こう君って、犬だったわけ?」
「そうだよ。あれ? 言ってなかったっけ」
「言ってねーよ!」

 察しの良い真琴が、ニヤニヤしながら啓汰に目を向けている。
 二人と一匹の視線を一斉に浴びた啓汰は、照れ笑いを浮かべた。

「恵梨香ちゃん、またね」

 気を利かせた真琴は、ひらひらと右手を振りながら、強引にリードを引いて走り去った。
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