初恋の人

八話

『1ねん1くみ　たかおかゆうな』

そう書かれたピンクのクレパスが二本、結愛の手の中に収まっていた。

「――え？　それ……」

康史は覚えていたようだ。

「すごく嬉しくて、大切にしすぎて、結局使えなかったの」

結愛が涙を拭いはにかんで微笑むと、康史は小さく息を吐いてから言った。

「結愛を信じていないわけじゃないんだよ」

結愛は黙って頷いた。

「結愛は俺が今まで出会った誰よりも純粋な心を持ってると思う。人を思いやる気持ちが強くて、誠実で、自分に正直で、泣き虫だけど芯が強いことも知ってる。それと、一途なこと……」

康史は何かを考えるように一点を見つめ、しばらく黙り込んでから、決心したように口を開いた。


「結愛？　もう一度聞かせて」

「え？」

康史は真っ直ぐに結愛を見つめた。

「康ちゃん……ずっと、大好――」

言い終える前に康史の唇で塞がれた。


結愛のファーストキスだった。





【完】