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三話
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ベースが完成した志保の髪に、零士はハサミ一本で色々な動きを付けていく。心地よい音が響き渡る。
そして志保の前に立ち、コームで前髪を梳かした。
「目、閉じててね」と言われ、前髪にハサミが入る。零士は志保の顎に手を添え軽く引き上げた。
――こ、これは……!! 顎クイ?!
志保は息を呑んだ。
俯く志保の顔を上げただけなのだが、目を閉じていることもあり、余計に志保の妄想を掻き立てた。
これが彼氏なら……と。
「志保ちゃん? カラーもしちゃっていいの?」と零士に聞かれ、「全て零士さんにおまかせします」と志保は笑顔で答えた。
「おまかせします」が良かったのだろうか。零士は嬉しそうな表情を見せ、今日はいつもより会話が弾むような気がした。
カットが終わり、カラーに移る。
零士のイメージは完成しているのだろうか。迷うことなくカラー材を混ぜ合わせた。
こんな風にして、零士ファンの客は皆、零士好みのヘアスタイルに仕上げてもらうのだろうか。志保は気になって聞いてみた。
「零士さんは、お客さんから『おまかせで』って言われたら、どんな風に決めるんですか?」
「うーん……お客さんの顔の輪郭とか髪質みて、似合いそうな感じにするかな」
――あれ? 『俺好み』じゃないんだ。
「私、ロングが似合うってずっと思い込んでたんですけど、実はこっちの方が似合うってことですか?」
「うーん……それは、俺の好み」
「え?」
「志保ちゃんは、俺好みにしたよ」
「……え?」
――それはどういう意味?
「じゃあこれで、ちょっと時間置くね」
「あ、はい……」
はぐらかされてしまった。
ぼーっと考えているうちに、志保はまたうとうとしてしまい、零士の声で、はっとした。
「洗い流そうか」
「はい」
シャンプーチェアに移動し、零士に頭を預け、仰向けになる。
「零士さん? さっきのって……」
「ん? ガーゼ掛けるよ」
「……」
額に手が添えられ、ゆっくりとシャワーがかけられる。
「志保ちゃん、うちの店に来てくれるようになって、もうどれくらい?」
「えっと……二ヶ月に一回ペースで、一年くらいですかね」
「一年かぁ。今日のヘアスタイル任せてくれたってことは、俺に信頼を寄せてくれてるってこと?」
「勿論ですよー」
「すげぇ嬉しい」
零士がどんな表情で言ったのか気になった。
「志保ちゃん、俺のこと好き?」
「……はい」
顔が見えないせいか、自然と口にしていた。
「あ、いや……そういう意味じゃなくて……」
零士の動揺が指先から伝わってきた。
そして志保の前に立ち、コームで前髪を梳かした。
「目、閉じててね」と言われ、前髪にハサミが入る。零士は志保の顎に手を添え軽く引き上げた。
――こ、これは……!! 顎クイ?!
志保は息を呑んだ。
俯く志保の顔を上げただけなのだが、目を閉じていることもあり、余計に志保の妄想を掻き立てた。
これが彼氏なら……と。
「志保ちゃん? カラーもしちゃっていいの?」と零士に聞かれ、「全て零士さんにおまかせします」と志保は笑顔で答えた。
「おまかせします」が良かったのだろうか。零士は嬉しそうな表情を見せ、今日はいつもより会話が弾むような気がした。
カットが終わり、カラーに移る。
零士のイメージは完成しているのだろうか。迷うことなくカラー材を混ぜ合わせた。
こんな風にして、零士ファンの客は皆、零士好みのヘアスタイルに仕上げてもらうのだろうか。志保は気になって聞いてみた。
「零士さんは、お客さんから『おまかせで』って言われたら、どんな風に決めるんですか?」
「うーん……お客さんの顔の輪郭とか髪質みて、似合いそうな感じにするかな」
――あれ? 『俺好み』じゃないんだ。
「私、ロングが似合うってずっと思い込んでたんですけど、実はこっちの方が似合うってことですか?」
「うーん……それは、俺の好み」
「え?」
「志保ちゃんは、俺好みにしたよ」
「……え?」
――それはどういう意味?
「じゃあこれで、ちょっと時間置くね」
「あ、はい……」
はぐらかされてしまった。
ぼーっと考えているうちに、志保はまたうとうとしてしまい、零士の声で、はっとした。
「洗い流そうか」
「はい」
シャンプーチェアに移動し、零士に頭を預け、仰向けになる。
「零士さん? さっきのって……」
「ん? ガーゼ掛けるよ」
「……」
額に手が添えられ、ゆっくりとシャワーがかけられる。
「志保ちゃん、うちの店に来てくれるようになって、もうどれくらい?」
「えっと……二ヶ月に一回ペースで、一年くらいですかね」
「一年かぁ。今日のヘアスタイル任せてくれたってことは、俺に信頼を寄せてくれてるってこと?」
「勿論ですよー」
「すげぇ嬉しい」
零士がどんな表情で言ったのか気になった。
「志保ちゃん、俺のこと好き?」
「……はい」
顔が見えないせいか、自然と口にしていた。
「あ、いや……そういう意味じゃなくて……」
零士の動揺が指先から伝わってきた。
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