コンプレックス

凛子

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 人間という生き物は、何故これ程までに容姿に拘るのだろう。
 美容クリニックが潰れないのも納得できる。

 櫻井さくらい茉莉花まりかは、そんなことを考えながら鏡の前に立ち、手ぐしで髪を整えてから部屋を移動した。


「お待たせしました。櫻井です、よろしくお願いします」

 茉莉花が笑顔で挨拶すると、ソファに腰掛けていた黒髪の女は姿勢を正した。

「あ、こんにちは。あの、えっと……」

 女は硬い表情でおどおどしながら口ごもった。

「温かいうちに飲んで下さいね。ルイボスティーです。美容にもいいんですよ」

 茉莉花は、スタッフがテーブルに用意した飲み物を女に勧めた。

「あ、ありがとうございます。いただきます」

 女は緊張が解れたのか、幾分表情が柔らかくなった。


 ここは、最寄り駅から徒歩一分という非常にアクセスのよい場所にある美容クリニックの一室だ。
 茉莉花は、このクリニックの院長を務めている。

 病歴、手術歴、体質など、問診票と照らし合わせながら、幾つか質問をしていく。患者は様々なコンプレックスを抱えていることが多い為、なるべく話しやすい雰囲気づくりと、ゆったりとした口調で話すように心がけていた。

 綺麗……。

 茉莉花は思わず声に出してしまいそうになった。
 目の前の女は、見とれてしまいそうになる程の美女で、誰もが憧れるような、手本にしたいと思えるような、そんな容姿をしていた。
 口元のホクロが何ともセクシーだ。

 世の中の大半の人間は、何らかのコンプレックスを持っているものだ。性格だったり学歴だったり、才能や収入、その種類は様々で、他人が簡単に理解できることばかりではない。
 その中でも、容姿にコンプレックスを持つ人間が、ここを訪れるわけだが……。
 彼女の容姿は正に『非の打ち所がない』と言える。

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