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六話
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「佐々木さんだけに話すよ」
市原は表情を変えず、俯き加減で話し始めた。
「実はあの飲み会の前日、妻に離婚届を突き付けられたんだ」
「――え?」
「好きな男がいるから別れてくれって。あいつ浮気してたんだ。今思えばおかしかったんだけどさ」
市原は下唇を噛み、眉をひそめた。
「奥さんって、市原さんと同じ営業部にいたって言う……」
「そう。結婚する時に、あいつ仕事辞めるって言うから、俺はてっきり家庭に入ってくれるんだとばかり思ってたら、すぐに働き始めてさ。おかしいなと思って問い詰めたら、俺たちの結婚と同時期に辞めていった元上司が始めた会社で働いてて。結局そいつと出来てたみたいで」
「そんなことって――」
「あるんだよ。しかも初めてじゃない。俺は今までずっとそうなんだ」
「どういうことですか?」
「今まで付き合ってきた女全員に浮気されてきた」
京香は言葉を失った。
――そういうことか。
京香はようやく状況が飲み込めた。
あの日の市原の言葉の意味も。
「だから女は信用してないよ」
「そうでしょうね」
「俺さ、佐々木さんに聞きたかったんだ。……浮気される男の原因って何?」
「それは、市原さんのことですか?」
「そうだよ」
「市原さんの場合は……」
市原が縋るような目を向けてくる。
よほど深刻なようだ。
「完璧なところ、じゃないですかね」
「え?」
「完璧な男といると、自分が必要とされてないような気になるんですよ……きっと」
「そんな……。じゃあ、俺はどうしたらいいと思う?」
完璧な市原が、自分に助言を求めていることが、可笑しくて仕方ない。
「そのままの市原さんを好きになってくれる人を探せばいいんじゃないですか?」
「え……」
「そのうち見つかるんじゃないですか? 市原さん、出会いはたくさんありそうだし」
「他人事だね」
市原は困惑の表情を浮かべている。
「まあ、少なくとも一人はいますよ」
京香がはにかむと、市原は大きく目を見開いた。
「明日、離婚届出してくるよ」
「え?」
「俺、浮気はしないタイプだから」
【完】
市原は表情を変えず、俯き加減で話し始めた。
「実はあの飲み会の前日、妻に離婚届を突き付けられたんだ」
「――え?」
「好きな男がいるから別れてくれって。あいつ浮気してたんだ。今思えばおかしかったんだけどさ」
市原は下唇を噛み、眉をひそめた。
「奥さんって、市原さんと同じ営業部にいたって言う……」
「そう。結婚する時に、あいつ仕事辞めるって言うから、俺はてっきり家庭に入ってくれるんだとばかり思ってたら、すぐに働き始めてさ。おかしいなと思って問い詰めたら、俺たちの結婚と同時期に辞めていった元上司が始めた会社で働いてて。結局そいつと出来てたみたいで」
「そんなことって――」
「あるんだよ。しかも初めてじゃない。俺は今までずっとそうなんだ」
「どういうことですか?」
「今まで付き合ってきた女全員に浮気されてきた」
京香は言葉を失った。
――そういうことか。
京香はようやく状況が飲み込めた。
あの日の市原の言葉の意味も。
「だから女は信用してないよ」
「そうでしょうね」
「俺さ、佐々木さんに聞きたかったんだ。……浮気される男の原因って何?」
「それは、市原さんのことですか?」
「そうだよ」
「市原さんの場合は……」
市原が縋るような目を向けてくる。
よほど深刻なようだ。
「完璧なところ、じゃないですかね」
「え?」
「完璧な男といると、自分が必要とされてないような気になるんですよ……きっと」
「そんな……。じゃあ、俺はどうしたらいいと思う?」
完璧な市原が、自分に助言を求めていることが、可笑しくて仕方ない。
「そのままの市原さんを好きになってくれる人を探せばいいんじゃないですか?」
「え……」
「そのうち見つかるんじゃないですか? 市原さん、出会いはたくさんありそうだし」
「他人事だね」
市原は困惑の表情を浮かべている。
「まあ、少なくとも一人はいますよ」
京香がはにかむと、市原は大きく目を見開いた。
「明日、離婚届出してくるよ」
「え?」
「俺、浮気はしないタイプだから」
【完】
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