愛のかたち

22

「おはようございまーす！」

　週明け、彩華は野上に言われた通り元気に出勤した。

「おはよう」

　野上はキッチンでコーヒーを淹れながら彩華に優しい笑顔を向けた。

　野上に少しきつく叱られただけで落ち込んでしまった彩華だが、休みの間に気持ちの整理が出来た。そんなことを翔に話せば、きっと『そんなことくらいで』と、鼻で笑われてしまうだろう。『社会に出たら理不尽なことだらけだ』と言われるかもしれない。勿論野上はそれには当てはまらないが、恐らく多くの人はそれらを上手に受け流しているのだろう。
　仕事だけではなく、子供がいたとすれば、幼稚園などのママ友との付き合いもあるだろう。友人の話によると、何かと問題が起きるらしい。ママ友から色々と嫌みを言われることもあるらしいが、そんなことをいちいち気にしていたら、やっていけないと言う。上手くやるのだ、と。
　専業主婦の彩華には、きっとその免疫がなかっただけだろう。


「彩華さんって、独身なのかなぁ？」
「うーん、どうだろな。てか、彩華さんていくつなんだろな。二十代だよな？」

　昼食の片付けを終えキッチンの床拭きをしていると、そんな会話が聞こえてきた。実際は三十代だ。

「こら、お前ら。彩華ちゃんは駄目だぞ」

　野上の声が加わった。

「え、何でですかぁ？」
「彩華ちゃんは……俺の大事な人なんだ」

　彩華は床を拭く手を止めた。

「なるほど……そういうことっすか。おかしいと思ってたんすよ。突然あんな綺麗な人が来るって決まったから」

　何事もなかったかのように彩華は立ち上がった。

「あ、彩華ちゃん、いたんだ」

　野上は明らかに動揺していた。
　その様子を目の当たりにした彩華も動揺を隠せなかった。


　キッチン周りに人けがなくなると、野上がやってきた。

「彩華ちゃん、さっきの話聞こえてたよね」
「あ……はい」
「あの……別に深い意味はないんだ」
「……はい」
「いや、そんなこともないけど。何て言うか……仕事遣りづらくなったら困るし、あんま気にしないで」

　そんなことを言われた後に、気にしないでと言われて、気にしない訳がないが……

「わかりました」

　と返事しておいた。