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八話
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「何かやだ……」
会計をする遠藤の横で愛美は言った。
「え?」
遠藤が振り向いたであろう時には、既に愛美は早足で出口へ向かっていた。
「ちょっ、愛美ちゃん!?」
「遠藤様! お釣が――」
二人の声を背に、愛美は店を飛び出し駆け出した――けれども、すぐに遠藤に腕を掴まれた。
「元サッカー部舐めんなって」
「……はい」
遠藤は愛美の腕を掴んだまま放さない。
「愛美ちゃん、ごめん! 俺、鈍感だからわかんなくて。さっき、デザート食べてる辺りから急に愛美ちゃんの様子がおかしくなったことに気付いたんだ。愛美ちゃんの気に障るようなことしてたなら謝るから、許して欲しい。……ごめん」
「違います! 謝るのはこっ……ちです」
堪えきれず、愛美の目から涙がこぼれた。
「え!? 何で? どうした? 俺、何ともないから。怒ってないよ? 泣かなくていいから……」
遠藤は動転しているようで、しどろもどろだった。
「私、人の目ばっかり気にして、遠藤さんにあれこれ言ってきたけど、そんなの普通に考えればおかしいですよね。遠藤さんは優しいから何も言わないけど……」
何から伝えればいいのかわからない。
「え? 俺バカなのかな……マジで何のことか全然わかんないんだけど……」
遠藤は困惑して頭を抱えていた。
「服装はこんなのが好きだとか、髪型はこんなのがいいとか、眼鏡はない方がいいとか、遠藤さんにあれこれ散々言っておいて……」
「ん?」
遠藤が首を傾げている。
「遠藤さんは私にダメ出ししたり、何も要求なんてしてこないのに……」
「いや、それはさあ、俺が愛美ちゃんに教えて欲しいって言った訳じゃん」
「でも私は、自分の好みを遠藤さんに押し付けただけです」
「それの何が悪いんだよ? 俺は、愛美ちゃんがそうして欲しいと思うなら喜んでするよ」
遠藤は愛美と正反対のトーンで返した。
「でも結局それって、遠藤さんが人からどう見られるかを、私が気にしてるだけで……」
「だから、それの何が悪いんだよ」
「え?」
「愛美ちゃんは俺の見た目を良くしてくれただけじゃん?」
「そうだけど……そうじゃくて……」
言いたいことが上手く伝わらなくて、愛美は唇を噛んで俯いた。
「愛美ちゃん? 俺が愛美ちゃんを好きなことは、もうわかってるよね?」
わかっていたが、何と答えていいのかわからず、愛美は黙っていた。
「喋り方が嫌だとか、性格が無理だとか、そこまで嫌われたらもう諦めるしかないけどさあ……そういう風には多分思われてないって、愛美ちゃんの態度からも感じてるんだ」
「――だってそんな風に思ったこと一度もないです!」
愛美は素早く返した。
「最近愛美ちゃんが俺のこと相手してくれるようになったのは、ちゃんと俺の中身を見てくれたってことだろ?」
「勿論です。あ、いえ……そんな風に言ったら何か……」
「いいよ。ちゃんと客観的に見れてるから……俺の見た目が好みとか、まずないじゃん」
遠藤が苦笑いしながら言った。
「私、遠藤さんの笑顔が好きです」
遠藤が急に真顔になった。
「え? 俺、今愛美ちゃんから告白された? あ、いや、笑顔が好きって言っただけか……すげえハズイじゃん」
遠藤が一人で言いながら赤面している。
「みんな、遠藤さんのこと何も知らないくせに――」
「え?」
「遠藤さんの見た目が変わった途端に、女子社員の遠藤さんを見る目が変わって、遠藤さんに近付いて執拗に声掛けて……」
「え、何? ちょっと待って……それって愛美ちゃん、妬いてる奴が言うことじゃない?」
遠藤が冗談めかして笑う。
「だって嫌なんだもん」
言ってから、愛美は唇を尖らせた。
「マジか……」
遠藤は耳まで真っ赤にした。
「そんなことになるんだったら、最初の遠藤さんのままで良かった……」
「そんなこと言われたら、もう自制が効かなくなるんだけど――」
言うと同時に、遠藤は愛美を抱き寄せた。
「愛美ちゃん……すっげえ好き」
「……私もですよ」
遠藤の唇が愛美の唇に軽く触れたところで、すぐに離して遠藤が言った。
