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凛子

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「先生の好みの女性はどんな人ですか?」

 ある日の施術後、茉莉花は古賀に尋ねてみた。

「ははっ、そうだねえ……たぬき顔の女性かな。丸顔で目がくりっとしていて少し垂れ目で……」

 性格ではなく見た目をいう辺りが、さすが美容外科医だ、と思った。
 不意にある考えが茉莉花の脳裏を過った。それは、古賀が美容外科医だったからかもしれない。

「じゃあ……私を先生好みにしてください」
「えぇっ!?」

 いつも穏やかな古賀が、眉を限界まで引き上げ至極驚いた表情を見せた。それから素早い瞬きを繰り返し、その意味を理解したのか少し頬を赤らめた。

「十分可愛いよ」
「いえ、先生好みになりたいんです……」

 暗い表情で背中を丸めてクリニックを訪れた患者が、施術を終えてクリニックを出る時、背筋がピンと伸び、笑顔には自信が満ち溢れている。
 なりたい自分になれた満足感からだろう。
 そしてその姿を、見せたい誰かに見てもらうのだろう。
 たとえば雑誌の読者だったり、恋人だったり、思いを寄せる人だったり……。
 それならば、相手の好みの容姿になるのが、おそらく一番手っ取り早い方法だろう、と茉莉花はそんなことを考えた。
 馬鹿げている、と笑われるものだと思っていた。

「絶対に傷跡を残さないと約束する」

 古賀の表情は真剣そのものだった。

「心配はしてませんよ。先生のこと、信頼してますから」

 それでも古賀は、一般の患者と同じように茉莉花に丁寧に施術の説明をした。

「先生? 大丈夫ですよ。私は全て理解できてます。その上で、先生にお任せします」

 それから数日後、施術を開始した。骨を削ったりという大掛かりなことはしていない。茉莉花の仕事に支障がでない範囲で、数ヶ月かけてゆっくりと進めていった。

 そしてたった今、経過観察を終えたところだ。

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