コンプレックス

凛子

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 夏季休暇明けに訪れたのは、茉莉花より二回りほど年上の患者だった。美魔女と呼ばれるような、若々しく美しい女だった。

「あの……こんな年になって今更なんですけど、顔のシミ取りをお願いしたくて……」

 女は遠慮がちに言った。

「年齢なんて関係ないですよ。『美』は女性の永遠のテーマですから」

 茉莉花は笑顔でそう返した。

「そう言っていただけると救われます。お恥ずかしながらこの年で再婚することになったんですけど、彼の方が一回りも年下なもので、少しでも若く見えるようにと思いまして……」

 女は年齢にコンプレックスを持っているようだが、若いことが最強の武器ということでもない。年齢を重ねたが故のエレガンスは、若い女には決して真似できないものだ。おそらく一回り年下の彼は、彼女の年齢など気にはしていないはずだ。
 茉莉花が少し話しただけで感じた、彼女の控えめで健気な姿に惚れたのではないか、と勝手に想像した。

「おめでとうございます。是非、綺麗のお手伝いをさせてください」

 幸せになってほしい。
 茉莉花は心の底からそう思った。

 この仕事をしていると、様々な患者に出会う。
 美容目的でクリニックを訪れるのは贅沢な客と思われがちだが、話を聞くとそのほとんどが胸に抱えるコンプレックスのために、どこか後ろ向きになっている。心が病んでいるということだ。そしてそれを解消する為に施術を受ける。
 傷跡修正の治療で訪れる患者と同じで、それはやはり客ではなく患者ということになるのだ。

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