「二人きりになれる所、行ってもいい?」
――遠藤さんはこんな風に誘うんだ。
会計をする遠藤の横で愛美は言った。
「え?」
遠藤が振り向いたであろう時には、既に愛美は早足で出口へ向かっていた。
「ちょっ、愛美ちゃん!?」
「遠藤様! お釣が――」
二人の声を背に、愛美は店を飛び出し駆け出した――けれども、すぐに遠藤に腕を掴まれた。
「元サッカー部舐めんなって」
「……はい」
遠藤は愛美の腕を掴んだまま放さない。
「愛美ちゃん、ごめん! 俺、鈍感だからわかんなくて。さっき、デザート食べてる辺りから急に愛美ちゃんの様子がおかしくなったことに気付いたんだ。愛美ちゃんの気に障るようなことしてたなら謝るから、許して欲しい。……ごめん」
「違います! 謝るのはこっ……ちです」
堪えきれず、愛美の目から涙がこぼれた。
「え!? 何で? どうした? 俺、何ともないから。怒ってないよ? 泣かなくていいから……」
遠藤は動転しているようで、しどろもどろだった。
「私、人の目ばっかり気にして、遠藤さんにあれこれ言ってきたけど、そんなの普通に考えればおかしいですよね。遠藤さんは優しいから何も言わないけど……」
何から伝えればいいのかわからない。
「え? 俺バカなのかな……マジで何のことか全然わかんないんだけど……」
遠藤は困惑して頭を抱えていた。
「服装はこんなのが好きだとか、髪型はこんなのがいいとか、眼鏡はない方がいいとか、遠藤さんにあれこれ散々言っておいて……」
「ん?」
遠藤が首を傾げている。
「遠藤さんは私にダメ出ししたり、何も要求なんてしてこないのに……」
「いや、それはさあ、俺が愛美ちゃんに教えて欲しいって言った訳じゃん」
「でも私は、自分の好みを遠藤さんに押し付けただけです」
「それの何が悪いんだよ? 俺は、愛美ちゃんがそうして欲しいと思うなら喜んでするよ」
遠藤は愛美と正反対のトーンで返した。
「でも結局それって、遠藤さんが人からどう見られるかを、私が気にしてるだけで……」
「だから、それの何が悪いんだよ」
「え?」
「愛美ちゃんは俺の見た目を良くしてくれただけじゃん?」
「そうだけど……そうじゃくて……」
言いたいことが上手く伝わらなくて、愛美は唇を噛んで俯いた。
「愛美ちゃん? 俺が愛美ちゃんを好きなことは、もうわかってるよね?」
わかっていたが、何と答えていいのかわからず、愛美は黙っていた。
「喋り方が嫌だとか、性格が無理だとか、そこまで嫌われたらもう諦めるしかないけどさあ……そういう風には多分思われてないって、愛美ちゃんの態度からも感じてるんだ」
「――だってそんな風に思ったこと一度もないです!」
愛美は素早く返した。
「最近愛美ちゃんが俺のこと相手してくれるようになったのは、ちゃんと俺の中身を見てくれたってことだろ?」
「勿論です。あ、いえ……そんな風に言ったら何か……」
「いいよ。ちゃんと客観的に見れてるから……俺の見た目が好みとか、まずないじゃん」
遠藤が苦笑いしながら言った。
「私、遠藤さんの笑顔が好きです」
遠藤が急に真顔になった。
「え? 俺、今愛美ちゃんから告白された? あ、いや、笑顔が好きって言っただけか……すげえハズイじゃん」
遠藤が一人で言いながら赤面している。
「みんな、遠藤さんのこと何も知らないくせに――」
「え?」
「遠藤さんの見た目が変わった途端に、女子社員の遠藤さんを見る目が変わって、遠藤さんに近付いて執拗に声掛けて……」
「え、何? ちょっと待って……それって愛美ちゃん、妬いてる奴が言うことじゃない?」
遠藤が冗談めかして笑う。
「だって嫌なんだもん」
言ってから、愛美は唇を尖らせた。
「マジか……」
遠藤は耳まで真っ赤にした。
「そんなことになるんだったら、最初の遠藤さんのままで良かった……」
「そんなこと言われたら、もう自制が効かなくなるんだけど――」
言うと同時に、遠藤は愛美を抱き寄せた。
「愛美ちゃん……すっげえ好き」
「……私もですよ」
遠藤の唇が愛美の唇に軽く触れたところで、すぐに離して遠藤が言った。
「二人きりになれる所、行ってもいい?」
――遠藤さんはこんな風に誘うんだ。
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