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凛子

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「恋人が、ギャンブルで作った数百万もの借金を隠していたんです。その上、婚約指輪まで借金して購入したっていうから、開いた口が塞がらなくて」
「それは――」
 部長には到底理解出来ないだろう。その証拠に、ぽかんと開いた口が本当に塞がっていない。
「それでも、別れるかどうかすごく悩んだんです。仲は良かったし、婚約してからは特に彼の両親と会うことも多くなって可愛がってもらってたし。チャペルウェディングがいいな、なんて話までしてて」
「そう」
 呟くように言いながら小さく頷いた部長は、返す言葉を探しているようだ。
「今まで貰ったプレゼントも、デートも旅行も、もしかしたら全部借金で賄っていたんじゃないかって思えてきて……。もちろん彼は違うって言ってたんですけど、なんかもう全部が信用できなくなっちゃって」
 部長は否定も肯定もせず、頷きながら聞いている。
「結婚式の『健やかなる時も、病める時も』って誓いの言葉があるじゃないですか」
「ああ、牧師の問いかけに答えるやつだよね」
「そうです。ふと、あの場面を想像したんです。『喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も』って続くんですけど、私、神様に約束できないなって思ったんです」
 共感や慰めが欲しくて話したわけではなかったが、頷く部長の優しい眼差しが心に刺さる。
「結婚してから困難に遭遇したならまだしも、結婚前に多額の借金を抱えているとなったら話が別だよ」
「何て言うか……罪悪感が残って」
「いや、でも君の選択は間違ってないんじゃないかな。もしも俺がその時君から相談を受けてたとしたら、間違いなく別れたほうがいいと忠告するよ」
「ですよね」
 結婚すれば苦労することは想像に難くない。
「別れたことを後悔してるのかい?」
「いえ」
「それならどうして俺に話したの?」
 その問いかけに、麻莉亜は唇を噛み締めた。
「俺は、借金を抱えた状態で婚約するような男が、君のことを本当に考えていたとは思えない」
 堅物部長はどうも察する力が弱いようだ。
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