気付いてよ

凛子

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「彼女のふり」は、味方であるはずの徹の不意打ちによって難航していた。
豊かな自然をバックに写真撮影の流れになると、「撮ってくれ」と直紀にスマホを手渡した徹に、突然バックハグされ頬を擦り寄せられた。
「照れんなよ。バレるだろーが」と耳元で囁かれ、腰が抜けそうになった。
「彼氏のふり」が上手すぎる徹に、錯覚を起こしそうになる感情を樹音は必死に抑えていた。

一通りの動物と触れ合った後は、ランチタイムだ。
天気も景色も良かったので、敢えて店には入らず、パーク名物のなんちゃらバーガーなんかを買い込んで、広場の芝生にレジャーシートを広げて四人で腰を下ろした。
レジャーシート持参とは、気が利く彼女だな、と樹音は華鈴をぼんやり眺める。

しばらくすると、マヨネーズが口元に付いてるとか、飛んできた綿毛が頭に乗ってるとか何とか言いながら、目の遣り場に困るような、直紀と華鈴のじゃれ合いが始まった。
その様子に触発されるように「膝枕して」と甘えた声で、徹が樹音に要求する。そしてまたしても返事を待たず、徹は樹音の膝に片耳をつけて目を閉じた。

片目を開けてチラ見してきた徹に「競うな」の視線を向けた樹音だが、膝の上の栗色のそれに触れてみたいという衝動が抑えきれなくなった。
そっと触れてみると、数回素早く瞬きした徹はまた静かに目を閉じた。

大丈夫。自分は今、徹の彼女なのだから――

樹音は自分にそう言い聞かせてから、子供を寝かしつけるように、しばらくの間徹の髪を優しく撫でた。

それからパーク内を散歩した後、再びうさぎのふれあいコーナーを訪れた樹音は、先程の″樹音似″のうさぎを探し当てると、閉園時間ギリギリまで徹と二人で愛でた。

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