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凛子

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「内緒な」
 突然そんなことを言われ、森元もりもと麻莉亜まりあは訳がわからず箸を止め目をしばたたかせた。
「どうされたんですか?」
「実は俺、人参苦手なんだよな」
 人気が少なくなった社員食堂で斜め向かいに座っていた池上部長が、カレー皿の端っこに人参を寄せているのが見えた。
「へえ……」
 小学生でもあるまいし、誰に告げ口される心配をしているのだろう。池上部長の人参嫌いを誰かに話すつもりはないけれど、話したところで何か問題が生じるとも思わない。

 昼食を終えてデスクに戻った麻莉亜は腕まくりをして気合いを入れ、社内会議の企画書作りに取り掛かかった。十五時からはパッケージデザイナーとの打ち合わせが入っている。
 企画書が仕上がり、少し休憩しようとパソコンから顔を上げると、菓子の包みを開けて今まさに口に入れようとしている池上部長とがっちり目が合った。部長のぽってりとした唇が「な・い・しょ」と言っているが、そういうキャラではないだろう、と心の中で突っ込んだ。部長はキャラ変を試みているのだろうか。
 そういえば、と、昼食のカレーを食べ終えた部長がデザートにプリンを食べていたことを思い出す。どうやら噂通りかなりの甘党らしい。
 部長の食べ物の好き嫌いを知ったところで、別にどうということもないのだけれど、今日の部長は何だかおかしい。
 だが、部長が甘党なことに関してはなんら不思議なことはない。何故なら、ここが大手菓子メーカー『鶴田製菓』だからだ。麻莉亜はここの商品企画部に所属している。
 最近はどの菓子メーカーも高級路線の菓子を発売しているが、同社もそのブームに乗ってちょっと高めの大人向けスナック菓子でヒットを連発した。その他にはデパート限定販売の高級路線もしっかりと押さえている。
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